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空島隕石2



ここ数日、学校周辺で妖魔が増えている。

学校があるこの街には、退魔師の卵を守るために、それなりの戦力があり、見周りの退魔師が妖魔を見つけ次第退治している。


けれど、妖魔の数がかなり多い。

普通は退治した数が多くなればなるほど妖魔側からの反応がある。

 巣が近くにあるのであれば、強い個体が出現したり、人に寄生しているなら、しばらく大人しくして、妖魔の動きが無くなったりするというけど。


「定期的に、妖魔が現れる。何が目的何ですかね?」

「分からないわ」


 退魔部の部長、秋島先輩が地図を見詰めながら、右手の薬指に聖糸と呼ばれる特殊な糸とクリスタルを先端に付けたダウジングを使って、怪しいところが無いか調べているが、反応が無いらしい。


「駄目ね。この街と行方不明者が出た街もダウジングで調べたけれど、反応なし。巣も無いわね」

「先輩の力でも見つけられないってことは、この周辺に原因がないということですか?」


部長の家は探索が得意な家らしく、部長のダウジングもかなりの精度だと聞いている。


 彩が部長に問いかける。けれど、部長は難しい顔で唸った。


「一度範囲を広げた時、半径二十キロ圏内に異常は無かったんだよね。巣でもない。寄生された人でもなさそう」

「じゃあ、何なんですか?」

「分からないわ」


 俺に問いに部長がそう答えた直後、部室の扉を開けて七海が入ってくる。


「みんな、悪いニュースと気になる情報よ」

「ん? 悪いニュースって、何かあったのか?」

「まず、行方不明者は四人だったけれど、三人増えて、合計七人に増えたわ」


 七海のその言葉に俺と彩は驚き、部長は厳しい表情になった。


「それと気になる情報。行方不明になった七人には共通点があったわ」

「共通点? 何だよ」

「全員、同じ中学校で、一人の生徒への虐めに加担していた」


 虐めという言葉に、部室の空気が少しピリッとする。

 部長も俺も、彩も退魔に関わる人間だ。

 一般人。特に退魔の力が無い同世代との衝突やトラブルは、多かれ少なかれ経験している。


「その虐められていた生徒の名前は?」


 部長の言葉に、七海は首を横に振った。

 どうした? と俺が声をかける前に、七海はとんでもないことを告げた。


「それが分からないらしいんです」

「「は?」」


 俺と部長の声がハモッた。彩も不思議そうな顔をしている。


「調査員してくれた人が言うには、七人が一人の生徒を虐めていたのは間違いない。けれど、行方不明者の同じ中学校の生徒達と教師達に聞き取り調査をしてみた結果。聞き取り調査をした元同級生や七人の友人は、七人が誰を虐めていたのか分からなかったらしいの」

「意味わかんねぇ」

「調査してくれた人の話だと、どうやらその部分だけ記憶を失っているらしいのよ」

「…………妖魔か?」

「はい、部長その通りです」


 部長と七海だけが分かった顔をしている。

 どう言うことだよ! 教えろ!


「えっと、確か記憶を吸い出す妖魔がいませんでしたか?」

「その通りよ、彩。どうやら、記憶が無い理由はそれが原因らしいわ」

「と言うことは、その虐められていた生徒が七人を連れ去った? 更に今回の妖魔が増えた原因に関係している?」


いくらなんでも、安直なとは思ったけど、記憶を妖魔で、……って。


「……なぁ、その調査員。どれだけの人数を調べたんだ?」

「え? ええっと行方不明者が出てから直ぐに始めたらしいけど、人が足りないから、まだ五十人くらいらしいわ。行方不明の七人の家族とクラスメイト。それと先輩後輩、教師を中心に」

「……七人を連れ去った奴は、どれくらい前から、記憶を消していたんだ?」

「え、それは、かなりの人数の記憶を消しているから……」


 そこで、七海は言葉を止めた。顔色が青くなる。

 俺と同じことを考えに至ったらしい。

 もしかして、行方不明者を連れ去った生徒もしくは妖魔は、短期間に大量の妖魔を生み出せるんじゃないのか?


