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王都まで

 魔王城は王都から伸びる5本の道の一番東をたどった先にある。

 アクセムに向かう道は西から2本目。エルフの大里は3本目を辿ると行ける。

 道沿いに行くなら一度王都まで行かないとならない。

 空を飛んだとしてもどのくらい進むと次の道が見えるのかがわからないため、最初はちゃんと王都まで行くつもりだ。


 スイスイと道をたどって低空飛行しながら王都に向かう。

 もし招集された日にちに王都についていたら勇者候補たちの姿が見られたのだろうか。

 王城近くの広場は大人数が集まりやすい場所だ。

 王城のバルコニーから大声を出せば声も届くだろう。


「勇者候補がそんなに大勢いるわけないな」

 Aランク以上の冒険者なら王城に入れてパーティーでもしている事だろう。

 忍び込みでもしない限り、勇者候補の顔は拝めなそうだ。


 王都から一番東端の道をたどると街に着く。

 街と行ってもかなり大きい軍事都市だ。

 壁も高く厚い。民家までもが頑丈そうだ。

 街路には軍服姿の者も多く国境方面に向いている門では緊張感も感じられる。


「あっちか」

 国境方面に向かうと街道を歩く一般人はほとんどいなくなる。

 馬止のような先のとがった柵が国境方向に先端を向けて道の半分を占めているところもある。


 しばらく進むと砦が見えてきた。

 道をふさぐ関所ではなく山肌に築かれた、いかにも難攻不落な砦だ。

 さらに先に進むと国境である関所と、国を隔てる川があるのだろう。


 砦を遠巻きに偵察部隊の軍人がちらほら見られる。

 砦には軍隊が出入りするための大きな門があるのだが、その門は土魔法で固められている。

 もう正面の門を使う気はないのだろう。

 これでは軍による人海戦術は使えない。

 山を登るにも、通用口を使うにも少人数による一点突破しかないだろう。


「入り口は・・・そこか?」

 通用口も防壁に沿って山を登る道も罠らしい不自然さが多くある。

 上から見ると罠に連動した落石が用意されている。

 扉を開ければ両側から落石が降り注ぎ扉を埋めるようだ。

 山道にも落石の罠や落とし穴などが仕掛けられているだろう。


「時間圧縮中は罠にかかるのか?」

 敵を相手にした時はめっぽう強いが罠に対しては弱いなんてことだと偵察任務に向いているとは言えない。


「弱いはずはないんだけど」

 地上に降りて落石の罠を見上げてつぶやく。

 時間の流れが30分の1になっているなら落ちてくる石の速度は30分の1になっていて、罠を引いてからでも悠々とその場を離れられる、はず。


 その理屈ならおれが落下するときもゆっくりになるのかというとそんなことはない。

 飛行中でも気を抜けば落下するし、もしも落下がゆっくりになるのなら、飛行中もただ歩いている時でも空気抵抗がものすごいことになるだろう。

 その辺が謎技術なんだけど、物理現象を都合のいいようにいじくっても、その場その場でいいとこ取りはできないってことだ。


 落石は世界側だからゆっくり落ちる。

 自分の体は自分側だから普通に落ちる。

 落とし穴は気をつけないといけないだろう。


「でも、おれ飛べるしな」

 あわてなければ落ちてからでも立て直せる。

 なんだったら移動はすべて低空飛行でもいい。


 入り口近くのトラップエリアを抜けて山道を進んだら、砦の裏手に出る。

 壁の高さが一定なら山の高さが壁を上回った時に壁がなくなるけど、もちろんそんなことはなく山の高さに合わせて一定の高さを保ち続けている。

 裏手にも通用門はある。おそらく罠が仕掛けられているだろうから壁を飛び越えた方がいいだろう。


 壁の内側にはちらほらと兵がいて魔術師の指示を受けて何かをやっている。

 食料生産や罠づくり、井戸掘りなど立てこもる準備をしているようだ。

 籠城を許してしまうと魔王軍は際限なく肥大化することになる。

 モンスターや魔族、悪魔が集まって来て選別が始まるのだ。

 それはまるで就職活動のように列をなして魔王との面会を望むものが現れ魔王軍として配下になっていく。


 魔王城は魔界とつながり、地下はダンジョンが生成されていく。

 玉座の間は魔界にすえられ、外から侵入することもかなわなくなる。

 そうならないためにも早め早めに魔王を討伐しなければならない、と言われている。


 普通の城なら一番高い所かその付近に玉座があるのだろうけど、砦として実用一辺倒な作りであれば上よりは下の方に居そうだ。

 一番高い所は監視塔のようで簡素な作りになっている。

 監視塔は砦を囲む壁にもあって北側にある閉ざされた門の先を見通せる高さで東西に一本ずつ建てられている。


「せっかく上ったしな」

 監視塔から侵入して砦に入り込む。

 ここは警戒されていないようで鍵もかかっていない。

 砦の中は暗く、一度扉を閉めたら真っ暗になってしまったので扉を開けっぱなしにして外の明かりが砦の中に入るようにしておく。


 近くの部屋をのぞくと、中は暗く誰もいない空き部屋になっている。

「部屋が余っているのか?」

 そんなに大きな砦でもないし、元々の人員に反乱を起こした魔王軍が加わるのだから部屋に余裕があるとも思えないのだが。


 塞がれていた窓を開けて外を見ると、あぶれた人員は屋外にテントを張って暮らしているらしい。

 砦の最上階を改修して玉座の間でも作るのだろうか?

