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流通の革命

 部屋の扉を開けるとちょうどジノと出会った。

「おはよう」

「おっす」

ジノの身長は180センチ以上あり、ドワーフとしてはありえないほどの高身長だ。


 対しておれは160センチ前後で見上げる形になる。

 見上げなければ胸が目の前に来るのだが、胸囲こそあるもののふくらみはB前後。

 しかも体を鍛えているので筋肉感がすごくある。

 顔立ちは整っているが体格も含めて、美人というよりはかっこいい見た目になる。


「みんなは?」

「先に行ってるよ。アタシが最後」

「そっか」

 宿の階段を降りると食堂兼ロビーのような広い空間がある。

 見まわすとこちらに手を振る女性二人組がいた。


「アル、こっちよ」

 栗毛のロングヘアーを二つにまとめておさげにしているのがルカ。

 おれと同じ人族で、身長も同じくらい。

 体形は標準的だが胸は大きめ、表情がくるくる変わり、リスのような可愛さがある。


 もう一人はエルフのミサ。

 黒髪のロングヘアーで毛が細くまっすぐだ。

 特徴的なエルフの耳を隠すために耳の上で髪を編み込んでいる。

 身長は170センチくらいで細身のためそれより高く見える。

 クールで物静かな美女であるが、魔法の考察に関しては熱中しておしゃべりになる。


 二人並んでいるとナンパ目的でちょくちょく声をかけられるのだが、今日は一段落したのか席の周りは静かだった。

 席に向かう途中で、料理を両手に持った小さな子が追い抜きざまにふりかえる。

「ちょうどいいタイミングだね。アル」


 小さい子は13歳くらいに見えるが実際は16歳でおれより2つも年上だ。

 彼女はハル。ノビトという種族でこの種族は見た目の年齢が10歳前後で止まるという特徴がある。

 身長も150センチくらいで小柄だが、ハルが言うには同じ種族の中では飛びぬけて大人っぽいらしい。


「全員分持ってきたから座りなよ」

 頷いてあとについていく。

「さんきゅー。ハル」

 席に着くと、みんなで挨拶して食事が始まった。


「今日は装備を受け取ったら慣らし運転ね。明日から足を延ばしましょう」

 ミサが今日の予定を切り出す。1週間前におれたちはヒポポダイルというカバとワニの合いの子みたいなでかくて強いモンスターと戦い何とか勝利した。


 そのヒポポダイルを素材にした装備を注文していたのだが、ついに今日受け取れるのだ。

「うん、戦力もそろったし、明日から本格的にオーク狩りだな」

 オークが苦手だったハルも昨日までに試験的にオークとも戦い苦手意識もだいぶ薄れていた。

「アルが本気出したら帰りの荷物がすごいことになりそうね」

 ルカがニコニコしながら言う。


「そうね、馬車でも借りましょうか? 荷物だけならロバでもいいのかしら?」

 ミサが悩ましげに言う。

 パーティーの方針は大体この二人が決めてくれる、ジノは「決まったことには従うぜ」と言わんばかりに黙々と食べながら聞いている。

 ハルは「ボクわかんなーい」という雰囲気で聞いているような聞いていないような態度だ。


 ルカは土魔法と風魔法を得意とする魔法使いであり槍の扱いにも長けた後衛気味の中衛だ。

 特に得意な攻撃は土魔法で生成した槍を自力で投てきして風魔法で加速する、物理と魔法の複合攻撃だ。

 素の投てき攻撃に魔法の威力が上乗せされて、方向の調整も可能なため威力も命中率も高い。

 威力が高すぎて土魔法で作った槍が耐えらず壊れてしまうのが威力の上限となっていて、今は新しい攻撃を模索中だ。


 ミサは魔法専門で水魔法と雷魔法を得意としている。

 全般的にどの属性でも使いこなせるのだが、雷の精霊を介した雷魔法が使い勝手がいいらしくよく使っている。

 精霊の使役は特殊な才能が必要らしくエルフ以外では見たことがないとミサは言っていた。

「アルなら使役できるかもね」と言ってくれたこともあるがたぶん無理だろう。

 ミサはおれのことを特殊な才能を持った魔法の天才だと思っているのだろうか?

