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水は大事

魔法を封じられた部屋に閉じ込められたアル達、極限の渇きが奇跡を呼んだ。

「でも駄目だ。さっきから指から出そうとしているのに水が出る場所を自分でコントロールできない」

 好き好んでズボンを濡らしているわけではないのだ。

「はじめに覚えた魔法だから場所ごと関連付けられたのかしらね」

「指から出すほうは『落水』の魔法と関連付けられているから干渉してしまうのかも」

 ミサとルカが検証している。


「これでアルの飲み水は問題なくなったわけだな」

 ジノが言う。場所のせいで皆に配れなくて悪かったな。

「水はわたくしも魔法を作れるか試してみます。どうしてもと言う時。そうね、命の危険を感じたらその時はアルの水をいただきましょう」

 ミサが言う。本当に場所がアレで悪かったな。


 それでも希望が見えてきた。抵抗はあるものの水は確保できた。

 手持ちの食べ物は2,3食程度だが節約して三日ぐらい持たせれば後は水だけで10日?

 あれ? やっぱり厳しいぞ。13日後に開くはずの奥の扉も脱出できるとは限らない。

 ただの宝物庫かもしれないのだ。

 宝物庫で絶望する日が来るとは思わなかった。

「水は任せる。おれは収納した物の取り出しを何とかする。収納がかかっているシーツやマントを全部広げておいてくれ」


 そうしておれたちはそれぞれ食料の取り出しと水の生成のため一日のほとんどを魔法の仕組みを探る検討と瞑想に当てることになった。


 おれは一人でがぶがぶ飲むのも申し訳ないので物陰に隠れて水を生成し飲んでいた。

 もともと自分で持っていた水は他のみんなの水がなくなった時に飲んでもらえるように取っておいて、おれ用の水は最初から生成した水だ。


 物陰でズボンを下ろして両手を器のように構える。

 じょぼじょぼじょぼ。

 股間から水が生成される。よーく見ると水の発生場所はわずかにおれの体から離れているのだがそうはいっても抵抗はある。

 自分自身で抵抗があるのだから他の人におれが作ったものを飲めなんてとても言えないだろう。


 一度目を閉じ生成元を忘れて飲む。

 うまい。美味。余計な不純物がなくわずかに魔力の溶け込んでいる、おれ専用の水だ。

 のどが渇くまで我慢していることもあって感動に打ち震えてしまう。

 この水をみんなにあげたい。おれ由来ということを忘れて飲んでほしい。


 ついズボンを下げていたことも忘れて皆に飲ませようと無意識に足を動かしてしまう。

 もちろん転んだ。

 そこで冷静になれた。さっきの抵抗はどこに行ったんだよ。


 閉じ込められて2日が過ぎた。

 他のみんなは節約してきた水が尽きたようだ。

 それまでは瞑想しながら魔力の循環を行っていた。

 おれは一人で。他はペアになって。

 ミサはハルと、ルカはジノとやっている。

 ミサとルカがかなり熟練しているので不慣れなハルとジノに教えているようだ。


 魔力の循環って少しだけ空腹がまぎれるんだよな。

 おれの方は空腹が限界だが、向こうのみんなは空腹に加えて渇きが限界を超えそうだ。 限界を超えれば苦痛だけでなく体に取り返しのつかない障害を追ってしまうこともありえる。

