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天乃命13



 天乃家の戦い方を俺がすることはない。

 前世の倫理観と性別が元男だったということもあって、今までは力押しで敵を倒してきた。

 それで十分倒せてきた。

 人間相手でも、気を使った身体能力で十分対応できた。


 けど、それが通じない相手と戦う方法を、念のために幼い頃から考えていた。

 貞操が掛かっているからその辺必死に考えだしたよ?


「巻き付け」


 俺は腰に巻いていた術を仕込んだ縄を半魔投げつける。

 ボーラーという狩猟道具のように、相手に巻き付いて拘束するタイプの道具だ。


「ガアアァッ!!!」


 興奮して、俺に突撃して来た半魔はあっさりと両腕を封じられて、数秒縄をほどこうともがくが、そんな簡単にほどけるほどやわな術ではない。

 それと俺の予想通り、コイツは防御力が高いが術破りは苦手の様だ。


 気での攻撃は、体内に叩き込まれた気は殆ど無効化できるようだが、こういう搦め手はまだ苦手らしい。


「これで良い」

「『はん、動きを封じただけで』」


 何が出来る、と。妖魔は言うつもりだったのだろう。

 だが、次に俺が行なった攻撃を見て、妖魔は凍りついた。


「食らえ、股間に気弾!」


 俺は右掌を半魔に向け、気を溜めて撃ち放つ。

ドゴッ! と鈍い音の後に、半魔の絶叫が響いた。


「『え?』」


 そのまま前のめりに倒れ込む半魔。茫然と眺める妖魔。

 これは、空城隕石用に作った俺のオリジナルの技だ。


 気での攻撃は、普通人間には効果がない。当たっても細胞が崩壊することはない。

 それでも、大量の気を内包した気弾が人に当たれば、プロ野球選手の投手が投げた野球ボールと同じような威力になる。


 まあ、そこまで気を込められるのは並み以上の気を保有する人間だけだが。

 それでも、人に向けて気弾を打つ時は気の量を加減しなければ危ない。

 とは言え、少なければダメージが無い。少しの衝撃だけだ。


 そこで、俺はこの気弾を生み出した。当たった部分に強烈な痛みを与える気弾。

 それが今、全力で半魔の股間に叩き込まれた。


「動き回られると面倒だから、拘束して隙と。男性器が本当に付いているかどうか確認する為にフェロモンを出す術を使ったんだけど、上手く言って良かったよ」


 俺はそう言いながら、ドカドカと両手から気弾を半魔に向って撃ちまくる。

 半魔は痛みで絶叫しながらも、必死に股間を守るために地面転がり、身体をくねらせる。

 だが、俺は移動しながら的確に半魔の股間へ攻撃を集中させる。


「『お、お嬢ちゃんは鬼か! 悪魔か! 慈悲と言うものを知らないのか!?』」

「あるわけがない。生きるか死ぬかの瀬戸際で、そんなことを言っていられないって」


 とは言え、防御力だけではなく、体力もかなりあるみたいで、このままだと埒が明かない。


 何か良い手は、と思ってふと持っていた投擲用の符に、今使っている気弾を纏わせて半魔に投げつけてみた。


 うつ伏せ状態の半魔のケツにぶつかった瞬間、バチンではなく。ドカンという音共に半魔が今までで一番大きな断末魔を上げた。


「お、これは良いみたいね」

「『ま、待て! お嬢ちゃん! 流石にそれは……』」


 しかし、コイツはタフだな。

持っている符を全て半魔の股間に投げつける。

ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン!