 というのも。


「その荷物、何とかなるかもしれないんだ。あとでおれの魔法を見てよ」

 とおれが言うと。

「うそっ! また魔法作ったの!?」

 ミサが驚いた。新しい魔法を作るというのは特殊な才能。

 それこそ100年に1人の天才でなければ不可能だと言われているらしい。

 実際によく知られている魔法で一番新しいのは50年前に作られたものだという。


 おれの場合はこちらの魔法の基礎を知らずに手探りで発動した魔法が新魔法となっただけで、思い込みや先入観がなかったことが原因と思われる。

 ちなみにその時の新魔法は役に立つものではなかった。


「食べ終わったら部屋で見せるよ。 今ちょっとだけ見せられるかな」

 おれは周りに人がいないのを見計らい、魔法を発動させる。

『魔法収納』

 テーブル中央の皿の下にうっすらと魔方陣が浮かび上がり、その魔方陣が皿を覆うように回転するとその皿は料理ごと消え去っていた。


 皆がぽかんとしている中、皿が透明になったわけじゃないことを証明するため皿のあった場所で手のひらを振る。

『魔法取り出し』

 再び魔法を発動し同じような魔方陣が回転し先ほど消した皿が現れる。


「こんな感じ」

 そういっておれはその皿の料理を食べる。

 余裕ぶって食べてみたがそういえば食べ物で試したことなかったな、変質したりしてないかな?

 テーブルの木と混ざったりしないよな?

 余裕の表情の振りで内心目がぐるぐる泳いでるおれにミサが言う。


「す、っごい、でも・・・。

 いえ、部屋で確かめましょう。みんなこのことは内緒よ」

 ミサの言葉にみんなが頷く。木の味もしない、大丈夫だ。


 部屋に戻り改めて魔法を見せる。

 床に広げたマントの上に冒険者道具一式の入ったパックパックを載せた。

 バックパックの中身は少し減らして高さがマントの幅の半分を超えないようにしてある。


 魔方陣が回転して荷物を飲み込むので魔方陣の半径以上の荷物は収納できないのだ。

「それでは、いくぞ! 『魔法収納』」

 マントの生地に魔方陣が浮かび上がり荷物を包み込むように回転する、そしてそのまま荷物を飲み込んで消えた。

 おれはそのマントを肩にかけて装着少し歩いてまた同じ場所にマントを敷いて魔法を発動する。

『魔法取り出し』

 マントに魔方陣が浮かび上がり先ほどの荷物が現れる。


「どう?」

 おれはみんなに尋ねた。どや顔をしてたかもしれない。

「やっぱりすごいわ。それでさっき気になったのはね、そのマントを他の場所に移動しても荷物を取り出せるのかなって思ったの」

 ミサが問題点を指摘してくれる。

 そういわれてみるとさっきの皿も同じ場所で入れて出しただけ、今回の荷物も一人で検証していた時も一度マントを動かしたけど結局同じ場所に戻して取り出したから、物じゃなくてその場所にしまっただけかもしれないのか。


「それは確認してなかった。ここで収納して、みんなの部屋で取り出してみようか」

 女子部屋の方が4人部屋で広いしな。おれの部屋に呼んじゃったけど、床も実験で開けないといけないからみんなベッドの上だよ。

「よし、『魔法収納』」

 改めて荷物を収納し女子たちの部屋へ移動した。


『魔法取り出し』

 床に敷いたマントに魔方陣が浮かび上がり、無事荷物が取り出された。

 おおー と声が上がりパチパチと小さい拍手をもらう。

 みんなももう驚きはないようだ。おれも安心した。


「すごいね、部屋に来る途中にマント持たせてもらったけど重さもなくなるよね」

 ルカが言った、ミサは顎に手を当てて思案顔だ。

「すごいわ、なんていうかすごいという言葉では言い表せないくらい革新的よ!

 革命がおこるわ! 流通の革命が!!」

「み、ミサが壊れた?」

 ハルが怯えている。ハルの肩に手を置いてジノが言った。

「すごいのはわかるよ、でもアタシはもともと荷物は負担じゃなかったから革命って言うのはわからないな。馬車とかと比べてどうちがうんだ?」

 熱に浮かされたままミサが答える。


「通常の荷物ならそうね、歩くのが楽になるくらいだけど、前みたいにヒポポダイルやライノプスの素材を持ち帰るときなんてどう?

 それにこれから行く予定のオークなんて持ち帰る荷物を考えたら馬車が何台あっても足りないわ」

 ミサの言うライノプスはヒポポダイルより前に倒したモンスターだ。

 これも大きくて小型の象ぐらいのサイズがあった。

 皮や角などの素材が武器屋防具になって高い値段で売れるので結構な時間をかけて解体して持ち帰ったんだった。


「それに流通の革命って言ったのは重さだけの話でもないの、もちろん重さも重要よ。

 わたくしたちは冒険者で一つの街を拠点としているからなじみがないけど、これが商人で馬車数台に貿易品を乗せて移動すると大きな町ごとに税金を取られて遠くの特産品ほど高い値段になるの」

 ミサはそう言うが、それを回避したら脱税じゃないの? いいの?


