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魔法の設計

 ダンジョン内にしては明るい部屋の中央に水が流れ落ちる白い岩、その周囲に円形に切り取られたように草地があり、水場を境に反対側は花畑のようになっている。

 水は白い岩から流れ出し滝のように落ちては地面に吸い込まれて消えていく。

 草地に足を踏み込んでも何も起こらず、中央まで歩いて落ちる水に手を浸してみる。


「んもー。騒がしくなったと思ったら、侵入者? それともお客さん?」

 岩の陰、花畑のほうから女の子の声がして花が揺れる。

 それなのに誰も出てこないので、岩の後ろを覗き込む。


「ちょっと! 危ない! 踏むつもり?!」

 足元から声がして足を止める。

 自分の足元を見ると、膝にも届かない背の高さの女の子がこちらを睨んでいた。

「ご、ごめん」

 足を引いて謝ると、女の子は草地まで歩いてきた。

 結い上げた緑の髪に薄く透けた緑の服、よく見るとエルフのように耳が尖っている。


「フェアリー?」

 思わず、聞いてみたが背中に羽はなく、聞かれた方も苦い顔をしている。

「今はフェアリーとは言えないわ。私はリル。よろしくね」

 謝ったことでとげとげしさはだいぶ和らいだ。お客さん扱いしてくれたようだ。


「それで何の用? 法術の設計?」

 仕事モードになったのか、リルの口調が改まる。

「その法術はわからないけど、おれはアル、こちらはハル、ジノ、ルカにミサだ、よろしく」

 皆で頭を下げる。


「ここには、ダンジョンの隠し通路を見つけて入って来たところで、どんな場所なのかもわからないんだ。さっきの法術? っていうのは何のこと?」

「あなたも魔法使っているでしょう? 法術はその法の部分よ、魔力を込める前の理論の所ね」

 リルは当然のように言う。


「あなたたち、設計の希望もなしにここに来たの? なぜこれたのかわからないけど・・・少なくともオリジナルの魔法は持っているんでしょ?」

 オリジナルの魔法と言われると1つしか思い当たらない。

 オリジナルの魔法に触れないように質問を続ける。

「すると、魔法の魔の部分はなにになるんだ?」

「魔力よ。法術を動かすのに代償が必要でしょう・・・さっきから怪しいわね、とりあえずあなたのオリジナル魔法を見せなさい。話はそれからよ」

「その前に設計っていうのは・・・」

「み、せ、な、さ、い」

 見せたくないな。


「はい・・・みんな後ろ向いて。リルは少し離れて」

 リルが十分離れてから魔法を使う。

・・・『魔法小水』

 じょぼじょぼじょぼ。とズボンの中を魔法産の水が流れていく。体を通っていないのに何で少し気持ちいいんだろう?


 草地が濡れていく。

「ぎぃゃああーー。私の庭に何してくれるのよ。あなたおかしいんじゃないの。これが何の役に立つのよ!」

 リルが3メートルくらい飛び退る。その体で3メートルは相当な距離だな。

「バカじゃないの。バカじゃないの・・・水は魔力産の水みたいだからまあいいけど。ホントになんで作ったの?」

 少し冷静になったリルに改めて聞かれる。痛い質問だ。


「落水を覚えようとしたんだよ、見せてもらった落水を参考に魔力を水に変えようとしたらこんなことになって。

 これに独自の名前を付けないと、落水をするたびにズボンが濡れることになるって言われて付けた名前だから・・・人前で見せる予定なんてなかったんだよ!」


「バカみたいな話ね。・・・設計と言うのは新しい魔法に数値化したパラメーターを与えて、安定して使用できるようにすることだよ。魔方陣化も設計しないとできないわよ」

「・・・この魔法は設計しないけど、1つ作りたい魔法があるんだ」

 おれは言った。


「剣を飛ばしてコントロール。その後手元に戻せるような魔法は作れないかな?」

 ルカが『土槍』で使う投てき後のコントロールと加速。あれに加えて剣を手元に戻せれば、遠距離の戦術が広がる。命中直前に魔法剣を発動できれば火力にも問題はない。

「できるわ。効果的かはともかくとして」

「作るためには、どうすればいい?」

「それは、自分で発動できるようにするのよ。まずオリジナル魔法として作り、設計するのはそれからね」


 ・・なんてこった。こんな魔法がほしいです。と言ってできるわけじゃないのか。

 なんというか宿題を写すためには誰かが宿題をやらなければいけないみたいなことか・・・ちがうか?

 スキルを覚えるためには、自前でスキルと同じ動きが出来なければいけないのほうが近いか、それならそもそも自力で使えるからスキルにする必要がないという。

 宿題で言うと写させるために自分の宿題をやるから最初の答えは必要なんだ。


 どういうイメージになるんだろう。もう投げる方は自分の腕で投げればいいか。引き寄せる方は紐をつないでおいて思いっきり引っ張る感じか。ちょっとやってみるか。


 座り込んで、足元の石を拾う。イメージで紐をつなげて投げる。まあ軽くでいいか。

 ぽーい。そしてイメージの紐を引っ張る!

 だめか、いや遠すぎるしイメージも固まっていない。もう一度だ。


 投げては引っ張る。

 投げては引っ張る。

 ああもう石がないな、コインでいいかあとで拾うし、近くに投げて引っ張る!

 今、少し手ごたえがあった。

 これは引き寄せるに値するものというイメージの補強があったせいか?

 もう一度投げる、今度は銀貨だ。これをなくしたらご飯が食べられないイメージで引っ張る!

