収納の魔法
食事に向かう途中、ミサに袖をつままれた。
「アル。さっきの収納はメルエには内緒ね」
そうだな、いつかはばれる気もするが自分から言うこともないか。
下手したらギルドの都合でいいように使い倒されることもあるし。
「わかった。他の人には内緒にすること言った?」
「ええ、ご飯の話が出たときね」
さすがミサ、話が早い。
食堂に入り、注文を済ませる。
「いい装備だったね。前にオーク狩りを勧めたけど今ならそれより上のランクが適正かもね」
ギルド職員としてメルエからアドバイスが入る。
「オークの上って何になるんですか?」
「オークの上だとオークの森の先にある湿地帯でリザードマン狩りがあるかな」
湿地は足元悪そうだな。
「リザードマンは報酬おいしいんですか?」
「んー、おいしいといえばおいしいよ。オークはお肉が売れるから一匹当たりの収入はオークの方が多いけど荷物が重くなるからあまり運べないのよね」
「運ぶ手段さえあればオークはおいしいのよね。オークおいしいわー」
メルエは食事をつまみながら話す。報酬と食事の話が混ざっているよね。
「リザードマンは討伐部位と素材はどこだっけ」
「ゴブリンやオークと同じで右足首ね。
以前はどれも右耳だったけど、とどめの刺しそこねやらで耳のない個体が出たりしたから、無駄な討伐にならないように足首に変わったわ。
わかってると思うけど左足は駄目よ、いるのよたまに。一体で二体分報酬をもらおうとする奴!」
メルエは憎々しげに言う。報酬の2重取りってやつね、メルエもやられたことがあったのかな?
受付で新人の時とかに。
「素材は皮ね。体のサイズもオークより小さいから荷物としては少ないわ。皮が固いからはぎ取るのはちょっと大変かもしれないわ、それと集団の規模が大きくて5体から10体の集団で動いてるの。
固まっているわけじゃないけど目の届く範囲にそのくらいいるから戦力が追加されると囲まれるから気を付けてね」
森の中は増援されることは少ない。
ゴブリンはうるさいしオークはでかいが見通しの悪さと戦闘に時間がかからないためだろう。
その点がリザードマンが相手だとちがうのか、見通しが良すぎるんだろうな。
硬い外皮で戦闘が長引き、戦闘を聞きつけた増援のリザードマンが続々と駆け付ける。
逃げることも隠れることもできない湿地帯でそれはやばい。
「弱点は氷と雷。逆に炎と水は耐性があってあまり効かないわ」
オークやゴブリンそれに人族は特に耐性は持たないので、魔法の種類によって効きやすさは変わらない。
だがモンスターの多くは属性を持ち効きやすい魔法、効きにくい魔法がある。
冒険者、特に魔法使いは属性の相性が悪いからと言ってただ傍観しているわけにもいかない。なので魔法メインの冒険者は得意属性と対抗属性を並行して習得する。
火属性の魔法使いは氷属性の魔法も習得し、この二つは習得の相性も良く火の適性があるものは氷の適性を持っていることが多い。
熱を扱うためだろうか、上げるのも下げるのも仕組みとしては同じという意味で。
水属性と相性がいいのは雷属性。火と氷の関係と同じように習得の適性は近いし水に耐性があるモンスターは雷に弱いことが多く弱点を補う意味でも使い勝手がいい。
土属性は風属性と相性が良く前の4種と同様に片方を持つものは合わせて習得されることが多い。
そして逆に対抗属性が相性が悪くなる場合がある。
日属性と月属性、木属性と金属性だ。
日属性は騎士や聖職者、王族などに多く光を扱う。
月属性は斥候、盗賊、暗殺者などが多用する。扱う効果は闇だ。
日属性が得意なものは月属性は苦手な傾向にあり、その二つの属性を同時に習得することは非常に困難だと言われている。
木属性と金属性も同じような対立関係にあり。エルフが木属性を得意とし、ドワーフが金属性を得意とする。
戦闘でも使えるがこの2属性は生産職で真価を発揮する。
これらの対抗属性と相性の悪い4属性の適性を持つ冒険者は、苦手な敵を相手にした時のために魔法のほかに攻撃手段を持つことが多い。
近接武器や飛び道具などの物理攻撃手段だ。
国や組織の中で役割が決まっているものは自分の役割に特化しても問題ないが、つながりの緩い冒険者パーティーでは一つの冒険の間、属性の相性の悪さを理由に役に立てなかったとなれば分け前の分配に影響する。
分け前の分配には根深い問題があり、ダメージ量や誰がとどめを刺したなどでもめると聞いたことがある。
その決め方だと戦闘補助魔法や回復魔法の使い手は不遇だろうな。
