装備の効果
空間Aに物体B・・・空間Cに物体D・・・物体Bに鍵をかけて・・・物体Bに鍵B1・・・対象の指定・・・物体B・・物体B・・・物体B・・・・・・
「ちょっとアル。声出てるよ」
ルカに注意された。
考え事をしていたら口に出していたようだ。
「ああ、うん収納の魔法のことでね」
「あー、でも気を落とすことないよ一回だけでも使えれば十分役に立つしさ」
「いや、気、落としてないよ。たぶん改良できるから」
「えっ、あ、そうなんだ・・・すごいね」
「やってみないとわからないけど、たぶん大丈夫でしょ」
などとルカと話しているうちに装備を注文した武器屋に到着した。
「らっしゃい。よく来たな、注文の装備は揃ってるぞ。奥で説明するから入んな」
武器屋のおやじに迎えられ奥に通される。前回と同様に防具の方もこちらに運ばれているようだ。
「ノル、来たぞ説明してやれ」
店の奥に行くと、前回も説明してくれた店員の人がいた。ノルさんという名前らしい。
「いらっしゃい。今日はギルドの方はいらっしゃらないのですか?」
そういえば、注文はギルドを通しているからいてもらった方がいいか。
「ボク呼んでくるよ」
ハルが呼びに行こうとしたが、ミサが止める。
「ハルは装備の説明を聞いた方がいいわ、ギルドにはわたくしとルカで行きましょう」
「そうね、いってくるわ」
ミサとルカが店の入り口に消え、そしてすぐに戻ってきた。
「表でばったり会っちゃった、メルエもこっちに来るつもりで途中でわたしたちの宿に迎えに来てたんですって」
ミサとルカの後ろにはギルド職員のメルエがいた。
「今日の午前中ってことだけで、時間決めてませんでしたね。
でも結果オーライです、受け渡しの時に私がいれば問題ありません」
こっちも迎えに行くべきだったのでお互いに苦笑いだ。
「よろしいですか? 先に水でも飲みます?」
ノルがメルエに聞いた。
気付かなかったがメルエは息を切らしてたようだ。
「大丈夫です、続けてください」
メルエは本当に平気そうだ、この人の正体もわからないけど、ギルドでも権限ありそうだしレベルも高そうなんだよな。
「それでは」
とノルが説明を始める。
「まず修繕と洗浄の方がライノプスのハンマーと鎧ですね。
こちらのハンマーの修繕は柄を交換して強化と保護の付与をかけなおしました」
ノルが立てかけてあるライノプスの角のウォーハンマーを指す。
「ライノプスの鎧は付与の方も問題なかったので洗浄だけしてあります。
そしてお話にあった特殊効果の方なんですが防具職人に問い合わせても特別なことをしたわけじゃないということで偶発的に追加されてしまったようです」
特殊効果というのはライノプスの鎧を身に着けて鎧に魔力を通すと勝手に足が動いて突進してしまう効果のことだ。
ヒポポダイルと戦った時にその効果が発動してひどい目にあった。
「装備に魔力を通すこと自体ベテラン冒険者が伝説級装備の効果を使うときにだけするそうなのでそういう意味ではこれも伝説級装備なんでしょうね。
あと装備に魔力を通すとその人専用の装備になってしまうこともあるそうです。そのこともあって防具職人側で特殊効果の確認をすることはできないと言われました」
ノルは武器職人のおやじの横にいつの間にか立っていた第二のおやじをチラチラ見ながら言った。
まじか、おれが魔力を通したからジノが使えなくなったかもしれないの?
