過激派ファンの御し方
買収されたコンビニから帰宅して、蒼太はその日の晩ご飯をちゃぶ台に並べる。
今夜のメニューはミートスパゲッティとサラダ、カップスープだ。
男子高校生の夕飯にしては、ちゃんと栄養のバランスを考えた組み合わせだと自分でも思った。
レンジとお湯が沸くのをで暖まるのを待つ間、蒼太は真正面に座った宵子にじと目を向けるのだ。
「だからね、僕は何度も言ったはずだよね。そういう無駄遣いはやめてください、って」
「だってだってぇ……」
宵子は眉を寄せ、両手人差し指をつんつんしながらしょぼくれる。
コンビニを丸ごと買ったことを、蒼太にこんこんと説教されたためだ。首に『反省中』という掛け札が見える気がした。
宵子はそれでもぽつぽつと反論する。
「先生の執筆を、公私ともに支えるのが私の使命です。そのためには、ちゃんとしたごはんを食べていただかないと!」
「だからってコンビニを買うのはやりすぎなんだってば! あそこの店長さん、明日からどうするのさ!」
最寄のコンビニだから、そこの店長の顔も知っていた。
数年前からコンビニ経営をはじめ、家族一同でがんばっているのだ。世間話をするような相手が、蒼太の一言で明日から路頭に迷うなんてゾッとしない展開である。
しかし宵子は「ご心配には及びませんよ」とやんわり笑う。。
「私がオーナーとして、元の従業員の皆さんを雇う形になりましたので。もともと赤字で店を畳もうとしていたらしいので、私がみごと再建させてお返しいたしましょう」
「さすがは財閥のご令嬢だな……」
不遜とも言うべきセリフだ。
だが彼女にはその実力が十分にあることを蒼太は知っている。
球磨神財閥直系の人間は、十五になったとき、とある試練を受けるという。
百億という金額を渡されて、それを三年間のうちにどれだけ増やせるか。経営者としてどれだけ優れた素質があるかを、内外に示すのだ。
宵子はその試練を受け、たった一年で一兆円もの金額を稼ぎ出した。
誰が呼んだか『黄金の女神』。
「でも、やりすぎはよくないよ。この前だって僕がマルゲリータを食べたいって言っただけでイタリア直行でしょ……」
「ええー。ふつうのことでは?」
「ふつうではないですね……」
きょとんと首をかしげる宵子に、蒼太はがっくり肩を落とす。
プライベートジェットの乗り心地は最高だったし、初のイタリアはどこも美しかった。本場の料理も最高だった。
しかし莫大な旅費とか、パスポートなんて持ってったっけ……という疑問とか、いろんなことが気になって、終始胃が痛かった。
あとで聞いたら、パスポートは即席で発行してもらったらしい。そんなことがあってたまるか。
「ともかく、何度も言ってるけど……応援してくれるなら感想くれるだけでいいんだって」
「むう。感想だけでは私のパッションは満たせません! ちゃんとした形で示さないと! 手っ取り早いのはやっぱり――」
「前も言ったけど、札束出したら我が家を出禁だからね」
「きゅうん……」
懐から取り出しかけた札束を、しょんぼりとしまう宵子だった。
あれから何度も現金を渡そうとしてくるので、強制ルールを設けたのだ。お隣さんなだけあって毎日気軽に上がり込んでくるようになったため、今更出禁は痛いのだろう。