実際分け前に差別のあるパーティーはメンバーの定着率が悪くランクもなかなか上がらないらしい。
「はじめのうちは湿地帯の端で戦って、様子を見た方がいいわね」
メルエの話もだいたい終わったようだ。
「わかりました、今日はそこまで行きませんけど様子を見ながらやってみます」
「うん、大物を討伐したパーティーはすぐ調子に乗るけどアルくんたちは大丈夫かな。
じゃあ、ここは払っておくから行ってらっしゃい」
「いいんですか? ごちそうさまです」
みんなもそれぞれにお礼を言う。
「いいのよ。今日の仲介でもギルド側の手数料ももらっているし。経費、経費」
席を立ち、メルエに別れを告げ店を出る。メルエは酒を注文していたがあれも経費だろうか。
「討伐前に宿屋で試したいことがあるんだ」
そういって宿屋に戻る。宿では古いシーツがあるか聞いて、破棄予定という汚れたシーツを五枚手に入れた。
部屋で汚れたシーツを広げようとしたが、シーツを使うのは戦利品を持ち帰るときだからここでは必要ないことに気付き、みんなに自分のマントの上に自分の荷物を置いてもらうように言った。
「さっきの続き? もう解決したの!?」
ミサに聞かれる。
「試してみないとわからないよ」
そういってジノの荷物の前に立つ。
『魔法収納ジノ1』
収納の魔法は発動しジノの荷物をマントの中に収納した。
次にハルの荷物に向き合う。
『魔法収納ハル1』
ハルの荷物も収納される。ミサがじっと見ている中ジノの荷物を収納したマントの前に立つ。
『魔法取り出しジノ1』
マントからジノの荷物が取り出される。ハルの荷物を収納したマントを見るが荷物が取り出された様子はない。
おれは、フーと息を吐き言った。
「どう?」
ミサはうんうんと頷いている。
ジノは「はあ、もう解決したのか」と呆れている、他の二人も似たような感じだ。
「これは、魔法自体を新しく作った? のね? はぁー、ほんとに?
魔法を作れるとそんな力技が可能なのね。これでまたリルに合うのが楽しみになったけど、そんなにポンポンと作られるとわたくし自身も魔法を作りたくなったわ」
ミサの言う通り、一つの魔法でいくつかの荷物を区別して収納するのはやめて、一つの荷物ごとにその荷物専用魔法を作ってしまう方法だ。
力技なのは否定しない。そしてミサの言っているリルというのはダンジョン内から転送された場所で出会った妖精族の少女だ。彼女は魔法を書き留めて魔法習得スクロールを作成することができる。
彼女に会えれば今回作った収納魔法が他の人にも使えるようになるのだ。
ただし現在は彼女のいる場所は魔法協会に監視されていると思われる。
魔法協会は俺たちが転送されたダンジョンとは別の場所から転送されてきてリルの技術の独占を主張しているのだ。
組織としても大きく、その時も大勢がおれたちをとらえようとした、今はほとぼりが冷めるまでリルの所には行かないようにしている。
「わたくしでは時間がかかるでしょうけど、魔法を作るときにはアル。教えてくださいね?」
「ああ、いいよ」
ミサは魔法を得意とするエルフだしおれにできることならコツさえつかめば簡単にできてしまうだろう。
今は魔法を習う環境が魔法を作ることよりも既存の魔法を覚えることに傾きすぎているのかもしれない、習得が楽で効果が安定しているからな。
「それじゃあ、荷物しまっちゃうよ。武器と飲み水以外はマントの上にのせておいて」
一応確認したが、元々その状態で並べていたようだ、すでにしまっていたハルにもう一度取り出すかを聞いたが必要ないとのことだった。
みんなの荷物を収納して部屋を出たが、廊下でルカが気付いた。
「ねえ、だれも荷物を持たずに町の外まで討伐に行くのって不自然じゃない?」
そう言われてみれば、皆手ぶら。街中を歩くような格好で町の外に出るのは不自然。
しかも帰りは持っていなかったカバンごと荷物が増えているとか何か聞かれてもおかしくない。
行きも帰りも手ぶらはさらにまずい。そんな行動をすればいつの間にか噂になり、手ぶらで帰って来たのに大量の素材を持ち帰ったなんてわかればメルエなんかにはいろいろと問い詰められることになりそうだ。
「ちょっと戻ろうか」
部屋に戻って、一旦全員の荷物を取り出す。
「背負い袋は担いでおこう。重いものだけ『収納』に入れてとなると・・」
ロープやたいまつはそれほど重くないしとっさの時に取り出したいから外の荷物かな。そうなるとしまうものは食べ物と飲み水のストック分だけ?
