偏屈者
黒い喪服を身にまとい、建物の入り口に立つ。
周りには何かと同様の格好をした者が多い。
それもそのはず、そこは葬儀所だから仕方がない。
他人と同じ物、流行物が大の嫌いの某にとっては居心地が悪いのこの上ない。
他人が黒と言えば白と言わないと気がすまない偏屈者だ。
葬儀所に足を踏み入れ、そそくさと前に進む。
陰にこもるこの建物から一時でも早く抜け出したいと思えばこそだ。
偏屈者ゆえか臆病者ゆえか死というものにあまり関わりたくなかった。
何故、人は死をこれまで美しく見せようとするのかどうも合点がいかない。
単に死んだのだから死んだでさっさと棺桶に入れてお墓に入れてしまえばいいのに・・・
これも偏屈者ゆえの歪んだ思考なのかと我ながら感心しながら、喪服の列に身を委ねた。
例のごとく、喪服の女性はハンカチを目頭にあて、喪服の男子は呆然と立ち尽くしていた。それに反比例するごとく小学生らしき子供たちが嬉声を発して走り回っていた。
この風景を見るとますます死の意味が不明になった。
この風景を見たからか何故か一向に悲壮感が沸いてこない。
うつむいていた視線を故人の遺影に目を向けた。
「この人は誰だ?」
確か偲ぶのは女性のはずなのに遺影はどうみても男性。
まったくの赤の他人。
やはり偏屈者ゆえにこうなるのかと首をかしげながら場所を変えた。