「ジノ、鎧とハンマー装備してくれない?」
「おう」
おれが言うとジノが装備を身に着け始める。サイズがぴったりなところを見ると、サイズ調整機能は働いている。魔力を通して突撃が使えるかどうかだな。
「ジノ、広いところに移動して魔力を通してみようか」
「そうだな、どこかあるか?」
ジノがノルに聞くと、
「裏庭を使ってください。突進の効果くらいなら確認できます」
そういわれて、みんなで裏庭に移動する。
裏庭でジノが武器を構えて準備する。
「突進!」
叫ぶ必要はないけど、やりやすいやり方でやってもらえばいいか。
「ちょっと待って、アルは突進した時どこに流したんだ?」
動かなかったジノがおれに尋ねる。
「防御力を上げようと思って全体的にかな? いや、先に吸われる感覚があったんだ、走っているときに魔力が吸われる感じがあってその吸われる先に魔力を注ぎ込んだんだった」
「走って? こうか?」
ジノが軽く走って魔力の流れに集中する。
「お、来た来た。いくぞ。 突進!」
後ろから蹴っ飛ばされるような加速。残像までは見えないが加速することを知っていなければ見失うほどの加速だった。
「アルの時は見失ったわ」
「気づいたら口の中にいたね」
ミサとルカが前回おれが加速した時のことを話す。おれもあの時は自分を見失った。
「ほぉー。大したもんだ、こんなことになっとったのか」
パチパチと手を叩きながら武器屋のおやじの隣にいた第二のおやじが戻ってきたジノを迎える。
もしかしてこの人。
「おじさん、こういうこと他にもありました? あっ、皆さんに紹介します、防具職人のミヅチさん。僕の叔父です」
ノルがおやじを紹介する。やっぱり防具職人か。
「皆さんどーも。ああノル、たしかにそんな話は聞いたことはねえな。伝説級の武器やら最高級素材の国宝級なんかはベテランというか英雄クラスの人が使って長期間魔力を流してもらってやっと特殊な効果が表れるという話だからな。意図したものじゃねえがおれも鼻がたけえや」
ミヅチは腕を組んで誇らしげだ。
「理由になるかわからないですけど、これの素材のライノプスと戦った相手のヒポポダイルはずっとライバルというか縄張り争いをしていたらしいんです」
原因になりそうなことを話すとミヅチにそれで? という風に先を促される。
「ライノプスの方は死んでいたけど、ヒポポダイルの方は最初にライノプスの気配というか匂いを感じて襲い掛かって来たみたいなので、ヒポポダイルの素材もそれに反応したんじゃないかって思うんですけど」
自信なさげにおれは言う。
「そんなこともあるのか。確かに伝説級や最高級素材ともなればバックグラウンドというかそのものの歴史があるもんだしな・・・。
いや、いい話を聞けた面白かったよ坊主。アルだったか? こいつら長く使ってやってくれ。ヒポポダイルの鎧も気合入れて作ったから何か効果が出るかもしれなえな」
ガハハと笑って背中を叩かれる。
「ど、どうも・・」
おれも効果が出るかもしれないことには期待している。
「それじゃ、ヒポポダイルの鎧を・・」
「ちょ、ちょっと待った。武器はどうなんだ、セットで何か起こるんじゃないのか?」
武器職人のおっちゃんが待ったをかける。そういえばそんな話もあったな。
「ジノ、どう? 武器に魔力は通る?」
「ん、んー。むずかしいな、表面にはまとえるけどな」
ライノプスの角との間にミスリル製の柄があるせいで遠いから大変かな。
「こっちは特殊効果があったとしても時間がかかりそうです。使い続けたら何か出てくるかもしれません」
「そうか」
武器職人のおっちゃんはうなだれている。
「まあ、兄貴も気を落とすな、俺だってまぐれでくじに当たった様なもんだ」
「あたりめえだ。お前に腕で負けたとは思ってねえよ」
「これは、兄貴越えも近いな」
「言ってろ!」
武器のおやじと防具のおやじが言いあってるとノルが仲裁に入る。
「まあまあ、ハビおじさんの武器も可能性高いですよ。
ジノさんは魔法剣使いだから魔力をなじませるのも上手いし早いらしいから。
おじさんも言ってたじゃないですか。『武器が成長しているような気がする』って」
「まあいい。おいジノ! メンテ代負けてやるからちょくちょくもってこい。魔法剣もガンガン使っていいぞ」
おお。使い放題の許可が出た。武器の消耗があるからジノも遠慮してたけど魔法剣が使い放題ならかなり戦力上がるな。
「次だ次。ヒポポダイルの検証するぞ」