屋上に鳴り響く音、符が切れたところで、半間は口から泡を吐きながら気を失っていた。


「うん、妖魔だと股間を蹴っても意味はないけど、半魔だと人だから股間はそのまま有効だったみたいね。……ところで、何処へ行くつもり?」


 半魔がやられると悟ったのだろう、符を投げつけている最中に逃げようとした妖魔に牽制の気を飛ばす。


「『い、いやー、嬢ちゃんもなかなか鬼畜だね!』」

「予定変更、今この場で倒す」


 俺が全力で接近して、小山さんの身体を乗っ取っている妖魔の本体と思われる本を全力で殴りかかると、妖魔はガードではなく回避を選んだ。


「『なっ!? このお嬢ちゃんがどうなっても良いのかよ?!』」

「小山さんの治療には当てがある。それよりも今この場でお前を逃がす方が問題だ」


 理由は分からないが、この妖魔は妖魔を生み出し、更に半魔まで生み出した。

 コイツを逃がせば、小山さんの身体が戻れないところまで変化するのが目に見えている。


「と言う訳で、死ね」

「『ええい、くそぉっ! 天乃家の女は人質を取れば直ぐに降伏するじゃなかったのかよ!!』」

「へー、面白いことを言うな。――それは誰に聞いた?」


 俺の攻撃を避けながら、気になることを言う妖魔。

 確かに天乃家の女は、人質を取られると弱い。けれど、半分はプレイの一環でやることが多い。


 ちょっと待て。と言いたいが、それでも世間で噂になるほど、家の女達が人質に弱いと知られていない。


 腐っても退魔の名門だ。

日本の退魔師は人質を取れば、簡単に勝てる。なんて話が広まったら、他の退魔師にも迷惑が掛かる。


 だから、家はそういう詳しい任務情報はしっかりと隠してきた。

 時には妖魔に捕らえられ、人質になりそうな人々がいる案件でも天乃家は人質を切り捨てる作戦を提案することも多い。


「不思議だな。天乃家の女が人質を取れば、降伏するなんて誰に聞いた?」

「『あー、さぁね、風の噂って奴だよ』」


 コイツ、他の高位妖魔と繋がりがあるな。

 なおさら、ここで倒すか、捕らえないと拙い、が。


「悪いが、ここで倒す」

「『お、良いのか? このお嬢ちゃんがどうなっても』」

「お前を倒した後の治療は問題ない」


捕らえるなんて、面倒なことはしない。

そう言って、俺は妖魔に強烈な一撃を叩き込む為に溜めを行なった。

 右拳に気を集中。

 最初の一撃を防いだ時に、敵の防御力の予想は付いている。

 それ故に、あの時攻撃した三倍の力を込める。


「『ひえぇぇっ! 流石にそれで殴られたらこっちも危ないねぇ』」

「そうでなくてはこちらも困る」


 溜めは妖魔と話している間にも行っていたので、直ぐに終わる。

 小山さんの身体能力では、妖魔の妖力で身体能力を強化してもたかが知れている。

 この一撃は逃げられない。


「死ね」


 俺が妖魔を殺す一撃を放つ瞬間、妖魔小山さんの顔で邪悪に笑った。


「『ならもう、この身体いらねぇや』」


 妖魔は滑らかな動きで、制服のポケットに隠し持っていたカッターナイフを取り出し、何の躊躇も無く小山さんの首を切り裂いた。


 小山さんの首筋から血が吹き出る。

まるでシャワーのように、周囲に血が飛び散る。


生温い血飛沫が俺の顔に張り付く。


その瞬間、俺は反射的に小山さんを助けるようと意識が妖魔から意識が逸れた。

逸れてしまった。致命的な隙だ。


「『こっちの勝ちだ』」

「――っ?!」


 気づいた時には遅かった。

 屋上の全ての影が、一斉に俺に向かって巻き付いてきた。


いつの間に?!


 俺は直ぐに気を使って影。いや、影の様に見える粘液の妖魔を吹き飛ばそうとしたが。


「『おおっと、動くなよ。お嬢ちゃん!』」


 妖魔が粘液の妖魔を使って小山さんの首の傷を止血しながら、俺に言う。


「『いやー、焦ったよ。でも、死んだら流石に治療できなよな?』」

「…………」


 俺は妖魔を強く睨みつける。

 妖魔に寄生された人間の治療法はある程度確立されている。

 心を完全に破壊された場合は、どうしようもないが、多少壊れても時間をかければ治療は可能だ。

 今なら、まだ治療可能な時間だと、俺は判断して妖魔を倒そうとした。

 だが、小山さんが死んだ場合。流石に蘇生は不可能だ。


「『まあ、大人しくしておいてくれ。そろそろ逃げないとこっちも危ないみたいだしな』」


 一瞬、妖魔が何を言っているか分からなかったが、俺も遅れて複数の退魔師の気配を感じた。

 まずいな、理事長が動き出したか。


「『と言う訳で、今日はこの辺で逃げるぜ』」


 またなー! お嬢ちゃん! と言って、背中に粘液のような妖魔で鳥の羽の様な物を作り、屋上から妖魔が飛び立とうとした。


まさにその瞬間。


「逃がさねぇよっ!!」


 ダン! という地面を踏みしめる音共に妖魔の背後に降り立った少年は、後ろを振り返ろうとした妖魔を、逃がさないようにしっかりと後ろから抱き絞めて、右手に持っていた符を本体と思われる赤茶色のハードカバーにベタッと張り付けた。




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