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天乃命 六月下旬 1



 あの事件から、穏やかな日々が続いている。

 俺と瑠瑠は退魔部へ入部、俺は部長である秋島先輩と共に、空城と瑠瑠への指導役を行なっている。

 とは言え、知識も戦闘技能もそこまで高くはないので、秋島先輩が指導できない時の補佐だ。

 瑠瑠は俺の住んでいるマンションの隣の部屋に引っ越してきた。

 桜宮家と天乃家が話し合って結果、護衛と監視と言う意味があるようだ。

 それと固有能力【融合炉】の影響で、性格が豹変した空城も今では普通に戻り、俺の太股に熱い視線を送ってくるようになっている。

 元々セクハラで訴えたら間違いなく俺の勝ちが確定するほどのスケベ小僧だったが、更にスケベに磨きがかかったようだ。


 それと、何故あんなに中二病発言をしまくっていたのか分からなかったが、後で秋島先輩に聞いた話だと、空城の能力は相手の気の特性を使えるようになる。と言うものらしい。


 夏影家は海の妖魔と戦う為に水を操るのが得意だ。後は、水中での槍や短刀の扱いに優れている。

 なので、夏影さんから気を受け取った時は、空城は水中での高機動力と夏影さんの得意な気を短刀の様にして相手を切り裂く力が使えるようになるらしい。


 過去にも能力の検証が行われ、気を送ってきた相手の能力を増大させ、使えるようになる。と分かったらしい。


 今回の俺の気を空城が受け取った結果。

 空城の言動がおかしくなったのは、天乃家の「欲望に忠実なところ」が色濃く出たのではないか? とのこと。

 更に普段よりも気の融合と爆発が起こっていた。と空城が言っていたので、天乃家の気を高めて爆発させる力も影響しているらしい。

 天乃家は気を高める。溜めこむことが得意な家だ。

 空城が今までにないくらい、気が膨大に増えたと言っているので、間違いはないと思う。


 まあ、当人は元に戻ってから、二日くらい部屋か出てこなくて家族に心配されたらしい。


「いやー、今日も熱いね。湿気が無いのが救いだけど」

「そうですね。秋島先輩」


放課後、部室で俺と秋島先輩は過去の妖魔事件の資料を漁っていた。

 捜査とかではなく、空城と瑠瑠用に探している。


「そう言えば、今年の退魔師協会主催の高校生大会に出るんですか?」

「あー、アレね」


 この世界では、古くから退魔師(西洋では悪魔払い)が存在していて、近代になると一般人的に、退魔師は警察や消防と似たような扱いだ。


フリーランスの退魔師などもいるのから、全ての退魔師が国家公務員と思っている人には、俺はそれは違うよ。と言いたくなる。


 だって、退魔師協会に勤めている人間以外は、実力で仕事を見つける必要があるからだ。


 分かり易く言えば、ラノベとかで出てくる冒険者みたいな仕事なんだよね。退魔師って。

 しかも、各家の縄張りとかもあるから、ヤクザっぽい家もあるし。


「ウチは出ないかな。理事長からも何も言われていないし」

「そうですか、なら良かったです」


 夏の高校生の大会は結構あるが、実は退魔師の大会もある。

 世間一般的には妖魔は害獣のような扱いだけど。


被害を受けた人達は「そんなぬるいモノではない!」と声高に叫ぶが、被害に遭ったことのない人達は危険性を理解できない。


 そもそも、退魔師もピンからキリまで居るので、退魔師を詐欺師呼ばわりする人間もそれなりにいる。


 だから、退魔師協会がここ最近行なうようになったのが、高校生退魔師達による大会だ。

 式神を使って作った妖魔との模擬戦や高校生退魔師同士の試合。

 トライアスロンのように、チーム戦でフィールドを駆け抜ける競技など、色々と退魔師のことを知ってもらおうと、行なわれる大会だ。


 まあ、大会を見た感想は派手な術を使ったパフォーマンスが主体だ。

 これのお陰で、成りたい職業ランキングで退魔師の名前が上の方に現れるようになったらしい。

 更に退魔師を題材にした子供向けアニメなども作られるようになって、ある程度は退魔師への理解が進んだ。


「天乃家は世間一般的に有名ではありませんが、大会に出てメディアに調べられると面倒ですから」

「あー、それもそうだね。才能が物を言う世界だから、天乃家のような特殊で性的なことに解放的過ぎる家があることが世間に知られると、また騒がれる可能性があるね」


 退魔師は非人道的な仕事だ! みたいなことを言われることがある。

 理由の一つとしては、未成年の死亡者が多いことだ。


三年前、自衛隊員が二十名以上の死者を出した事件に、当時十歳の双子の退魔師も共に出動して、大きな問題にもなった。


幸い双子の退魔師は怪我がなかったが、この事件以降未成年の退魔師への出動要請が減ったことは事実だ。


 けれど、この業界は人手が常に足りていない。

 未成年を死地に追いやるな! とか言われても、下手したら街一つ無くなる事件もある。


 で、結果として百人近くが無くなった事件が起こると、退魔師、警察、自衛隊、政権批判が行なわれる。

 どうしろと!


