宝物庫の開放
目が覚めたら二日経っていた。
どうやら奇声を発して倒れたおれは白目をむいて指先から出血していたようだった。
おれの指の治療をしながら様子を見ていたそうだ。
「それで。あれは?」
そうハルに言われて目の前にあった布がかけられた物体の布がめくられる。
そこには気絶する前に想像したリンゴが置かれていた。
空腹の中二日も待たされたハルたちの目はギラギラしている。
「リンゴのはずだよ。食べよう」
そういっておれは切り分けようとしたがよろけてしまった。まだうまく体が動かない。
「わたしがやるよ」
そういってルカが身を乗り出したが。
「いや、5個あるから一人一個持って」
そういって一人一個づつ持ってもらう。
「何とかこれだけ取り出したけど、また同じことができるかはわからない。残り8? 7? 日をそれで乗り切るかもしれないと思ってくれ」
おれは林檎を乾杯のように掲げて一口齧った。
あまーい。甘すぎる? こっちの世界の林檎はもっとすっぱくてぱさぱさだったのに。 まてよ。おれの荷物の中にりんご5つもあったっけ?
質と言い量と言いつじつまが合わない。
ちょっと待ってと言おうとしたが、みんなはもう一口齧った後だった。
「あまーい。おいしー」
「みずみずしいわ」
「こんなの食べたことないよ」
「え? これいくらすんの?」
みんなの喜びように止めるのは不可能だと悟った。
二口目に行きそうなハルを止めて水を飲んでみせる。
口の中の林檎の果汁と水が混ざって果汁1パーセントジュースを作り出す。
「水多めで腹を膨らますんだ」
水だけはいくらでもある。林檎を節約した方がいいだろう。
そう考えると一人一個で分けたのは失敗だった。齧ったとこらから劣化していくので一つをみんなで分けて残りをそのまま取っておけばよかった。
起きたばかりなのにまだ頭が重い、『取り出し』の負担が大きすぎたようだ。
だるさもあるし起きているのが辛いほど眠くなってきた。
「おれはまた寝るけど良かったら誰か循環してくれない?」
そういって寝転がる。もう起きていられない。
寝入る前に手と足を取られる感触がした。
スッキリ。
とはいかないが、何とかまともに起きられた。
あの後、寝たおれに対して魔力の循環をしたそうだが、ルカとミサはおれの魔力が甘く感じたと言っていた。
ジノとハルは味は感じなかったそうだが空腹感は薄れたそうだ。
おれの血液が濃縮りんごジュースになったせいだろうか、おれも腹の中は空っぽなのに飢餓感はそれほど感じない。
とはいってもそれも次第に薄れ5日もたつとみんなで分けた林檎もなくなってしまった。
いよいよとなればまたりんごを取り出さなければならないのだがおれが乗り気じゃないことと取り出した後のおれの状態がひどかったこともあってみんなに止められた。
あと2日。
それだけ我慢すれば部屋の奥の扉が開く。
そこで脱出できればよし。
だめならその時になって考えようということになった。
正直ありがたい。
林檎を取り出したときは本当に頭が爆発するかと思った。
どの程度の確率かはわからないがあの時に死んでいた可能性もあった。
餓死が確実ならそれでもやるしかないが少しでも希望があるなら先送りにしたい。
頼むぞ。奥の扉。
ついに今日奥の扉が開く。
日付が切り替わって明日になるから厳密には明日だけどとにかくもうすぐだ。
節食からの絶食で皆よれよれだ。ジノの目は落ちくぼんでいるしミサは目の下にクマが出来ている。脂肪は削げ落ちて筋肉もしぼんでいる。
扉の先が出口なら最高。
そうでなくとも魔法が使える空間なら十分。
最悪が魔法の使えない空間のまま。
もしそれが宝物庫だったとしてもだ。
日付が変わり、奥の扉が開き始める。
ゴゴゴッと手前にせり出して横にスライドする。
「開いたよー」
念のために入り口側の扉もルカに見張ってもらっていた。
ハルの声が聞こえたであろうルカが入り口の通路の奥から姿を現し首を振る。
「だめかー」
ハルががっくりする。入り口の方が開くことは期待していなかったから仕方ない。
奥の扉の先に入り魔法が使えるかを確認する。
『魔法落水』
ミサが唱えるが反応なしだ。
「まだ影響があるんだろ。奥で試そうぜ」
ジノが言い。全員揃ったところで奥に進む。
通路の先は宝物庫だった。
「わぁ」
ハルが声を上げるが心なしか沈んでいる。
『魔法落水』
ミサが試すが反応なしだ。
これは頭爆発コースかと絶望したところ部屋の奥でも試そうと言ってジノが歩きだした。
部屋の大きさは幅8メートル、奥行き20メートルくらい。奥には宝箱と武器防具並べられており、部屋の中央にはミノタウロスの石像が飾られていた。
石像を避けて奥に進もうとすると石像の下に魔方陣が発生した。
