黎明期
俺は、死んだ。思っていた異世界転生ではなかった。行った瞬間にあの顎の長い生物に剣で殺された。一体あれは何だったのか。何かを通り過ぎて、むしろ笑えてくる。「一体どこにあんな死に方をする異世界転生の主人公がいるのだ」と…。
消えていく意識の中で、俺は考えていた。転生前に俺は、つらい現実から逃げるために自ら首を吊った。生きることが嫌だったのに、訳も分からず転生し、新しい世界に飛ばされた。「ここで生きるのか?」と、重いものが背中に圧し掛かるのを感じた。環境が変わっただけで、生きようなどとは思わない。だから、これでよかったのかもしれない。このまま生きるのはごめんだ。生まれ変わるのなら、記憶を新しくして、イケメンで運動神経抜群でお金持ちの家に生まれたい。そんなことを考えて、いるうちに俺の目線は縦に360°回転していた。ふと首のない自分の体が見えた。血があたりを赤く染めている。痛みは不思議と感じなかった。
いや、痛みなんて感じるはずがなかった。ここは、異世界でもない。死後の世界でもない。そうだここは…ドコダ。イシキガ…。ココハ、ドコダ。アツクナイ。サムクナイ。シニタイ。ハヤク、ハヤク、ハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤク
がらりと、すべてが変わった。今まで見ていた景色は、消え失せ。考えもまとめれない意識もはっきりとしたものになっていた。しかし、何も感じない。感じるのは無だ。あるのは意識だけだ。確かに俺は二度死んだが、これが死後の世界なのか、二度目の異世界なのかはわからない。記憶だけはしっかりしていた。生きたくないという感情もまだ健在だった。不安も何もなく、むしろ何かに包まれているようで安心できた。時間の感覚もなく、このおかしな空間に来てから一秒しか経ってないのか何千万年経ってしまったのかも分からない。そんなことを考えていると、だんだんと自分の形が分かるようになっていた。どれだけ経ったか分からないが、次第に光やコポコポという音が聞こえるようになった。
皮膚の感覚も戻り、状況が飲み込めないが、何かに包まれたままただじっとするしかなかった。じっとしていた。ただじっとしていた。何もすることがないが、暇だと感じたこともない。時間がどれくらいのスピードで流れているかはわからなかった。
気が付くと、俺の周りからぬくもりが消え、俺は大声で泣いていた。