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ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜  作者: オリーブドラブ
断章 疾風のスティールソード
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第4話 理由の「格」


 王国騎士の証である鋼鉄の鎧を纏い、真紅のマフラーを靡かせている黒髪の青年――ダタッツ。鋼鉄の剣と盾を携えた彼は、ラフィノヴァ達を庇うようにゼオドロスと相対している。


「なんだ……貴様は。部外者は引っ込んでいろ。これは俺とラフィノヴァ殿の決闘だ」


 一方。ゼオドロスは彼を単なる邪魔者だとしか思っておらず、鬱陶しげに眉を顰めていた。斧槍を地面に突き立て、鋭い眼光でダタッツを見下ろしている彼は、その逞しい巨躯から悍ましいほどの殺気を放っている。にも拘らず、彼の気迫を前にしているダタッツは涼しげな佇まいで目を細めていた。


「部外者? 記念受験とはいえ、ジブンもこの入団試験の参加者だ。仲間外れはやめてもらいたい」

「入団試験だと……? 笑止。貴様、一体今の勝負の何を見ていたのだ? 入団試験などという茶番はとうに終わっているのだよ。その鎧を壊してしまうのは俺としても寝覚が悪い。怪我をする前にさっさと失せろ」

「……ッ」


 ダタッツの言葉を嘲笑うゼオドロスは、ラフィノヴァが主催した今回の入団試験を「茶番」と切り捨てる。母国の国防を憂いての試験を、かつての戦友に貶されてしまったラフィノヴァは、悔しげに唇を噛み締めていた。杖代わりの両手剣を掴んでいる白く優美な手指が、屈辱に打ち震えている。


「……茶番? なぜそれをあなたが決める。主催者の団長を差し置いて……何の権利があってあなたがそれを決め付ける」


 そんなラフィノヴァの様子を肩越しに一瞥したダタッツは、僅かに眉を釣り上げる。静かに怒気を露わにした彼は、ゆっくりと腰の鞘に手を掛けている。ダタッツの言葉を鼻で笑うゼオドロスは、文字通りに彼を見下していた。


「分からないか? たった今、この俺が勝利したからだ。どのような正義も道理も捩じ伏せる、純粋なる暴力によってな」

「……そうか。何事も暴力で通す。それがあなたのルールだというのなら……ジブンも、そのルールに則ってジブンの主張を通すとしよう」


 「暴力」の前には「道理」など無意味と豪語するゼオドロスは、自ら対話を放棄している。そんな彼の意思を確認したダタッツも、これ以上の問答は無用と判断したのか、腰の鞘に納められた剣の柄を握り締めていた。


「ま、待て! これは私達の問題なのだ、君まで彼と戦わせるわけには……!」

「ん……? 貴様……その黒髪、どこかで……」

「……」


 その背中に手を伸ばすラフィノヴァが声を上げた瞬間。ダタッツの黒髪と顔立ちに「既視感」を覚えたゼオドロスは、笑みを消して彼の姿を凝視する。そんな彼の様子を静観しているダタッツは、「六年前」を想起させる鋭い眼で相手を見据えていた。


「――!? き、貴様は……! 何故貴様が王国騎士の鎧を……!?」


 それから間も無く。ゼオドロスは目の前に居る青年の「正体」に気付き、ただの見学者ではなかったことを悟る。

 驚愕の表情でわなわなと全身を震わせるゼオドロスは、万感の思いを込めた眼差しで眼前のダタッツを射抜いていた。そんな彼の異変を他所に、女騎士達はダタッツの身を案じて下がらせようとしている。


「団長の言う通りよ、あなたは下がって! 危ないわ!」

「その鎧を着てるっていうことは、きっと王国出身の剣士なのでしょう!? なら、先の戦争で名を馳せたゼオドロス殿の強さは承知のはず!」

「いくら同じ元王国騎士だからって、あなたじゃ無理よ! 彼は私達で抑えるから、あなたは安全なところで……!」


 口々にダタッツを止めようとする女騎士達は、専用軽装(ビキニアーマー)から溢れ落ちそうな巨乳と豊満な臀部を揺らしながら、懸命に彼を守ろうとしていた。しかしそんな彼女達の言葉を遮るように、ゼオドロスが突然高らかに笑い声を上げる。


