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封じられた魔法

 魔法の使えない緊張感の中、それからさらにゴーレムの相手を1時間ほど続ける。

 途中で地響きのような音と振動がしたがそんなことには構っていられなかった。


 隙を見せないようにしつつ鎧に魔力を流してみるが確かに短剣が上に引っ張られる。

 そのまま手を離せばゴーレムの顔に当たるだろうが致命傷にはならないだろうし、二本目の短剣も使えなくなってしまうだろう。

 二本目? 一本目はどこにある?


 確かハルが一本目を投げてゴーレムの後頭部に刺さっているはずだ。

 短剣が引きあっているのか? この短剣の素材はなんだ?

 特殊効果の内容がわかり始めた時。ようやくジノの攻撃がゴーレムの足を砕いた。


 くずおれるゴーレム。大分有利になったがまだ終わってはいない。

 立膝をついたゴーレムはジノの身長とウォーハンマーの長さがあれば頭まで届きそうだ。

「ジノ。短剣を頭に打ち込むんだ」

 後頭部に刺さっているはずの短剣をジノのウォーハンマーで釘のように打ち込めば大ダメージが期待できる。

 ジノの打ち込みに合わせて、二本目のヒポポダイルの短剣をゴーレムの顔に向かって投げつける。


 ガコッ。ジノに後頭部に刺さっていた短剣を深く撃ち込まれたゴーレムは脳震盪を起こしたように呆けている。


「かみつけ!」

 顔に投げつけた短剣はおれが鎧に流した魔力に反応して加速する。

 短剣の元々の素材はヒポポダイルの牙だ。対となる短剣同士が引きあって噛みつきのような効果を発揮するのだろう。


 あごの力は動物の体の中でもとびきりの力を発揮する、ましてやカバやワニとなれば相当なものだろう。

 加速した短剣はゴーレムの顔に突き刺さる。

「ジノ。前も頼む」

 ジノが回り込み顔に刺さった短剣を力の限りに埋め込む。

「うおぉー。光になれぇー!!!」


 なぜそのセリフ?!

