天乃命6
「こ、このマンションが、天乃さんの家?」
「うん、あ、漫画とかであるフロア全部とかではないよ」
俺は小山さんを連れて家に戻った。
俺の部屋はマンションの八階だ。
眺めが良いが、火災とか起きると逃げるのに少し面倒くさい、俺の場合は気を使えば八階くらいなら飛び降りても平気だが。
ま、怖いからやらないけどな! 普通に気を酸素に変えて、階段から逃げた方良い。
「わっ、綺麗な部屋」
「あまりモノを置かないんだよね。私室は別だけど」
「私室?」
「あ、ごめん。今は仕事道具があるから、危ないから見せられないよ」
いろんな意味でな! 戦装束とか、戦装束とか、戦装束という名のエロ衣装とかな!
あ、もう、あれはコスプレの様な気もしてきた。
「あ、退魔師の道具って、素人が触ると暴発するって」
「あー、うん、物にもよるけれどね」
少し待ってて、と言って俺は母や親戚の女性が選んでくれた服を数着持って来た。
小山さんに似合いそうな物をピックアップした。
「わっ、可愛い。けど、これは私には」
「大丈夫、似合うから! 私が保証する。というか、私が小山さんに着てもらいたい服だから似合っているよ!」
俺が力強くそう言うと、小山さんは恥ずかしそうに俯きながらも、俺が持ってきた服をチラチラと見て、しばらく悩んで結局は全部着て見せてくれた。
その後、俺と小山さんは私服に着替えて、少し遠出をする。
俺が貸した私服は、サイズが少し大きいが問題なく小山さんも着ることが出来た。
「さて、着いた。まずは小山さんの服からいこうか」
「え? 私のですか?」
「うん、せっかくだからね」
俺達が来た場所は若者の街! と言う訳ではないけれど、結構にぎわっている街だ。
流石に若者が集まる場所には俺は行きたくない。ファンションなんて未だに良く分からないし。
ナンパ、ウザイからな。
「いらっしゃいませ」
「あのすみません、少し良いですか?」
「はい、いかがなさいましたか?」
この街の駅ビルはかなり大きく、ファッションも充実している。とスマホで調べて分かったので、高校生くらいの女子達が良く来る店に行く。
で、俺は隣にいる小山さんの左肩に手を置いて、二十代半ばの店員さんにこう言った。
「予算は十万円。この子をコーディネートして下さい」
「えぇっ、あ、あの天乃さん?!」
「……よろしいのですか?」
「金銭は問題ありません。やっちゃってください」
「かしこまりました」
「あ、あのっ」
「大丈夫、いってらっしゃい」
こうして、店員さんに連れられていく小山さん、店員さんが小山さんの周りに集まり、あれやこれやと話し出す。
うん、しばらく俺も店内を見て回ろうかと思ったんだけれど。
「お客様」
「はい?」
「店長の鴨川と申します。何をお探しですか?」
めっちゃ良い笑顔でそう言われたので、俺は少し苦笑い気味に「じゃあ、私にも服を選んで下さい。予算は同じく十万で」と言っておいた。
ちなみに、この店はそこまで高い店ではないので、予算の半分くらいでいくつかパターンを見せてもらった。
一番小山さんが気に入った物は、可愛らしく涼しげな感じの動き易いボトムスだ。
俺は、足を出した方が良いと言われたので、ミニスカートになった。
まあ、普段はロングスカートか、ボトムスだが、今日くらいは良いだろう。
「ありがとうございました!」
手の空いている手が空いている店員全員で見送られて、俺達は店を出た。
途中からファッションショーみたいになって、小山さんが慌てていた。
俺は多少、お偉いさん達と顔を合わせたことがあるので、人の視線にはある程度慣れているから大丈夫だったが、小山さんは少し疲れた感じなので、ファーストフードへ入る。
窓側の席に座り、買って来たココアとサンドイッチを少し食べて、小山さんの顔色を確認する。やっぱり少し疲れているかな?
ただ、ココアを飲んだ時の小山さんの幸せそうな顔は可愛い。
やばいな、生まれ変わったから年齢は倍くらい違うけど。心が身体に引っ張られて、小山さんを見ていると、前世の学生時代を思い出す。
……前世ではこういうデートみたいなことをしたこと無かったんだよね。
うん、だから余計に新鮮なのかもしれない。
「大丈夫? 疲れちゃった?」
「え、ええっと、ちょっとだけ」
「そっか、ごめんね。私もああいう店はあんまり慣れてなくて、あまり助けられなくて」
「う、ううん、いいの。それに、服まで貰っちゃって……その本当に」
「問題ないよ。結構稼いでいるし」
俺は、綺麗な赤いピンに刺さった唐揚げを一つ口に含んで、「だから、小山さんは本当に気にしないで」と言う。
でも、高校生くらいの女の子が数万の衣類を貰ったら気にするなという方が無理か。
「記念だと思って、ね」
「き、記念?」
「そうそう、初デートの」
「ごほっ!」
ココアを飲みかけていた小山さんは、ゲホッ、ゲホッ、と咽る。
小山さんに俺は苦笑い気味でハンカチを手渡す。
「冗談だってば」
「ビックリした。あ、そう言えば、口調が少し男っぽいですけど……」
「ああ、普段はね。出来るだけ女口調をしているんだ。変かな?」
「う、ううん。そんなことないよ」
寧ろ良いかも。とちょっとだけ頬を紅くする小山さんに。やっぱりこの子そっちのけもあるのかな?
……あー、やばいな。身体は女で大分女に心が近づいていたような気もしていたけれど、やはり俺は本質的に男なのだろう。
小山さんに好意を持っているみたいだ。
「ま、そう言う訳だから、気にせず遊びましょう」
「う、うん!」
それから、俺達は本屋に行ったり、ゲームセンターに行ったり、話題のクレープ屋にいったり、映画を見たりして、一日を楽しんだ。
本当にデートみたいだ。
「今日は楽しかった」
「なら良かった。元気はでた?」
「うん」
ゲームセンターのクレーンゲームで手に入れた謎のデフェルメされた桜色の犬のぬいぐるみが入った透明のビニール袋を抱きながら、小山さんは嬉しそうに頷いた。
「さて、じゃあそろそろ夕方だけど」
「……そうですね」
俺達は手を繋ぎながら、駅へ向かう。
お互いしばらく無言で歩き、俺は小山さんに提案した。
「んー、家に泊まりに来る?」
「え?」
俺達は立ち止まり、お互いに見つめ合う。
五秒ほどくらいだろうか、小山さんが少し悲しげに口を開いた。
「流石に怒られちゃうから」
「そっか、それは残念だ」
ぎゅっと、繋いだ手に力を少しだけ込めると、小山さんは俺の手を握り返してくれた。
それから、俺達は手をつないだまま途中まで一緒に家へ帰る。
「また明日」
「うん、天乃さん。また明日」
そう言って、小山さんと別れた。別れ際、小山さん機嫌が良さそうに笑っていた。
だから、俺は何の疑いも無く、明日も小山さんに会えると思っていた。
「あ、小山さんから連絡先を聞くのを忘れていた」
家に帰り、リビングのソファに座って、スマホを取り出し、今日は楽しかったね。と小山さんに連絡を入れようとして、俺は小山さんから連絡先を聞くのをすっかり忘れていたことに気づいた。
ま、いいかと俺は思った。明日も会えるのだ。その時に聞けば良いと。
でも、それは大きな間違いだった。