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フラウに伝言

「無事だったね」

「よかったぁ。頭おかしくなってたらどうしようかと思ったよ」

 執務室で姫巫女と二人になるとやっと実感がわいてきた。

 もちろんネルザが無事だったこともだが、『収納』での人の運搬が可能になるとかなり利便性が高まるからだ。

 おれが大変なのはまあ置いておくとして、アクセムの街から姫巫女の大里まで1日かからず移動できるってことだ。


「あとはフラウたちを待つだけか」

「アル、フラウたちが着いたとしてどうやって大里に入るの?」

「そりゃ・・・」

 ミサがアクセムの街にいて4,5日遅れでフラウたちを追いかけているけど、ジノたちはそれまでは入れないな。

 ベファレンの街で待っててもらうか。ネルザが完治したことを伝えればフラウも安心するだろうし。

 そうでもしないと直接大里まで来てトレントと殴り合いをしかねない。


「また、フラウたちの所に行ってくるよ。ベファレンで待っていてもらえばミサたちが追い付くだろうし」

 ミサたちはベファレンに寄るかな? 直接大里に来ちゃうかもしれないな。


「ミサたちにもベファレンに寄るように言わないとな。フラウがしびれを切らしてトレントと殴り合いに来るかもしれないし」

「たどり着くかはともかくとして、結構いい勝負するかもよ」

「まさか」

 トレントはランクとしてはB。ライノプスなどの大型モンスターほどではないが、硬さはそれらに匹敵する。数も多いし弱点である火でも、魔力がこもっていない火なら森林火災で周りが焼け野原になっても無傷で残っているほどだ。

 無傷と言ってもダメージと再生能力が拮抗した結果なので、再生能力を潰すために燃やしながら戦うのはなくはない。


「フラウの実力は知らないけど、ジノは持ってるだろ? アダマンタイトの斧」

「あっ!」

 やべえ。森が伐採され尽くすか?

 フラウはともかくジノはそんなことしないよな。


「ジノはそんなことしないけど、フラウは火曜属性だから燃やしたりしないか心配だな」

 そんなわけないけどな。


「伝言さえ通じればそんな事にはならないさ」

 ちょっと顔のひきつった姫巫女。

 トレントは残るとしても、普通の木が燃やされても大迷惑だからな。


 ん? ジノの武器は両方ともルカの収納鞄に入っているけど入れっぱなしじゃないだろうな?

