表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/156

逃走からの遭遇

 翌朝、がやがやした話し声に起こされた。

 うん、なんだ? パーティーメンバーとリルのほかに誰かいるようだ。

 自分の状態を確認しながらそちらへ向かう。

 魔力は回復済み、レベルアップもしている。

 夜直1番目なら休息は十分だな、ジノとハルは回復も中途半端でレベルアップもしないだろうから夜直の2番目は睡眠を長くとれるように見直す必要があるかもな。


「どうした?」

 リルと知らない人が話している横にルカとミサがいて、離れた場所で様子をうかがっているジノに聞く。


「アタシも起きたばっかでよくわかんねえけど、この場所は魔術師ギルドに権利があるとかそんなことを言っていたな」

 おれが起きたことに気付いたルカがこちらに来る。

「アル。問題発生よ、こっち来て」

 ルカはリル達から離れたところにおれたちを呼んでこちらの話が聞かれないようにすると現状の説明をする。


「今リル達と話しているのが魔術師ギルドの職員ね。その職員がこの場所は魔術師ギルドに権利があるとか言ってるんだけど、リルはそんな権利は認めていないらしいの」

「へー、なんでそんな主張するんだろうな?」

「職員はリルに対して、人同士の問題なので妖精側は干渉しないでもらいたいとか言ってたけど、自分の場所で勝手なこと言われてリルも怒っているのよ」

「そりゃそうだよ、リルは自分の国の領地が奪われた気分だろうよ」

 ずいぶんと図々しいな。


「それでも、魔術師ギルドの職員は強気なのよ。

 妖精との取引は魔術師ギルドで一括管理していて、ここへの入り口は全て押さえている。

 こいつらもこの場所を出れば捕らわれて牢獄行きだ。とか言ってんの。後ろのダンジョンを見せびらかすようにしていたけど、なんだったのかしら?」

 入り口を押さえている? 後ろを見せびらかす?

