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終わりと始まりのプロローグ
また、今日もずれている───
目覚めた瞬間、則野奉太はそう思い近くにある目覚まし時計を止めた。手には昨日自慰をした際に精液を拭き取ったティッシュが握り込められていた。それをゴミ箱目掛けてポイと投げ捨てた。だが、ゴミ箱の縁をかすめただけで入ることは無かった。
時計に四時二十分の時刻を確かめ、そろそろとベッドから抜け出す。窓の外はまだ暗い。
ベッドに机、車のカタログ本と学校の教材。乱雑に置いてある自室も夜を引きずって静まり返っている。
暗闇の中、制服に着替え、電気もつけずに床に降りた則野は忍び足で洗面所に向かった。身支度を終えてから洗面所を覗き込む。
死んだ魚の様な瞳、人間とは思えないほど成長した前歯、そしてキウイの皮の様にうっすらと生えた産毛。顔が気色が悪い15歳の男、奇天烈を絵に書いた自分の顔を前にして、『ずれている』と訴える感覚が再び頭を蝕んだが、それも着たきりの学ランの上着を羽織るまでのことだった。それを、着ると彼は定まらない足で学校へと向かっていった。