「……ふははははははっ! 生きていたという風の噂は耳にしていたが……よもやこの聖国で貴様に会えるとはな! これ以上の僥倖はない! 良かろう、相手にとって不足無しだ!」

「なっ……!?」

「それってどういうッ……!?」


 先ほどまでダタッツのことを歯牙にも掛けていなかったゼオドロスは突然、人が変わったように彼との決闘を受諾した。その急変に女騎士達が動揺する中、ゼオドロスは追い求めていた「仇敵」との「再会」に喜び、独り打ち震えている。


(王国騎士の鎧を着ていれば……この俺が僅かでも躊躇うと思ったか? 生憎だが、俺はすでに王国を捨てた身。その鎧を斬ることなど造作もないのだよ……帝国勇者!)


 王国騎士の鎧を着て自分の前に現れたダタッツこと、帝国勇者。彼の装備を悪趣味な「人質」と解釈していたゼオドロスは、躊躇の二文字を感じさせない獰猛な眼差しでダタッツの双眸を射抜いている。彼の手にある斧槍の切先は、陽の光を浴びて妖しい輝きを放っていた。


「俺の前に現れた以上、生きてここを出られるとは思わないことだな。言っておくが先ほどの半月天舞など、ほんの戯れに過ぎん。貴様にくれてやる一撃は、文字通りの必殺。手加減は無しだ!」

「な、何ですって……!?」

「ラフィノヴァ団長を吹っ飛ばした今の技が、戯れって……!?」

「はっ……はったりよはったり! いくらなんでも、あれ以上の威力なんて……!」

「……」


 ダタッツとの対決に臨むゼオドロスは、腰を落とした低い姿勢で再び斧槍を後方下段に構え始めている。ラフィノヴァと対峙した時よりも、明らかに大きく「力」を込めている体勢だ。その構えからゼオドロスの「本気」を感じ取った女騎士達は、自分達の団長(ラフィノヴァ)を吹き飛ばした大技ですら「戯れ」の範疇に過ぎなかったことを悟り、戦慄していた。

 いくら口先で強がろうとも、彼女達の第六感は警鐘を鳴らし続けている。引き攣った貌と柔肌を伝う冷や汗が、真実を物語っている。この覇気を纏った一撃の威力が、はったりであるはずがないのだと。


「やめろゼオドロス殿! 六年前の戦争はもう終わっているんだ! これ以上あの戦いに囚われていては、今度こそ取り返しが付かなくなるぞ! 貴殿の方こそ、騎士の誇りを取り戻してくれ!」

「だ、団長……!? 一体何を……!?」

「……屈辱に塗れたまま敗者の身分に甘んじる。それを騎士の誇りと呼ぶのなら、そんなものは豚の餌にも値しない。俺は俺の正義のみを完遂する!」


 ゼオドロスと同じくダタッツの正体に気付いているラフィノヴァは、ゼオドロスがこの一戦に見出した動機を察し、懸命に制止を呼び掛けている。

 しかし望外の「報復」を果たせる絶好の機会を前にしたゼオドロスは、全く聞く耳を持たない。この決闘の内情に気付いていない女騎士達は、ラフィノヴァの言葉に困惑した様子で双方を交互に見遣っている。


「騎士の誇り……か。ラフィノヴァ団長、あなたのような人がこの国に居ると知れて……本当に良かった。『見学』に来た甲斐がありました」

「な、なに……!?」

「あなたのような人が守っているこの国は……きっと大丈夫だ。これでジブンも心置きなく、この地を去って帝国に行ける」


 この混乱の中。ラフィノヴァの言葉に微笑を溢したダタッツは、優しげな眼差しで彼女を一瞥している。彼からの思いがけない言葉に目を剥くラフィノヴァは、困惑した様子で青年の背中を見守っていた。やがてゼオドロスの方へと向き直ったダタッツは、腰の鞘から鋼鉄の剣を引き抜き、臨戦体勢を見せる。


「ふっ……まるで、今の俺など相手にならない……とでも言いたげだな。生憎だが、貴様が帝国に凱旋(・・)する日は永遠に訪れんのだよ。その前にここで死ぬのだからな!」

「……そう思うのなら、さっさと仕掛けて来い。お望み通り、あなたの技……受けて立つ」


 最も自分の手で殺したいと願っていた帝国勇者との対決。その絶好のシチュエーションに狂喜しているゼオドロスに対し、かつてその名で呼ばれていたダタッツは冷ややかな佇まいで盾を構え始めていた。

