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10/10

ラブコメは望み薄……と思いきや

 ちなみに便宜上お隣さんでとは呼ぶものの、宵子はこのフロアと上下フロア、ほかすべての部屋を押さえている。お隣さんとはなんなのか。

 叱られたことで拗ねたのか、宵子はぷいっと顔をそむけてスマホを取り出す。


「いいですよーだ。先生につれなくされたって、私には先生の小説がありますもの。今日の更新分、もう一回読みましょーっと」

「ええ……目の前で読まれるのって、けっこうきついんだけど」

「知りません! 私の癒しを邪魔することは、先生だろうと許しませんからね!」

 

 ぴしゃっと言って、宵子はスマホに没頭する。

 大人びた容姿ではあるものの、彼女は案外子どもっぽいところがある。

 

(いやうん、こういうところは本当可愛いと思うんだけどね……?)

 

 可愛いし、自分の作品を好きだと言ってくれるし、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるし。これで好意を抱かない方がどうかしている。

 ただ、ちょっと……いや、かなりエキセントリックなところがある。恋愛に発展する見通しがかけらも感じられなかった。

 

(そもそも宵子さんが好きなのは俺の小説だしな……デートしたいなんて言ったら、プロのお姉さんを用意されそうだ)

 

 世知辛い想像が脳裏をよぎって、蒼太はため息をこぼす。

 ありえないと断じるにはちょっと無理があった。


「あら、ソータ先生。どうかしたんですか?」

 

 そんな蒼太を見て、宵子が首をかしげてみせた。

 畳を膝立ちで移動して、気遣わしげに顔をのぞきこんでくる。


「なにかお困りごとですか? でしたら私が先生の悩みを解決してさしあげましょう。総資産一兆円の私には、不可能などありませんからねっ!」

 

 そう言って、宵子は得意げに胸を張る。

 たしかにそれだけの富を得た彼女には、できないことなどないだろう。

 だから蒼太はイタズラ心がムクムクと沸いた。

 

(ダメでもともと、ってね)

 

 緊張をごまかすため、蒼太はにっこり笑って「それじゃあ頼みたいことがあるんだけど……」と、なんでもないことのように頼む。

 

「宵子さんとイチャイチャしたいかなーって」

「へ」

 

 宵子はぽかんと目を丸くする。

 

 さあ、どうくるか。

 高級ホテルのレストランを貸し切って、パフェを「あーん」してくれる?

 問答無用出海外の別荘に連行される?

 それともやっぱりプロのお姉さんルート?


 蒼太はちょっぴり期待しつつ、彼女の反応を伺うのだが――。 

 

「い、いちゃ、いちゃって……!」

「えっ」

 

 今度は蒼太が目を丸くする番だった。

 宵子の顔がみるみるうちに真っ赤に染まり、ぷるぷる震え始めたからだ。目は涙でうるんで呼吸も浅い。

 それは蒼太が初めて見る彼女の表情だった。巨額の富を手にした完璧な女神の姿はそこになく、ただ年相応の少女の顔だ。

 

「あ、あの、宵子さん、俺――」

「ひえっ!」

 

 蒼太が手を差し伸べかけると、宵子の肩がびくりと跳ねた。

 その瞬間、耳まで真っ赤に染まってしまい――。

 

「そんなの無理です私にできるのは……お金を出すことだけなんですぅ!」

「ふべっ!?」


 蒼太に札束を勢いよく投げつけて、宵子はばたばたと部屋を出て行った。

 ひらひらと一万円札が舞う中、蒼太は天井を見上げてぼんやりとこぼす。


「これは……意外と脈ありだったりするのかな?」





(完)

これにて完結です。お暇潰しになれば幸いです。

ブクマや評価、まことにありがとうございました!

またご要望やリクエストがあれば気が向いたときに書くかもしれません。そのときはよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 突き抜けてますね。楽しさが。 [気になる点] ソータとしての成長が [一言] 存分に、デレてください
[良い点] めっちゃ気になる... [気になる点] タッパーに入った札束...もしかしてケースで拒否られたからタッパーならって思ったのかなぁ...無理でしょ...高校生には重いよ...札束は...精神…
[一言] タイトル見て気になって一気に読んじゃいましたw 凄い続きが気になるので続編待ってます♪
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