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天乃命8


昨日、空城達が帰った後、俺は家経由で小山さんの家の住所を調てもらっていたので、夜ではあったが小山さんの家に行った。

 二階建てのかなり良い家だ。父親はエリート会社員だそうで、年収もかなりあるらしい。

 俺は不法侵入ではあるが、術で家の鍵を開けて家の中を調べた。

 その結果、小山さんは家族とは上手くいっていないことが嫌でも分かった。


 リビングに入り、俺は違和感を覚え、直ぐに違和感が何なのか分かると肝が冷える。

食事をすると思われるテーブルの席は四人分。それぞれの専用と思われる食器やマグカップがあるのだが、小山さんの分だけが無い。洗面台の歯ブラシも一つだけ別の場所にある。

 スリッパも少し遅れて気づいたが、小山さんの分が無かった。

 子供部屋をそれぞれ調べたが、小山さんの部屋は殆ど物が無く。

 必要最低限の勉強道具だけ。趣味のラノベや漫画は一切ない。反面弟と妹の部屋は物が沢山あった。

 妹の部屋の家族写真には、小山さんが写ってなかった。


 それと、妹の部屋にあるベッドに散乱していた女の子らしい服を見て、俺は小山さんの部屋に戻り、小山さんのクローゼットの中を調べる。

 彼女の私服はほとんどなかった。妹と比べるまでもない


俺は深く息を吐いた。怒りが込み上げてくる。これは虐待だろう。

たぶん、必要最低限金だけ渡して、後は放置。

小山さんの顔色は悪くなかった。少なくても食事は摂れていたと思う。

 けれど、そこまで。義務だけで育てていたようだ。

餓死させたり、暴力を振るうような親よりましではあるが、俺は小山さんの両親はどのような形であれ、救助したら一度殴ることを決めた。




 短時間で良く調べたと思う。ウチの調査員は。

 小山さんの家はエリート一家だ。父親は婿入りしたらしい、父親の実家は結構な家だ。

だからなのだろう。そこに生まれた平均を下回る出来そこないの娘。それを自分達の娘と認めないようになったのは。

彼女の気弱な性格も、家での居場所を失うきっかけになったのかもしれない。

 弟と妹はかなり優秀だ。文武両道。運動部で県大会では上位に入っている。


 家の中を探索して、子供達のアルバムも見つけた。小山さんが映っているのは小学生くらいの時までだ。

小山さんの写真が保存されていた小さなアルバムも、他のアルバムの影響で一番奥に追いやられていた。

 一冊しかなく、埃まみれなところを考えると、もしかしたら存在を忘れ去られているのかもしれない。

 小さなアルバムの中身は中学校へ上がってからは一枚も写真が無い。

 小学生の頃に、見切りを付けたみたいだな。


 小山さんにとって、この家に居ることが、どれだけ苦痛だったのだろうか?

 俺は、小さなアルバムだけ持って、家に帰った。

 窃盗にあたるが、後で小山さんから了承を得よう。必ず無事にこの一件を終わらせて。




 翌朝、俺が陰鬱な気持ちで教室の扉を開けると。


「死ね! リア充!」

「万死に値するわ!」

「一人くらいこっちに回せ!」

「ラブコメしてんじゃねぇぞ!!」

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 連続でジャーマンスープレックスをかけられている空城と空城を取り囲む男子クラスメイト達が朝から元気に騒いでいた。

 なんか男子クラスメイト達は左腕にリア充撲滅隊とか書かれた腕証を付けているんだけど、コイツ等恥ずかしくないのか?


 あ、前世のクリスマスをぶっ潰せー、的なことをやっていた奴等がいたな。

 ノリ的にはそう言う感じなのだろうか?