「気を付けて」
ルカが警戒を発する。
石像はこの部屋の番人だったのか、おれたちが武器を構えて待ち受けるとその石像は足元から色が変わり始めた。
石灰色から赤銅色に変わり続けやがて生身の肉体を取り戻した。
手前の部屋のゴーレムよりは小さいがそれでも3メートル近い身長があり通常のミノタウロスより大きい。
宝物庫を任される以上ゴーレムよりも強いと考えていいだろう。
しかし・・・
「肉だー!」
「きゃぁー」
おれたちのテンションは最高潮だった。
「ひゃっほー」
世紀末の荒くれ物のような声を発しハルが短剣を投げる。
おい。魔法が使えないから回収できないぞ。
短剣はミノタウロスの右目を狙っていたが、顔をそらしたミノタウロスの耳に刺さることになった。
多少怯んだが外れた方がましだったかもしれない。これであの短剣は戦闘が終わるまで使えなくなった。
そう思った時だった。
ブチッ。とミノタウロスの耳を引き裂いて。
ガチッ。ハルの手元の対になる短剣に吸い寄せられるように戻っていた。
吸い寄せる? いや【噛み砕き】だ。
ゴーレム戦でヒポポダイルの鎧と短剣のセット効果を確認したおれはヒポポダイルの鎧をハルに譲っていた。
魔法無効化の空間でも使える装備の効果。
短剣を一番使いこなすハルが使うべきだと説得して装備してもらっていた。
それをこれほどすぐに使いこなすなんて。
魔法が使えないから投げた短剣には回収するための紐が付いていなかった。
それでも装備の効果は使えたので鎧に魔力を流すことで一対の短剣が引き付けあう効果を利用して投げた短剣を手元の短剣に引き付けたのだ。
耳をちぎられたミノタウロスはのけぞり硬直した。
その一瞬を逃さずミサの放った矢がミノタウロスの左目に当たる。
残念ながら突き刺さらなかったが、それでも目を押さえてのたうち回る。
しばらく片目は使えないだろう。
ミノタウロスの左手側に回り込んだのはジノだ。
ジノの鎧も魔法が無効化された今でも使える効果を持っている。
ミノタウロスの左手側を大きく回り込むように【突進】をしてその途中で体の向きを変える。
体の向きを変えたジノは【突進】の効果の途中でさらに【突進】を使ったようだ。
二つのベクトルを複合したような曲線を描きミノタウロスの背後に向かう。
ただちょうどいい場所で止まることはできなかったようで通りすがりにミノタウロスの膝の横を殴りつけて斜め後ろに抜けていった。
おれとルカは攻撃手段がないので応援だ。
おれの剣ではダメージは通らないし、気を引くことも無理だ。
それにハルに鎧を譲ったことでおれには接近戦の禁止命令が出されてた。
おれのことリーダーだと思ってた?
おれも思っていたが違ったようだ。
いやいや、でも今回はハルに鎧を譲る条件として約束させられたので仕方ない。
聞かなければハルも鎧を受け取ろうとしないし。
ゴーレムの時はハルの邪魔をしただけだったな。
そのハルもおれが邪魔しなければミノタウロスの攻撃が当たることもない。
ミノタウロスの右手側前面に位置どって顔や手の指、足の指にちまちまとした攻撃を当ててミノタウロスをイラつかせている。
ジノは【突進】の勢いを攻撃にのせようと奮闘している。
もし突進のエネルギーがすべて攻撃に乗れば大ダメージを与えた上にその場所にとどまることになる。
ジノが狙っているのは左足の膝の裏側だ。
今は一発殴ってはそのまますれ違うためミノタウロスも手を出しあぐねているようだ。
ミサは一貫して目を狙っている。左目がまだ使えないようなので右目を傷つければかなり有利になるだろう。
あまりやりすぎるとミノタウロスがこちらに向かってくるので間隔をあけて打っている。
しばらくするとジノが【突進】の勢いをのせた攻撃を当て始めた。
ハルに攻撃されている顔や手の指、足の指もボロボロだ。
一度短剣の【噛み砕き】で挟み込んだようで右手の小指がなくなっている。
挑発まじりのハルの攻撃にずっと意識を取られていたミノタウロスもついにターゲットを変えてミサを睨みつけた。
ターゲットが外れたことに気付いたハルはヘイトを取り戻そうとして渾身の力で短剣をミノタウロスの足の甲に突き入れる。
短剣は刺さったものの地面に縫い留めるところまではいかずミノタウロスは動き出した。
突進のような重圧。それでも足に溜まったダメージのおかげで本来の速度より全然遅いはず。
ミノタウロスはミサしか見ていない。途中に転がっているおれなんかは小石ぐらいにしか思っていないだろう。
気にもかけられていないおれは避けるだけなら簡単だろう。でも俺が避けたらミサが襲われる。
ジノも駆けつけてはいるが間に合わないだろう。
おれが止めるしかない。




