その4 思い出になるまでに
家に帰ると宴会は片付けがもう終わっている状態だった。
まあ宴会は毎回午後八時に終わるのでそんなものだろう。
こんな風にこの場所もあっさり終わるのかな。
ちょっと虚無的な感じに思いながらリビングの扉を開ける。
家や寮に帰る皆さんもいなくなっていて、残っているのは本来の居住者と摩耶先輩小坂井先輩だけ。
ただ何か微妙に盛り上がっている様子だ。
「ただいま、なにをやっているの」
「美鈴さんの過去を問い詰め中」
と真理枝さん。
何だそれは。
「いやね、お父さんと美鈴さんが何かいい感じだったからね。何があったのか問い詰めているところ」
何だそれは、と言いたいが思い当たる事も色々ある。
父も初恋は美鈴さんだったと事実上認めていたし。
「それで美鈴さんの方の回答は」
「今のところなかなか渋い答しか出てこないの」
「あの子はここの最後の子供だと思っていた。そういう意味で特別な存在ではあったのは間違いない。今のところはそんな感じです」
なるほど。
美鈴さんがまた何か言った模様。
「ただそういう意味では私はここで過ごした全部の子供の事を憶えている。月日が過ぎ去っても思い出は無くならない」
亜理寿さんが僕に美鈴さんの台詞を教えてくれる。
「さっきからこんな感じなのよ。誰が特別とか何か特別な思い出で何が一番心に残っているかと聞いているんだけれど」
「誰ともそれぞれ特別な思い出はある。ただどれが一番とは今は言えない。進とのここでの物語は今日の出来事でほぼ終わりかもしれない。でもまだ文明やここの皆との物語ははじまったばかりだ。だから一番の思い出というのはまだ決められない」
「こんな感じで一般論に逃げられてしまうのよ」
真理枝さんはそう言って肩をすくめる。
でも今の僕には美鈴さんの言葉が妙に心に響いた。
思い出は無くならない。
物語は始まったばかり。
そうか、そうだよな。
まだ僕らのここでの物語は始まったばかりなのだ。
終わりに怯えるには早すぎる。
それまでにまだまだ色々やるべき事があるだろう。
何時か思い出になる日までに。
さて、気を取り直して、真理枝さんの為に少しだけ燃料を投下してやろうか。
「父の初恋の人は美鈴さんだったらしいですよ」
途端に元気になる一部の皆さん。
「やっぱりそうなんだ。そんな雰囲気があったもんね。それで美鈴さんとしてはどうなの?」
「そういう事もあったかもしれないと言っています」
「そうじゃなくて美鈴さんはその時どう思ったか聞いているの」
「座敷童は普通の人間と時間観念が違うと言っています」
「それとこれとは話が別でしょ」
真理枝さん、攻める攻める。
「一般論で言うと、人間と違う時間で生きている妖怪は……」
「一般論じゃ無くて、美鈴さんとお父さんの……」
何か美鈴さん、真理枝さんに押されているな。
こういう美鈴さんも珍しいなと思いつつ、明日はどうしようかなと考える。
まあどうせ今考えなくても色々何かあるだろうけれど。
今は此処で出来る事を思い切り楽しもう。
まずはそれからだ。