「おはよう、何があったの?」

「あ、天乃さんおはよう。なんか、葉山さんと夏影さんと手を繋いで家に帰ったらしいよ」


 俺は近くに居たクラスの女子生徒に話しを聞くと、どうやら俺の家から出た後、あの男は幼馴染二人と仲良く手を繋いで帰ったらしい。

 うん、ギルティ(羨ましい!)。良し、追い打ちをかけよう。

一呼吸、気持ちを切り替えて、俺は明るい女の子。


「おはよう、メテオ君!」

「え?」

「は?」

「何?」

「天乃さん!?」


 俺が笑顔で空島に挨拶をすることに驚く空城と男子達。

 いい感じに食いついてきたな。という訳で、空城よ。食らえ、俺の渾身の笑顔。


「昨日は家に来てくれてありがとう。また遊びに来てね」


 ニコっと笑って、俺は何食わぬ顔で自分の席に座った。

 数秒後、空城を取り囲んでいたクラスメイトの男子達は爆発した。


「貴様! 昨日、天乃さんの家に遊びに行ったのか!?」

「クールな天乃さんが笑顔だったぞ! どう言うことだ!」

「というか、名前を呼び捨てにしていたぞ、何しやがった! テメェッ!!」

「ち、違う! 俺は何もしていない!!」


 慌てて違うと弁解する空島と取り囲む男子クラスメイト達を眺めながら、俺は小山さんの居場所を探す手段を延々と考えていた。


 途中で、流石に騒がしくなったので、俺と葉山さん、夏影さんがやんわりと止めに入るとクラスメイトの男子達はあっさりと、空城への尋問を止めた。




 昼休み、俺は空島と葉山さんと夏影さんの四人で学食へ移動した。


「朝は、酷い目にあったぜ」

「派手にやっていたわね」

「でも、まあ、天乃さんが俺のことを、名前呼びしてくれたのは嬉しかった! これからよろしくな!」

「ん? ええ、これまで通り、空城と呼ぶわ」

「何で!? あんなに笑顔で俺の名前を呼んでくれたのに!!」


 空島がうるさいので無視して、ミートスパゲティを食べる。

 うん、相変わらず美味しいな。

前世も含めて、ある程度は料理が出来たけど、この味はなかなか出せないな。

話しによるこのミートソースは、学食のおばちゃんの手作りらしいんだよね。

 レシピ教えてもらえないかな?


「天乃さん、パスタがお好きなんですか?」

「そうね。ここのおいしいから」


 葉山さんの問いにそう答える。

 ここの学食結構レベル高いのに、安くて美味しいんだよね。


「でも、これからどうしたものかしら」

「小山さんのことか? 何も方法が思いつかない」


 俺の言葉に空城が続く。

 正直、お前発破かけたのにそれかよ。と思った。けれど、探し物系の術は難しい。

才能と努力、タイミングが合わないと見つからない。

 そのことを考えれば、行き詰るのは予想できた。

 俺の力というか天乃家の力はカテゴリー分けをすると特殊戦闘系だ。

 特殊と付いていることもあり、補助的な術を使える一族も多いが、俺の場合は戦闘のみ。

 後は自己回復が出来るくらいか。

 そもそも複雑な術自体あまり得意ではない。単純に気を込めて切ったり殴ったり、撃ちだしたりするのは問題ないけれど。

 まあ、化け物レベルとも言われるほどの気を保有しているから制御が苦手なのは、ある意味仕方が無いのかもしれない。



「これが普通の妖魔なら、おびき寄せるとか出来るんだけれど。相手が求めるものが分からないのが痛いわね」

「そうね。唯一それっぽいのが、記憶かしら?」


 夏影さんの言葉に俺は同意する。妖魔が人に引き付けられる理由は、血肉と精神、気だ。

妖魔の種類によって、好む人間が変わる。


「そうだけど、違和感があるのよね。希少な記憶を吸い取る妖魔を何処からか集めたのかしら」


 夏影さんに指摘されて、俺もそう言えばと考え直す。

大量の記憶を吸う妖魔を集めることができたということは、背後にいる妖魔も記憶を奪い取る系?


「小山さんはどんな妖魔につき従っているのかしら?」

「分からないわ」


 うんうん、考える俺達。すると空城がふと思い出したかのように言った。


「妖魔が隠れそうな場所ってどこだ?」

「普通なら、人里離れた場所、もしくは人の意識か逸れる場所ね。廃工場とかだけど」

「学校周辺は、秋島先輩や調査員達が調べているわ。灯台元暗し、は無いと思うけわね」


 全然分からない。

 半年くらい付き合いがあるなら、まだしも二週間くらいの付き合いでは小山さんなら何処へ行くか、見当もつかない。


 けど、このまま時間が経てば、恐らく退魔師協会からAランクのチームが派遣される。

 あれ? 詰んだ? もしかして、俺はバッドエンドルート入った?

 やばい……。


「ど、どうしよう」


自分の現状を改めて自覚して、俺は途方にくれた

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