表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

経済力で殴ってくる

 しかしそうかと思えば宵子はむう、と眉をしかめるのだ。


「私、ソータ先生の作品はもっと多くの人に読まれるべきだと思うんです。具体的には今の十倍……いえ、百倍くらいには! なのに中々読者さんが増えませんよねえ。どうしてなんでしょうか」

「うぐっ……ま、まあ、俺なんてまだまだ駆け出しだから仕方ないよ……」

 

 ちょっと気にしている事実を突かれ、蒼太は言葉を詰まらせる。

 最近はランキングに入り、そこそこ応援もつくようになった。

 しかしランキングの上位に食い込むには程遠い。

 毎日一定量更新したり、ヒロインを増やしたりして頑張ってはいるものの、なかなか結果に結びつかないのが現状だった。

 しょげる蒼太を前に、宵子もため息をこぼしてみせる。

 

「私がお金をばら撒いて、読者を確保しようかとも考えたのですが……それはそれで先生の作品に不敬かと思い、実行には移さなかったんですよねえ」

「うん。思い止まってくれてありがとう」

 

 金で読者を買うとか、虚しいにもほどがある。


(やっぱりそこは自分の実力で成し遂げないとな)

 

 蒼太が決意を新たにしたところで、そっと宵子が手を握ってくる。甘い熱が伝わって、顔から火が出そうになった。

 真っ赤になった蒼太に、宵子はにっこりと笑う。


「だから私、決めたんです。先生の執筆活動を全力でサポートして……世界中に先生の作品を広めようって!」

「だから……引っ越しと転校?」

「はい!」

 

 元気いっぱいの返事だった。

 宵子は蒼太の手をぎゅうっとにぎったまま、とろけんばかりの声で続ける。

 

「今日からよろしくお願いいたしますね、先生♡ 公私に渡って全力でサポートいたしますから♡」

「ぜ、全力サポート、って……」

 

 おもわずごくりと喉を鳴らしてしまう。

 ひどく甘美な響きだった。十八禁の匂いがぷんぷんする。


(いやでも、これまでの言動を鑑みるに……そんな展開は絶対ないよな?)

 

 冷静になり、蒼太はじと目で問いかける。

 

「具体的にはどんな感じでサポートしてくれるつもり?」

「そうですねえ……先生、お夕飯はまだですか?」

「へ? ああうん。これから作るつもりだったけど」

「上々です♡ それでは……っと」


 甘い笑顔でそう言って、宵子は携帯をささっと操作する。

 フリック三回分くらいの動作だ。

 

 ふつうのラブコメだったら、ここで『私がお夕飯を作ります!』というイベントが発生することだろう。

 だがしかし――宵子はにっこり笑って告げる。

 

「では参りましょうか、先生。某高級ホテルの最上階レストランを貸し切りました」

「やっぱり経済力で殴るのかよ!?」

 

 わりと予想通りの展開だった。

 あわてふためく蒼太をぐいぐい引っ張り立ち上がらせて、宵子はきらきらした笑顔を振りまいてみせる。

 

「私もお気に入りのお店なんですよ。今日はいいアワビと松坂牛が入ってるみたいで。先生にもぜひ召し上がっていただきたいんです!」

「無理! 一般市民にはハードルが高すぎるから! だいたいそんなお金ありません!」

「大丈夫ですよぉ、先生♡ もちろん私がお出ししますから。貸し切りですから、ゆったりお食事を楽しみましょ」

「ますます荷が重いわ! 絶対行かないからね!?」

「ええー。でもぉ、お料理とか高級ホテルを書くときに、描写の参考になると思いますよ?」

「ぐうっ……たしかに、ちょっと体験しときたいところだけど……!」

 

 ネットで画像を検索して描写するより、ぐっとリアリティのある場面が描けるはずだろう。

 物書き特有の弱みにつけ込まれ、蒼太はぐらっと揺れてしまう。

 その隙に気付けば玄関まで連行されていた。

 宵子は蒼太の腕にぎゅうっと抱きついて、でれっととろけた顔を向ける。

 

「えへへ。ご飯を食べながら、先生の小説の話を聞かせてくださいね。あっ、ネタバレはダメですよっ!」

「はあ……」


 美少女に抱きつかれ、自作の話を聞いてもらえる。

 おそらく物書きの男にとっては最上級のおもてなしだろう。

 だがしかし、蒼太の頭はとある疑問でいっぱいだった。玄関を出るついでに……おそるおそる問いかけてみる。 

 

「……ところでうちの親、急な海外転勤が決まったんだけどさ。ひょっとして何か知ってる?」

「ふふっ」

「笑ってごまかさないで!?」

「いいじゃないですか。お父様、栄転ですよ。今頃奥様とのんびり楽しくやっていらっしゃいますから♡」

「そういう問題じゃないんだよなあ!?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで来ると...お金の凄さが...わかる... [気になる点] タッパーに詰め込まれた札束はどうするんだろう...というかもって帰ったのかな...
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