 一瞬素に戻ったが、短剣を柄まで埋め込まれたゴーレムは即死に見えるのに体力がわずかに残っている。

「食いしばりか? とどめだ。噛み砕け!!」

 致死攻撃を受けた時に体力を1だけ残すゲームのスキルを連想する。

 それでもおれは自分の魔力を使い果たすつもりで鎧に魔力を流し込んだ。


 埋め込まれた短剣はズズッとゴーレムの頭に入り込み最後の抵抗を食いちぎったようにガチンという音を立てた。

 その音に合わせてゴーレムの頭に縦にひびが入りバカッと割れる。

 頭以外もガラガラと崩れ出してゴーレムは動きを止めた。


「終わったー。 ハルの治療するからいったん戻ろうか?」

 床に座り込んで後ろに問いかける。奥の扉を調べる前に魔法が使える場所まで戻りたい。

「わかったわ」

 ルカが答える。

「やったな」

 ジノもバテバテでうつぶせになって大の字で寝転んでいる。


 気合を入れて立ち上がり後ろを向く、ハルはミサが肩を貸してルカが先行するようだ。 

 ジノとおれは休憩したい。


 入り口にたどり着く前にルカが異常に気付く。

 ・・・入り口がふさがっている。

「これはまずいわね」

 ミサがハルをその場に座らせて小走りで入り口に近づき調べ出す。

 おれたちもそちらに向かい、ルカが入り口があった場所にはめ込まれたプレートを見つける。


 プレートは円形の並びに月のような図柄が描かれている。

 時計のような針はないが図柄が発光することで今の時間を示しているような形だった。

 その発行している図は、真下6時方向の新月の図から一つ進んだ細い月部分だった。

 三日月よりも細く針のような月だ、それに問題なのは新月の図の下に三角形が描かれていてまるで矢印のようにも見える。

「この図形は新月の時だけ特別なことが起こると言いたいんだろうか?」

「普通に考えて新月の時だけ入り口が開くということでしょうね」

 おれも思っていた、いやな予想をミサが口に出した。


「そんな! 閉じ込められたの?!」

 ルカが怯えた声を出す。

 ジノもハルを連れて追いついてきたのでミサがまとめて説明する。

「この扉は・・扉というには大きいのだけど、新月の時だけ開くようね。今からだと27日後ということかしら」

 ミサの顔は暗い。ハルがジノの肩を借りるのをやめて自分の足で立った。

「ボクの見落としだよ。ごめん」

 ハルもうなだれた。


「ハルは悪くないよ。このプレートも入ってくるときは隠れていたでしょう」

 うなだれたハルをルカがなぐさめる。

「ここはともかく、反対側の扉も調べねえか? 出られるかもしれねえだろ」

 ジノが言ってみんなの顔が明るくなる。

 みんなが動き出そうとしたがルカが止める。

「待って、ここで魔法が使えるか試さないと」

 そうだ、扉の近くなら使えるかも。

『魔法水癒』

 ミサがハルに治療魔法をかけるが首を振った。ここも魔法禁止のようだ。


 微妙に沈んだ空気でゴーレムが守っていた扉に到着する。

 ここにも月齢の描かれたプレートが存在し、新月の位置の下にあった三角は逆三角形となって12時の位置にある満月の上にあった。

 ミサがうなだれ、空気が一層重くなる。

「これを見る限り、開くのは13日後でしょうね」

 即死ではないがかなり凶悪なトラップだな。


 まず魔法の使えない空間におびき寄せて、魔法が使えないまま魔法以外にはめっぽう強いゴーレムの相手をさせる。

 面倒だが時間をかければ何とかなると思わせて時間を稼いでいる間に入り口を閉じてしまう。

 魔法が使えなければ水を出すこともできずに渇きで死んでしまう。

 水は魔法で出すことが一般的になっているため効果的だ。

 加えて今のおれたちは食料のほとんどを『収納』の魔法でしまい込んでいる。

 しまい込んだ食料を出すことが出来なければたとえ水があったとしても約一月という期間は持ちこたえられないだろう。


 全くなんでこんなことになってしまったんだ。

 敵がもう少し強ければ撤退していたかもしれない。

 敵がもう少し弱ければ入り口が閉まる前に外に出られただろう。

 奥の扉の先を探索しようとしたかもしれないが半月待つとわかっていればわざわざ魔法の使えない空間で待ったりはしないだろう。

 その場合は結果的に入り口がしまって中に入れなくなるが、今みたいな最悪な状態にはならなかった。

 

 まるで俺たちのためにあるようなトラップじゃないか。

 調子に乗りすぎた、バカみたいだ。

 解決策がまるで思いつかない。

 とりあえず入り口の近くで野営の準備をして外側を通りかかる冒険者に助けを求めようとする。

 だが、壁は厚く声は通らない。扉を叩いてみてもゴスゴスとこもった音がするだけだ。

 外には聞こえないだろう。

 聞こえたところでどうなるのか。

 たまたま外の冒険者に助けを求める声が聞こえたとして、扉自体を開けることはできない。

 一月待つしかないのだ。


 飲み水は手元に残った皮袋一つ分、これがおれの命の残りかと思うと泣けてくる。

 今は何か話してもギスギスするだけだろう。

「今日はもう休むよ。何か思いついたらその時話し合おう。あとさっきはごめんなハル」

 戦闘中にハルの短剣を勝手に動かしてしまったことを詫びる。


「ううん、いいよ。もう痛くない」

 許してくれたハルに手を振って通路のすみっこにうずくまる。

 喉が渇いて仕方ない、もうかれこれ4時間は水を飲んでいないだろう。その間の戦闘で汗もかいたし緊張感でも喉が渇く。

 飲みたいが飲めない。例えば全員の水をハル一人に集めれば一人くらいは生き残れないだろうか? そんな提案をしたらハルは断るだろう。

 言い出しっぺのおれに水を集めることになるかもしれない。

 全員の水を集めて、一人一人が渇きで死んでいくのを看取りそれでも足りずにおれも死んでいく。

 そんな終わり方は嫌だ。ハルにもそんな思いはさせられない。


 渇きが辛い。だるさで眠れない。

 レベルアップしない痛とかで悩んでたな。一生こんなにだるいのかと。

 悩むことはなかった。おれの一生はたったの数日だった。

 涙が出る。貴重な水分だというのに。


 夢を見た。半分幻覚のようなものだが。

 魔法を初めて使った時、無自覚だったがたき火の炎を見つめてまるで自分自身が炎なんじゃないかというくらいに集中していた。

 魔法は成功したが社会的に死ぬところだった。

 あのすぐ後にライノプスに襲われたが、あの場面で死ななくて本当によかった。

 夢の中だというのに眠くて喉が渇いている。

 渇きをごまかすために夢の中の炎を見続ける。

 あの時のように水が出せれば。水さえ、水さえあれば。


 なんだか股間がしっとりしている。出たのか! 水がっ!

 股間を触ってビチャビチャになっているのを確認する、

「み・・ずだっ」

 のどがカラカラでまともに声も出せない。

宝物のように両手に抱えていた水袋から一口含む。

「水が出たっ」

 おれは振り返っていった。

「アル。なんでそんなに体をねじっているの?」

 ルカに聞かれた、命がかかっているとはいえわざわざ恥もかきたくない。


 みんなが集まってくる。無駄な抵抗だった。どうせばれる。

 はっ。それよりこの水が夢の中だけだったらどうしよう。

 もう一度股間を触る。大丈夫だ。ぐっしょりしている。


 仰向けにされて水の検証が始まった。

「確かに水のようね」

 ミサが濡れているおれの太ももあたりを触ってその手をクンクンしている。

 やめて。水は水だけど場所が股間なのは変わりないから。


「魔法が使えたの? 落水? 小水だっけ?」

 ルカに聞かれる。場所からして小水だろう。

 おれは改めて水を出そうとする。

『魔法小水』

 しかし魔法は発動しなかった。

「あれ、なんで」

『魔法小水』

 やはり出ない。振出しに戻った?


 その様子を見ていたミサが言った。

「その水が出たときに魔法の起動句は口に出した?」

「いや半分夢の中だった」

 それでなのか。おれは夢の中を再現して架空の炎を見つめながら水を呼び出した。

 じょぼじょぼじょぼ。

「出た」

 まあ出たけど・・・


「起動句? 呪文の名前が問題なのか?」

 ミサに聞いてみる。

「きっとそうね。今喋っている言葉もそうなんだけど音程とかタイミングが微妙にずらされている気がするのよ」

 ミサでも気がするレベルか、おれは全然気が付かなかった。

「魔法に魔法名はつきものだからほぼ封じられてるのは間違いないわね」

「思っただけで発動出来たら、寝てるときとか考え事で発動するわよね」

 ミサの説明にルカが補足する。

 寝てるときに発動したのがおれだ。

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