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6/10

作りすぎちゃったおすそ分け

 そこにはあの、球磨神宵子が立っていた。

 制服姿のままで、なぜか大きなタッパーを持っている。

 

「え、なんで球磨神さんがここに……?」

「どうかクロクマとお呼びくださいませ」

 

 彼女はにっこり笑って、すらすらと続ける。

 

「実はお隣に引っ越してまいりましたので、その挨拶をと思いまして。どうぞ、お近付きの印に……」

 

 タッパーの蓋をぱかっと開ける。

 そこに収められていたのは――。

 

「ちょっと株や土地を転がして作りすぎちゃった、現金です♡ どうぞ受け取ってください♡」

「待って待って待って。本当に待って」

 

 頭を抱えて、蒼太はストップをかける。

 今回も情報量が多すぎた。札束入りのタッパーは謹んで返品させてもらって、真顔でたずねる。

 

「いやあの、引っ越しってどういうこと……? 隣はどっちも住民の人がいたはずなんだけど」

 

 若い夫婦と、男性会社員のひとり暮らし。

 どちらも気のいいご近所さんだ。だがしかし、宵子はにこやかに応えてみせる。

 

「ここよりもっと条件のいい物件をご用意したので、お移りいただきました。引っ越しの手数料と当面の生活費、謝礼金などをお渡しして」

「で、空いた物件に引っ越してきたってこと……?」

「はい!」

 

 宵子は元気よく言ってみせた。

 蒼太は言葉を失うしかない。

 まず、どうやって蒼太の住所を知ったのか。

 

(よし、彼女とちゃんと話をしよう……そうしないと色々マズい気がする)

 

 そう決断して、蒼太はおずおずと声をかける。

 

「えっと、せっかく来てもらったんだし……上がってく?」

「いいんですか!?」

 

 宵子はぱあっと顔を輝かせてみせた。

 そのあどけない表情はとても可愛く、ふつうだったら蒼太も見惚れていたところなのだが……。

 

「あわわっ、先生のおうちにお邪魔するなんて……この宵子感激です! お礼の印に……やっぱりこちら、お収めください!」

「お金はいいから!? ふつうに上がってください!」

 

 タッパーにさらに札束をねじこんで、ぐいぐい渡そうとしてくる宵子。それに全力で抗うのに忙しく、萌える余裕などいっさいなかった。

 




 こうして、突然のお客様を家にあげることになった。

 

「えっと、紅茶でよかったかな……?」

 

 ちゃぶ台の上からノートパソコンをどけて、カップを並べる。

 紅茶はもちろんティーバッグだ。来客用のカップがどこにあるのかもわからなかったので、普段使いのものを出してしまった。

 かなり残念なおもてなしではあるものの――。


「わざわざありがとうございます! えへへ、ソータ先生にお茶をいれていただくなんて……この宵子、とっても幸せです」


 宵子は飛び上がらん勢いで喜んでくれた。

 ちゃぶ台をはさんで、蒼太も彼女の前に腰を落として紅茶を飲む。そこでふと、気付いてしまう。

 

(あれ、女の子を家に上げるのなんて、高校入って初めてなんじゃ……)

 

 しかもそれは目の覚めるような美少女だし、家にはほかに誰もいないのだ。完全にエロゲ展開だった。

 蒼太の緊張は最高潮に達するが、今はそんなことを言っている暇はない。

 ごくりと喉を鳴らしてから、おずおずと口を開く。

 

「まず聞きたいんだけど……本当に俺の小説の読者さん、ってことでいいんだよね?」

「もちろんです」 

 

 宵子はスマホを取り出して、ウェブ画面を見せてくる。

 そこに表示されていたのは小説投稿サイトの管理画面だ。ユーザーネームは『クロクマ』。お気に入りに並ぶのは、どれもこれも蒼太が書いた小説ばかりだった。

 

「今日の更新もおつかれさまでした。さっそく読ませていただきましたよ!」

「えっ、それってさっきの? もう読んでくれたんだ」

「当然じゃないですか。先生の作品はすぐに読むって決めているんです。新しいヒロインちゃんの屋上告白シーン、一生懸命なところがすっごく可愛かったです!」

「そ、そうかな……ありがとう」

 

 蒼太は顔を真っ赤に染めて、ごにょごにょとお礼を言う。

 友人たちには小説を書いているなんて話したことがない。

 だから、こうやって直接人から感想をもらうのは生まれて初めてだった。恥ずかしいやら嬉しいやら……ともかく胸がじーんとした。

続きは明日更新します。明日も二回更新予定。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 唐揚げのように詰められていく札束...パワーワード過ぎるwwwwwwwwwwwwww
[一言] タッパーにおかずのおすそ分けと思いきや現金www 最高に笑える!
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