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主食はビーフウエリントン

日本トンデモ五大小説

 さてYouTube動画で「都市伝説 読むと発狂してしまう奇書」を見て、そこに「ドグラ・マグラ」や「虚無への供物」があったので、いても立ってもいられず、これを書いた。

 小説ではない書物、死海文書やアラビアの魔導書が「読むと発狂してしまう奇書」としているのは許せるが、小説、それも日本の小説を紹介しているのが許せない。

 それはこんな面白い小説を「読むと発狂してしまう奇書」とは何事かという思いもさることながら、おれなら奇書と呼べるもっと面白い小説を知ってるぞ、という思いがあったからだ。

 具体的には以下の五冊。


1.死の島 福永武彦

2.家畜人ヤプー(正続とも) 沼正三 

3.同時代ゲーム 大江健三郎

4.ドグラ・マグラ 夢野久作

5.虚無への供物 中井英夫


 これらの作品はいずれも初めて読んだとき、「何だこれは!」と思わず仰天したトンデモ小説である。

 もう少し丁寧に説明すると、初めて読んだとき、①これまでの私の小説観を一新させるほど風変りな小説で、かつ②最高に面白かった日本の作品で、しかも③世間一般の人はあまり読んでないのではないかと思われる、隠れた傑作である。

 私が読んでない本や最後まで読了してない小説は省いてある。

 海外まで含めれば、サルトルの「猶予」やバロウズの「裸のランチ」も入れたいところだが、きりがなくなるので国内限定にした。

 このうち「ドグラ・マグラ」と「虚無への供物」はYouTube動画にも解説があるので割愛し、他の三つの小説を自分なりにブックレビューしたい。


1.死の島

 小説家志望で編集者の相馬鼎、画家の萌木素子、家出した素子の同居人の相見綾子の三人の物語。

 ある朝、素子と綾子が広島のホテルで服毒自殺を図り、所持品から相馬に電話が来る。相馬は会社を休み、新幹線で東京から広島へ向かう、というのが基本ストーリー。

 この基本ストーリーに様々なサイドストーリーが挿入される。

 まずその日を起点に、過去のストーリーが時間軸通りでなく、たとえば100日前、50日前、70日前、300日前、40日前、といった具合に、ランダムに羅列される。

 読者がそれを自分で整理して物語の全体像を理解するという趣向だ。

 ランダムな羅列とはいえ、その順番でストーリーを並べる必然性がある。

 また相馬が書いた短編小説や、「或る男」なる名無しのプレイボーイのストーリーがその間に所々挿入される。

 さらに、広島原爆で背中に火傷を負う素子の被爆時の体験を描いた地獄絵的なストーリーや、極めつけは、カタカナで書かれる素子の陰惨な「内部」ストーリーが、これらに加わる。

 こう書くとバラバラのストーリーの寄せ集めに思えるが、実際読んでみると、この順番でそれぞれのサイドストーリーを読む必然性があり、作者の巧みな計算がうかがえる。

 相馬と素子、綾子は三角関係であり、かつ素子と綾子はレズの関係だ。

 広島に到着すると小説の結末は三つ用意される。素子だけ死んだ場合、綾子だけ死んだ場合、二人とも死んだ場合。

 最後のエピローグはいずれの結末の場合でも有効な抽象的なまとめになっている。

 全編に渡って文学、音楽、絵画など芸術に関するネタが登場。芸術論がこの小説のもう一つのテーマになっている。

 アンドレ・ジイドの「狭き門」のような、男と女二人の三角関係の恋愛小説としてこの作品を読むのが普通の読み方だろうが、素子の「内部」ストーリーはホラー小説としても読める。

 私は、貞子シリーズの原作小説「らせん」、「リング」、「ループ」は全部読んだが(映画は観てない)、貞子より素子の方がずっと怖い。

 また哀愁と感傷がこの小説全体の基調低音になっており、大長編小説ながら、どこか”詩”を思わせる上質感を与えている。

 

2.家畜人ヤプー

 未来社会では、白人は貴族、黒人は奴隷、そして日本人は家畜になっている、という設定のトンデモSF。小説のストーリー展開よりも、衒学的な隠語の解説が面白い。

 グロテスクな記述があるので好き嫌いがでそうな作品ではある。


3.同時代ゲーム

 四国の田舎に生まれた「ぼく」が自分の生い立ちと村に伝わる「壊す人」を神とする神話を語り、村=国家=小宇宙と小説中で表現される「ぼく」の村が、日本ではなく、独立国家であることを延々と主張。

 「ぼく」から妹の「君」宛ての手紙という形式になっているが、全編、小説というより評論になっている。だから生い立ちや神話のストーリーを、時間軸にそって過去、現在、未来の順に語るのでなく、それぞれ評論のテーマに沿ってバラバラの順番で語り、読者がそれを紡ぎ合わせてストーリーを理解する、という形式になっている。これは「死の島」とも似ている。

 読者は「ぼく」の村が独立国家であるとする「ぼく」の主張を、「そんなわけねえだろう」と笑いながら読んでいくが、小説読了後、ひるがえって既存の国家の正当性、とりわけ日本という国の正当性について考えさせられる。

 「ぼく」の独立国家がいい加減な幻想なら、日本という国もいい加減な幻想であり、国家は共同幻想に過ぎないというのが、作者の思想だろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 要約が分かりやすい。 [一言] エンタメに毒されたのか、中々食指の伸びない奇書を解説していただけて、面白かったです。家畜人とかも漫画でしか読んでません(^◇^;)他に至ってはチラリとタイト…
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