循環の修行
目はつぶっているが寝るわけにはいかないので循環に集中したり、考え事をしたりしていた。
魔力の紐で魔力を通すのはいいとして、元々の用途が刺さった武器を引き抜くことのため、強度を付けていたから魔力を通すだけなら性能が過剰なんだな。
性能を削るなら細くするか、紐より細いと糸? 糸付?
漢字二文字にこだわる必要もないんだよな。ストリング?
『魔法アタッチストリング』?
長いし他の魔法と統一感がなくなるな。魔法名からのイメージも大切だろうし、やっぱり『糸付』かな。
くっ。やはり眠い。こんな状態で起きていられるわけがない。
隣のジノはスカーと寝息を立てて眠っている。
薄目を開けて周りを見ると、ハルは寝たまま。ルカとミサはハルの隣のベッドで向き合って手をつないで目を閉じている。循環かな?
ジノとは両手とも魔力の紐でつないでいるので両手は自由に動かせる。
荷物から水を出して飲む。
暇つぶしに魔力で糸を作る実験でもしたいけど両手は魔力の紐で埋まっていて動かすことは出来ても魔法の使用は魔力同士が干渉してしまって無理。
「足か」
今の魔法循環で足の魔力は動かしていない。初めて魔力の循環を一人でした時は手から手につなげることばかり集中して体の中は肩から肩に直線的につなげているだけだった。
今は難易度を上げて、左手から入ってくる魔力は左肩から左肺、心臓に流れておなかを通って尾てい骨まで下りていきそこから背骨を駆け上がる。頭をぐるっと回って右肺と肝臓にしみこんで右肩を通って右手から放出される。
肺の部分は呼吸と連動させてポンプのように魔力を循環させている。
血液の流れにも連動させたいが難しいのであきらめて別方面で難易度を上げる。
おなかから尾てい骨に流していた魔力の流れを右足に流して右足の先から左足の先に渡す。左足を上ってきた流れは尾てい骨に通して元の流れに戻るやり方を試してみる。
正面から見ると流れがクロスしているが右足に入るときはおなか側、左足から胴体に戻るときは背中側を通っているのでぶつかることはない。
いきなり全部は無理なのでジノとの循環は肩から肩へ直接通す方法で固定して、自分自身の流れを足から足だけで循環させてみる。
今まで通していなかったせいか右足から降ろすことはできるが左足から上げることが難しい。
自分の足同士といっても皮膚が接触しているだけなのでそこを乗り越えるのに見えない壁があるようだ。
魔力の循環を始めたころを思い出す。
魔力を飛び越えさせることができずに右足の先に溜まった魔力を今度は逆回転させて左足の先にため込む、そのUの字型、いやCの字の動きを繰り返し時々勢いよくぶつけてみて見えない壁を乗り越えようとする。
「おっ、通った」
右足からぶつけた魔力の流れが見えない壁を乗り越えて左足に届く。
そのまま左足を上って右足に戻し回転を続ける。
しばらくしたら壁の存在を感じなくなったのでゆっくりと回転を止めて逆回転を始める。
足の先の間隔も鋭敏になったようで身体的な能力にも影響がありそうだ。
逆回転も慣れたので、いよいよ魔力の糸の実験を始める。
細くゆっくりとした流れを維持したまま足の親指同士をくっつけていた状態を少しだけ離してみる。
まだ魔力の流れはつながっている。近距離であれば触れ合ってなくてもつなげることはできる、溝を飛び越えるようなものだ。
その溝に橋をかける。溝を飛び越える魔力の流れの中心に一本の芯を作り出す。その芯は糸のように細く今までの紐のように内側に魔力を通す余裕はない。
それでも魔力を通す支えにはなっているようだ。
今までの紐が外壁工事をしたトンネルで、これはつり橋のようなものか。
頼りないが役目は立派に果たしている。当然頼りない分コストは軽減されている。
足の先を肩幅くらいまで広げても魔力は順調に流れているようだ。
