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天乃命 六月下旬 9


午前の授業が終わり、俺は空城たちと昼食をとろうと思っていたのだが、理事長に放送で呼び出されたので、理事長室へと移動した。


「面倒なことになったわ」


理事長室へ入ると、理事長が疲れた表情でそんなことを言った。


「坂折さんの父親が逮捕されたわ。誘拐未遂と麻薬の所持で」


その言葉を聞いて、俺は眉を潜めた。

誘拐未遂だけではなく麻薬所持・・・・・・。


「逮捕された父親とチンピラたちから色々話を聞いてみたのだけど、背後にいると思われる人物にはたどり着けなかったわ」

「サイコメトリーなどは?」

「ダメね。坂折さんの情報を流した人間と誘拐を指示した人間が同一人物かも分からなかったわ」

「理由は?」

「彼らに仕事を依頼した男を確保したんだけど、なにも覚えていなかったのよ」


それは、どう言うことだ?

俺がそう思っていると、資料を机の上に広げて見せる。


「父親、チンピラたち三つのグループに誘拐の指示とチンピラに金を渡した男たち。合計四人は、全員逮捕歴なしの一般人だったわ。職業もバラバラよ。サラリーマン、大学生、フリーター、歯科医。全員が何も覚えていない。誘拐の指示も出した記憶も、そもそも坂折さんのことすら知らない」

「・・・・・・催眠でしょうか?」

「ええ、たぶんね。間に催眠で操り人形にした人間を何人も挟んで仕事を依頼して、今回の事件を起こしているわ」


全員調べるのにどれだけ時間がかかるかと、理事長は嘆いた。


「呼び出した理由は、坂折さんを私の家で泊まる日数を延長ですか?」

「ええ、予想以上に厄介だわ。こうなった以上は正式な依頼として受けてもらえるかしら?」

「問題ありません」

「学校内は警備がいるから問題はありません。貴女には学校の外での坂折さんの護衛をしてほしいの」


坂折さんとの共同生活が延長し、更に護衛の仕事も増えた。




坂折さんを狙っている輩が予想以上に面倒だと分かった。

とは言え、出来ることは少ない。

俺と搦め手を使う相手との相性は悪い。

毒や麻痺などの状態異常を引き起こす敵の攻撃は九割方俺には効かないが、そういう奴は大抵俺の嫌がる戦いをするので、苦戦するから嫌いだ。


一族の女達からは「損している」と可哀想な目で見られたが。正直、ホッとしている。

クッ、コロは嫌です。


まあ、少なくても、学校の外では、俺が近くにいれば、坂折さんが催眠で意識を奪われ、連れていかれる可能性は低くなる。

学校の敷地内なら、優秀な警備がいるから問題はない。

侵入はかなり難しく、術を使えば一発で分かる。




「坂折さん」

「はい」

「放課後の部活動が終わったら、連絡をして。迎えに来るから」

「分かった」


少し遅れて、空城たちと昼食に合流した俺は、坂折さんにそう伝える。

一応、空城たちには坂折さんが俺の家で泊まる日数が増えたことを伝えた。

詳しくは、教えなかったが、空城たちも気を付けると言っていた。

これで、仮に外部から侵入されても問題はないだろう。

催眠のこと伝えたから、秋島先輩が催眠術に対抗する護符を渡すと言っていたし。


俺はそう考えながら、昼食を食べた後、瑠瑠と共に家に戻った。


のんびりとした時間が過ぎていく。

今回は敵が妖魔ではない可能性が高い。

けど、坂折さんが狙われる理由か、やはり能力関係か?

金かと、考えたが。金だけなら、坂折さんの能力と桜宮家を敵に回すリスクが釣り合っていない。


本当かどうかは分からないが。気をかぎ分けられるというのは地味だが良い能力ではあるが……だ。

そこまでして欲しい能力、血かと問われれば首を傾げてしまう。


まあ、特定の特殊な力を持つ者だけを血筋に入れて強化する家はそれなりにいる。

夏影さんの家がそれだ。

まず、分家に嫁入りまたは婿入りさせて、力の継承に成功すると本家に血を入れる。

退魔師の家系は、どうしても近親婚が多くなりがちなので、外から血を入れることは意外と多い。


ただ、薄まりすぎないように、かなり気を使っているらしい。

天乃家は、そういった出産子育てに協力しているので、各家の情報はある程度知っているが。

匂いに関わる家か。


「気の匂いのかぎ分け、か。索敵系の家かな?」


俺は家に帰り、まずはゆっくり読書と思ったけど、考え始めたら、読書処ではなくなった。

気になる。


「うーん、みんな術なんだよね。特殊能力系が多く生まれる家。有名処ではない?」


自室から各家の資料を引っ張り出して、怪しそうな家がないか調べる。


うーん、無いな。みんな、純粋な占い。ダウジングや夢占い。

妖魔の巣の中を探索に適した家も、それぞれ香りに関わる家はない。

非戦闘系の家で、香りに関わる家はない訳ではないが、親天乃の家が多く、縄張りが遠いから、今回は関係なさそうだ。


ああ、でも全く新しい、分家を作る気なら・・・・・・。


「似たような能力者がそれなりに生まれているなら、分家を作る可能性はあるけれど、匂いで気をかぎ分けるか・・・・・・」


そういえば、妖魔の匂いをかぎ分ける家はあるけど、あそこは親天乃家だ。

仮に坂折さんのことを知った場合、天家に連絡を入れて、坂折さんを見つけて保護している桜宮家への見合いの仲介を頼むはず。


普通に発言力と力のある桜宮家。陰の発言力が高く、戦闘力も非常に高い非常識な連中が集まる天乃家。


この二つの家を敵に回す場合、ちょっとした内乱になる。

特に天乃家は、意外と売られた喧嘩は徹底的に買う主義だ。

家単独で仏教勢力とガチバトルした実績は未だに他の武闘派の家々から、称賛と恐れを抱かれている。


「ますます、分からないな」


俺は小さくため息をついて、一度考えるのを止めた。


「っと、今何時だ?」


スマホを確認して、まだ部活が終わる時間ではないので、俺は切り替えるためにインスタントだがカフェオレを作って、一息付き。

昨日買った本を読むことにした。


それから、ラノベを一冊読み終えたところで、坂折さんから部活が終わったという連絡が入り、俺は坂折さんを迎えに行くことにした。




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