第3話 報復の誘い
六年振りにラフィノヴァの前に現れたゼオドロス。その変わり果てた姿にラフィノヴァは眉を顰め、周囲の女騎士達も警戒心を露わにしていた。ゼオドロスの異様な覇気を察している彼女達は、今にも斬り掛からんとする勢いで各々の得物に手を伸ばしている。
(……帝国勇者の復活といい。何という一日なのだ、今日は……!)
そんな部下達を片手で制しながらも、ラフィノヴァは鋭い眼差しでゼオドロスの眼を射抜いていた。ただ旧友の顔を見に来ただけではないことは、彼の凶悪な「眼」を見れば分かることだからだ。
「……貴殿こそ、と言いたいところだがな。この六年間、一体どこで何をしていた? あの最後の防衛戦で行方不明になっていた貴殿は、今や戦死者扱いだ」
「……」
「貴殿ほどの実力者が我が騎士団に入団したいというのであれば、是非とも歓迎したい。が、その前に自身の無事を王国に報告し、戦士扱いを訂正することが先決ではあるまいか?」
「訂正など必要ない。王国が信じている通り、騎士としての俺はすでに死んでいるのだからな」
「なに……?」
自分は騎士としてはすでに死んでいる。その奇妙な発言に眉を顰めるラフィノヴァに対し、ゼオドロスはかつての帝国兵達を想起させる邪悪な笑みを浮かべていた。その表情には、騎士の誇りなど欠片も残されていない。
「六年前の戦争で、俺は一つの真理に辿り着いた。正義とは圧倒的な『暴力』の後に付いてくるものであり、勝者が正義を定義するのだとな」
「暴力の後に付いて来る、だと……?」
「そうだとも、貴女も知っている通りな。故に、あの帝国の全てを否定するためには……それ以上の『暴力』を結集し、武力を以て己の正義を示さねばならんのだ。その勝利こそがルーク団長と、アイラックス将軍への手向けとなる」
「……何が言いたい」
「まだ解せんか? ……俺は入団試験を受けに来たのではない。逆に……貴女を誘いに来たのだよ」
「私を……誘うだと?」
「いかにも。試されていたのは貴女の方……そして先ほどの剣技を以て、貴女の実力は証明された。俺と共に、あの憎き帝国に報復する『羅刹』に相応しいとな」
信じるもの、守るべきものを全て失い羅刹と化したゼオドロス。彼を突き動かしていたのは、六年間に渡る流浪の中で醸成された報復心のみであった。彼は自分が認める実力者達を集め、帝国に再び戦いを挑むつもりでいるのだ。その勝利を亡き恩師達に捧ぐために。
(……帝国への報復、か。まともに考えれば、正気の沙汰ではない世迷言でしかない。しかし彼は……本当にそれをやりかねないほどの凄味と、実力を兼ね備えてしまっている)
強大な帝国を相手に、国家を捨てた元騎士が個人で挑もうなど、控えめに言って狂人の戯言に他ならない。しかしその戯言が現実味を帯びてしまうほどの実力を、この男は持ってしまっている。
故に彼は、帝国への「報復」を諦め切れずにいるのだ。なまじ一騎当千の武力を持つ超人であるために、破滅への道を踏み留まることが出来なかったのである。彼の実力に近しい「高み」に居るラフィノヴァは、かつての旧友の堕ちた姿に独り胸を痛めていた。
「……お帰り願おう。入団希望というわけでもなく、穏当に見学する気もないのであれば、貴殿といえど迷惑なだけの部外者だ」
「何故だ、ラフィノヴァ殿。貴女もあの帝国に蹂躙され、恥辱の限りを尽くされた一人ではないか。何故俺の報復に手を貸さん。何故……誇りを取り戻そうとしないのだ」
「まだ残されている誇りまで失うわけには行かないのでな。……確かに我々はあの戦争で、あまりにも多くのものを失った。失い過ぎた。だからこそ、これ以上何かを失う道を選ぶわけには行かないのだよ。私にはまだ、守るべきものがある」