 まさかねそれぞれが『収納』を持っているんだから荷物ぐらい分けるか。

 ハルバードの方は『収納』に入らないからむき出しで持つか、森の中の狭い道だからサブ武器のアダマンタイトの斧だけにするかもな。

 サブの方が強いんだよな。


「これから伝言しに行ってくるよ。いや、明日の朝かな」

「よろしくね」

 フラウたちだけなら時間圧縮しないで合流してもいいんだがルカたちにも伝言しないといけないから、時間圧縮は必要だ。

 森の道は一本道だからすれ違うこともないだろう。


「大回りで来たりしないよな」

「王都の方面から回ってくるの?」

「いや、通信した時に森の道のオークは片付いていることは伝えてあるからエルベの里の側から来るはず」

 ルカたちがアクセムの街に着くまで丸二日。往復で四日から五日遅れてくる予想だ。


「フラウたちには伝言できるから、ルカたちが見つからなかったら一旦帰ってきて、王都側も探しにいくよ」

 王都側となると道ですれ違えばいいが、街の中で建物の中にいたら見つけられないまますれ違ってしまうので、できればエルベの里の側から来てほしい。


「大変だねぇ、アルは」

 他人事のように言う姫巫女。まあ、他人事だけど。


 一晩休んでから出発する。

 時間圧縮も慣れてきた。いずれは100倍の圧縮に挑戦したいが姫巫女は急がなくていいという。

 第1段階を今まで感じていた1倍の速度と同じくらい体になじませてからやっと第2段階に入るそうだ。


 大里側の森を抜けて街道に入る。少し街道を進んだらエルベの里方面の森の道に入る。

 森の中を突っ切った方が速いのだろうけど道がないのでよっぽど慣れていないと確実に迷う。

 時間圧縮していない場合は、馴致されていない野生のトレントの相手までしなければいけないのでそちらを通るものはまずいない。


 1日くらいかかるかと思っていたが、半日もしないうちに先行偵察をしているハルを見つける。

 止まったままでも希薄な気配で森にとけ込んでいて、さすがだなと思わせる。


 そこから少し先に行くとフラウたちがいる。

「なんか人数が多いな?」

 近づくと増えた人数はルカとミサで、伝言するまでもなくパーティーメンバーが揃ってしまった。


「どうして? どうやったんだ?」

 ほんの2週間弱で4,5日分の遅れを取り戻すなんて、移動速度が1,5倍はないと不可能だ。

 フラウたちもゆっくりしていたわけでもなく、可能な限り急いで移動していただろう。

「ルカだけならあるいは」

 無理があるけどルカにはライノプスの鎧と槍があるから、行程の一部を飛行して端折ることができる。

 それにミサも一緒に来ているのだから仮定の話は意味がない。


「背負ったら飛べるのか?」

 出来なくはないのか。燃費は悪くなるだろうが前におれも竜血の沼から引っこ抜いてもらったことがあったし、短期間なら飛べるのか。

 長時間となると燃費の問題があるが、燃費が悪くなった分はミサが魔力循環で供給すればいい。

 増槽タンクということだ。


「来たのはいいけど、おれのやることがなくなった!?」

 ミサが合流しているのであればベファレンの街で合流してくれっていう伝言はいらない。

 何かを言付けても混乱させるだけだろう。


「何の成果も得られなかった」

 おれはとぼとぼと大里への帰り道を歩いた。


 ルカたちが王都側を周ってくることを考えたら、合流できたのはよかった。

 王都側を周る上に空でも飛ばれていたらすれ違って出会えない所だった。


 そうして待っていると、その日のうちにフラウとパーティメンバー全員が大里までたどり着いた。

「ネルザは無事!?」

「完治してるよ。寝てるかもしれないけど、顔見ていきな」

 フラウは姫巫女の付き人に連れられてネルザの所に一足先に向かった。


「アルは・・・ 目を離してはいけませんね」

 ミサが呆れたような再会できてうれしいような、感情の混ざった声をだしておれを見つめた。


「色々あってミサには悪かったよ。フラウたちが大里に入るのにミサの力が必要だから追いついてくれてよかったよ。 ・・・よく追いついたね」

 尋ねるように首をかしげて聞いた。


「急ぎましたよ」

「ねえ」

 ミサとルカが顔を見合わせて笑う。


「フラウたちも急いでいたから、まともに歩いていたら追いつかないよね。

 飛んだ?」

「やはりアルにはわかりますよね。その通りです、ルカが飛んでわたくしがしがみついて空を飛びました」

「大変だったよ」

 ルカはしょうがないなあとミサを見ている。

 ミサに押し切られた形かな。


「ミサがどうしてもって言うからさ、無理して飛んできたんだよ。

 今回ので二人乗りも慣れたからやってよかったかもね」

「ルカならできると思っていましたよ」

「よく言うよ、落ちてもちゃんと直しますから、って落ちる前提だったじゃない」

 危険ではあるが、ルカとミサなら2人とも回復魔法が使えるから、よっぽどひどい墜落でもしない限りはリカバリーできるだろう。


「それでフラウたちに追いついたんだ。1日にどれくらい飛んでいたの? 半日・・は無理か、2,3時間くらい?」

 1,5倍の行程をこなすなら半日は飛びたいところだけど、それは難しいか。無理して夜間も行動したのかな。


「ほぼ1日、日が出ている間は飛んでいましたね」

「えっ? 魔力は? 足りなくない?」

「2人分の魔力に回復分を加えて何とか足りました」

「足りたのもよかったけど、余らなくてよかったよ。余ってたらミサが夜も飛びたがったかもしれないし」


「そんなことしませんよ。わたくしも夜間飛行の危険性は理解していますから」

 2人分の魔力は魔力循環したとして回復ってどういうこと?

 おぶさっているだけのミサは寝ているのと同じ勢いで魔力を回復していたの?


「回復量って起きていたらそれほど多くないよね? おぶさったまま寝てたの?」

「さすがに寝てはいませんが近い状態です。魔法を開発しているときに寝ているような精神状態に入りまして、その時に寝ているのと同じくらいの魔力回復をしたのでそれを再現しました」

 いいな、教えて欲しい。

 【瞑想】と言ってもいいようなスキルになっているんじゃないだろうか。


「寝てるのと同じくらいの反応だったけどね」

 それはもう寝てるのでは?


「夜は木の枝の上でルカを寝かせてわたくしは寝ずの番をしていました。

 昼間に魔力の回復をすると夜に目がさえてしまうんですよね」

 やっぱり寝てるんじゃないか。


「それで広場のあたりでジノたちと合流して、その後は一緒に来たんだよ」

「ずいぶん早く合流したんだな」

 オークを回収した時に足を伸ばしていれば合流したルカたちを見つけられたかもな。


「そうだ、これアルが入れ替えていったんだろ? 周りのオークがいきなり消えたからびっくりしたぜ」

 ジノがバックパックを下ろしオークが『収納』されたシートの束をおれに見せる。


「そうそう、空きのシートがなくなったから勝手に入れ替えたんだ。助かったよ」

「助かったのはアタシたちのほうだぜ。オークの死体が散乱しててほっとくわけにもいかねえのに、フラウがうるさくてよ。そんなのいいから早く行こうって」


「ホントだよ。出発もフラウが急に決めてさ、半端な時間に出かけても大して変わらないのに」

 フラウは急ぎすぎていて少々錯乱していたのだろう。

 おれ一人であれば生きたままのオークでも脅威にならないから放っておく選択肢もあったが、後から来る人のために倒しておいてよかったようだ。

 死体の処理でごねるぐらいなら命の危険はないし、フラウが折れないとなればジノも処理をあきらめるだろうし。


 近況の報告をしていたらフラウが戻ってくる。

「少しネルザと話せたよ。本当に治ってた」

 フラウはおれの前に来ると深く頭を下げる。


「アルがいなかったらどうなってたかわからないよ。

 いえ、確実に死んでいたでしょうね。

 すぐにお礼をすることもできないけど、命の恩があることは絶対に忘れないからね」

「気にしなくていいよ、おれもフラウには恩があるから」

 それにフラウたちはネルザの治療の代金を支払わないといけないからしばらくは余裕がないだろう。


「気にするよ。でもありがとう」

 貰えるものは遠慮なく貰うけど、ネルザの輸送はオークの道を開通するいいきっかけになった。

 『収納』による人体の輸送もなし崩し的に実験できたことだし、おれでもう一回実験したらパーティーメンバーを運ぶこともできる。

 それも時間圧縮を使ってだ。

 道案内の依頼も、時間制限のある移動も全て日帰りでこなせる。

 つまり瞬間移動だ。

 移動が楽になるな。

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