天乃命 六月下旬 5
マンガみたいなことって、本当にあるんだな。俺は目の前の光景を眺めながら、そう思った。
放課後、部室に向かう途中で空城がラッキースケベをやらかした。
今日は雨が降っていて、廊下が滑りやすかったのだが。
空城が足を滑らせて咄嗟にバランスを取るために、隣を歩いていた夏影さんの
腕を掴み、そのまま押し倒す形になって、結果的に夏影さんの胸を鷲掴みにした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
固まる、空城。
顔を真っ赤にする夏影さん。
「触った感想は?」
「小さいけど、柔らかいです!」
俺の問いに素直に答える空城は、次の瞬間。小さいと言う言葉に我に返り、怒りを露にした夏影さんに横っ面をビンタされた。
雨が降っているので、外で鍛練とはいかない。体育館も他の部活が使う予定。
なので今日は部室で座学となったが、空城がどこか、そわそわしている。
夏影さんは空城を意識しているようだ。
坂折さんは不思議そうに、空城と夏影さんを見ていた。
幸いなことに今日、葉山さんと瑠瑠、部長の秋島先輩は用事で居ない。
葉山さんが居たら、部室の空気がピリピリしていただろう。
「メテオ」
「え、あ、どうした?」
「部活が終わったら、相談がある」
「ああ、分かった」
雨の日は早めに部活を終える。前からそう言うことになっていたので、今日の部活は簡単な座学を一時間ほどにして終わらせる(雨の日は一部の妖魔にとってかなり有利な環境でもあるため、未熟な学生退魔師は早めに家に帰らせる)。
部活が終わった後、俺と夏影さんは先に帰り、空城と坂折さんは部室に残った。
夏影さんは、空城と共に残ろうとしたけど、坂折さんが困った顔をしていたのを空城が察して、「悪いけど」と夏影さんに言うと、夏影さんも仕方がないと判断して俺と途中まで一緒に帰った。
好きな男の子とその男の子にアプローチする女の子を二人きりにするのは不安だろうが、なんと言うか、色っぽい話をする雰囲気ではなかったことも、夏影さんが俺と一緒に帰った理由だろう。
で、俺は現在、家ではなく。部室にいる。
一度家に帰ったが、スクールバックに入れておいたはずのラノベが見当たらず、学校に忘れてきたのか? と考えて、部室へ行く途中の渡り廊下で風が吹いたときに少し身体が雨で濡れたので、部室について直ぐに、カバンからタオルを取り出して拭いたとき、タオルの上にあった
ラノベを部室の机の上に置いて、帰るときに入れ忘れたのだと分かった。
俺は少し迷ったが、ラノベの先が気になり、部室へラノベを取りに戻ったのだが。
「何で、空城は上半身裸の坂折さんの胸を触っているの?」
「・・・・・・」
鍵が掛かっていても気を使えば部室の鍵は開けられるので、職員室に向かわず部室に真っ直ぐむかったのだが、ノックくらいするべきだった。
俺の登場に凍りつく空城。
坂折さんは無表情だが、恥ずかしそうに身体を隠した。
「ち、違うんだ!!」
「メテオ、強引だった・・・・・・」
慌てる空城、ちょっと嬉しそうな坂折さん。
うん、何か理由があるんだろう。
けどれど、ギルティだ。
「空城が坂折さんの生乳揉んでた。っと」
「天乃さん?!」
俺は即座にスマホで、みんなに空城が坂折さんの生乳を揉んでいたことをバラす。
退魔部のグループチャットは、直ぐに騒がしくなった。
「みんな直ぐに来るってさ」
「ぎゃあああああああああっ、マジか!」
死刑が確定して、頭を抱える空城。
どこか楽しげな坂折さん。
この後、部室で集まるより、俺の家の方が良いだろう。と提案して、みんなが俺の家に集まった。
俺も坂折さんが裸になってようやく気づけたが、坂折さんの身体の中の気の流れがおかしい。
多分、空城が坂折さんが上半身裸だったのは、それが関係しているのだろう。
俺はラノベを回収して、項垂れる空城と坂折さんを連れて家に戻った。