羅刹に堕ちたゼオドロスの誘いを断り、ラフィノヴァは冷ややかな眼差しを彼に向ける。戦後の六年間で祖国の騎士団を再建し、今もなお戦力の増強に勤しんでいる今の彼女が、この聖国を捨てて報復に走ることなど万に一つもあり得ないのだ。
帝国に対する憎しみを忘れたわけではない。だからこそ、帝国の強大さも忘れていないのである。報復心を捨ててでも、彼女には守らねばならない居場所があるのだから。そんなラフィノヴァの答えを突き付けられたゼオドロスは、冷徹な表情で斧槍を握り締めていた。
「……なるほど、一理ある。しかし俺の報復に協力しないのであれば、貴女の剣技はむしろ脅威となり得る。俺としても心苦しいが……今一度考え直して貰うぞ。帝国を討つために共に戦うか、ここで死ぬか」
「団長、お下がりください!」
「ここは私達が!」
ゼオドロスの殺気に反応した近くの女騎士達は、ラフィノヴァを庇うように身構えている。この場に居らずともただならぬ気配を感じ取ったのか、王城の正門警備に就いていた一部の団員を除く全ての女騎士達が、団長の危機を察してこの場に集まって来た。
鋭い表情を見せる絶世の美女達が、扇情的な専用軽装を纏って練兵場に駆け付けて来る。精強に鍛え抜かれ、細く引き締まった腰つきによって際立つ豊満な乳房と安産型の桃尻が、ぶるんぶるんと蠱惑的に躍動していた。
「あの斧槍は……まさか、かつて王国騎士団の三番手と謳われていたゼオドロス殿!? 何故彼がここに……!?」
「でも、同窓会に来たって面構えじゃないわ……! とにかく団長を守らないと!」
普段の稽古とは違う「戦闘」の緊張感に汗ばむ彼女達の瑞々しい柔肌からは、芳しい香りを帯びた汗が飛び散っている。各々の得物を手にしてゼオドロスを睨み付ける彼女達は、専用軽装によって強調された肉体から濃厚な女の匂いを滲ませていた。
「……お前達は下がっていろ。これは私とゼオドロス殿の問題だ、私自身で決着を付けたい」
「団長ッ……!」
「ど、どうかご武運を……!」
しかしそんな彼女達の肩を優しく押し退け、ラフィノヴァは団長として、ゼオドロスの旧友としての「ケジメ」を付けようとしていた。部下達の実力では、束になっても今のゼオドロスは止められない。ならば団長の自分が責任を持って、彼の暴走を止めねばならないのだと。
そんな彼女の命令とあっては、部下の女騎士達も従うしかない。心配げな表情を浮かべながらも、彼女達は団長の勝利を祈って引き下がって行く。
(君も手を出さないでくれ。これは私達の問題だ)
(……分かりました)
成り行きを見守っていた見学者の青年を流し目で一瞥し、ラフィノヴァは両手剣を構えてゼオドロスと対峙する。そんな彼女の覚悟を汲み取り、青年も腰の鞘から抜きかけていた剣を納めていた。
「貴殿がこの六年間でどれほど腕を上げたか……私の剣で確かめさせて貰おう」
「ふっ……良かろう。次こそは俺が試される番というわけだ」
青年に目配せした後、ラフィノヴァは剣呑な面持ちで愛用の両手剣を構え、ゼオドロスの前に立ちはだかる。彼女が勇ましく一歩踏み出す度に、豊満な爆乳と爆尻がぶるんっと揺れ動いていた。
「さぁ、試験再開と行こうかッ!」
そんな彼女に斧槍の切先を向けたゼオドロスは、一切の躊躇もなく刺突の嵐を繰り出して来る。眩い輝きを放つ刃が唸りを上げ、ラフィノヴァに襲い掛かって来た。
「さっさと逃げねば、その珠の肌に傷が付くぞッ!」
「……ッ!」
ゼオドロスが狂気の笑みを剥き出しにして斧槍を突き出す中、ラフィノヴァは鋭い表情で相手の切先を見切り、紙一重の間合いでかわし続けている。巧みに身を捻り刃を回避している彼女は、ぶるんぶるんと左右に弾む爆乳と巨尻にも斧槍を掠らせていない。