 おれは嫌な予感がしたので緊張した声で皆に指示を出す。


「ジノ、ハル。全員の荷物を片付けてすぐに動けるようにしてくれ。

 ルカ、ミサを怪しまれないようにこっちに呼んでくれないか、その時おれたちみんなの名前を出さないように頼む」

「どうしたのアル?そんな緊張して」

「ルカ、緊急事態だ。おれたちはおそらく囲まれている。

 草地の外側には魔術師ギルドの戦力が10人以上いると思っていい」

 ルカが驚いている。ちょうどミサがこちらを見たので、口の前に指を立てて、手招きをする。

 ミサが自然に場を離れてこちらに来る。ジノたちの準備も整ったようだ。

 ミサを含めて全員に言う。

「合図したら全員で草地の外に出るんだ、ここにいたら危険だ」

 状況を説明できる時間がない、しかし皆は頷いてくれる。

「行くぞ、今だ!」


 皆が草地からダンジョンの床に移動する。おれは最後に出るとき振り返って叫んだ。

「リル! おれたちのことは他言無用だ! 頼むぞ!」

 職員は、「なっ、消えた? お、追え!捕らえよ!」とか言っていたがおれは悠々と草地の外に出る。

 最後に草地に踏み込んだ魔術師集団が見えたが、思ったより近くに出たやつがいて驚いた。


 草地からダンジョンの床側に出るとみんなが待っていて、草地の中では魔術師側の先頭集団が右往左往している。

 おそらくあちらからはこちらは見えないし来れない。

 おれを捕まえ損ねたやつが草地を出たり入ったりしている。

 草地を出れば消えて、草地に入ると現れる。

 こことは別の空間が妖精境のホワイトストーンエリアにつながっているのだろう。


 みんなに向き直り説明をしようとしたが。ミサが。

「ここを離れましょう、近くにこんな人数がいたら怖いわ」

と言った。振り返ると魔術師の戦力がわらわらと草地にわいている。20人以上はいそうだ。

 頷き、草地のある部屋を離れる。


 ドアを通り梯子のある部屋で腰を落ち着ける。

「どうして人があんなに出てきたの?」

ルカが訊ねる。


「みんなが寝てるときにリルと話してたんだけど、草地になっている丸い部分は妖精境なんだって。

このダンジョンの中にリルが住んでいるんじゃなくておれたちが妖精境に移動しているんだ。

 それで、同じように妖精境の白い岩の場所に移動できるところがここ以外にもあるらしくて、魔術師ギルド職員たちはそこから来ているみたいなんだよ」


 予想でしかないが最後に魔術師ギルド員がわらわら出てきたからそれほど間違っていないだろう。

「はじめはあの職員もスライムのダンジョンから入ってきてここに来たのかと思ったけど、ルカが聞いた話だと入り口を押さえているだとか、後ろを見せびらかす態度だったとかで気付いたんだ。

 後ろを見せびらかすのはおれたちには見えなかったけど草地の外に待機していた戦力を見せたつもりだったんだよ。入り口を押さえているのもスライムのダンジョンじゃなくて他のどこかだろうし」


「それで、こちらから見えないってことは、おれたちが草地から出ればあちらからも見えなくなって来ることもできないだろうってことでさっき逃げ出せたんだ。草地に初めから人数がいたらやばいところだった」

「怖い」

 ミサがぞっとしたように自分の両肩を抱く。


「魔術師ギルドって結構危険なのね」

 ルカがミサに寄り添って言う。

「腹立つな」

 ジノも言う。

「そうだな、ぶっ殺すか」

 おれがそう言うと、ジノが目を丸くする。

「物騒なこというなよ、そんなことできないだろ」

 ジノなら賛成すると思ったんだが・・・あ、向こうでミサがクスクス笑っている。

 4対1かー、そりゃそうだ。いやいやおれも反対だった、5対0だ。


「これからだけど、リルの所は今は行けないし、しばらくの間は見張りが立っているかもしれないから魔法の設計も難しいな」

 くっそー。武器回収の魔法まだ作ってないのに。他にもあれやらこれやら、特に定番のアイテムボックスは欲しかったのにー。

「あと、役に立ちそうな新魔法はできたけど、魔術師ギルドに売り込みに行くのはやめておこうと思う」

「そうね。さっきの態度を見たらどんな扱いになるかわからないし、受け付けたのがさっきの人だったりしたらその場で捕まって牢屋行きかもね」

 ミサも同意のようだ、下手したらスクロールを作るために監禁されて魔力吸われ続けるところだった。

「今日は帰ろうか。いや、新しい街に行くんだよね」


 おれたちはダンジョンを上り湿原に出た。

 湿原を歩きしばらくすると突然心臓の鼓動が跳ね上がる。

 わずかに魔力を吸われる感覚もあり体温が上がる。いやな感じだ、悪い予感がする。

「なにか、来るかもしれない。警戒して」

 皆がピリッとしたムードになる。


 いやな感じは向こうか、おれの視線の先には沼と言っていいほどの大きな水たまりがあり水面に石のようなものが浮かんでいるように見える。石のようなものには穴が開いていて、空気を吸い込むと、下の岩ごと浮かび上がった。岩じゃないモンスターだ!


「敵襲! 左前方!」

 浮かび上がったモンスターはカバの胴体にワニの尻尾を付け口にワニの歯を並べたような凶悪さで表皮はワニのようにゴツゴツしている。


「ヒポポダイル!? このあたりからはいなくなったはずなのに」

 ミサが名前を知っていた。サイズを見るからにライノプスと同等のモンスターだろう。

「勝てる相手?」

「絶対無理! でもライノプスの時もそう言ったわね。

 今回は岩もなくて、突進する相手でもないから決め手がないわ、表皮は固くて、通っても重要な部分までは届かない。噛みつきは致命傷、尻尾にはねられても重症よ」


「逃げられる?」

「それも難しいわ、今はゆっくり動いているけど、本気で走ればわたくしたちよりも早いでしょうね」

 どうしてこんな大物ばかり出るんだよ。まさかあのイゴウのおっさんたちが何かやったわけでもないだろうし・・もしやってたら、服役中の鉱山まで行ってとどめ刺すところだよ。