 無意識に肩ごと腕が動く、これもイメージの上乗せか銀貨も確かに跳ね上がった!

 いける、これなら次には戻ってくる。


 と思ったところで。目の前に立った人に両肩をつかまれガクガクと揺さぶられる。

「アル! 帰ってきて! 正気に戻って!」

 必死な顔のルカ。どうしたんだ?そんなに慌てて?

 ぼんやりそう思っていると、両ほほをルカにバッシンバッシンとはたかれる。

「アル! 私のことわかる? どうしちゃったの?」

 ルカはそのまま両手でおれの顔をつかんで離さない。

 そして横からはごめんなさいね、という声が聞こえ頭から水がかけられる。

 どうしたんだよルカ、ミサひどいよ。


「なに、なに? どうしたの?」

 ルカの手を外し立ち上がるとルカに抱きしめられた。

「どうかしたのはアルよ。突然座り込んで小石を投げ出して、小石がなくなったらコインを投げ出したから声をかけようとしたら肩に置いた手を振りほどかれるし・・・リルと話していたら急にそうなったからアルがおかしくなった原因でリルを疑っちゃったじゃない」


「え?」

 おれがなにしたって? 話の途中で座り込んで手元の小石を投げ出した? やったな。

 肩に置いた手を振りほどいた? 引き寄せようとした時か、やったな。

「ああそんなんなったら正気を疑うかな。あれ、おれそんなんだった?」

「リルもあきれてたわよ。ナニコレ? ってきかれたわ」

 横にいたのはミサだった。

「もういいわ、あなたゆっくり休んだ方がいいわよ」

 リルにあきれられた、というよりあきらめられた?

「まって。見てくれ、これを」


 おれは、魔力の紐を括り付けた自分の剣を近くに放り投げた。

 手の先につながった魔力の紐をピンと張り、思い切り手を引く。

 剣が跳ね上がり、おれの手元に・・うわ、あぶな。

 思わず手を持ち上げて剣を避けると、近づいた時に短くなった紐に引っ張られた剣が水の入ったバケツを回すような軌道でぐるっと回ってから手の下でふらふらとぶら下がった。

「あなた。魔法を作ったの? この短時間で?」

 リルが目を見張っている。


「これ、これを設計したい」

 おれは挙動不審な行いを説明するために必死で魔法を使ったが勢いが強すぎたようだ。

「最後の所は、もう少しきれいに手の中に納まるように・・」

「その魔法。ボクも欲しい!」

 ハルが駆け寄ってきた。


 そう。おれが一人で作って、一人で使うだけなら設計は必要ない。ハルの短剣。そして・・・

「わたしも。その魔法があれば、土槍のコストをなくして槍の性能を上げられる?!」

 ルカもこの魔法で火力を上げられる。

 土槍は投げっぱなしで回収の必要がないけれど、槍としての性能は低い。

 耐久力も風の魔法で加速すれば攻撃後に砕け散ってしまうくらいのもろさだ。

 そしておれはその耐久力を使い放題の剣がある。


「リル。どうかな?」

「可能よ。見たところ魔力をつなげてから投げるのね。

 あらかじめ手元にあることを条件にして、あとは効果範囲と動かせる重量を設定すれば今から設計可能ね」

「それじゃ、お願いするよ。お金とかかかるの?」

「お金? こちらでは使い道がないので魔力をもらうわよ」

 よかった。今の手持ちきびしかったよ。


「では、その魔法に名前を付けて私の前で使ってみせて」

 魔法名か単純でいいけど、他とかぶるとまずいよな。

「ミサ-。名前が『引寄』って魔法はほかにある?」

 ミサが首を振る。じゃあ『引寄』な。

『魔法引寄』

 剣に魔力紐を付けて投げてから引き寄せる。勢いを調整したのでちょうど手に納まった。


「範囲は20メートル。重さは槍くらいまでで頼む」

「ふむふむ、いいわ、少し待って」

 リルはどこからともなく紙を取り出し、手をかざして魔方陣を書いていく。


「こんなものね。ほら、魔力と交換よ」

 リルは左手に持った魔方陣を後ろに隠し。右手を差し出してきた。

 握ればいいのかな? おれは手を差し出し、サイズが違うためこちらからは握れず、リルがおれの人差し指と中指を握った。

 途端。魔力循環の共有をした時のようにおれの魔力が吸い出されるのを感じる。

 今まで魔法を使いすぎた経験がなかったので初めて魔力枯渇という状態を味わった。


「あっ。おいしいー。癖のない甘みと体にしみこむ親和性? わたしのためにあるような魔力ね」

 枯渇に怯んで手を引きかけたが強く握られている。

「質がいいせいで、取りすぎたようね。もう1つくらい設計してもいいわよ」


 リルから、魔方陣の紙を受け取る。そして、ハルに渡した。

 ハルは、気まずそうに。

「ボクはルカの後でいいよ」

 ルカを見て言う。

「いいよ、ハルが先に言ったものね」

 ルカはそう言ったが、同じものを渡すのなら先輩が先だったか。

「今のはルカ向けじゃなかった。途中で気付いたけど、投げる前から引き寄せるまで、1つの魔法だからその間に魔法を挟めないんだよ」


「ルカは途中に風の魔法で加速するだろ。そのために前半と後半を別の魔法にしないといけないけど・・」

 やばい、眠い。超眠い。

「ごめん、その前に、休ませて」

 おれはごろんと寝転がり、そのまま眠り込んだ。

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