「む……!」
「……心配せずとも、こんな鈍い攻撃に当たるほど緩慢な足は持ち合わせていない」
やがてラフィノヴァは、豊満な果実を上下にばるるんっと弾ませながら大きく跳躍する。艶やかなブロンドのポニーテールを靡かせて、斧槍の切先の上に着地した彼女は、優雅にして荘厳な佇まいでゼオドロスを見下ろしていた。
「そんな刃で傷付けられるような、柔な肌もなッ!」
「……!」
ラフィノヴァの気高く凛々しい美貌に、ゼオドロスは思わず息を呑む。それと同時に、怜悧な眼光で彼を射抜いた女騎士は、切先を蹴って軽やかに宙を舞う。
次の瞬間。芳しい香りを帯びた扇情的な白い美脚が、大きな弧を描いた。透き通るように白く、優美で、肉感的なラフィノヴァの脚による、鮮やかな「蹴り」が閃いたのだ。
「ぐぉッ……!」
「やった!」
「さすが団長っ!」
ラフィノヴァの華麗な飛び回し蹴りが、ゼオドロスの太い首に炸裂する。その一撃に彼が苦悶の声を上げた瞬間、団長の技を目にした周囲の女騎士達が歓声を上げていた。
「ふふ……いいぞラフィノヴァ殿、いい蹴りだ。まともに喰らっていれば、この俺ですら命に関わるほどの威力だったぞ」
「……ッ!」
しかし、乳房と桃尻を揺らして着地したラフィノヴァの表情は険しいままだ。急所に蹴りを受けたはずのゼオドロスも、その場から一歩も動いていない。しかも彼は、強烈な一撃を受けた直後だというのに薄ら笑いすら浮かべている。
(……あの一瞬で蹴りの軌道から逃れるように首を捻り、衝撃を低減させたのか。やはり今まで戦って来た相手とは比べものにならない力量だ。ならば……!)
ゼオドロスの尋常ならざるタフネスと回避技能に冷や汗を滲ませるラフィノヴァは、長期戦になればスタミナで劣るこちら側が不利と判断し、早急に決着を付けるべく「必殺技」の使用に踏み切って行く。艶やかな金髪のポニーテールが、大きく靡いた。
「……ようやく、その剣を使う気になったか」
「先ほどの軽い露払いと同じだとは思うな。貴殿が相手とあらば、今度は私も本気で行く!」
「そう来なくてはな。貴女の鍛錬の成果、とくと拝見させて貰う」
妖艶に嗤うゼオドロスを鋭く睨み付け、ラフィノヴァは低い姿勢から両手剣を腰だめに構え直して行く。その勇姿から迸る彼女の覇気は、並の騎士を遥かに凌駕する域に達していた。
(この気迫……出来る!)
そんなラフィノヴァの迫力に、ゼオドロスも思わず目を見張る。彼が本能的に防御の姿勢を取った瞬間――金髪の女騎士は、渾身の一閃を繰り出していた。
「聖国式闘剣術――月鋭剣ッ!」
ラフィノヴァの双眸が鋭利な輝きを放つ瞬間。彼女はゼオドロス目掛けて、満月を描くかの如く。円の軌道に、その刃を振り抜くのだった。大気を裂く轟音が天を衝き、爆乳と爆尻が暴れるように躍動する。
――だが。強烈な衝撃音が響き渡った時。ラフィノヴァを含む聖国の女騎士達は、驚愕の表情で艶やかな唇を震わせていた。
「ぐ、うぅッ……!?」
「そっ……そんなっ……!?」
「団長の月鋭剣がッ……!」
絶大な衝撃力を発揮していたラフィノヴァの一閃は、斧槍の柄で完全に受け止められていたのだ。激突による衝撃波だけで近くの荷車や酒樽の山が薙ぎ倒されているのに、刃そのものをまともに受けたはずのゼオドロスは、一歩もその場から動くことなくラフィノヴァの一閃を受け切っていたのである。
(……今の一撃は帝国の巨漢将軍の鉄球攻撃すら遥かに上回っていた。パワーだけなら、あのヴィクトリアさえ凌いでいる。それなのにあの人は吹っ飛ばないどころか、一歩も引き下がっていない……!)