 王国騎士団の汎用装備である、鋼鉄の盾。そのありふれた防具を前にしたゼオドロスは、先ほどまでの笑みを消して鋭い眼光をダタッツに向けていた。こめかみに青筋を浮き立たせている彼は、全身の血管を膨張させながら斧槍の柄を握り締めている。


「その盾一つで俺の半月天舞を受け止めるつもりか? どこまでも舐め腐りおって……!」

「……」

「俺はこの六年間、貴様への憎しみだけを糧にこの技を練り上げて来たのだ! 貴様の死が報じられてからもな! 今の俺なら、あの頃のルーク団長よりも……アイラックス将軍よりも強いッ!」

「……違うな。今のあなたでは、あの二人はおろか……ラフィノヴァ団長にも遠く及ばない。守るべきものを背にしていた彼らにあった、『覚悟』が足りていない」


 六年前の戦争では相手にすらされなかった帝国勇者との直接対決。その一世一代の決闘に臨むゼオドロスは、己の成長を誇示するかのように吼え続けている。

 一方、ダタッツは盾を構えた姿勢のまま、ゼオドロスの歪な成長を真っ向から否定している。独り善がりな報復心に溺れた彼では、その精神性においてはラフィノヴァ団長にも遠く及ばないのだと。


「ゼオドロス殿、よせぇッ!」

「世迷言もそこまでだッ! 王国式闘槍術ッ――半月天舞ッ!」


 戦後の六年間を報復という野望に捧げて来たゼオドロスにとって、ダタッツの言葉は何よりも耐え難い侮辱だったのだろう。怒りに溺れた獰猛な羅刹に堕ちた彼は、ラフィノヴァの制止を振り切りダタッツとの一騎打ちに臨む。


「……ッ!」


 ダタッツが鋭く目を細めて盾を構えた瞬間、ゼオドロスは渾身の力を込めた逆袈裟斬りを繰り出して来た。先ほどの一閃を遥かに凌ぐ威力で振り抜かれた斧槍の切先。その大きな刃が、下方から抉り込むようにダタッツの盾に炸裂する。


 その衝撃による轟音と大気を揺るがす波紋は、大砲での砲撃による爆音と爆風すらも遥かに凌駕していた。宣言通り、ラフィノヴァに向けて繰り出した「小手調べ」とは比べ物にならない威力だったのである。


 次の瞬間。最大火力の半月天舞を受けたダタッツの身体は、盾で防御していながら衝撃を受け止め切れず、ラフィノヴァと同様に天高く打ち上げられてしまうのだった。

 彼の身体が達した高度は、ラフィノヴァのそれを大きく上回っている。ダタッツは王城よりもさらに高く、空の彼方にまで吹き飛ばされていた。直撃を受けたことによって発生した回転力も凄まじく、彼の身体は竜巻の如き勢いで円を描き続けている。


「ちょ、ちょっと……!? やり過ぎって次元じゃないでしょアレッ!」

「信じたくはなかったけど……さっきの言葉、本当だったのね……! アイツ、ラフィノヴァ団長の時は本当に手加減して……!」

「くッ……! こうなったら我々で受け止めるしかない! お前達、手を貸してくれ!」

「……了解ッ!」


 先ほど半月天舞を受けたラフィノヴァ自身も、身体を張って彼女を救った女騎士達も、ダタッツが受けた技の威力が先刻の倍以上であることを肌で悟っていた。

 焦燥の表情で空を仰ぐラフィノヴァ達は、乳房を揺らして動き出している。再び武器を捨てた彼女達は総出で、上空から落下して来るダタッツを受け止めようとしていた。


(……終わりだ、帝国勇者。あの勢いの回転ならば受け身など不可能。ラフィノヴァ殿が受け止めようとしたところで、弾き飛ばされるのが関の山。脳天から地獄に堕ちるがいい)


 一方。冷酷な微笑を浮かべて上空を見上げているゼオドロスは、決着は付いたと言わんばかりに斧槍を下ろしていた。ラフィノヴァ達の助太刀など無意味であると確信している彼は、踵を返そうとしている。


