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ミサの不安

 ミサの不安に気付くことができなかった。

 話してもらえば何のことはないただのすれ違いなのだが、いつの日かミサが気を回しすぎて、エリのように身を引くのがおれのためとか思ったりしなくてよかった。


「ミサが道案内の仕事のためにおれたちのパーティーを離れるようなことがなさそうでよかったよ」

「それはありませんね。ええ、ありえません」

 考慮の余地すらないと言わんばかりに胸を張るミサ。


「道案内の仕事はミサがやりたいようにしていいよ。

 続けてもおれたちは困らないし、報酬が多すぎるなら減らしてもらうとか。

 そうだ! ワークシェアリングって言って、本来1人分の仕事を何人かで分け合うことも提案してみたらいいんじゃないかな。

 報酬が多すぎたり、名誉職見たいな余計なしがらみは、大里の方でも良く思っていないかもしれないよ」

 トレノみたいな勘違いした奴が出てきかねないからな。


「手伝っていただけるのであれば助かりますね。もちろんその時の報酬はその方にお渡ししますよ」

 何かの都合で大里の方に行けなくなった時は代わりの人に道案内をしてもらうと。

 おれたちに都合がよすぎて、提案が通らなそうな気がしてきた。

 名誉職に本来あるはずの責任というものがどっかに行ってしまっている。


「提案するだけしてみようか」

「そうですね」

 少し前から家には着いていたが、立ち止まって玄関の前で立ち話をしていた。


 区切りもついたのでドアを開け家に入る。

 鍵がかかっていたのでまだ誰も帰っていないようだ。


 ほどなくしてエリとシャリ親子。ジノとハル。ルカとメルエも帰ってきた。


「今回は本当にお世話になりました。わたしは明日ノースタンに帰りますがシャリの事、よろしくお願いします。

 わがまま言うようだったら、ノースタンに送り返していいですからね」

「シャリなら大丈夫ですよ。でもその話は覚えておきますね」

 シャリママの牽制にエリも乗っかっていた。


「シャリは大丈夫だよ。今からでも働けるよ」

 人当たりいいし、頭もいいから無理ではないな。


「おれたちはこの後ほかの町で仕事をするのでこの街に戻るの1か月後ぐらいになります。エリは残るしメルエもいるのでいつでも訪ねてきてください。

 おれたちは連絡するときは、ノースタンの家か引っ越すとしたら開拓村になるんですよね」

「はい。住むところが決まったらまた来ます。この家か、留守だったらメルエさんが冒険者ギルドに居るんですよね?」

「居ますよー。任せてください。開拓村の方にも冒険者ギルドの出張所ができるはずなので手紙とか出せるはずですよ」

 手紙などは専門の郵便局がないので、何でも屋である冒険者ギルドが受け持っている。

 ギルドの建物の外に手紙専用の掲示板があり、受け取る側が届いたことを確認しなければならない。


 家まで届けられるわけではないので、受け取る側が気付かないとずっとギルドにしまわれることになるが、手紙のように軽いものは何通もまとめて運べるため依頼料はかなり安くなっている。

