輪廻
人間、誰しも無に帰るときは、平等である。それは、仏教でもキリスト教でも、説かれていることだ。神の前では、平等。そのはずだった。
俺は、産婆にへその緒で絞殺された。この世に生を受けて、わずか数十秒の出来事であった。
だが、そんなことは、死んでしまった今どうでもよいことだ。こんな俺でも、仏教にはすがりたい。「神の前では平等。」俺は、この言葉に希望を見出していた。
「やっと、平等に扱ってもらえる。」
俺は、前世でも前々世でも虫けらよりもひどい扱いを受けていた。そこから解放されるわけだ。楽しみでないというほうがおかしい。天国の扉が今目の前にある。これをくぐれば、俺は天国か地獄に行くのだろう。地獄に行こうと、どこだろうと、現世よりマシだろう。
「さっさと、行くか。
と独り言ちながら、扉をくぐろうとしたとき、
「はい、止まってねぇ」
門番らしき人型の何かが、俺を引き留める。
「えぇっと、前歯族…前歯族…うーん…君ね、人間じゃないでしょ?ちょっと処遇がわからないから、とりあえず、もっかい転生してきて」
考えるより先に言葉が俺の口から飛び出した。
「はぁ!?おい何言ってんだ!もう生きるのはたくさんだ!やめてくれ!入れてくれ!頼むよぉ…」
門番はそんな俺を一瞥して、現世へ叩き落した。