「だとしてもなぜ暗い?」


 バタン。

 扉を閉める音に驚いて振り返ったおれは信じられないものを見る。


 こちらを睨みつける目は白目と黒目が反転して、顔色の悪さは青白さを通り越して紫色。

 頭の側面には牛のような角を付け、全身黒づくめの光沢のある服を着ている。

 服? ぴっちりしているからあれが皮膚なのかもしれない。

 話に聞いていた魔族という種族の特徴を極端に強調した見た目をしている。


「ダ・・・レ・・・ダ」

 のっそりと動き間延びした声を出す。

 だが不可能なはずだ、時間圧縮は解除していない。

 あいつは30倍の時間の流れを捉えられるのか?


 動きは遅い、言葉の遅延の仕方から3分の1くらいの速度で動いているようだ。

 と思っていたら踏み込みから走るくらいの速さでこちらに移動した!?


 2回に分けて移動したので、驚きから立ち直っておれもバックステップをする。

 おれを狙った鉤爪ははずれ、不思議そうな顔をしたそいつはゆっくりとした動きで窓を閉める。


「まずい、明かりがなくなる」

 わざわざ暗くしているのだから向こうには暗視能力があるのだろう。

 動きは遅いが30倍の時間圧縮に対して3分の1の速度で動けるのだから、10倍速の時間圧縮を常時していることになる。

 それに加えて通常速度での移動攻撃。

 3分の1の速度差を打ち消すのだから本人からすると3倍速で動いているのだろう。


 時間圧縮していないときに出会っていたらと思うとゾッとする。

 ダッシュ2回分以上は距離を開けないとダメだ。


 暗くなる前に逃げ切れるか?

 じりじりと閉まっていく窓の明かりを心細く感じながら後ろへ駆け出した。


 角を曲がって距離をとる。他の出口を探すが、暗いせいもあって見つからない。

 短い通路を渡り次の角へ。ますます暗くなったのでうろ覚えの明かりの魔法をともす。

『魔法月光』

 月明り程度の光を天井に投げて固定する。

 随分と明るくなったがこの通路にも外への出口がない。


 外から入って来た通路と2回曲がったこの通路が長いってことは長方形の建物で長辺に部屋への出入り口があるわけか。

 ということは次の角を曲がっても出入口はなさそうだし、その次で振出しに戻ってしまう。


 追いかけてきているならぐるっと回って入って来た扉から出ていけるが、その場にとどまっていた場合待ち伏せにあってしまうこともあり得る。


「戦うべきなのか?」

 明かりさえつけば有利な状態で戦える。

 時間圧縮がない状態で出会ったら、常時10倍速の化け物に虐殺されることになるだろう。

 考える時間が欲しい!

 安全だって言いきってみんなを連れて来たのに、一か八かの戦いに巻き込めない。

 おれが死んだら『収納』の中で閉じ込められる。

 死ぬよりひどい扱いだ。


「今『取り出し』したら動けるのか? 動けたとして速度は30分の1になるのか?」

 死ぬよりひどい扱いを強いるなら、せめて死を選べるように『取り出し』するべきなのだろうか。


 勝てばいい、このままでも。

 負けた場合、死よりひどい目にあうよりは『取り出し』しておいて見逃してもらう奇跡に賭けるか。

 もしくは可能性は低いが、相打ちになった時なら被害がおれだけで済む。


「負けそうなときは、何とか相打ちにするから。

 こんなところに連れてきたことを許してな」

 申し訳ない気持ちを抱えつつ、静かに素早く『収納』のシートを広げていく。

 今は空き部屋の中だ。

 長い通路の一番奥の部屋で『取り出し』の作業を進めている。


『魔法取り出しミサ』

 『取り出し』されたミサの肩を揺り起こして、耳元で「緊急事態」だと告げる。

 ミサが起きるのを待たずにルカたちの『収納』されたシートを広げて、『取り出し』を続ける。

 全員の肩を揺らして「緊急事態だ」と告げていったらミサが身じろぎをした。


 時間圧縮の速度差で言葉が通じないと思い、急いでメモを用意する。

 文字で説明して身を隠してもらい、その間におれは相打ち覚悟の決戦に挑むのだ。


「アル?」

「はい?」

 状況を説明するメモ書きに夢中になっているおれに声がかけられる。

 振り向くと体を起こしたミサがおれを見ていた。


「起きたのか」

 動いてる? 等倍で?


「緊急事態って?」

「そうだ! 先にみんなを起こそう」

 ルカはもぞもぞと動いていたので自力で起きそうだったが、眠気が残るだろうからミサに『睡眠』の解除をしてもらった。


 みんな揃って普通に動いている。

 時間圧縮が解けたのか? そんな感じはしないけど。

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