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10章:派手に終わらせに行こう。

長めです。ご注意ください。


 「あれ?乙姫が浦島に惨たらしく殺されていない?生きてるの?何で?」

 うっかり口走る。

 「オイオイ、それだと殺してた方が良いみたいじゃねぇか。浦島、オラ達に説明してくれねぇか?どういうことだ?」

 金太郎も首を傾げる。

 「ここの鬼達、どうもここ数年、この島から出てないらしい。どころか、今までかつて略奪なんぞしたことがねぇ。」

 「え?え?どういう事?だって都に色々出てたじゃん。バリバリ略奪って宝物持ってったじゃん。」

 混乱。どういうことだ?確かに、鬼達は何だかんだ言って悪い奴ではない。

 しかし、宝物を持って行ったというのは……もしかしてデマ?

 「デマではない。確かに宝は地下牢の奥に有った。それは見た。ここの誰かが略奪しに行っていたのは事実だ。」

 「つまり……、どういう事?」

 ここの鬼は誰も都に行っていない。でも都の情報は事実。

 鬼ヶ島と都を往復できたヤツ……。

 「一人、いえ、一匹。それが可能だった人間が居ます。」

 乙姫がここに来て口を開いた。

 「その者は私を捕らえ、鬼ヶ島に幽閉。そして浦島様に致死量の玉手箱を送り、貴方達をここへ連れて来て暴れさせた。その条件を満たすのはただ一人。」

 まさか。

 ここに来て彼女と浦島が何を言いたいか解った。

 乙姫を捕らえるチャンスがあり、玉手箱を浦島に渡して、ここまで俺達を連れてきた。

 オレ達をここに連れてきた張本人。







 「バレましたか。やれやれ。乙姫を始末して、鬼と貴方達が共倒れ。邪魔者が居なくなったところで、都に攻め込んで鬼にその罪を被って貰おうと思ったのですがねぇ。」

何処からともなく亀が現れた。しかし、その印象は先程の様なおどおどした印象では無かった。









「テメェが黒幕……。殺す。」

 「オラもオメエは許せねえ。こんな気の良い奴等を悪者にするだなんて……。ぶん殴ってやる。」

「正体を現せ亀。お前は、何だ?」

 三太郎。揃い組みで身構える。




「ァハハハハハハハハ。英雄三人に睨まれるとは、怖い怖い。」

 口調が変り、肉体も変わっていく。

 甲羅がドロドロと蝋燭の蝋が溶けるが如く、ドロドロ地面に広がっていき、完全に溶け切ると今度はそのドロドロが集まり、新たな形を作り出していった。

 「あぁぁぁあぁぁぁ。亀は辛かったぁ。次からはもっとカッコイイ奴に変化しようっと。」

 新たな形になった亀。否、最早亀ではなくなった。

 「ありゃぁ、まぁまぁ大きくなりまして………。」

 「オラが投げ飛ばしてやる。」

 「人の恋心を弄びやがって……。殺す。」

 意外と浦島が乙姫を思っていたことが解った所で、最終ラウンドを始めるとしよう。

 僕たちの目の前には元亀。現この物語の黒幕。が、居た。




 『正真正銘!最終ラウンドだ!!』

 身体を覆う黒い蛇が何匹も何匹ものたうち回る。

 その身体も肉体ではなく、骨。

 鬼より巨大な、おそらく人や鬼のではない骨に、大木のように太い、黒い、不気味な蛇が巻き付き、絡み合い、立っていた。

 どう見ても只の妖怪変化ではない異様さ、異常さ、禍々しさを纏った、化け物だった。

 「お前、何処の童話の化け物だ?」

 「オラの居た山にはこんなの居なかったぞ!?」

 「知るかよ。殺せばお仕舞だ。」

 三人で取り囲む。が、迂闊に攻められない。

 相手がどんな怪物か解らないからだ。

 「何処の童話の化物ぉ?フハ、ア゛ハハハハハハハハ!」

 喉も無いのに何処からか声が聞こえる。頭の中に幾つもの音が響き重なる。そして、そのどれもが真っ黒な邪悪さを孕んでいた。

 『『『俺は魍魎(もうりょう)(かい)(おう)。俺は何処の童話の出でもない。俺は悪。童話や伝説、御伽噺の結晶。悪人、悪心、醜い欲望、恨み、妬み、嫉み、憎悪、狂気、恐怖…………人間の悪の面の発露。それが俺だ。』』』