 絶望的な状況でおれは指示を考える。

「ジノ。足を1本潰して。潰れたら逃げるよ。」

「ハル。ジノの反対側でヒポの注意を引き付けて。絶対噛みつかれないように、あと逃げるときは絶対に遅れるな」

「ルカとミサは後方で支援。ヒポの嫌がることをやって」

 おれはどうする? ハルの横か。


 おれの指示で全員が散開する。

 先制はハル、短剣を目に投てき。しかしはじかれる。

 目に当たったのにはじかれたらどうすりゃいいんだ。

 ハルは器用に短剣を取り戻す。自動的に見えたから『引寄』の方か。

 おれも続いて小剣に『紐付』して投てき。途中で『魔法剣鋭刃』を発動。


 目には当たらないが的が大きいので顔に命中。やはりはじかれる。紐を引き寄せ回収。

 ん、まだ紐が残ってるな、おれは魔方陣を使ってないから設定が固定されていないのか。

 再び、ハルが投てき。途中で『魔法剣残影』を発動した。

 魔法を感じたのかヒポが目を閉じる。結果的にははじかれたが、ヒポの注意を引くことに成功した。

 その時にジノがヒポの左後ろに到着、左後ろ脚の膝の裏を攻撃する。

 初めから『魔法剣火槌』を発動、ヒポにダメージを与えたようだ、その時に膝カックン状態になったのかヒポの体が傾ぐ。


 ルカは『土槍』投てきからの『竜巻』による加速がヒポの額に命中する。

 ミサの雷精霊による『雷撃』も同じ場所に命中するがどちらも気を引くこともできていない。


 おれは小剣を投げ『魔法剣鋭刃』を重ね掛けするが魔法剣が重なるタイミングと命中するタイミングがうまく合わない。かといって早口になるとうまく発動しないことは以前にも確認していた。


 ジノは順調にダメージを重ねている。ジノが当ててヒポに狙われそうになるとハルが気を引き付けるという1セットがうまく働いている。

 はじかれはするものの目に当てられるのはさすがに嫌らしい。


 うまくいっているところでハルからジノに声がかかった。

「ジノ。ちょっと攻撃待って」

 と言い、『魔法絶影』を発動。急速に存在感が薄くなりハルの居場所が分からなくなる。

 少ししてハルが隣に現れる。「どうした?」と聞いたら。

「後ろに行ってた」

 と答えた、両手に持っていた短剣が1本無いようだが。後ろ?

 よくわからないが、ハルが「もういいよ」と言い、再び餅つきのようなジノの攻撃とハルの挑発の1セットの繰り返しが始まった。


 最初の1撃以来ルカたちからの攻撃はやんでいたのだが、改めて飛んでくるようになった。

 今度はルカの攻撃にミサの魔法剣が乗っているように見える。離れている武器に魔法剣? と思ったがどうやらルカの『土槍』にミサが『紐付』をしているようだ。

 これにはヒポも無視できず向き直る。


 気を引く攻撃が2つに増えたことでジノの攻撃も安心して見ていられるようになった。

 ハルは右手の投てきのほかに左手を動かすことでもヒポの気を引いている? 後ろに行ったことと関係があるのだろうか。

 おれは効果のない攻撃をやめて、ルカとミサの所に行きおれの剣に紐付して魔法剣をかけてくれない? と少し情けないお願いをしたところだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここまでの話の流れは興味を惹かれ先も気になるのですが、 場所、状況、動作等の描写がとても分かりづらい 「ん?どういう事?」と何度も文を読み返して理解する、 読み返したけどイマイチわからなくて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