空城隕石 六月下旬 日曜日
日曜日、空城隕石は日課の早朝トレーニングを終えて、自宅でシャワーを浴び。
母と二人の妹の自分、合わせて四人で朝食を食べていた。
「もう、体を動かしても平気なの?」
「大丈夫だ。医師からは許可が出ているから」
「無理しないでね。お兄ちゃん」
「ふん、たいして強くないのにでしゃばるから入院なんてするのよ」
隕石の家族はここに居る、母彩子、双子の小学六年生の莉愛と莉那。
穏やかな母と、その母似の性格の双子の妹の莉愛、最近反抗期になりかけている双子の姉の莉那。
海外出張で今家に居ない父の虎次郎の合わせて五人家族だ。
「あー、まあ、強くはないな。師匠みたいに規格外だと良かったけど」
「やめて、いくらなんでもメテオがフンドシ男みたいになるのは嫌よ」
「うん、わたしも莉那ちゃんと同じで、お師匠さんみたいなお兄ちゃんは嫌かな」
中学時代は妹の莉那に弱いと言われると、弱くないと反論していたが、高校に入学し自分よりも強い退魔師を多く見たこと、自分の力を大分使いこなせるようになったことで、精神的に余裕ができた隕石だった。
ちなみに隕石もエロに関してはなかなか酷いことになっているが、家族は慣れてしまっているので、「ああ、またか」くらいの感覚になってしまっている。
「なんでだよ。師匠かっこいいだろう?」
「筋肉ムキムキのフンドシは止めて」
「うん、本当に止めてお兄ちゃん」
双子の妹達の目がやや死んでいるのは、実物を至近距離で見てしまったためだ。
当時のことを思い出して、母の彩子も苦笑いだ。
「そうだ、メテオ。貴方今日はどうするの?」
「予定もないから、ブラブラしようかな」
「なら、みんなで映画でも見に行かない?」
「映画?」
「え、何を見るの?」
母の提案に双子の妹達の声色は、肯定的だ。
隕石も少し考えて、今日は家族と久しぶりに映画に行くことにした。
母が運転する車に乗り、四十分ほどして映画館のある大型のショッピングモールにたどり着いた。
妹達がいるので、アニメ映画かと思ったら、テレビドラマの人気シリーズの映画化された物だった。
「この俳優さんが格好いいの、お兄ちゃんとは違って」
「莉那ちゃん」
双子の姉の莉那の言葉に妹の莉愛は苦笑いを浮かべる。
莉那の今お気に入りの俳優の好きなところが、自分の兄に似ているからということを知っているのは、母と双子の妹の莉愛だけだ。
ツンツンし始めているが、莉那はけっこうなブラコンだった。
「あ、まだ少し時間があるな。今のうちにトイレ行かなくても平気か?」
「レディに何を聞いているのよ」
「いでっ」
莉那に足の脛を蹴られ、地味に痛がる隕石。
そんな、隕石を無視して、莉那はお手洗いへ向かう。
「わたしも行ってくるね」
「あらあら、ならお母さんは、飲み物買ってくるわ」
「お、おう、俺はメロンソーダで」
「はーい」
十秒ほど、痛みに耐えて、立ち上がり、自分もトイレにいこうかと思っていると、視界に同じ部活の坂折紫音を見つけた。
「紫音?」
思わず紫音の名前を呟くと、紫音がこちらに気づいた。
そして、紫音の正面。
隕石から見て、背中しか見えなかった人物がこちらを振り返り、
「あれ? 富下じゃん」
と、呟くと富下は驚いた表情をした。
「空城、何故ここに?」
「家族と映画観に来たんだよ。二人は?」
「映画を……」
空城の目には紫音が少し、元気が無いように見えた。
「そうか、あ、デートか?」
「違う!」
「坂折さん、落ち着いて」
空城の何気無い言葉に、反応する紫音。
紫音を宥める富下勝好。
「悪いな、空城。俺達はこれで」
「あ、ああ、分かった」
