その1 静かで暇な休日
露天風呂工事が終わって建築クラブの面々が去って行った。
そして畑の作物を一通り植え替えた小坂井先輩も帰省。
ついでに摩耶先輩も帰省した。
イライザ先輩とアンドレア先輩は燻製装置を作成した後、バイクで何処かへ旅に出ている。
更に昨日、真理枝さんも、
「世間の夏休みはもう終わりだから電車も空いているしね」
と言って奈良の実家へ帰っていった。
そんな訳であれよあれよと人数が少なくなり、気がつけば亜理寿さんと美鈴さんとの三人状態。
なお亜理寿さんは帰省の予定は無いそうだ。
そんな訳で今日の朝食は三人だけ。
「それにしてもここまで静かなの、久しぶりだな」
思わずそう言ってしまった僕の台詞に亜理寿さんが笑っている。
「元々私は人付き合いが得意で無いし、一人のほうが好きだった筈なのですけれど。今では静かすぎて物足りないなんて思ってしまうのが不思議です」
そんな亜理寿さんの台詞に思う。
亜理寿さんにとってはそれは悪い変化では無いんだろうなと。
口に出しては言えないけれど。
だから代わりにこう口にする。
「賑やか担当がいないからな。でも僕もそう思わないでもないな。露天風呂が出来た当初は皆さん酷い格好でうろうろするし勘弁してくれと思ったけれど」
いくら湯上がりで暑いからと言ってノーブラTシャツに短パンでその辺をうろうろしないで欲しい。
特に問題は真理枝さん、イライザ先輩、アンドレア先輩。
この三人は体型が決して慎ましやかでない。
そのくせ人一倍ラフな格好をしまくる。
特に真理枝さん!
『自分の家だから問題無い』という理由でTシャツパンツ姿で歩かないでくれ!
ちなみにこの場合のパンツとはズボンの意味では無い。
「文明さんでもやっぱり気になりますか」
「気になるというか勘弁してくれというか」
亜理寿さんは小さく笑う。
「その辺の感じ方が文明さんですね」
「しょうがないだろ、多勢に無勢だしさ」
「確かに多勢に無勢ですね、いつもは」
「たまには静かなのも悪くない、とりあえずそう思うことにするよ」
「そうですね。それにこの三人の時期もありましたし」
「真理枝さんが来て賑やかになる前だよな」
美鈴さんも頷いている。
「今日は小坂井さんの畑に水をやって、あとはどうしましょうか」
いつもは何も考えなくても色々やることがあるから、こう静かでやる事が無いと妙に落ち着かない。
でも待てよ、こういう機会だからこそ出来る事があるな。
「折角静かで何もないからさ。今日は特に何もしないでだらだらするのを楽しもうじゃないか。何かやりたい事があったらやればいいし、そうで無ければだらだらして」
「何もしないを楽しむ、ですか。ちょっと難しいかもしれないです」
「別に何もしないを意識する必要は無いだろ。本を読んでもいいし、ネットを漁ってもいいしさ」
美鈴さんが小さく頷くのが見えた。
「それもまたいいかもしれない、そう美鈴さんが言っています」
「何なら美鈴さんも家事を久々に休んでさ。ご飯なんて最悪スーパーで惣菜買ってくればいい。たまにはそういうのもいいだろ」
「そうですね」
「まあ最初は小坂井さんの畑に水をやってからだけれどさ」
そんな訳で久しぶりに静かで何にもしない一日がスタートした。