 成程。僕達三人が、英雄三人が童話世界の交差で出会ったのなら、

また、

 悪もまた、逆もまた、幾つもの世界の交差で出会うのだ。

 人間の願いが僕達ならば、

 人間の現実は彼等であるのだ。

 人間は身の丈に合わない事を願う。しかし、人間に叶えられない願いもある。

 それらを叶えるべく、英雄は生まれる。人間に出来ない事、不可能と言われたこと。それらを実行し、実現する。人々の願いを託され、不可能を打ち破り、叶える。

それが英雄。

 叶えられない願いが積み重なり、澱のように積もり、重なり、そうして出来上がった、行き場の無い負の感情の結晶。

 願いを叶えたい。しかし、叶えられない。そんな現実によって歪み、叶えた者に嫉妬し、憎み、怒り、妬み、呪い………

 そうして辿り着いた(こたえ)。願いを叶える者の消滅。英雄の消滅。誰も願いが叶わない、願いすら無い世界。

 それがあの魍魎怪皇なのだろう。




『『『さて、お前らを殺して、俺は望みをかなえるとしようか!』』』

 蠢く蛇を更にのたうち回らせながら距離を詰めてくる。

 様子を見たかったが止むを得ない。刀を構えて向かう。

 ピタ。

 怪皇の動きが一瞬止まった。

 「ふざけるなよ?殺す?あろうことか乙姫を監禁して乙姫に化けて俺を殺そうとした奴が『お前らを殺す?』『望みをかなえる?』だと?調子に乗るな。」

 いつの間にか浦島が前に居た。その手に握られた竿から糸が伸び、それは怪皇の身体を縛り付け、今にも表面の蛇を輪切りにせんばかりの勢いで締め付けていた。

 いつの間に糸を縛っていたかは知らないが、流石は浦島太郎。

 竿を両手でしっかり持ち、背負い投げの要領で竿を肩に掛け、思い切り引く!

 蛇は糸で更に締め付けられ、糸の食い込む痕が見え、そこから血が噴き出てくる。

 『『『オォ、………オォォウゥグルゥ』』』

 蛇達が痛みの所為か悶え、抵抗する。怪皇の物と思しき苦悶の声が頭に響く。

 『『『ア、オォ、フ、フフフフフフハハハハハハハハハハ!この程度で俺は死なん!』』』

 骸骨が糸の拘束を無理矢理引き剥がそうと力任せに糸を掴む。その所為で表面の蛇が血だらけになる。シューシューと苦しむ声がして、どんどん蛇が血だらけになる。しかし骸骨はそんな事お構い無し。掴んだ糸を思い切り引っぱり、浦島を竿ごと投げ飛ばした。

 浦島はそんな事になるとは思いもよらず、洞窟の壁に思い切り叩きつけられた……。いや、辛うじて受け身が間に合い、着地に成功するが、衝撃はそのまま。膝を突き、肩でぜぇぜぇ息をする。

 「クソが……。舐めやがって。」

 苦痛に歪みつつ、怒りが見え隠れする。しかし、身体は応えたようで直ぐに次の攻撃に移る様子は無い。

 「今度はオラが相手だ!」

 そんな浦島を遮るように今度は金太郎が怪皇に斬りかかる。

 『斬りかかる』と言ったが、その手に握られたマサカリは超重量級。刃は厚く、「斬る」より「潰す」が近い。それを振り回せるだけの膂力と金太郎の全体重を以て叩き付ける。

 掠っただけで致命傷になるであろう一撃。それを頭目掛けて叩き付ける。

 怪皇は寸前に気付き、腕をマサカリと頭の間に差し入れる。人外の太さの骨と蛇。これが普通のマサカリで使い手が普通の大男ならば不発だっただろう。

 しかし、振るえることが即ち英雄の証になるようなマサカリ。

 加えて怪力の代名詞たる金太郎の一撃。

 それはマサカリの持たない擬音を産み出した。


 ドカン!


 衝突音というより、爆発音。

 怪皇にぶつかった瞬間、洞窟の地面が爆発し、周囲に岩の破片と土煙が飛び散る。

 「ゲホゲホ。どうだ。参ったか!」

 爆発の主が(むせ)ながら勝ち誇る。

 別に金太郎は英雄だが魔法使いではない。今の爆発は純粋に彼がマサカリでぶん殴った衝撃で洞窟の地面まで、岩の地面が衝撃で爆散したのだ。

 隕石が地面に落ちた時のように、巨大すぎる威力は時に打撃を爆発と誤認させる。

 『『『ハハァ、私も流石に肝を冷やしましたよ。金太郎さん。貴様が頼光四天王だとは知っていましたが、ここまでと。成程、化け物退治に化け物をぶつけるとは考えたものです。』』』

