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シャリの家

「すぐ戻る。ハルも戻ってきて」

「りょーかーい」

 折り返したのですぐ近くだ。


 ミサたちの座っている所に一緒に女の子が座っている。

 間違いない。あの子だ。


「お待たせ。あと久しぶり」

 女の子に挨拶すると手を振り返してくる。どうやら覚えていてくれたようだ。


 ハルもすぐに到着し、その場で話をすることになった。

 連れ去ったら誘拐だからな。


「まず、名前教えてくれるかな?」

「ん? シャリ」

「シャーリー?」

「ううん、シャリ」

 寿司のごはんみたいな名前だな。もちろんそんなことは言わないが。


「シャリは、そうだな、将来やりたい仕事とかある?」

 質問間違えたか? 答えによっては本人の希望をすぐに否定することになりかねないが。


「シャリね。回復魔術師。若いうちに冒険して、引退したら療養所で働くの」

 引退後まで考えているとは、堅実なお子さんだな。


「そのことでシャリのお父さんたちにお話ししたいことがあるから、お家に連れてってくれるかな?」

「シャリ、スカウトされるの? 将来性? 素質あるの? シャリ」

 スカウトはスカウトかな。


「それに近いかもしれないな」

「きてきて。パパはお仕事だけど、ママがいるから」

 シャリはおれの手を引っ張って、すぐにでも家に連れて行きたがっている。


「喜んでるとこ悪いけど、シャリにとって辛いこともあるかもしれないから、そこは覚悟してな」

 シャリはパッと手を離して後ずさる。


「シャリ、誘拐されるの? 身代金とった上で売られるの?」

 そんなわけないだろ!


「しない、しない。シャリの将来がうまくいくように協力するから。

 それに、話を聞いたうえで断ってもらってもいいから」

「スカウトは断らないよ。でも、誘拐は断るかな。あれ? この2つの違いってなに?」

 違うだろ!


「チガウ? ヨ」

 焦って、片言になったよ。


 幼い子供を連れ去るという意味では同じだけど。

「親と話して、納得したらだから。あと、おれたちには利益は発生しない」


「それに、今回は連れて行かないよ。話だけ。その後シャリの家族で相談してもらって、どうするか決めてもらえばいいから」

「そう? もうシャリは大人だけどね」

 15歳で成人だっけ。10歳くらいに見えるけどな。


「シャリは何歳?」

「10歳」

 子供じゃねえか!

