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短編

不幸のゾンビ

作者: 神通百力

 辺りが暗くなり始めた頃を見計らい、私は外出した。この時間帯になると、車の交通量が少なくなるとはいえ、まったく通らないわけではない。安全面を考慮してガードレールの内側を歩くことにした。

 辺りを見回すと、私の他に誰もいなかった。もう少し早く外出するべきだったかもしれない。不安な気持ちになったが、まだ外出したばかりだ。一人くらいは出歩いているかもしれない。そうでなくては困る。

 突き当りに差し掛かると、ガードレールの内側に設置されたカーブミラーを見上げる。カーブミラーには()()()()()()()()()()()が映っている。私はゾンビ化していた。

 昼間に急に現れたゾンビに噛まれたのだ。そのゾンビが言うには一週間以内に七人の人間をゾンビにしなければ二度と人間に戻ることはできないらしい。何とも親切なゾンビである。

 昼間だと人の目が多く、人間を襲うのは難しい。もし警察に通報されたら一巻の終わりだ。自我がある以上、大勢で来られたら委縮してしまう。そこで人通りが少なくなる夜に襲うことにしたのだ。

 突き当りを曲がると、女性の後姿が見えた。女性なら私でも何とか襲えるかもしれない。申し訳なく思いつつも、私は後ろから女性に襲いかかった。気配を感じたのか、女性は避けると、私を一本背負いで投げ飛ばした。背中から地面に叩きつけられ、すぐには起き上がれなかった。今の動きを見ると、格闘技を習っていたのだろう。

 女性は私の顔を見るや否や悲鳴をあげて逃げ出した。涙目になっていたが、泣きたいのは私の方だ。ゾンビにできなかったんだから。ゆっくり起き上がると、背中の汚れを払い、ため息をついた。

 その後も誰かいないかと探し回ったが、その日は結局、誰もゾンビにできなかった。一週間以内に七人の人間をゾンビにしなければならないというのに。


 ☆☆


 翌日、私は昼間に外出した。騒がれないように、帽子を深くかぶり、マスクも装着する。昨日の失敗を反省し、年寄りを襲うことにした。年寄りならば、すぐには反応できず、簡単に襲えるはずだ。

 腰の曲がったおばあちゃんを見つけ、こっそりと後をつけた。今は大勢の人がいるから、襲うのは危険だ。路地に入るタイミングを見計らい、襲い掛かることにしよう。

 おばあちゃんは歩道橋の階段を上ろうとしていたが、荷物が重いのか、すぐに足を止めてしまった。私は慌てておばあちゃんのもとに駆け寄ると、荷物を持ってあげた。

「おばあちゃん、階段上れる? おんぶしようか?」

「お言葉に甘えさせてもらおうかね」

 おばあちゃんはそう言うと、私の背中にゆっくりと乗ってくる。私はしっかりとおばあちゃんを支えながら、階段を上った。歩道橋を渡り、階段を下りると、おばあちゃんを降ろした。

「家はこの辺りにあるの? もし遠いなら、そこまで荷物を持っていこうか?」

「悪いね、お嬢ちゃん」

 おばあちゃんは申し訳なさそうに頭を下げつつも、ゆっくりと歩き始めた。私はおばあちゃんの歩幅に合わせて歩いた。おばあちゃんの家にはものの五分ほどで着いた。近いところに家はあったが、おばあちゃんの体力面を考えると、この距離でも遠いのかもしれない。

「ありがとうね、お嬢ちゃん」

 おばあちゃんは深く頭を下げると、家の中に入っていった。

 私は清々しい気分で家に帰ろうとした。その時になって自分の失態に気付いた。襲おうとしておばあちゃんの後をつけたというのに、私はいったい何をしているのだろうか? でも、良いことをしたから後悔はしていない。

 それに襲ったりしたら、相手はゾンビになってしまう。私は人間に戻れる可能性が出てくる。けれど、襲われた人は恐怖を味わうことになる。もし一週間以内に七人の人間をゾンビにできなかったらという恐怖を。

 そう考えると、人を襲わずにゾンビのまま過ごした方がいいかもしれない。人間に戻れないのは寂しいが、誰かを不幸に陥れるよりはマシだ。

 私は決意を固くし、家に帰った。


 ☆☆


 それから半年以上が経過し、私は体を動かすことができなくなった。両足は完全に腐敗し、歩くことができない。両腕も肘から先が腐敗し、床には前腕部の残骸が散らばっている。体中の皮膚も剥がれ落ち、穴が空いている。

 私は朦朧とする意識の中、辺りを見回した。大量のハエが体に止まっていた。死臭が原因で集まってきたのだろう。この体ももう長くはないということか。

 自分の右目が落下するのを左目で確認しながら、私の意識は――闇に消えた。

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