空城隕石4 天乃命9
「ど、どうしよう」
震える声を聞いた瞬間、俺と彩、七海は天乃さんを見た。
そこに居たのは普段のクールな彼女ではなく、友達のことを想い、表情を青くさせて小さく震える姿だった。
「あ、天乃さん?」
「私、どうしよう。友達が行きそうな場所すら分からない……」
「いや、天乃さんのせいじゃあ」
天乃さんは瞳を潤ませる姿も綺麗だ。
と思っていると七海から肘を食らった。いってぇ……。
俺が痛みで言葉が止まったが、彩が天乃さんに声をかける。
「天乃さん、勘違いしちゃ駄目です」
「葉山さん?」
「友達かもしれません。けど最近仲良くなったんです。知らなくて分からないことがあるのは当然です。それなのに自分が悪いと思うのは思い上がりです」
「…………」
「焦る気持ちは分かります。私もお母さんが妖魔に関わっていました」
「彩、それは」
俺が彩を制しようとするが、大丈夫と逆に綾に制された。
彩の強い眼差しに、俺は口を閉ざす。
七海は素早く周りを確認し、誰も聞いていないことを確認すると、直ぐに音を遮断する術をこっそりと使った。
「落ち込んでいては、出来ることも出来なくなりますよ」
「……そう、ね。その通りだわ」
天乃さんは驚いた表情をする。身内がそれも母親が妖魔に関わるということ、世間でそれが知られれば、迫害の。攻撃の対象になる。
彩もかなり酷い扱いを受け、今の保護者に引き取られた。
「ありがとう、落ちついたわ」
天乃さんは、落ち着きを取り戻した表情で、彩にお礼を言った。
けど、本当にどうしたら良いんだろうか?
小山さんとその後ろで操っている妖魔の居場所を見つけるには。
「駄目だ、何も思い浮かばない」
「結局、こうなるのね」
「せめて、小山さんがスマホを持っていれば、位置情報を…………あっ」
俺と七海が小さくため息をついて、天乃さんも肩の力を抜いた直後、何かを思い出したかのように声を上げた。
「そうだ。服!」
「え?」
「小山さんに私が買ってあげた時、制服だった小山さんに、私の服を貸したの!」
「ん? どう言うこと?」
「え、ええっと、つまりね」
前に、二人が学校をサボって、遊びに行った時、天乃さんは小山さんに自分の服を貸した。
そして、新しい服を買ってあげた後、服を返してもらったらしい。
「今すぐ家に帰るわ! 小山さんに貸した服は紙袋に入れて、そのまましてある。それを調べれば」
「あ、気の残滓ね!」
「そう!」
気の残滓、気は匂いの様に物に残るそうだ。
気自体は人が誰しも持っていて、退魔師ではない一般人は、微量に身体から滲み出るもの。
つまり、それをたどって行けば。
「今すぐ、実家に探し人をする時に使う道具を取り寄せるわ」
そう言って、学食をもの凄い勢いで走り去る天乃さん。
俺達も慌てて後を追った。
・天乃命
家に帰り、俺は直ぐに小山さんに貸した服が買い物をした時に貰った紙袋にはいっていることを確認して、実家に連絡を入れる。
家が淫妖魔専門ではあるが、他の仕事を一度もしたことが無いわけではない。
対淫妖魔の術だけではなく、失せモノや治癒の術や道具もそれなりに研究開発している。
まあ、大半が駄作だが。中には使える物もある。
気の残滓を調べて人を探す道具を頼んだのだが、俺の家に届くには早くても半日はかかる。と家にいた侍女に言われて、内心かなり焦ったがこればかりはどうしようもない。
後を追ってきた、空城達に道具が付くまで半日かかると伝え、俺達は急いで学校に戻り午後の授業を受けた。
ここ最近、サボったりして学校側から色々と言われているので受けないとマズイ。
午後の授業が終わり、俺は家に戻った。
送られてくる道具で小山さんの居場所が分かるとは思うが、駄目だった時のことを考えると、不安になる。
それから、俺は瞑想をしてみたが、心がどうも落ちつかないので、近くのコンビニへ向かった。
気分転換に、コンビニのスイーツを少し多めに購入。
飲み物は紅茶系にした。