 心の声が、突っ込んでばかりで疲れる。


「10歳なら親の許可がいるから、先にお母さんたちと話そうね」

「わかった。こっちだよ」

 手を引っ張らずに案内するシャリ。

 辛いことがあると言うのが気になっているのだろう。


 シャリの家は、屋台の並ぶ通りからも近いこじんまりとした一軒家だ。

「ただいまー」

「おじゃまします」


「あら? シャリ。お客さん?」

「うん! シャリをスカウトしに来たの。あと悪い話も」


「あらあら。シャリがスカウトされたら両方悪い話じゃない」

 真に受けていないようで、シャリの母親はたしなめるように言う。


「今すぐではないですよ。将来の事なので話を聞いた後で、家族で相談して決めてください」

「まあ、本当の話ですか? シャリに連れられてきて話を合わせているんじゃなくて?」


「言い出したのはこちらです。将来起こることを話しますので、聞いてもらえますか?」


「はい、今夫がいませんけどいいですか?」

「全員揃った時にまた話します。それに、シャリがもう待ち切れなそうなので」

 椅子に座ったシャリが、足をブンブン揺らしている。


「悪い話、聞かせて!」

 そんな目をキラキラさせて言うことじゃないんだけどな。


 テーブルは席が足りなかったので、おれが母親と向き合い、他のみんなは壁沿いの椅子に座った。

「まず、シャリなんですけど。他の人に見えないものを見えるということはありませんか?」

 シャリの特異性を探ってみる。

 家族に納得してもらうためには、心当たりがあることを思い出してもらってからだろう。


「はい、たびたび。

 他の人に見えないものなら気にしなくていいよ、とはいっているんですが」


「それ、魔力なんです。魔法を使う時に必要なエネルギーです」

「わたしには見えないんですが、魔法使いには見えるんですか? シャリは魔法使いなんですか?」


「魔法使いでも見えません。シャリはかなり珍しい能力で魔力が見えているようです」

「それは、シャリが適当なことを言っているわけじゃないんですよね」

 魔力が見える人というのは珍しすぎて、一般の人では存在すら知られていない。


「シャリが最初に話しかけてきたのも、今日おれたちにたどり着いたのも魔力が見えていたからなので間違いないですね」

「そうだよ! 地面のもやもやをたどったらお兄ちゃんの友達がいたんだよ」

 身を乗り出すシャリの肩をおさえる母親。


「その能力が目当てで、シャリをスカウトするんですか?」

 少し警戒心を出してきた。いいように利用されるんじゃないかと。


「能力はいいものですが、副作用があるんです」

 悪い話に移り、テーブルの上の手がぎゅっと握られる。


「魔力が見える人はエルフにも少数いるようですが、その誰もが成人するまでに視力を失うらしいのです」

 ミサに聞いた話なので、ミサに聞いた方が間違いないが、間違っていたら訂正してくれるだろう。ミサを見たらうん、と頷いていた。


「人族の間では、魔力を見えること自体妄言とされて、原因不明の失明とされることが多いでしょう」

 シャリにも初めて話した。信じられないという顔で自分の手を見つめている。


「解決策はあるんですか? 魔力を見えなくすればいいんですか?」

 母親もシャリを見つめて、おれに問いかける。


「解決策はわかりません。おれたちは目が見えなくなっても働けるように、目が見えるうちにその環境を整えようとしてるだけで。

 魔力は見えるままらしいので、それを足掛かりにして普通に生活できればなと思っています」


 カタンと音がして、扉が開く。

「ん? 客かい?」


 シャリの父親が帰ってきた。

「あなた、お帰りなさい。シャリのことでお話があるの。一緒に聞いて」


 父親を椅子に座らせて、冷めかけたお茶を入れなおす母親。

「お兄ちゃん。シャリ、死ぬの?」

 話が途切れたので、今までおとなしかったシャリが話し出した。


「なんだって!?」

 父親は突然の話にびっくり。おれもびっくりした。


「死なないよ。なんでそう思った?」

「だって、目が見えないと働けなくてごはん食べられないでしょ。お嫁にだって行けないよ」

 働かざる者食うべからずの過酷版か。そんな大げさなとも言えない、前世の日本が恵まれているんだ。


「働けるようにするよ。それに特技があるからそれほど不便じゃない、はず」

 魔力を纏った物や人はぼんやり見えるから。

「道で人にぶつかるようなことはめったにないよ。階段や家具の場所は覚える必要があるだろうけど」


「おいおい。死なないにしても見えないってどういうことだ?」

 ショックから立ち直った父親が訊ねる。

 母親もお茶を配り終えたので、始めから話すことにした。


 魔力が見える事。そのことで通常の視力を失いやすいこと。目が見えるうちに目が見えなくなっても働けるように慣らしておくことなどだ。


「どんな仕事をさせるんだ?」

「魔法薬の調合と販売を考えています」

 相談していなかったが、エリが経験者なので指導に当たれるはず。

 事後承諾になるが、エリにアイコンタクトでどう? と尋ねるといいよ。と返ってきた。


「危なくないのか?」

 魔法薬は劇薬も扱うし、おれたち素人からするとしょっちゅう爆発させているイメージもある。

「魔法薬も機材も魔力を帯びているので、魔力が見えるままなら扱いやすいと思っています」

 食肉の加工もできるだろうが、魔力が見えるアドバンテージを生かすなら魔法薬だろう。


「あなた。どんな仕事にもある程度の危険はありますし」

 母親からのフォローが入る。

 2度話を聞くことで気持ちが整理できたのか、前向きだ。


「すぐに決めることじゃないので、じっくり考えてください。

 また来ます。遅くても2か月以内には」

 話すことは話したので席を立ってお暇をする。


「あのっ。教えていただいてありがとうございます」

 母親が席を立って見送りをしてくれる。シャリも来た。


「シャリちょっと歩いてくる」

 母親とは玄関で別れてシャリと一緒に歩く。


 話したいことがありそうなので、屋台の並んだ通りの出会った場所に腰かける。

「シャリは大丈夫? いきなりでびっくりしたよね」

 地面を見たまま頷くシャリ。


「シャリお荷物? お兄ちゃんたちにも、ママとパパにも」

 爪先で地面をぐりぐりしながら、ぽつりぽつりと聞かれる。


「そんなことないよ。今は何ともないし、すぐに働けるようになるから」

「ほんとう?」

「シャリには人にはない特技があるから、いっぱい稼げるよ」

「シャリがんばるよ。治癒術師にはなれなくなっちゃったけどしかたないよね」

 なれないかな?


「視力が落ちる年齢にもよるけど、なれないと決まったわけじゃないから気を落とさないで」

「うん」

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