 爆心地。人類最高級の怪力の最高の一撃をもろに喰らった場所。

 岩を爆発させるその一撃を喰らったのだ。例え鬼でも無事では済まない。

 しかし、土煙が晴れると、そこには金太郎が首を掴まれ、宙に浮いていた。

 魍魎怪皇の頭蓋骨は無惨に砕け、そこを覆う蛇もつぶれた様になっているだろうと思った。

 無傷だった。

 蛇は血一滴出ておらず、頭蓋にはヒビ一つない。

 金太郎を掴んでいたのは魍魎怪皇。手から伸びた蛇が綱のように伸び、金太郎の首を締め上げていた。

 金太郎は蛇を引き剥がそうとして両の手で蛇を掴み、引き千切ろうとしていたが、抜け出せない。「あの」力自慢の力任せで、抜け出せていない。その力は凄まじいであろう。

 「って、悠長に考えてられるか!」

 抜刀して駆けだす。

 怪皇は獲物を嬲る蛇のように金太郎を宙に持ち上げぶらぶらと吊っていた。

 金太郎は抵抗をしているが、顔が彼の前掛け以上に真っ赤になっている。

 早く助け出さねば。


 「離せこの蛇!」

 ヤケクソとばかりに金太郎を掴んでいる蛇に斬りかかる。

 金太郎の一撃を耐えた蛇がこんな非力な男の一刀で斬れる訳が無いのに。である。

 ブツリ

 意外にもあっさりと斬れた。いや、待て、斬った断面から毒液や強酸が噴き出して…………、という事も無い。

 「ガホ、ガホガホゲホゴホッ!すまねぇ桃太郎。オラも油断した。」

 解放された金太郎が後ろで礼を言う。そちらを見ずに、次の標的となった僕に襲い掛かる蛇を相手に斬りかかる。

 「良いって。お互い、さまっ!」

 意外と簡単に斬れる。さっき目立たなかった分ここで活躍するチャンス!アレは伏線だったか。

 『『『次は桃太郎か。なら……これでは如何でしょう?』』』

 襲い掛かる蛇の数がさっきの倍に増えた。視界が放射状に展開された蛇の弾幕で埋め尽くされる。

 「うわわわわわわ!」

 後ろに下がりながら牙を剥く蛇達を斬る。

数は多くなったが、しかし、それと同時にさっきよりも蛇が鈍くなった気がした。これなら対応できる。

すると、

 ジュ!

 頭を斬った蛇の断面から何かが服に掛かり、溶けた。

 (毒液!嘘!さっきはこんなの無かったのに!)

後ろに下がりつつ毒の掛かった部分の着物を引きちぎる。

 『『『僕の事を忘れていないかい?』』』

 後ろから声が聞こえた。異形の骸骨がいつの間にか後ろに来ていた。しまった!蛇と本体が別々に動ける可能性を失念していた!

 骨の拳が下から上へと抉り取るように飛んでくる。辛うじて刀が間に合い、軌道をそらす。蛇の弾幕に叩き込まれることは阻止できた。が、

 「げぅへぇ!」

 衝撃までもは逃せない。横っ飛びに吹っ飛ばされた。

 「おぅ桃の兄ちゃん。大丈夫か?」

 吹っ飛んだ先には遠巻きに見ていた鬼が居た。何とか僕を受け止めるとそんなことを言ってくれた。

 「ほら、これ飲め。鬼の秘薬だ。」

 そう言って差し出された湯呑を空にする。飲んだ瞬間に体から痛みが消えていく。鬼の秘薬。素晴らしいな。鬼さんの気遣いに感謝だ。

 しかし、流石の鬼もアレにはどう対処していいのか分からないのか、それとも僕たちの攻撃に入れないのか、遠巻きに見ているだけだ。

 まぁ、それは良い。しかし、


 「おかしい………。」

 先程から僕達三人と戦う様子を見ていたが、あの魍魎怪皇という化物には違和感がある。

 それは一貫性だった。

 大概の怪物化物異形の者には一貫性がある。(人間でもそうだったりするが。)