俺はそのまま、家に帰らず公園へ寄った。理由はなんとなくだ。
前世では公園にあまり良い印象を持っていなかったが、今は大分マシになった。
友達がいなかったせいもあるし、携帯ゲーム機を持っていない子供でもあったから、仲間に入れてもらえなかったのが少しトラウマなのかもしれない。
今世でも、クラスメイト達とはそれなりに話すが、どこかへ遊びに行くことはない。
いや、無かった。
小山さんが初めてだ。学校をサボって街へデートみたいなことをしたのは。
前世で、そういう青春っぽいことをしていれば、俺は転生しなかったのかな? と考えて、無意味なことだと、頭を振る。
転生した理由は今も分かっていないし。
チート能力でウハウハ! と思ったら、性別女。
チート能力っぽいのは化け物じみた気の量だけ。
運動神経は前世でも悪くなかった。いや、良い方だったが、プロスポーツ選手のようになれるか? と問われれば違うと答える。
気の力で馬鹿げた身体能力があるけれど、結局は平均値よりは良い方でしたかない。
学校の成績は、前世とあまり変わっていない。多少、マシになった程度だ。
「はぁ、小山さん」
俺は適当に公園のベンチに座り、溜息をついた。
正直なことを言うと、小山さんに惹かれている自分がいるのはなんとなく分かっている。
年齢に身体が引っ張られているせいもあるのかもしれない。
身体は女だけれど、心は男のままだ。
けど、まだ芽生えたばかりというか、好き……かもしれない。という感じだ。
「情けないなぁ」
俺の実力はSランク退魔師。これは母と祖母にお墨付きをもらっている。
気を込めて妖魔をぶん殴れば、大抵の妖魔を倒すことが出来る。
ゲームで分かり易く言うと、攻撃特化のキャラクター。それも特殊能力がほとんどない。
かなり微妙なキャラ。
それが俺の正体だ。
もちろん、防御力も高水準だ。回復能力もあるが。単純に攻撃力が高いからSランクなだけであって、退魔師の技術で言えば、並み以下だ。
「小山さんを失いかけているのに、暫定とはいえ、何がSランク退魔師だよ」
俺は空を見上げた。都会なので、星空はそこまで見えない。空が狭く感じるけれど、これはこれで悪くないと思う。
前世では空を見上げることなんて、殆どしなかった。
いつも俯いてばかり向いていた気がする。
そこまで、印象に残っていないけど好きな女の子が彼氏がいるとか、就職が上手くいかず、ずっとフリーターだったとか、周りの親族が結婚していくのに俺だけ独身で親族から白い目で見られたとか。
前世は思い出したくない、思い出ばかりだ。
「腑抜けているわね」
「秋島先輩ですか」
俺の真後ろに突然現れたのは、退魔部の部長秋島先輩だった。
一度後を振り返り、姿を確認する。
彼女は制服姿で、ダウジングの水晶を手で弄びながら、俺を見て溜息をついた。
「明後日には、外に出ていた退魔部の部員と教員たちが順次戻ってくるわ」
「なるほど、それでは、明日中に決着をつけないと駄目ですね」
「出来るの?」
「ええ、道具を送ってもらえるように頼みまし……た」
言われて、俺はふと天乃家が作った頭のおかしい道具達を思い出して、猛烈に嫌な予感がし始めてきた。
そういえば、失せモノを探す道具って、使う時は防音がしっかりとした部屋で使うって言っていたよな。
いや、けど、別に変な形の道具とかではなかったし。
一言で言えばヘルメット型だったはずだ。怪しげな形はしていない。
うん、大丈夫だ。大丈夫、大丈夫。
「……ええ、やれることをするだけですよ」
秋島先輩は「そう、なら頑張りなさい」とだけ言って、次の瞬間には去って行った。
ふむ、やはり強いな。いや、上手いかな?
敵として戦ったら、小細工せずに自分もろとも範囲攻撃で吹き飛ばして戦った方が早く倒せるタイプだ。
特に隠蔽技術が思った以上に高い。
ともかく、道具が届いてからだ。
俺は、公園のベンチから立ち上がると、家に戻った。