その光景には、事態を静観していた黒髪の青年も思わず目を剥いている。先ほどの一撃を耐え抜くほどの膂力は、彼も初めて目撃したのだろう。
「……これほどの威力だとは思わなかったぞ。さすがだな……ラフィノヴァ殿。受けたのが俺でさえなければ、確実に仕留められていた。まさしく『必殺技』と称するに相応しい」
「ぐッ……!」
「だが……戦場に二度目はない。一度手の内を見抜かれた貴女の技は、もはや『必殺技』ではなくなる。その上でも相手を捩じ伏せられるほどの威力でもない限りはな」
ラフィノヴァの一閃を賞賛した上で、ゼオドロスは不敵に嗤っている。彼にとっても、ラフィノヴァの技には目を見張るものがあったのだろう。
だが、その賞賛もラフィノヴァ自身にとっては皮肉でしかない。焦燥の汗を白い柔肌から滲ませている彼女は、芳しい女の香りを漂わせながらも苦々しい表情を浮かべている。
「せっかくの大技を台無しにしてしまった詫びだ。返礼として俺の技も……死なない程度にお披露目しよう。貴女の『月鋭剣』から得た学びを元に編み出した、この技をな」
ラフィノヴァの剣技に対する「返礼」が始まったのは、その直後だった。獰猛な殺気を解き放ったゼオドロスは魔獣の如き形相で、斧槍を後方の下段に振り抜く。その姿勢から一気に斬り上げるように、斧槍の先端部を閃かせていた。
「なんだとッ……!?」
「いけない! 団長、逃げてッ!」
「……!」
月鋭剣を遥かに上回る「速度」と「威力」を感じさせる、空を切り裂く凄絶な轟音。それを感じ取った女騎士達が声を荒げ、青年が息を呑んだ瞬間――ラフィノヴァは本能的に両手剣での防御を試みた。
「王国式闘槍術――」
「くッ……!」
「――半月天舞ッ!」
次の瞬間。下段から抉り込むような、逆袈裟の一閃が繰り出された。唸りを上げて迫り来る斧槍の切先は、巨大なギロチンにも勝るほどの迫力を帯びている。その刃を両手剣で受け止めたラフィノヴァは、まるで大砲の直撃を浴びたかのような衝撃力に驚愕していた。
(お、重い……あまりに重い一撃ッ! 彼自身の常軌を逸した膂力と、巨大にして長大な斧槍の遠心力が合わさって――!)
ラフィノヴァの月鋭剣さえ受け止めるほどの膂力。彼女の両手剣を遥かに凌ぐリーチを誇る斧槍。その長さを最大限に活かした遠心力。それら全てを結集させて繰り出された、半月を描く一閃は――ラフィノヴァの肉体を両手剣ごと持ち上げてしまう。
「ぐぅッ……あぁあぁああぁッ!」
「だ、団長ぉおおッ!」
その光景はまるで、人型の砲弾が撃ち出されたかのようだった。ラフィノヴァは愛用の両手剣ごと天高く空に打ち上げられてしまったのである。その光景に女騎士達は悲鳴を上げていた。
(……不味い! あんな勢いの回転を付けられたら受け身なんてまともに取れない! あの高さから受け身もなしに落下したら……!)