 安いと言っても何十円ではなく何千円だけど。


 こちらの金銭単位は金貨、銀貨、銅貨。

 それぞれ10万円、1000円、10円に相当する。

 上の単位に変換するのに100枚いるし金属で重いので現金でやり取りするのはとても煩わしい。

 冒険者や商人はギルドカードでやり取りし、庶民は商店を取りまとめる商人ギルドに補償金を預け、預けた保証金の2倍までツケで買うことができる。


 ギルドカードでの単位は銀貨の1000分の1。単位は|pt(パーサウザンド、パト)。

 全世界共通なので金額に単位がつけられることはあまりない。


 ギルドカードがやたら便利なので、冒険者や商人として仕事をしない人でも、強い人は冒険者。お金のある人は商人として登録することもある。


 エリが台所に行き、それに気づいた手伝いできる人たちが台所に消えていった。

 おれたちは今日のことや、明日以降のことを話しながら時間を潰した。


 夕食はきょうも肉メインだ。オークばっかり狩っているので豚肉ばかりになる。

 牛肉替わりがミノタウロスだが、ミノタウロスの迷宮に行った時は一般のミノタウロスが出現しない日だったため、狩れたのはボスミノタウロスの一体だけだった。

 一体分は結構多いが、食べきれない分は保存食にしたりでもう残っていない。

 あれも結構前か。


 鶏肉がわりのワイバーンに至っては、竜血持ちの一体しか狩っていないのでまだ食べたことはない。

 どこかの料理に入っていたことはあったのかもしれないが、意識して食べたことはない。


 今日はシチューのようだ。ゴロッゴロの肉がこれでもかと入っており、申し訳程度に野菜が紛れている。

 春菊のような草とベーコン状の肉が昆布締めのように一緒に結ばれていて、単体で食べると苦い草を肉と同時に口に入れられるようにしてあった。

 日本でいうアスパラのベーコン巻きのような感覚なのだろうか。

 それともロールキャベツか。


 とにかく肉が多い。野菜が恋しくなる日が来るとは思っていいなかった。

 うまいんだけども。

 うまいんだよほんと。


 肉と脂でガッツリこってりしているのに胸焼けもしないし、おそらく春菊のような草に秘訣かあるんだろう。


「美味しいよ。この結んだ草、なんていうの?」

「春菜です。黄色い花をつけるんですよ」

 菜の花見たいのかな。菜の花も食べられたよな。


「毒消しのポーションの材料になるんです。肝臓に良くてお酒や脂の摂りすぎに効果がありますよ」

 薬膳みたいだな。

 良薬は口に苦しというが、苦い味を料理でうまくしてしまえるものなんだな。


 食事の後は今後の話、いままで話してきたことの再確認をしていった。

 シャリが眠そうになると、シャリ親子は部屋にさがって 、そのきっかけでメルエも自室に戻っていった。


「寝よっか」

 異世界の夜は早い。


「おはよう」

 異世界の朝も早い。


「慣れてくると、これがなくなるのが淋しいですね」

 エリが手元の魔力の紐がある辺りを見て言った。

 これというのは魔力循環のことだろうな。


「エリ・・・」

 気持ちはわかると言わんばかりにミサがエリを抱きしめる。

「メルエができればいいのですが」

 ミサがメルエのいる部屋のドアを見ながら言う。

「それならシャリも」

 視線をシャリ親子のいる部屋のドアに移して。

 それからおれをみた。


「メルエはともかく、シャリは早いですよミサ」

 呆れたようにミサを止めるエリ。


「ミサが言うほどには切迫していないですから。

 自分を基準に考えないでくださいね」

 ミサは魔力循環を取り上げられたら暴れ出しそうだものな。

 暴れると言うよりは、あの手この手で目的を達しそうな執念は感じる。


「そう? エリがいいのなら今回は我慢してもらおうかしら。本当ね、本当にいいのね?」

「もう。大丈夫ですよ、ミサ」

 心配しなくても1か月くらいで帰ってくるんだから。


「おはよー!」

「おはようございます」

 シャリたちの寝ていた部屋のドアが開き、2人が現れる。


「おはよう。すぐ用意しますね」

 エリは朝食の準備のため立ち上がり。


「わたしもメルエ呼んでくるね」

 ルカも上体を起こした。


 朝食は大体スープ。

 多く食べたい人はパンの量で調整する。


 乗合馬車の時間に遅れないように早めに家を出て、その時にメルエとは別れた。

「また、1か月後ね」

「シャリのこと、よろしくね」

「任せてよ。エリもいるからわたしができることはあまりないけどね」

 1か月やそこらじゃ大したことは起こらないだろう。

 シャリが急激に成長して、冒険者として登録して、活躍し始めたりしない限りは。


 ムキムキのシャリがゴブリンの胸ぐらを掴んで頭上に持ち上げている妄想を振り払って、乗合馬車に乗り込むシャリママに別れを告げる。

「エリに任せれば心配いらないですから」

「わたしたちにも出来ることがあればなんでもいってください。本当にお世話になりました」


 シャリママは乗合馬車に乗り込み、残ったシャリは「バイバーイ」と手を振っている。

 クシャッとした顔でわらって、まるで涙を堪えているかのようだ。

 すべてわかっているようにシャリママは微笑んでいる。


 やがて乗合馬車は動き出し、シャリは前のめりになるが駆け出したりはしなかった。

「バイバーイ」


 馬車が遠ざかるとグズグズと鼻を啜り、十分に小さくなると後ろを向いて蹲った。

「うわあん」


 泣き出したシャリに隣にしゃがんだエリが頭を撫でてあげている。

 シャリも頑張っていたんだな。


 シャリママを見送ったら次はおれたちだ。

 エリとシャリを残して、エルフの大里に道案内の仕事の予約が入っているかの、確認に行ってくる。

「シャリ。おれたちも行くよ」

「やだあ」

 そんな泣き顔で言われるとおれも辛い。行くのやめるか?


「よし、やめよう」

「ええぇー!」

 みんなして驚いたが本当にやめるわけじゃない。出発を半日も遅らせればシャリも落ち着くだろうと思ってだ。

 シャリまで驚いて、涙が引っ込んでいる。


「出発を遅らせようってことだよ。やめるわけないじゃないか」

 やめよう。と言っておいて、やめるわけないじゃないかと言うおれ。


 シャリは本当にやめさせていたらどうしよう、と責任を感じ黙ってしまっている。

 シャリママとの別れから連続していたため、わがままを言ってしまったが、シャリ自身も今日おれたちが旅立つことは納得済みだったはずだ。


 おれたちの足なら開拓村までは半日でたどり着く。

 その先が長いから、今日の夜はどのみち開拓村で泊まるつもりだった。

 時間を潰すのが開拓村でも、出発前のアクセムでも、旅程にかわりはない。

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