制御に余裕ができたので自動的に続いていたジノとの循環と合流させてみる。
左手からの流れを左肺、心臓を経由して体の前面から右足に流す。右足から左足をぐるっと回って尾てい骨に渡す。体の背面を通って体を一周し肝臓、右肺、右手から魔力の紐を通してジノに返す。
「おおっ」
ジノが何か気づいたようだ。
「どうした?」
「いや、魔力が変わったようだったんでな」
「ああ、ちょっと実験してた」
「そうゆうことは言え。びっくりしたじゃねえか」
「どう変わった?」
「アルの成分が増えた感じだな。そのしばらく前にアルの成分が薄くなったように感じたんだがその前よりもさらに増えたみたいだ」
胴体を含めて循環していたものを腕だけにした時に薄くなったんだな。
「今が100%ならその前が30%、始めたころは50%だな」
腕だけが30%、引き算すると胴体が20%、足が50%か。思っていた割合と違うな。
足というより下半身が解放されたということだろうか。
「おお、わかりやすい」
おれ成分当社比2倍か。アルミン2000ミリグラム配合。
「みんな寝てるか集中してるし、今日は休みにするか?」
「いいんじゃねえか。アタシもちょっと酔っぱらったようだし」
ジノが酔うとか珍しい。アルミンは危険だな。
ジノとの魔力循環を終わらせて、循環のために『紐付』を付けていた火打石を返す。
そういえば、今日はレベルアップしてないよな、その割に体のだるさがなかった。
起きたらルカが隣にいてびっくりしたのもあるけど、魔力の循環をしていたおかげかも。
これからどうしようかな。
「寝起きのだるさが辛いから手をつないで寝てください」とか言えないものな。
昼過ぎにはみんな起きてきて食事をとることになった。
魔力の循環は空腹をも紛らわせるようで言われるまで気づかなかった。
「足? 足から紐を出したの? ええぇっと糸だっけ」
ミサが頭を抱えている。「ええっ?」と「えっと」が混ざってる
。
「あのね。なんて言ったらいいのか。魔法って誰でも使えるわけじゃないことは知ってるわね。
最低限レベルアップができること、魔力の流れを感じられることができてやっと使うことができるの」
子供に言い聞かせるように魔法の基礎をおれに教えようとするミサ。
「そこからはスクロールがあれば覚えることはできるけどアルのは自分で作ったよね」
その時点でおかしかったのか。
「いやでも、だいたい『紐付』と同じようなものだし」
はじめて『紐付』を作った時よりは難易度は下がってるよ。
「手で作ったらわたくしも驚きません。ああアルだったのよね。アルってそういう人なのよね」
おれはどう思われているんだ。
「しかも手の方はジノと魔力の循環をしてたのよね。それって手で日記を書きながら足で学術書を書き上げたのと同じぐらいの難易度じゃないの?」
ルカも補足してくる。
難易度が上がってたよ。ちょっとおかしいレベルまで。
「そうでしょうね、日記も学術書も内容がきちんとしていて書いてある字もきれいに整っているわね」
おれが悪かった。
「おれが悪かった。出来そうだったんでやってみたらできちゃった」
「・・・わかってくれればいいの」
「わかってるかなぁ」
「はぁ、魔法を作る天才ってこのレベルなのね」
ミサとルカが顔を見合わせてやれやれと言っている。
天才は言い過ぎにしてもそのことばかり考えているところはある。
好きこそものの上手なれ。といったところだろうか。
午後は休暇にしたのでまた部屋に戻って魔力の循環の練習。
ミサたち魔法使いのしている魔力循環は胴体だけでしているということだったので頭の中から足の先まで循環させることに興味があるようだった。
「一般的に言うとね胴体の中で魔力を前回転できるようになると初心者卒業。自分の腕を通して回転をできればやっと魔法使いと言えるようになるわ」