ゼオドロスの一閃を目撃した黒髪の青年も、焦燥の表情で唇を噛み締めている。空中に打ち上げられたラフィノヴァの身体は、ただ滞空しているだけではなく、半月天舞の衝撃力によって猛烈に「回転」していたのだ。
平衡感覚を保てなくなるその状態では、受け身によって落下の衝撃を低減することも叶わない。王城の最上階に達するほどの高度に打ち上げられている彼女が、もし脳天から地面に落下しようものなら。いくら「白金の女騎士」といえども、間違いなく命に関わる。
「そんなっ……あの団長が力負けするなんてッ!?」
「狼狽えてる場合か! 団長をお助けするぞッ!」
「言われなくたってぇえっ!」
天を仰ぐ女騎士達も、その危険性を察知していたのだろう。彼女達は黒髪の青年が助けに入ろうとするよりも早く、手に持っていた武器を投げ捨ててラフィノヴァの身体を受け止めようと走り出していた。
先頭を走る数人の女騎士が乳房と桃尻を揺らして跳び上がり、ラフィノヴァの肉体を空中でキャッチする。しかしそれでも、落下の勢いが止まることはなかった。
「きゃあぁあっ!」
「うぁああっ!」
彼女達はそのまま、木箱の山に突っ込んでしまった。轟音と土埃を立てて木箱の山が崩落し、ラフィノヴァ達の悲鳴が上がる。
「団長! 皆ぁっ!」
「ぐっ、うぅっ……!」
「だ、団長……ご無事ですかっ……!?」
「お前達……済まない、助かった……!」
その光景に周りの女騎士達が叫ぶ中、辛うじて生還したラフィノヴァが土埃の中から身を乗り出して来た。彼女の身体を空中で受け止め、そのまま木箱の山に落下していた数人の女騎士達も、苦悶の表情を浮かべて這い出て来ている。
どうやら木箱の山が緩衝材になったこともあり、全員辛うじて生存していたようだ。団長や仲間達の無事を確認した女騎士達は、しとどに汗ばみながらも安堵の息を漏らしている。
「……情け無いところを見せてしまったな。私自身で決着を付けると言っておいて……このザマだ」
「団長、もう何も言わないでください!」
「ここからは私達が何とかしますから……!」
両手剣を杖代わりにして片膝を着いているラフィノヴァは、半月天舞を受けたダメージが響いているのか、その場から動けずにいる。そんな団長を慮る女騎士達は、彼女を庇うようにゼオドロスを睨み付け、それぞれの得物を構え直していた。
「彼女達の挺身があったとはいえ、半月天舞をまともに受けて気絶もしないとは……やはり殺すには惜しい。最後にもう一度だけ問うぞ、ラフィノヴァ殿。貴女も『羅刹』にならないか?」
「……ならない。先ほどもそう言っただろう。私には報復を捨ててでも、守らねばならないものがあるのだと!」
自身を睨み付けている女騎士達を無視して、ゼオドロスはもう一度ラフィノヴァに「屈服」を呼び掛ける。しかし誇り高き女騎士として、多くの仲間の命を預かる騎士団長として、ラフィノヴァは「拒絶」の答えを突き付けていた。
「……そうか、よく分かった。ならば望み通り、かつての牙を失ったまま果てるがいい」
「そうはさせないッ!」
「団長は私達が守るッ!」
「聖国の騎士はラフィノヴァ団長だけじゃない! 私達のことも忘れて貰っちゃあ困るわね!」
一方。ラフィノヴァの勇姿に「失望」の表情を見せたゼオドロスは、彼女を葬るべく再び半月天舞を繰り出す構えを見せている。その覇気を目の前にしても、女騎士達は一歩も引き下がることなく団長の盾になろうとしていた。
「命が惜しければ下がっていろ。君達も彼女に劣らぬ実力者ではあるようだが、それでもこの俺と渡り合えるほどの力量ではない。ラフィノヴァ殿でさえ受け切れなかった半月天舞を君達が喰らえば、間違いなく即死だぞ」
「はぁあ? 命が惜しくて騎士やってられるわけないでしょ、あんた馬鹿じゃないの?」
「私達を無礼るのもそこまでにしておけ。聖国騎士団を侮ったことを、後悔する前にな」
ラフィノヴァに次ぐ実力者揃いである聖国騎士団の女騎士達でも、ゼオドロスに太刀打ち出来るほどの域には達していない。それでも彼女達は騎士の誇りに賭けて、自分達の団長を庇うように立ちはだかり、凛とした気高い眼差しで相手を睨み上げている。
敵うかどうかは問題ではない。騎士である以上、恐れを理由に引き下がるわけには行かないのだと。
「……良かろう。君達の覚悟、しかと受け止めた。ならば敬愛している団長共々、仲良く天に旅立つが良い!」
そんな彼女達諸共ラフィノヴァにとどめを刺そうと、ゼオドロスが斧槍を振り抜こうとした――その時。
「違う。彼女は牙を失ってなんかいない。あなたの理屈に彼女を巻き込むな」
「……! 君っ……!」
怜悧な眼差しでゼオドロスを射抜く黒髪の青年が、赤いマフラーを靡かせてこの場に歩み出て来た。双方の間に割り込むように現れた彼の背中に、ラフィノヴァは瞠目して顔を上げる。
にわかには信じられなかったのだ。あの帝国勇者が、かつて敵対していた自分達のために戦おうとしていることが。