「町でとる関税はその町で商品を売ることに対する税金だから、商品を売らない街では払う必要がないのだけれど、町に入るときに売るか売らないかなんてわからないから結局取られちゃうわね、だから関税を払いたくない商人は町を迂回したりすることもあるそうよ。

 でも長い旅で町にも寄れないなんてうんざりするじゃない? 結局途中の経費は全部商品の値段に乗っちゃうわけ」

 途中の街は違法じゃないのか、商売する町で脱税したらまずいんだな。

 する人もいるだろうけど、目立つ商売をしていたらいつかばれるだろうし、そもそも収納の魔法があったらの話だからこれが広まったら税収の仕組みが変わるのかもしれない。


「へー、ほーぉん。じゃあアルが商人をやったら大儲けできるかもしれないんだ」

「そうね」

 ミサの話にハルが問いかけてミサが答えた。

「ねえ、アルは商売やりたい?」

 ルカに尋ねられる。


「商売かー、それもいいけど今はレベルを上げたいな」

 今欲しいものはみんなの装備と馬車だったけど、いい装備なんてその辺の店に売ってないし、馬車を欲しい理由もちょうど収納の魔法が代わりになることで必要なくなったから。

「みんなは何したい? 欲しいものとかある?」

 逆に尋ねてみた。

「わたしは装備かな、ただ欲しくなるような装備って売ってないんだよね」

 ルカと意見があった、普段もそんな話はしてるからおんなじこと考えるよね。


「わたくしは馬車かしら、道中で必要な理由はなくなったけど大量の荷物を運んでも怪しまれないためには欲しいかもしれませんね」

 ミサは欲しい理由が変わったけどやっぱり馬車か。


「アタシはレベルかな、まだ装備に対して実力が追い付いていねえんだよな」

 ジノはおれと同意見。だよね、ギリギリの戦いとかしたくないよね。

 ハルは迷ってる。

「うーん。お金そのものってあり?」

 おれに聞いてきた。

「ありだな。ルカもお金で持っておけば欲しい装備を見つけたときのすぐ買えるものな」

「そうかー、そうなると金額の目標が難しいね」

 ルカも考えこんだ。


「ふふっ、今はいいわ。お金も馬車もね。

 わたくしも欲しい装備に見合った強さがほしいからこれで3対2ね」

 ミサが寝返った。レベル上げをメインにするにしても同時進行で金策もできるだろう。

「あっ。ずるい、わたしだってレベル上げ賛成よ。欲しいものって言われたから手に取れるものって考えただけで・・・」

「ボクも・・・」


「ごめんごめん、おれも聞いた時はそのつもりだったんだよ。お金で買えるものなら何が欲しいかなって」

「とりあえずレベル上げを中心にして同時にお金も稼いでいこう」

「つまり今まで通りだね」

 そうだね、普段からそう言う話もしてるからそうなるよね。


「検証が途中だったっけ、取りあえずこれはしまってッと『魔法収納』」

 おれの荷物がしまわれる。

「誰か荷物とマント貸して、しまっちゃうから」

「はいはーい」

 ルカに荷物とマントを借りる。


『魔法収納』

 荷物が取り込まれたマントをはおるルカ。

「わぁ、軽いね。これは楽になるよ」

「装備と飲み水くらいは外に出した方がいいね」

「うんうん、食べ物や道具、予備の飲み水もしまえるね、結構長期の遠征ができるんじゃない」


 ルカは少し歩いて別の場所にマントを広げる。

「アル、出して出して」

「はいよ」

 おれは手に持っていた自分のマントをはおるとルカのマントから荷物を取り出した」


『魔法取り出し』

 ドサドサッ。ルカの荷物が現れると同時におれの背中のマントからおれの荷物が落っこちた。

「あれ?」

 そういえば収納するときと比べて、取り出すときって対象の指定があいまいだったような。


 ゾッとした。これが取り出しじゃなくて収納だったら、おれの背中がえぐられていたのだろうか? いや、魔方陣より大きいものは収納できないことは確認済みだ。それに収納の時は対象の指定をはっきりするからそんなことにはならないはず。


「これ、問題あるね」

「何かを取り出すたびにみんなの背中から荷物が落ちるんだね?」

 ハルが面白そうに指摘する。ほんとだね。まるでコントだね。


 コントならいいけど、ぎっちぎちに詰め込んだオークの肉がカバンの口からソーセージを作る時みたいにムリムリッと出てくることを考えたらホラーだわ。

「・・・まあでも大丈夫よ。大きめの収納をして、行きに食料と飲み水を入れて帰りには収穫したものを入れれば十分馬車の代わりになるわ」

 ミサがフォローしてくれるが、取り回しは悪くなったな。

 馬車の代わり程度なら馬車でいいじゃんとは誰も言わないが。

「馬車でいいじゃん」

 ハルに言われてしまった・・・流通の革命は終わった。

「うん。装備の受け取りに行こう・・」

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