「……!?」


 だが、次の瞬間。空中で激しく回転させられながらも、鋭い眼差しでこちらを見下ろしているダタッツと目が合う。

 彼は半月天舞を受けた直後でありながら、数多の敵を打ち倒してきた「帝国式投剣術ていこくしきとうけんじゅつ」を繰り出す構えを見せていた。六年前の戦争を想起させるその姿に、ゼオドロスは思わず足を止めて瞠目する。


(その体勢のまま相討ち覚悟で仕掛けて来るつもりか……!? 文字通り見上げた根性だが、貴様の技は六年前に拝見済みだ! 帝国式投剣術はもはや『必殺技』には値しない! ルーク団長とアイラックス将軍を倒したあの技を……この俺が破って見せる!)


 驚愕の表情はすぐに、不敵な笑みに変貌した。今の自分が偉大な騎士達を超えていることを証明するべく、ゼオドロスはその場に留まり斧槍での防御体勢を取る。

 六年前のあの戦場で、ルーク団長を討ち、アイラックス将軍を撃退した帝国式投剣術。その悪夢の技を、自分の手で打ち破れる高揚感。その歓びに打ち震えるゼオドロスは、狂喜の笑みを剥き出しにしていた。


 一方。鋭い表情でゼオドロスを見下ろしているダタッツは、マフラーを激しく靡かせながら鋼鉄の剣を握り締め、空中で大きく腰を捻り始めていた。


(月を描くような月鋭剣の太刀筋。半月天舞の威力を生み出した遠心力。そして……この回転力! 全て学ばせて貰った!)


 彼の脳裏に過るのは、ラフィノヴァが繰り出していた月鋭剣の軌道。半月天舞の尋常ならざる威力を生み出していた、斧槍の遠心力。そして、今の自分を苦しめている回転力。それら全てを己の糧として吸収し、彼は鋼鉄の剣を打ち出そうとしている。


「……ぉおおぉおッ!」


 遠心力を高めるために、柄の端だけを握り締めて。月鋭剣の軌道で剣を振りつつ、さらに自ら身体を捻って回転力を高めて行く。目にも留まらぬ速度で猛回転するダタッツは、指先に込めた超人的な握力で剣を固定し、最大限まで技の威力を練り上げていた。


帝国式(ていこくしき)……対地投剣術(たいちとうけんじゅつ)!」

「……ッ!?」

飛剣風(ひけんぷう)疾風(はやて)』!」


 これから繰り出される技は、ただの帝国式投剣術ではない。その事実をゼオドロスが悟るよりも疾く。ダタッツは竜巻と化した己の手から、鋼鉄の剣を撃ち放つのだった。


「ごは、ぁッ……!?」


 瞬く間、ですらなかった。ダタッツが剣を手放す瞬間を目にしたゼオドロスは、鎧の胸部に受けた異次元の衝撃に目を剥き、思わず数歩下がってしまう。何が起きたのかも分からないまま、彼は両脚を震わせていた。


(な……なん、だ……!? 何が起きたッ……!?)


 数多の死線を潜り抜けて来たゼオドロスが、視認することすら叶わないほどの速度。その絶対的な疾さで撃ち出された剣の切先が、彼の胸に直撃していたのだ。

 自分の胸部に命中した後、遥か上空に跳ね上がって行く剣を目撃したゼオドロスは、そこでようやく自分がダタッツの技を受けていたことに気付く。


「……ッ! ぐぅお、ぁ、あぁッ……!」


 その名の通り「疾風」の如く空を裂いたダタッツの刃。彼の一撃を浴びたゼオドロスは苦悶の声を漏らしながら、自身の両足を震わせて引き下がって行く。

 精神力による肉体の凌駕も限界を迎え、彼の身体は悲鳴を上げていた。ゼオドロスの心に反して、彼の身体はすでに「敗北」を認めてしまったのである。


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― 新着の感想 ―
あくまでも『復讐』にこだわるゼオドロスよりも、『国を守る』事を優先するラフィノヴァの方を優れていると評するダタッツ………もうこの時点で精神面においてゼオドロスは負けていたと言えるでしょうね。 そして、…
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