武器のおっちゃんが話を進める。あの人の名前ハビって言うのか。
ノルがおじさんって言ってたからノルの父親はまた別にいるんだな、その人も何かの職人だろうか。
「ヒポポダイルは短剣だからハルだろ。鎧もハルでいいんじゃないか?」
おれが言うとハルにジト目で見られる。
「アルは前衛だろ。ボクは遊撃だしだいたいは遠くか後ろからだから前衛がちゃんとした防具を使ってよ」
そうかな。おれも割と中衛よりの遊撃なんだけど、でも毎回死にかけているから強く反論できない。
「そうか、それじゃあ使わせてもらうよ。その前に一度全部装備して魔力流してみたら?」
特殊効果の確認だ。もしセットで効果が出るならその時は鎧も使ってもらおう。
「うん、わかった」
ハルが鎧を身に着ける。体か小さいとサイズ調整効果がはっきりわかるな。
シュインと素早く縮んだり、うにょんと体に合わせたりしている。
「付けたよー。魔力入れるね」
ハルが魔力を流し始めた。
目をつむって集中したり、軽く走ったり、武器を振ったりしているがどうやら手ごたえがないようだ。
「効果、ないみたいよ。少なくとも今の僕じゃ発動することもできないや」
「まぁ、そりゃそうだろうな。気にすんな、普通はそういうものだからな。こいつらも使い込んでくれや」
防具職人のミヅチは気にした風もなく、そのまま手を振って帰ってしまった。
「こっちの武器も魔法剣使うならどんどん使っていいぞ。投てきメインってことだったからあまり使わないだろうがな。あと、途中で逃げだす魔物もいるから、武器が刺さったまんま逃げられないようにしろよ」
武器職人のハビも説明は終わったと言わんばかりに店の方に戻っていった。
ノルとメルエは最終的な金額を詰めているようだ。
ハルは鎧を脱いでいる、特殊効果が出なかったからおれが付けることになるだろう。サイズ調整効果が元に戻ってみょーんと膨らんでいくのが面白い。ハルが縮んでいるようにも見える。
ハル用の鎧も欲しいけどオークの革でできないかな? オークだとハルが嫌がるだろうな・・
「はい、アル使って」
ハルに鎧を手渡される。「おう」と答えて身に着けるがやっぱりサイズ調整機能は面白い、普段も靴だけでも調整出来たら便利だな。
軽く動いて魔力も流してみる。うん、吸われる感じもないしこれが普通だな。
「アルくん、支払い終わったよ」
ノルと話していたメルエに呼ばれる。
「はーい。みんな行こう」
ぞろぞろとメルエの所に行く。
「今回のヒポポダイルの鎧と短剣はライノプスの鎧に特殊効果が出たってことで職人さんたちが張り切っちゃってお高い追加素材やら特殊な工法などを使ったことで一度は予算オーバーになりましたが、職人さんが勝手にやったことなので大幅に値引きしてもらい当初の予算に納まることになりました。
ヒポポダイルの素材一式、ライノプスの骨と肉それぞれの装備として使う分を残して売り払った結果が860万、これを加工費として丸々使い切ったことになります。二割引はしてもらったから元々は1000万越えよ」
結構かかったなぁ。ライノプスの装備が素材分含めて1000万くらいだったから、今回のヒポポダイルの装備は素材分合わせたら1500万は越えているのかな?
「そこに追加のサービスとしてライノプスとヒポポダイルの武器と防具のメンテナンス費用を5回分無料にしてくれるそうよ。これ結構な金額になるからね」
メンテナンスは高い装備ほど高い素材の補充が必要になるのでメンテナンス代金が高くなる。破損状態にもよるが5~20%は取られるから確かにでかい。
「いろいろありがとうございます」
「いいのよ。後付けになったけどギルドから討伐依頼を出すような危険生物だったから討伐してもらってギルドも助かっているから」
「こちらも特殊効果を発現してもらったので店の宣伝にもなります。その鎧、価値が上がったので狙われないように注意してくださいね」
ライノプスの鎧の価値が上がった?
特殊効果付きになったからか、これは街中では見せられないな。
作業工賃は素材払いで支払い済み、メンテナンスの無料分までついていい買い物だったな。
「それでは、おれたちはこれで」
「はい、ありがとうございました」
「いい時間ね。ご飯いくの? まぜてもらっていい?」
「いいですよ。それで、午後から装備の慣らしでオーク狩りでいいかな?」
メルエに答えて、他のみんなには午後の予定を尋ねる。
「いいよー」などと返事をもらいおれたちは食事に向かった。