 例えば刀を弾く怪物は刀を弾く。

 毒でも盛ったり、妖刀でも持ってこない限り、それは一貫して同じ。つまり、特徴や特性が一貫するのだ。

 しかし、アイツにはそういった一貫性が無かった。


 最初の浦島の糸。あれの時は蛇は確かに斬りつけられていた。傷付いていた。

 しかし、金太郎の一撃を喰らった時、蛇には傷は一つとして無かった。


 金太郎を庇って蛇を叩き斬った時、蛇から毒液が出る事は無かった。そんな考えは杞憂だった。

 しかし、その後、蛇が倍に増えた時、毒液が出た。そして、前より鈍くなった。




 「クソが!」

 またしても浦島が糸で拘束を試みる。今度はいつの間にか幾つもの糸を怪皇に巻き付け、その端を幾つかの場所に結び付けていた。蜘蛛の巣に絡め捕られたようになり、怪皇がまるで糸のダルマだ。

 「死ねや。」

 竿から伸びる糸を足で踏みつけ縛り斬ろうとする。

 『『『無駄だって言ってんのにさぁ。』』』

 蛇達が蜘蛛の子を散らすように散り散りになる。骨もバラバラになり、蛇達が骨をそれぞれ持ち去る。

 糸の拘束をバラバラに抜けたかと思うと浦島を蛇達が取り囲み始めた。

 「クソ!」

 足元が蛇の大群で上手く動けていない。

 次の瞬間。

 『『『足元がお留守だよぉ。ホラホラホラァ。』』』

 足元から怪皇が拳を突き出した。

 「ざけんな!」

 拳に怯む事無く釣り糸の先の重りを頭蓋に叩き込む。

 ビキッ。

 重りが頭蓋に当たり、ほんの少しだが、ヒビが入る。さっきは金太郎の一撃に耐えた頭蓋が只の重りに砕かれた。

 どうしてだ?

 さっきの一撃で砕けやすくなっていた?違うな。それだと他の説明は出来ない。

 おそらくこれは同じ現象なのだろう。直感でそう感じる。しかし、分からない。何故だ?

 考えろ。何かが引っかかっている。そしてそれはもう直ぐ答えになりそうだ。

 魍魎怪皇。おとぎ話や童話の暗い、闇の部分を集めた存在。

 彼と僕達は真逆。

 童話の交差点…………。

嗚呼そうか。馬鹿だな。僕達は。

今まで僕たちがやっていたのは独りで闘うだけ。

彼は、アレは、幾つもの世界の澱なのだ。

 幾つもの世界の闇が積もって出来た、集合体があの魍魎怪皇。

 一つの世界の英雄が越えられるものではない。

 「金太郎、浦島。手伝ってくれ!」

 「オォ、解った。」

 「ッ。良いぜ。」

 浦島、金太郎共に了解。さぁ、三人掛かりで……、否、違うな。

 「鬼ヶ島に居る皆!力貸してくれぇ!」

 洞窟に反響する僕の声。ざわざわと鬼達が騒ぎ出す。

 彼らもどうすれば良いかと躊躇ってはいたが、意志が無い訳では無かった。

 これは僕達全員の抱える、越えるべき問題。

 そもそも相反するからという理由で英雄だけ働く理由などそもそもない。

 皆で越える。




 「野郎共ぉー!鬼の力を見せてやれ!お前達鬼がこの程度の化け物相手にあたふたすんな!鬼見せたれ!」

 発破をかける。

 「オイオイオイオイ!兄ちゃんよぉ、鬼を見せろぉ?良いのかぁ俺達鬼見せてぇ。鬼になっちまうぜェ。」

 「俺の金棒が唸るぜ!」

 「お前何言ってんだ!」

 「鬼の真髄見せてやるぜ!」

 ガヤガヤ、鬼達は金棒を持って魍魎怪皇目掛けて突撃を始めた。

 「オラァ!」

 「死ねやぁ!」

 「よいしょぉ!」

 浦島が体を縛り上げ、僕が逃げた蛇を斬り、隙あらば金太郎が一撃。そうしている間に鬼達が金棒をあちこちから捻じ込む。

 『『『お、お前ら(貴様ら)【君達】卑怯だぞ!!』』』

 魍魎怪皇も流石にこの数の暴力には辟易しているようだ。

 必死に蛇達を総動員して鬼達をけん制。僕達を本体で叩こうとしているが、三百の鬼と三太郎相手に一人では荷が勝ちすぎている

 「そもそも、童話の世界に卑怯なんて無い!それに、困難に一人で打ち勝たねばならないなんて誰も言ってないんだ。構わんだろうが!」

 総動員していた蛇が金棒で潰され、本体の異形の骸も少しずつ削り取られている。

 『『『テメェ(お前)【クソ野郎】許されると思うな。俺(僕)〈私〉はまだまだいル。復活ナんて必ようナインだ。直ぐ戻ってクルゾくびアラッテmてろ……』』』

 骸が風に消えて行った。












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