「世知辛いねぇ」

「ですね」


 そう言いながら、俺達は資料を目に通す。この事件も、教えておいた方が良いな。と思う事件の資料を纏める。


「あ、そういえば、この部活は夏休みは合宿とかするんですか?」

「んー、合宿はするよ。今年はどこでやるか考え中だけど」

「去年はどこ行ったんですか?」

「比叡山」

「……良く行けましたね」


 退魔師と仏教界はあまり仲がよろしくない。

 天台宗だったか? ともかく重要な場所の一つに良く行けたなぁ。

 特に天乃家と仏教勢力はガチ争ったこともある。

 ブッダに喧嘩売っている様な家だから仕方がないけどね。


「仲悪いけど、昔ほどではないと理事長が言ってたよ。それに私達が行った時は、技術交換という側面があったから」

「ということは、この部活単体で行ったのではないのですね?」

「うん、退魔師協会が主体だったんだよね。去年はだけど」

「なるほど」


 秋島先輩は「今年は単独だからどこ行こうか迷う」とぼやいている。

 しかし、仏教勢力か、近年はそこまでではないけど、女性の地位が低いからなぁ。あそこは。

 あ、神道は昔から、役職では女性の地位が低かったけど、女性が活躍していたから、天乃家との仲は良い。


「合宿はかなり有意義だったよ。若い御坊さん達とカラオケとか行ったし」

「えっ、何やってるんですか?!」

「いや、ガチガチしていそうで結構、上の人達もノリが良かったよ? メリハリは大事だって言ってたし」


 それでいいのか? 仏教徒共。と思ったけど、確かに息詰まるよな。全てではないけど、退魔師の修行方法は仏教や山伏から取り入れられた物もある。

 山奥へ行き、滝に打たれて、ロープで崖から逆さ吊り。

 俺には殆ど理解できない修行法だけど、一通りはやらされている。

 まともに出来るようになったのは、瞑想くらいじゃないかな?

 まあ、祖母は「それだけできれば十分」とか言われたけど。


「一応、候補は秋島の山か、夏影さんところの浜辺かな?」

「ま、他家との事を考えればそうなりますか」


 有名な場所だからと言って、そこへ行って合宿なんてすれば、その辺りを縄張りにしている家に挨拶をしに行かなければならない。

 仲の良い場所なら問題はないが、下手すればトラブルになる可能性がある。

 天乃家は「ウェルカム!!」だけど、他の家は「面倒だから、来るな」と言うスタンスだしね。

 今年は俺(天乃家)も居るから別な意味で来ないでほしいだろうな。

 ウチのロリバ……曾婆ちゃんが相当暴れたらしくて、未だに冠婚葬祭で他家に「天乃家の者です」と、挨拶しに行くと青い顔をしている当主達が多いし。

 未だに何かあるとあっちこっち出かけて騒ぎ起こしているみたいだし。


「ふぅ、これくらいでいいでしょうか?」

「そうだね。これくらいあれば問題ないかな」


 俺達はめぼしい資料を纏めて、別室へと資料を戻す。

 退魔部の部室は二部屋、それもかなり部屋が大きく部費も多いので、他の部活から妬まれていた。

 だが、定期的に事件に巻き込まれ、今回の瑠瑠の事件では三名の入院に中学校が綺麗に吹き飛んだお陰で、改めて退魔師の仕事が命がけだと理解された。

 なんか、廊下を歩いていると知らない生徒に応援されるようになった。


 二年くらい大きな事件がなければ、元に戻るらしいけど。

 定期的に大きな事件が起きるから、退魔師を育成している学校では比較的、スクールカースト的には上の方だと聞いている。


「そう言えば、空城が今日は休みだと聞いたんですが、何か知っています?」

「ううん、わたしは何も聞いていないよ?」


 俺の問いに秋島先輩は、首を横に振った。

 連絡しても返答がない。SNSも応答なし。

 感だけど、妖魔絡みに巻き込まれたわけではないと思うけど……。


「ちょっと心配だな」


 俺が呟くと秋島先輩がニヤニヤしていた。

 変な誤解をしないでいただきたい

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