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ネット小説家の苦悩

「よし、更新……っと」

 

 空が紅蓮に染まるころ。

 名雲蒼太(なぐもそうた)はその日の更新分を送信し、ベッドにごろりと転がった。

 学校から帰ってすぐに作業に没頭したため、着替えもまだ済んでいない。カバンは床に転がったままだし、家族がいたら「だらしない」と眉を潜めたことだろう。

 だが、その点はご安心。蒼太はこのマンションの一室で、悠々自適のひとり暮らし真っ最中だからだ。


 軽く伸びをしてから上体を起こす。

 そうしてスマホを操作すると、表示されるのは小説投稿サイトのホーム画面だ。


 表示される名前はシンプルに『ソータ』。

 蒼太はこのサイトで小説を書いて公開していた。

 始めた当初は読者からの反応も鳴かず飛ばずではあったが、何本も地道に書いて活動しているうちにじわじわと人気も出て、今ではランキングにまぎれこむようになっていた。


「さてと……今回は自信作だったけど、どんなもんだろ」

  

 蒼太はいくぶん緊張した面持ちで、今しがた更新したばかりの小説を確認する。

 今現在、メインで書いているのは現代学園ラブコメだ。

 主人公と複数のヒロインが入り乱れるハーレムもの。蒼太としてもけっこうな自信作で、読者からの反応も上々だ。


 とはいえまだ最新話をアップして、五分と経過していない。

 これではまだ読んでくれた人も少ないだろうが……一件の通知が来ていた。

 

『NEW! 感想が書き込まれました』


 おかげで蒼太は苦笑してしまう。

 書き込んでくれた相手の名前など、確認するまでもなかったからだ。

 

「はは……さすがはクロクマさん。即レスだなあ」

 

 感想ページを開くと、燦然と輝く新着コメントがトップに表示されていた。

 書き込んでくれた人の名は『クロクマ』。

 肝心の感想は、スマホの画面で十行以上にも及んでいた。

 

『更新お疲れ様です! 今回の姫香ちゃんメイン回、とてもきゅんきゅんしてしまいました。特に中盤、姫香ちゃんが主人公に抱きつくシーンがかわいくて――』

 

 コメントは丁寧で、蒼太が特に力を入れたシーンをちゃんと見抜いて褒めてくれている。

 苦労が一瞬で報われるような嬉しいコメントだ。

 クロクマは蒼太が更新するたび、毎回こんな感想を書き込んでくれる常連だった。

 

「ありがたい……ありがたいん、だけど……なあ」

 

 いろいろ複雑な思いをかみしめて、ふうとため息をこぼす。

 ファンの存在は本当に嬉しい。勇気づけられる。


 ただ……クロクマの場合はちょっとばかし特殊だった。書き込まれたコメントを読み進めると、最後に更新内容とはまったく関係のない一文が付け加えられていた。

 

「『PS・今日の晩ごはんは何が食べたい気分ですか?』かあ……」

 

 なんの変哲もない世間話。

 しかし、蒼太にとっては重大な問いかけだった。

 先日は冗談めかして『本場のマリゲリータピザが食べたいなあ』なんて返信してしまって、ひどい目にあった。

 しばし悩んでから……ふと名案を思いついて返信する。

 

「うーん……『今日は手抜きでコンビニ飯ですね(笑)』っと」

 

 これなら彼女も無茶はすまい。

 そんな淡い期待を抱くのだが――それはすぐに裏切られることになる。

 マンション前のコンビニに足を踏み入れてすぐ、目の覚めるような美少女が現れて、開口一番こう告げたからだ。

 

「こんばんは、蒼太先生! 今日も更新お疲れ様でした! なんでも好きなものをお持ちくださいませ! 今日からこの店は先生のものになりましたので!」

「店ごと買うなよクロクマさん!?」

 

 店内に『祝・ソータ先生ご来店記念セール』という横断幕が貼られた店内で、蒼太は頭を抱えて叫んでしまった。




 

 

 これは平凡なネット小説家の少年が、億万長者のファンにデロデロに甘やかされる物語。

今日はあと三回更新予定。

十話くらいで終わる短い話です。お暇つぶしにどうぞ。お気に召しましたら評価ポチッと応援ください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これが...箱買いならず店買いかぁ...運営会社ごといったのかなぁ...それともそこだけ買ったのかなぁ... [一言] 初めて閲覧数が0から上がってたときのテンションはヤバいですよね(2し…
[良い点] あ~ふか田さんだぁ~w
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