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9章:鬼退治自体は終わったけれど

 金太郎のイメージは孫悟空です。 どの。とは言いません。




「ひゃぁあ、魂消た。オラこんな薬初めて見たぞ。」

 金太郎は自分の手を力強く握りつつ、感動していた。

 あのあと、観客達は二人の力士に駆け寄り手当てをした。

 両者共に負傷。


 岩のように硬くなった足裏が何かで削り取ったように血に塗れ、

 大木を思わせる手足の骨がボッキリと折れ、

 体の中に着込んだ城壁や鎧の如き筋肉がどうしようも無いほど引きちぎれていた。


 あの勝負が如何に人間離れ、鬼離れしていたものかを観客達は今更ながら思い知った。

 「オイ誰か!手当……、えぇい!こりゃマズイ。秘薬持って来い!」

 誰かが叫び、走り出す。

 直ぐに戻って来た鬼は手に壺を持っていた。中に手を突っ込み、かき混ぜる。するとその手には黒い墨の様な、それでいて糊の様な何かがべっとりと付いていた。

「ォィォィ、何だそりゃ?」

 「金の兄さん黙ってな。大丈夫だ。俺達ぁあんな大勝負した漢をどうこうするほど野暮じゃねぇ。コイツは鬼の秘薬。どんな怪我もあっちゅう間に治すとっておきだ。」

 そう言って鬼は倒れた赤鬼と金太郎の身体にべっとりと黒い軟膏を塗りこむ。

 金太郎の身体の中で何かが胎動し、ドクドクと体の中で何かが蠢く。

 そう思っていた次の瞬間。身体が起きた。

 「アリ?なんだコリャ?」

 間抜けな声を出す。当然だ。さっきまで全身激痛で声を出すのさえ拷問の様だったのに、今は如何だ?




 手足が軽い、動く。

 足裏の血はどこかに消えた。

 骨が折れたのが気のせいだったようだ。




 「どうよ、兄ちゃん。これが鬼の秘薬。火傷に捻挫、骨折肉離れ、出血失血癌糖尿貧血………。なんでも治る鬼印の軟膏よ。」

 「ひゃぁあ、魂消た。オラこんな薬初めて見たぞ。」

 金太郎の驚く様子に鬼は満足げだった。




















「ッ。どういうことだ?」

 浦島は檻の中を睨みつけて言った。

 「…………です。」

 檻の中で誰かが言う。それを聞いて浦島の表情が複雑になる。

 「ッ。そう言う事かよクソが!」

 檻を釣り糸で斬ると(!)

 彼は止まった時間の中を走って去っていった。

 「…………お気を付けください。」

 檻の中から出てきた人物は彼の無事を祈った。












 「おぅ桃太郎。どうだ?そっちは?」

 「おぅおぅ、お前ら、随分派手にやられたな。鬼が人間にやられっちまっちゃあ立つ瀬がねぇ。」

 「おぃおぃ、金のあんちゃんにしてやられた俺は如何なんだ?」

 「おっとそうだった。いやぁ、すまんすまん。」

 「いやぁ、今回オラが勝ったのはまぐれだまぐれ。次も勝てるかはオラわっかんねえぞ?」

 「何言う、次こそ俺が勝つ。」

 「俺にも取らせろ。」

 「イヤ俺だ。」

 「アチキが勝って頂点だ。」

 向うから鬼に囲まれた、というか、鬼と仲良く談笑しながら来る金太郎が見えた。

 「………、扱いが違う……………。」

 金太郎と桃太郎になんの違いが在るんだ?

 アレか?モデルが居るか居ないかの違いか?それとも特殊な伝説が有るか無いかか?

 もうイヤ。生まれ変わったら絶対桃太郎じゃなくて鬼になってやる。鬼の総大将になってやる!…………………アレ?

 「そういえば、鬼の総大将は何処?この前都で暴れた分の落とし前はつけさせないと………。」

 俺が誰とは言わずに鬼達に尋ねる。

 「鬼の大将?あ?都に出た?」

 鬼が困惑したようにして答えた内容はとんでもない驚きと衝撃をもたらした。

 「俺達鬼はここ数年、島から出てないが?」

暫し沈黙が続いた。………。島から出ていない?





「そりゃどういう事………だ?」

 あれ?確か、この前鬼の大将が都に出たって言ってたよね?

 「鬼ってのは他に居るか?もしかして僕たちは鬼のグループ違いをしたんじゃ……」

 「何言ってるんだ?基本ワシらの他に鬼は居んぞ?」

 おかしい。

 恐らくここの鬼達は嘘を吐いてはいない。

 しかし、鬼が出たと嘘を流す意味は無い。

 都の治安や威厳を失墜させるそんな噂、流させはしない筈だ。

 じゃぁ………何故だ?




「ッ。オイ桃太郎。俺達、どうも俺達。ふざけた野郎にしてやられてたらしいぞ。クソが!」

キレた浦島が誰かを後ろに連れて出てきた。…………あれは……。

 「乙姫ェ?」

















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