「右手から左手に渡すのがハードル高くてな、ここで魔力を外に出せるかどうかが決まるってことだ。アタシなんか外に出すと言っても武器までだからな、純魔法職みたいに手の届かない先で何かをしでかすのは苦手だな」
ジノも魔法剣を使いこなすので純粋な戦士というわけではない。
「うちのパーティーは全員魔法が使えるから普通かと思ってた」
ルカがはー、と息をついて首を振る。そんなぁ俺が常識ないみたいに・・
「普通じゃないよね」
おれを見ていった。
「パーティーメンバーが5人いたとしてその中の一人は魔法職が欲しいって言うのが一般的よ」
ルカが普通を教えてくれるようだ。
「一人しかいないから負担が集中してね、後先考えずに突っ込む前衛の治療で魔力を使い切るようよ。
それなのに前衛は『自分が倒してやった』みたいな態度だからパーティーに定着もしなくて」
「かといって魔法使い多めでパーティーを組むと前衛が奴隷みたいな使い捨てになったりもするのよね」
ミサもいやなことを思い出したのかきびしい顔だ。
「うちは恵まれてるね!」
ハルも詳しくはないようだ。ここで良かったと言っている。
「役割が違う人の苦労ってわからないものね」
「それに、性別も絡むから余計にもめるのよ」
ミサとルカはもめてましたね。
ミサとルカは魔法職の女性二人組で前衛職しかいない男性パーティーにはよく誘われていたそうだ。
「イゴウとモルデは特にひどかったけどね。イゴウのワイルドアピールとかナニソレって感じ」
「モルデの知的アピールもひどいわ。マナー違反、モラル無視で犯罪すれすれのことをして自分は頭いいと思っているんだから」
うん。結局すれすれでアウトだったな。
ハルは嫌な顔をしている。一番の被害者だものな。
「ボクもホントあいつらのこといやだったけど、今ならそれほど気にならないな」
「へー、なんでだ」
ジノが聞いた。
「勝負したら勝てるもの。今なら二対一でも怖くないよ」
あいつら・・
「そうね。あんなに嫌だったのは、あの頃突然襲われたら抵抗できなかったからかもしれないわね」
ミサたちが実力的には勝っていても接近した状態からいきなり襲われたらどうすることもできないだろう。
あの頃、といっているのは今では接近状態からでも対処できるようになったのだろうか。
「それにしてもむつかしいわね。アル。足で循環させる所見せてくれない?」
ミサが裸足になっていると思ってたら足で循環を試してたのか。
「やるのはいいけど見えるの?」
目に見えるものではないけど、ベッドに上がって上体を起こしたまま足だけで循環させてみる。
「ちょっと触るわね」
ミサが足に触れてくる。触れば魔力の流れはわかるか。しかし何というか。セクハラの予感がする。
「ふんふん。勢いあるわね。若いからかしら」
触るというよりは両手を使ってにぎにぎしている。
「このまま、わたくしと循環はできる?」
ミサは左手で右足、右手で左足をつかんで受け入れる準備万端で聞いてくる。
「で、できるよ」
体勢が何だかご主人様プレイみたいで興奮する。そんなことは表に出さずにクールに。クールに。・・・クールに答える。
循環は問題なくミサとつながった。自分の足どうしでも足を離してつなげられるからそれより楽なくらいだ。ミサも人との循環になれてきたようで右手は送り出して、左手は吸い込んでくる。
「ああっ、成分が濃いってこういうことね。 酔うってわかるわ。アル。アル・・ちょっとセクハラよ」
おれが?!
びっくりして魔力が勢い付いた。
「きゃぁ」
ミサがかわいい声を出したので、魔力を押さえ細い流れにする。
「流れは分かったわ。アル。手伝って」
そういってミサはこちらに足を投げ出してくる。
「えっ?」
「えっ?」
「だから交代」
ミサが足でくいっと手招き?足招きしてくる。
「えっ!」
ぷっ、とジノが噴き出した。こういう時どうして誰も助けてくれないんだろう。