それぞれ振り分けて再度収納する。バックパックのかさは古いシーツをくしゃくしゃにしてごまかした。
門を出てオークの生息地に向かう。そちらの方向には馬車は出ていないので徒歩になるが今は荷物が軽いので冒険者の体力であれば小走りで馬車と同じ程度の速度は出せる。
もしロバと荷車の組み合わせを借りたとすると並走するには遅すぎて逆に疲れるくらいだ。
歩きと小走りを交互に繰り返しほどなくしてオークの生息する森へとたどり着いた。
「取り出す荷物は特にないね、今日は新しい装備の確認だからハルから攻撃して・・・まあいつも通りだな」
普段から最初に攻撃するのはハルだった。
防具の確認はわざわざ殴られるのも気が進まないのでやらなくていいだろう。
森の中に侵入する。
ハルは時々気配を消して先行している、進行方向を扇状に確認して戻ってくると敵のいそうな方へおれたちを誘導する。
「いるよ、30メートル先。釣り出してくるから待ってて」
そう言うとハルは気配を消して先行する。
おれたちは警戒して待ち構えていると、ハルが気の抜けた表情で帰ってきた。
「倒しちゃった」
オークを? 確認のため皆で向かう。
地に倒れたオークは首から血を流していた。
投げた短剣が根元まで刺さり引き抜いたような跡がある、それも2か所。1か所でも致命傷に見えるほどの傷だ。
身長は2,5メートルほどでオークとしては平均的、ハルの身長で届くような場所ではないのだが。
「オークがスライム並みに柔らかかったよ。サクッと刺さった。サクサクッと」
ハルが身振りを交えて言う。ヒポポダイルの短剣が強すぎる。
「血抜きの間索敵してくるよ」
そういってハルは気配を消していってしまった。うずうずしていた様子からして戦い足りないんだろうなとは思ったが、それは俺たちも一緒だよ。
ジノがうらやましそうに消えかけているハルの後姿を見ていた。
しばらくすると遠くから、ピギィーという鳴き声が聞こえドスドスとこちらに向かってくる足音がした。血抜きの作業も終わっていたので全員で警戒して待ち構える。
「釣って来たよー」という声とともにハルが現れ、足音の方に向き直る。
木の間からオークが現れ、緊張感が高まった瞬間、ハルの手元から2本銀光が走ってオークの首に突き刺さる。
オークの目から光が消え、刺さった短剣はフルッとふるえるとハルの手元の動きに反応して戻ってくる。
「やったぁ」
一見短剣が不思議な動きをしたが、ハルの短剣には目には見えない紐が付いておりその紐を操って短剣を取りもどしたようだ。
その紐もおれが作った魔法だ、全員が『紐付』の魔法を持っているが一番使いこなしているのはハルだろう。
「今度こそ、釣って来たよ。向こうで倒すと運ぶの大変だものね」
気付かれないうちに倒すほうが楽なのに、わざわざ追いかけさせてオークの体を運んだのか。
「運ぶのは気にしなくていいよ。気付かれずに倒すほうが楽だろ?」
あまりうるさくしても余計な敵を呼ぶだけだしな。
「えっ、いいの?」
「おれたちにはこれがある」
そういってシーツをバッと広げる。
横ではジノたちが新しいオークの血抜き作業を進めている。木の幹に逆さに括り付けて処刑状態だ。
広げたシーツの上に血抜きの終わったオークを横たえようとしたが力仕事の手が足りないので先に新しい方の血抜き作業を手伝う。
その後血抜きの終わった方のオークをみんなでシーツに横たえて収納魔法を発動する。
『魔法収納シーツ1』
シーツに浮かび上がった魔方陣がオークの体を覆い隠す。
浮かび上がった魔方陣が消えた後はオークの体はシーツの中にしまい込まれていた。
「ほらな」
シーツをたたんで1と番号を付けてしまいこむ。
「血抜きはいるだろうけど、解体は後回しでいいよね」
そう聞くとハルが言った。
「アルのすごさで、ボクのすごさが霞んでいる・・・」
あれ? やりすぎた。
「す、っげえよ? ハル? 一撃? 二撃かな?」
いや、ハルはすごいんだよ。オークって耐久力もあるし新人を抜け出した中堅くらいの冒険者が4,5人がかりで倒すような相手なんだけど。
「いいよもう。すごいのは武器の方だから」
すねちゃった。
「使いこなすのがすごいんだって、おれだったら急所まで届かないから、いくら切れ味良くても攻撃よけながら足から攻撃することになるから大変だって」
武器がいいだけではできない仕事だ。
「そう? そうだよね」
ハルの機嫌が直った、あらためて思うがすごいな。
短剣自体の切れ味があっても動いている敵の急所を刺し貫く勢いで当てられるんだから。
そしてそれも高価な短剣を確実に回収できる紐付の魔法と組み合わせることで最大の戦力を惜しみなく使えることでもある。
・・・一周周ってまた自分が作った魔法の自慢してる、と言われそうだ。