 おれは残しておいた普通の水をみんなに渡そうと立ち上がったが、同時に話し合っていた様子のみんなもこちらに来ようとした。


「アル。話し合ったんだけど・・・わたくしたちはアルの水を受け入れようと思うの」

「うん」

「この皮袋にお願い。わたしたちは後ろを向いているから」

 ミサに答え、ルカから皮袋を受け取る。


「わかった。その前に最後の水。普通の水がこれだけ残っているからみんなで飲んでくれ」

 そういって水の入った皮袋を渡そうとした。

 ジノが受け取り、それを見てハルが考えこんだ。


「みんなちょっと来て。アル。水ありがとう」

 ハルがみんなを呼んだ、わざわざ離れるのだからおれ以外のみんなだろう。

 おれはその場で待つ。

 少しして話し合いが終わりみんなが戻ってくる。


「アル。気を悪くしないで聞いて」

「なに」

「この普通の水と、アルの作る水。それを2つの水袋に入れてどっちがどっちかわからないようにしてもらえるかな?」

 みんなを代表してミサが申し訳なさそうに言う。


「いいけどなんで?」

「その・・・アルの水は少し抵抗があるけど、普通の水と二択にすれば少し抵抗もなくなるかなと思って・・・」

「ふんふん。でもその2つの水を飲みきったら普通の水はなくなるよね?」

 今回だけの問題じゃない。何度か水の補給は必要だろう。


「うん。だから毎回一つは残しておいて、どれかは普通の水という選択肢を・・・なけなしの選択肢を残しておきたいんだ」

 発案者はおそらくハルだろう。みんなを呼んでいたからな。


「うーん。わかったようなわかってないような気もするけどそうした方がいいならそうするよ。2つより5つまとめてやった方がいいだろ?」

「そうだね」

 そうしておれは、5つの皮袋を抱えて物陰に行く。

 じょぼじょぼじょぼ。

 それぞれの袋に水を入れみんなの元へと戻る。


「あ。これ皮袋の特徴で自分の袋はわかっちゃうね」

 ハルに言われて確かにそうだと気付く。


「ああ。そう思って最初に普通の水は入れ替えておいたよ。もうおれにもどれがどれだかわからないね」

 とっさに嘘をつく。選ぶときにだれの袋かわからなくしても飲むときには気づくからせめて希望をひとかけら。ほんの20%だけでも残してやりたかった。


「おお。そうなんだ良く気付いたな」

 ジノに言われたが、気づいたのは今だ。それも指摘されてからだ。


 みんなが革袋を選ぶ。自分のはわかるようで結局ほとんどは自分の皮袋を選んだようだ。

 入れ替えたと言ったのだから、一つだけ確実に普通の水が入っていないものがある。

 おれの袋だ。

 だというのにミサはおれの袋を選んだ。

 ええー。一瞬ドン引きしたがまさかこれはミサの深遠な考えによる自己犠牲なのではないかと気づいた。

 よく考えてほしい。みんなは確実におれの水が入っているおれの皮袋を選ばなかった。

 つまり次回以降おれの水100%の5択を迫られるのだ。そこをミサの犠牲によって2回目以降もわずかな希望を残すことができる。ミサは人類の尊厳を守ったんだ。


 そのミサは飲み口をクンクンしてちゅばちゅばと飲んでいる。

 ・・・ミサの考えは聞かないでおこう。


 水の供給に不安がなくなってさらに2日経った。

 少ない食料を節約して3日間は持たせたがいよいよ昨日からは固形物を口にしていない。

 ゴーレムの直後の3日間はおそらくレベルアップしていたのだろう。

 空腹ながらも体調は悪くなかった。

 今はレベルアップのごまかしも終了し空腹も併せてひどい状態だ。

 特に太ももがだるい。栄養がなくなって、筋肉を栄養に替えているかのようだ。

 

 他のみんなは余裕があるように見える。

「腹減らないの?」

「減ってるよ」

「でも余裕ありそうだよ」

「アルは余裕なさそうだね」

「そうだね」

 ハルと話していたらミサも近寄ってきた。


「魔力の循環で共有していると空腹がまぎれるけど、栄養も満たされるのかしら?」

 そんなわけはないだろうが、気を紛らわせるだけでもありがたい。

「まぎれるだけでいいから、おれも入れて」

 ついに屈してしまった。禁止してたわけでもないけど何となく疎外感は感じていた。

 おれが直接的な接触を避けていたからみんなに気を遣わせたところもある。

「もちろん、歓迎よ」


 誰かとペアになるかと思ったが、ジノとハルとおれで3人組になった。

 2人組は慣れたらしいが、おれを含まない3人組はまだ成功していないらしい。

「アルの魔力はみんなと相性良すぎるからね。二人組よりも流れがいいくらい」

 そうミサが言って3人で向い合せる、おれの右手にジノ、左手にハルがつながっている。


 目をつむって魔力を流し始める。他人の魔力が体の中に入り込み循環を始める。

 栄養などはないはずなのに空腹が癒されていく。

 おかげで頭が回り始める、今まで頭の動きが悪かったことにも今気づいた。

 

 疲労、空腹、不安。頭の動きを鈍らせる要素はいくつもあるが、もし万全の状態だったとしても魔法の開発や解析なんて数日でできるようなものでもない。

 収納した物を片っ端から取り出そうなんて思ってもどうにもならないことだってあるのだ。

 おれはまず収納した物を全部解放しようなどという思い上がったことはやめて、自分の所有物その中でも構造が単純なものを一つだけ取り出すことを考え始めた。


「はい。アル。仰向けになって。」

 ミサに背中を倒される。後ろ向きに倒れこんだおれはジノとハルの間に仰向けになって足を投げ出すような体制にされた。

「足を借りるわね」

 ミサがおれの右足を取り、靴を脱がせ始める。

 左足はルカが靴を脱がせてる。

 待って。足の循環は禁止になったんじゃないの?

 禁止したっけ? はっきりとはしていない?

 今上半身ではジノとハルを相手に魔力を循環させているが、下半身は足のだるさのせいかうまく魔力が通らない。

 循環できなければミサもあきらめるだろうし、もし循環できるならこのだるさを直せるかの知れないとやらしい考えをしてしまい強く止めることができなかった。


「足の方は調子が悪いからうまく循環できないかもよ」

「そうなの? 大丈夫? マッサージでもしようか?」

 その手があったか。でも自分でマッサージしてもあまりよくならないんだよなあ。

「循環がうまくいかなかったらお願いするよ。ほら、循環したら治るかもしれないし」

 ルカも頷く。

「そういうのあるよね。わたしも循環してると体の調子がいいよ」

 

 そうこう言っているうちに靴も脱がされルカとミサに足をつかまれて循環が始まった。 おれの足先の通路は開いているのだが太ももあたりで魔力が詰まっていて循環するところまではいっていない。

 ルカとミサが魔力を流し込んだり吸い込んだりしながら詰まりを押し流そうとしている。

 詰まったトイレをでっかい吸盤でベコベコしているような感じだ。

 あれってやったことはないのだけど、詰まっている状態はやっぱり大便が残っている状態でベコベコやってるんだろうけど、ビチャビチャ周りにはねたりしないのかな?

 するよな。

 

 おれの魔力の糞詰まりは手ごわくてなかなか動かない。

「ちょっと足を動かすよ?」

 おれは言ってミサが左手でつかんでいるおれの右足を少し縮める。

 同時にルカが右手でつかんでいるおれの左足を少し伸ばす。

「足を引いた時に流し込んで、押し込んだ時に吸い取るようにタイミングを合わせてみよう」

 おれは言って足を縮めたり伸ばしたりしてみた。

 おれが足を縮めた時にルカが前のめりになってしまい足を延ばしたときに胸に当たりそうになってしまった。

 いや当たってた。

「ごめん」

「なにが?」

 謝ったおれにルカが何でもないように言う。


「ホントごめん」

 足の先がざわざわする。足の指がワキワキしないように必死でこらえた。

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