空城は少し違和感を覚えたが、柱に掛けられている時計を、見て家族が待つ席へと向かおうとして、
「ん?」
足元に雪の様なものがうっすらと積もっていた。
「粉砂糖か何かか?」
誰かが、売店のお菓子でもこぼしたのかもしれない。
メテオはそう考えて、その場を後にした。
▲ ▼ ▲ ▼
少年は幼い頃から、父親から殴る蹴るなどの虐待を受けていた。
その力に目覚めたのは、十一歳の時だった。
酒に酔い、父親は少年は瀕死の重症を負わせるほど少年に暴力を振るった。
父親が少年にトドメを刺す瞬間、少年は手を父親に伸ばした。
少年は反撃ではなく、最後まで父親に助けを求めた。
結果、少年は命を繋いだ。
掌から吹き出た、白い粉の力によって。
▲ ▼ ▲ ▼
映画が終わり、俺は家族と共にファーストフードで、ちょっと早めの昼食をとることになった。
「次はどこ行くんだ?」
「そうね~、莉那と莉愛の夏服は買ってあるから、メテオをの服を」
「あ、それは適当でいいよ」
ファーストフードで、昼食を食べながら、最近の学校のことや妹達の話をしていると、あっという間に時間が過ぎた。
あまり長居は店に迷惑だろうと俺が思いだしたところで、母さんが今後の予定を話す。
けれど、俺の服を買いに行くと長くなりそうなので、さりげなく逃げようとする俺だったが。
「駄目よメテオ、もう少し服に気を使わないと」
「そうよ、メテオが選んだ服は毎回酷いじゃない」
「そうだね。お兄ちゃんの服、わたしたちが選ばないと大変なことになる」
逃げようとする前に俺の両隣に座っていた莉那と莉愛に腕を捕まれた。
どうしよう、このままだと今日は着せ替え人形コースだ。
どうしたものか、強引に振り払ったら、多分妹達が泣く。
仕方がなく、俺は家族と共にショッピングモール内にある店を回ることになった。
そして、四件目の店に入ろうとしたときだった。
俺のスマホが緊急の通知音を鳴らしたのは。
突然何だ? と思い、スマホを確認すると、そこに書かれている内容に俺は凍りつき、即座に母さんに駆け寄る。
「……母さん、ごめん仕事だ」
「え?」
「行方不明者が出た直ぐに行かないと」
「……分かったわ、けれど怪我をしないように」
「大丈夫だ!」
俺がそう言うと、妹達が俺の服の袖を引っ張った。
「せ、精々無様な姿を晒さないようにね」
「お兄ちゃん、気を付けてね」
「二人とも、大丈夫だから心配すんな」
「別に心配してない! 兄が退魔師なのに弱っちいと恥ずかしいだけ!!」
「あー、確かに嫌だな。世間の目があるし」
世間一般人は退魔師をスーパーマンか何かと勘違いしていることが多い。
兄が退魔師なのに、弱かったら同級生とそこ親に色々と言われてもおかしくはない。
下手すると虐めが起こる可能性がある。
うん、これは改めて気合いを入れないと、
「母さん達は年のために家に帰ってくれ」
「ええ、そうするわ」
俺は家族と別れて、ショッピングモールの案内所に走った。
そして、改めてスマホの画面を確認。
返信をして、戻ってきた内容を数回確認して、俺は間違いないことを確認すると、俺は案内所について直ぐに、受付のお姉さんに声をかけた。
「すみません! 若いですが、自分は退魔師です。あ、これが暫定ですが退魔師免許証です」
突然、高校が案内所にやって来て退魔師だと言われても困るだろう。
実際、案内所のお姉さん達は困惑している。
「行方不明者がでました。誘拐の可能性があり、誘拐したと思われる人物が、先ほどこのショッピングモールに居ました。今すぐ監視カメラを調べさせてください」
俺の言葉に、案内所のお姉さん達が慌てて、何処かに連絡を入れ始めた。




