天乃命 六月下旬 7
翌日、俺は坂折さんと瑠瑠の三人で自宅のリビングで朝食をとる。
昨日、坂折さんを俺の家に泊めた。
呪いを解いた直後ということも考えてのことだ。
呪詛返しは秋島先輩に取りに行ってもらった。
今は坂折さんがもっていたお守りの中に入れ、坂折さんの首にかかっている。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
「私もごちそうさまです」
坂折さんと瑠瑠が食べ終わり、食器を流しに入れ、水に浸したあと、俺たちは三人で家を出た。
エレベーターでマンションの一階へ下りる。
「うん、変な輩はいないみたいだね」
「・・・・・・ごめん」
「気にしなくていいわ。私も家柄の関係でたまに狙われるから」
戦い方はアレだが、退魔師としては優秀な血筋だ。
一族の女を強引に妻にしたい。という輩は定期的に出てくる。
返り討ちにあって、家の女たちにひどい目に遭うのが大抵だが。
「今後数日は、警戒が必要ね」
「うん」
そう言いながら、坂折さんと深く関わるのは今日で最後かと思ったんだけど、そうはならなかった。
「もう一度、お願いします。理事長」
「坂折さんをしばらく家に泊めてあげて、貴女の御両親には話と許可はもらっているから」
放課後、部室へ移動中、理事長が俺のも十部屋って来て、いきなりそんなことを言った。
笑顔の理事長をひっぱたいてやりたかったが、今の俺では理事長と戦っても、勝てないのが分かっているので我慢した。
「坂折さんの父親はどうなりましたか?」
「誘拐未遂で指名手配。裏で協力していたチンピラも捕まえた。けど、その後ろにいたと思う輩はまだ分からないわ」
「坂折さんはどれくらい、家に泊めれば?」
「一週間かしらね」
俺は小さく溜め息を付いて、理事長からの要請を受けた。
坂折さんは「迷惑をかけてごめん」と謝ってきたが、俺は「気にしないで」と返した。
坂折さんが悪いわけではない。
前世も含めて、最悪な親というのはどこにでもいる。
というわけで、現在俺は部室で秋島先輩と空城たち四人に坂折さんが家で泊まることを伝えた。
「後、坂折さんの父親を捕まえて、背後関係を年のために調べて、かしらね」
「背後関係?」
俺の言葉に、空城が不思議そうな顔をする。
「親権を失っているのに、血縁上の娘に会いに来る。しかも、住所や坂折さんの能力についても知っているようだったと、坂折さんが言っていたわ。空城が助けにはいる前に少し話をした時のことらしいわ」
俺が確認のために坂折さんに視線を送ると、坂折さんは首を縦に頷いた。
数年連絡を取っていなかった娘の現状を知っているということは、自分で調べたか。誰かに教えてもらったか……だ。
元父親の経済状況からその可能性は低い。
となると、誰かに教えてもらった可能性が高い。
「ま、数日は様子見ね」
「そうですね」
秋島先輩の言葉に俺も同意する。
空城たち三人は、消極的で良いのだろうか? と顔に書いていたが、それしかない。
というわけで、俺と坂折さんの同居生活が始まったが、二日経ったが何か特別にトラブルが起こるわけでもなかった。
「メテオ、お弁当作った」
「え、マジで!」
まあ、坂折さんがメテオにアタックして、葉山さんと夏影さんのめが怖かったけど、俺は関係ないから、空城たちから距離を置いてそれを眺めた。
放課後の鍛練時に、葉山さんと夏蔭さんにメテオが酷い目に遭っていたけど、特に俺は気にしないでおいた。
で、坂折さんの一件が動き出したのは、坂折さんが俺の家に泊まるようになって、四日めの昼休みの時だった。
その日、瑠瑠は女の子の日が重くて学校を休んで、空城たちは選択授業で別行動。
選択授業の時は、空城たちと時間が合わない時が多いので、俺は弁当ではなく、学食のメニューを食べるのが習慣になりつつあった。
今日も一人で昼食をとろうと、学食へ向かって歩いていると、俺の迎え側の廊下から一人のイケメンと言える黒髪の同級生が歩いてきた。
確かアイツの名前は富下勝好。
普通科の生徒で、女子生徒に人気がある奴だ。
「こんにちは、天乃さん」
「こんにちは、富下さん」
穏やかな笑み、普通ならイケメンに微笑まれて、胸キュン! とか考えるだろうけど、俺の感想は違った。
嘘臭い笑みだ。なんというか、眼の奥が笑っていないと言えば良いかな?
いかにも俺はエリートで、お前らとは違うというような、人を見下している雰囲気を感じた。
まあ、気のせいかもしれないが。
「ねえ、天乃さん、良かったら一緒にお昼を食べない? 前から、天乃さんと話してみたいなって思っていたんだ」
「あら、それなら、もっと話しかけてきてくれても良かったですよ」
俺は内心で、嘘をつくなと呟いた。
俺へ視線を送る輩は意外と少ない。天乃家の怖さを知っているのと、俺の戦闘力を知っているからだ。
だが、それでも見てくる奴はいる。
けれど、コイツみたいに目立つ奴が俺を見ていたことはない。
「いや、空城君がいつもはいるからさ。話し掛け辛くて」
「なるほど」
確かに、空城がいると話し掛け辛いが……。
定期的に俺へのアプローチを繰り返しているから、最近は坂折さんからの視線が痛い。
葉山さんと夏影さん? 俺にその気が全くないことに気づいているので、最近はそこまで嫉妬していない。
「それで、どうかな?」
「お断りするわ」
俺が即答すると、少し驚いた表情で「そっか」残念」と言ってその場を去った。
富下を見送り、俺が食堂へ向かおうと一歩を踏み出したときだった。
「ん?」
廊下の俺の足元にうっすらと白い粉のようなものが積もっていた。
「チョークの粉か?」
俺が立っていた場所は、教室の黒板がある前の扉の近くだ。
目の前の教室を見てみると扉も窓も空いている。
今日は少し風があるから、チョークの粉が飛んで廊下に多少積もってもおかしくはない……か。
「あ、天乃さん居たよ」
「あれ? 葉山さん? と、夏影さん?」
「ねぇ、お昼一緒に食べない? 選択授業の時いつも学食のメニューを食べているでしょう」
「ええ、なんとなく、三人とは合流していなかったけど」
今は坂折さんもいるから、四人か。最近は瑠瑠と俺は同じ選択授業なので、二人で学食のメニューを食べている。
「私たちもたまには学食のメニューを食べたいね。って、話になって」
「良かったら、一緒に昼食を食べませんか?」
「大丈夫よ。それに最近は五人。いえ、坂折さんもいれて六人で食べることが多くなっているじゃない」
「まあ、そうだけどね」
「天乃さん、やっぱり大人数は苦手なのかなって」
夏影さんと葉山さんの言葉に、俺は空城たちに気を使わせてしまったかと、少し反省した。
「大丈夫よ。行きましょう」
この時、俺はすっかり床の白いチョークの粉のことを忘れ、葉山さんと夏影さんの三人で、空城と坂折さんが待つ学食へ向かった。