「ここ最近、妖魔が増えたよな」

「ええ、この周辺ではありえないほどに」

「最初の四人の行方不明者が出て、二日も経っていない。それなのに既に五十人以上が記憶を吸い取られている可能性がある」

「そうね」


 七海が俺の言葉に相槌を打つ。彩は顔が悪い。部長もスマホを使ってどこかへメッセージを送っている


「そもそも、なんで今回の件を起こした奴は、その七人が一人の生徒を虐めているという記憶そのものを奪い取らなかった?」


 俺の疑問に皆が無言になる。

 おかしいだろう。自分につながる情報が中途半端に残っている。


「時間が無かったからじゃない? いや、衝動的に四人を拉致して焦って、自分に繋がる情報を消す為に、本当に必要最低限の情報だけを隠蔽しようとした?」

「確かに、行方不明の七人が虐めをしていたこと、自体の記憶を妖魔に吸い取らせる為に下級の妖魔一匹では無理ね。完全にやるなら数匹用意しないといけないわ。一人一匹としても、五十匹も妖魔を連れて歩けるわけがない。でも、二日ほどでそれを行うことを考えると、それだけの数と移動するための妖魔がいる?」

「いや、それ以前に記憶を吸う妖魔って、数が少ない妖魔じゃないか? それを五十匹?」


 おかしい、いくら何でも数が多過ぎる。

 短期間でそれだけ大量の、特殊な妖魔を生み出せる?

無理だ。妖界の扉を開ければ可能かもしれないが、妖界の扉を開ければ、未熟な俺でも直ぐに分かる。

ということは、人で作った? けど、何十人行方不明になれば、もっと前から前兆はあるはずだ。

退魔師協会は、凄く優秀だ。

世間では警察と並んで税金ドロボーとか言われているが。


「あ、あの記憶を吸い取る妖魔って、大きさどれくらいでしたっけ?」

「リンゴサイズのハエみたいなのよ」


 彩の質問に部長が答えてくれたが、俺と彩、七海は顔を顰めた。


「少し整理しましょう。まず、行方不明の七人を連れ去ったのは、虐められていた生徒または生徒が協力している妖魔の可能性が高く。更に学校周辺で妖魔が増えた原因の可能性が高い。短期間で五十人以上の人間の記憶を奪い取ることに成功し、今現在も居場所や正体の欠片も掴むことが出来ないほどの隠密性。下級とは言え、特殊な妖魔を大量に保有している。敵の詳しい戦力が分からない以上、一度理事長と田川先生へ報告します」

「分かりました」

「うっす」

「はい」


 俺達三人は、部長へ返事をした。

 謎だ。まさか入学してすぐにこんな難解事件に巻き込まれるなんて。

 そんなことを考えていると、部長が肩の力を抜いて俺達に言った。


「あ、それとこの情報を天乃さんに教えてあげて」

「はいわかりました。彩、天乃さんに連絡して」

「え?」


 その言葉に俺と七海は、ん? と首を傾げる。


「え、七海ちゃんが天乃さんの連絡先を知っているんじゃないの?」

「え、知らないわよ」

「「…………」」


 沈黙二人の間に気まずい空気が流れる。

 え、なんで二人は天乃さんの連絡先知らないの? 結構仲良いよね?


「え、えっと、空城君。天乃さんへの連絡先は……」

「俺、知らないっす!」


 何を言っているんだ、部長? 俺が天乃さんから、連絡先を教えてもらえるわけがないだろう。


「あー、なら明日にでも教えて上げて、今この学校で有事の際のアタッカーとして戦える退魔師は私と天乃さんだけだから」

「分かりました」


 ちょっと言い辛そうに部長がそう言うと、俺達を代表して七海がそう答えて、今日は解散することになった。

 部室の空気が微妙なモノに変わっていたが、みんな無言で戸締りをして部室を出た。



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