天乃命 六月下旬 日曜日 3
本日四回目
空城達から、大分遅れて俺は九森の山へ到着した。
そして、荷物を身に付けて、俺は急いで山道をかけ上っていたのだが・・・・・・。
「部長! 部長! もう少し、もう少しでおパンツ様が! おパンツ様が!!」
「ダメ、見せない。見たいなら頑張りなさい!」
「はい、頑張りますぅ!! あふんっ」
変態二人が山道のど真ん中でお楽しみ中だったので、俺は即座に回り右をして、家に帰りたくなったが。
ワイヤーで簀巻にされて踏みつけられている少年とそのワイヤーで簀巻にされている少年を踏みつけている少女が、俺の顔見知りだったので、俺は深くため息をつきながら、気を込めた拳骨で二人を正気に戻した。
ちなみに、一度目は純粋な気での拳骨。
一度でダメだったので、二回目は浄化作用のある気を込めて拳骨を二人に叩き込んだ。
後で鱗粉にやられたと聞いたけど、かなり厄介な鱗粉だと感じた。
で、二人が正気に戻ったのだが。
「天乃さん、助かったよ。視界がまだグラグラするけど」
「うっ、吐きそう・・・・・・」
「二人とも、どうやら重い後遺症などはないようで良かったです」
高位の妖魔の鱗粉の影響で、部長は重い二日酔いのような状態で、戦闘は不可能なので秋島先輩は先に下山させることになった。
「二人ともごめんなさい」
「いえ、もう少しすれば、理事長の手の者が来るはずです」
「ええ、分かったわ。それとメテオ・・・・・・くん」
「あ、はい」
秋島先輩と空城は数秒見つめ合い。
お互い気まずげだが、どこか甘酸っぱい空気を出しながら。
「あ、後で、後で話すわ!」
「は、はい、分かりました」
秋島先輩はそう言うとふらつきながらも足早に下山した。
あんな気まずい状態だったのに、甘酸っぱい空気を出せるって、秋島先輩もしかして、密かに空城のこと好きだったのか? と思ったが、今は関係ないので、忘れることにした。
「私は状態異常への耐性が高い、空城も私ほどではないけど、高い。けれど、危ないと思ったら」
「分かってる。自分で自分を思いきり殴るんだな?」
「ええ、そうよ。それが一番早いわ」
念のため気付け薬は持ってきているが、数に限りがある。
薬がない場合の対処法も教えておく。
「さぁ、行くよ。作戦はさっき話した通りで」
「ああ、わかっている」
俺が前衛に出て、できるだけ速度をあげて、山道を突き進む。
途中、罠などがあるかと思ったけど、それはなかった。
妨害の妖魔も同じく無かった。
頂上に近い神社の参道の入り口までは。
「来たわね」
神社の鳥居の上に座り、俺たちを見下ろす蝶の妖魔。
おい、そこから降りろ。いくらなんでも罰当たりだぞ。
「貴女が鱗粉を撒き散らしている、迷惑な女妖魔?」
「そうよ、そこの少年はなかなか楽しめたんじゃない?」
「はい、すごく興奮しました! できれば鱗粉少し分けてください!!」
間髪入れずに、空城を殴る俺。
空城の反応に唖然とする蝶の妖魔。
「彼、かなりアグレッシブなようね」
「忘れろ」
蝶の妖魔に俺は短くそう答えると、倒れてうめいている空城を軽く蹴り、手はず通り動けと合図を送る。
空城も素早く立ち上がり、俺へ頷き身構える。
「それじゃあ、始めましょうか」
「ああ、そうだ。なっ!!」
蝶の妖魔がなにかをする前に、俺は用意していた煙幕に気を込めて、蝶の妖魔へと放つ。
「な、にぃっ?!」
俺たちと蝶の妖魔の間で炸裂した煙幕は周囲を包み込んで、俺たちの視界を塞ぐ。
さらにこの煙幕には妖力を乱す効果がある。
もちろん、一定の力には負けるが、この煙幕の役割はジャミングだ。
「くっ、おのれ!!」
すべての煙幕を吹き飛ばすまでにかかった時間は七秒。
ただの煙幕なら一瞬だっただろうが、妖魔用の特別なやつだ。
それだけの時間が稼げれば、十分だ。
「あの少年は?」
「富下と坂折さんのところへ向かわせた。ああ、後を終えるとは思わないでね」
「――これは」
俺の言葉に気づいたのだろう。煙幕を張った直後にもう一つ道具を起動させていた。
名前は虫籠。
まあ、結界だ。敵が逃げないようにするための。
「観察していたんだけど、貴女Aランク妖魔ね。搦め手は得意そうだけど、戦闘力はそこまでではない」
「何が言いたいのかしら?」
俺の言葉に、蝶の妖魔は笑みを浮かべる。
うーん、外れてはいないみたいだけど。
「降伏する気ある?」
「あるわけないでしょう」
その言葉で、俺はいっきにやる気を上げる。
「じゃあ、直ぐに終わらせるな」
虫ケラ。
俺は右手に集めていた気を槍の様にして蝶の妖魔へと射出した。
「速い!?」
「当たり前だろう!」
最初の一撃は避けられるようにしていた。
仮に当たったら、そこまでの奴だ。
俺は空を蹴りを入れ、空を走る。
かなり気と集中力を使うが、手軽に使えるので重宝する空を移動する方法だ。
「食らいなさい!」
「当たらんな!」
蝶の妖魔は妖力を刃のようにして、打ち出してくる。
当たれば、多少肌が切れる程度のダメージだが、本命は妖力の中に入っている鱗粉だ。
耐性が高くても、血液の中にそれなりの量の鱗粉が入れば、俺も鱗粉の影響を受ける可能性がある。
だから、しっかりと回避する。
「そこだ!」
「まだよ、当たりなさい!」
「断る!」
気と妖力の打ち合い。
俺は接近戦に持ち込みたいが、蝶の妖魔に近づけば多量の鱗粉が俺を襲う可能性が高い。
仮に短時間で蝶の妖魔を撃破しても、そのあと後遺症が残るのはごめん被る。
坂折さんのところには空城が行った。
隠れている可能性もあるが、空城が倒せないレベルの妖魔の気配は無い。
それに・・・・・・。
「考え事かしら?」
っと、危ないな。
「知り合いの魔法少女のことを思い出していただけだ」
今回の一件、なんかおかしいんだよな。
ピースが足りないような。
足りているような。
まあ、いい。今は目の前のこいつを倒すことだけに集中しよう。




