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俺の通学路はぶつからない。

 俺の家から学校までの道はだいたい歩いて20分くらいかかる。

 その道を誰かと談笑するわけでもなく、1人で黙って歩く。まるで平成の種田山頭火である。

どうしようもないぼっちが歩いている。いや、どうしようもないとか言うんじゃねえ!

ああ、俺はきっと誰かが主人公の青春ラブコメでモブキャラとかエキストラとかやってんだろうな。クラスメートFとかなんだろうな。セリフもないんだろうな。……っていうかもしかしたら背景の外にいるかもしれんな。登場だけでもさせて!


 俺にだって……もし、この通路に曲がり角さえあれば、おさかなをくわえた美少女転校生とぶつかれるチャンスくらい腐る程あったと思うのだが。ん?いや食パンくわえようよそこは、サ◯エさんかよ。いやサ◯エさんじゃねえ、どら猫だどら猫。

 あいにく俺の家から学校までの道は恐ろしいほどに直線であった。170㎞のストレートを投げるともいわれたチャップマンも驚きの直球ストレートぶりである。

 まあ道に迷わないという点では便利かもしれないな。


 俺はこの春、晴れてただいま絶賛通学中の立春第一高校に入学した。偏差値は真ん中くらいで、自称進学校である。生徒は皆親しみを込めて春高と呼んでいる。

 そんな春高に入学して、はやくも1ヶ月がたとうとしていた。始めは知らない奴らばかりだったクラスも、少しづつ顔見知りや友達が増え始めたりして、クラスに漂っていた独特の緊張感も薄れていく頃だろう。


 しかし、世の中には例外もいる。※効果には個人差があります。とか、1万匹に1匹くらいの確率でアルビノっていうまっしろなライオンが生まれちゃうのとかと同じだ。ジャングル大帝◯オとかな。リオ◯イアだってたまに金色のやついるだろ。

 だから、俺が入学から一ヶ月もたっているのに、未だにクラスに馴染めていないなんてのも決しておかしいことではないのだ。まあ馴染めてないなんて生温(なまぬる)いものではなくて、友達と呼べるのが誰一人としていないんだけどな。

 まあしかし、それも個性だ。パーソナリティーというやつなんだよ。

 野球が上手いやつもいれば、運動がめっぽうダメなやつだっている。歌が上手かったり、絵が得意だったり、頭が良かったり。それらは全部当人の個性であって、それだけで善悪が決められるものではないんじゃないか。

 個人主義(国家や社会の権威に対して個人の権利と自由を尊重することを主張する立場-wikipediaより引用)って言葉知ってる?お前らぼっちのこと舐めない方がいいぜ。実はまじ崇高な生き物だから。まじぼっち万歳。


 そんなことを考えながら歩いていた俺は、ふと歩みを止める。立ち止まった俺の目の前には、目的地である春高の校門が映っていた。

 いやー、ほんと十字キーの上ボタン押しっぱにしとくだけで着いちゃうあたり超便利。どれだけ意識飛ばしても通り過ぎちゃった☆なんてことがねえからな。ドジっ子の俺にはありがてえ話だ。


 俺は目前に広がる風景を見渡して、ふぅとため息をつく。なんでかって?今日もまた、ぼっちな残念学園生活が始まろうとしているからに決まってんだろ。察しろ。

 まあ行きたくないのは山々なのだが、ここで立ち止まっている訳にもいかない。立ち止まってたら気持ち悪いことこの上ない。写真とか撮られてFacebookにあげられでもしたらマジやばい。

俺は仕方なく他の生徒に流されるように校舎へとその重い足を運んだ。


  x    x    x


「えー、福田」


「はぁい!」


「松本」


「あ、はーい」


「的場」


「うーす」


御影(みかげ)


「…………」


「おい、御影……」


「…………」


「御影いないのか?返事しろ」


「…………ん?あっやべ……俺寝て……」


 名前を呼ばれた気がして目を開けると、俺の目の前には、いつもと変わらない教室の風景が映っていた。どうやら朝のHR(ホームルーム)で出席を取っているようであった。いや、朝来てそうそう何寝てんだよ俺。朝来たら友達と昨日見たテレビの話をするのが定石だろうが。あ、そういえば俺友達いないわ!


「あ、先生。今日御影?くんお休みみたいです」


「そうなのか……じゃあ、森本」


 ん?俺休みなの?そっかそっかあって……いや、いるよ?もしかして周りから見えてないのかな?そんなに存在感ない俺?もしかして気づかないうちに死んでた?

ていうか、御影?くんって何。なんでちょっと疑問系なんだよ。1ヶ月もたったんだから覚えてやれよばかたれ。泣くぞ。


「あの……先生、俺います……。」


 俺は半泣きになりながら小さい声で返事をした。悲壮感が尋常じゃない。ヤバい。ここで返事できてなかったら1日欠席扱いで時間が進むとか辛すぎる。起きれて良かった〜。

 しかし森本、お前何余裕こいて返事してんだよ。お前後ろの席なんだから、どう考えても俺見えてんだろ。しばくぞ。


「おおいたのか御影、いるならちゃんと返事しろよ。反抗期もほどほどにしとけ」


「あ……すんません」


 金子は俺を軽くあしらうと、また続きから出席をとりはじめた。

 ああ、俺は朝からこんな些細なことにぼっちを感じさせられているのか。いつも通りの大したことは無い日常じゃないか。そんなことに傷つくとか感性が豊かなんだな、俺は。平成の小野小町かよ。

 そんなことを考えている間にも、たんたんと金子は生徒の名前を呼んでいく。金子とはこのクラスの担任の名前だ。見た目は熱血漢な男の体育教師といったところだが、実際の担当は化学基礎である。まじchemical(ケミカル)


「………あーいラストー、渡会(わたらい)


「はい」


「うーし、じゃあ今日も欠席なしな。じゃあ授業の準備しろー」


 はーい。とクラス全体が気だるげに返事をして、朝のホームルームが終わった。

 朝からほんと大ダメージくらったぜ。ぼっちも楽じゃねえな。

 てか最後に名前を呼ばれた渡会さんは多分一生出席番号ラストなんだろうな。あの安定のエース渡辺にも負けねえじゃねえか。そんなどうでもいいことを考えながら俺は1時間目の数Aの準備をはじめた。いや、本当にどうでもいい。


 ただ、授業の準備といっても、実際のところ教科書と筆箱を出すだけで終わってしまう程度の準備なので、一瞬で終わる。その時間わずか15秒ほどである。あの1分で完成すると言われた伝説のカップ麺Quick1より早いとかやべえ。作ってる間に4回も準備できちゃうよ。


 しかし、そんな次の授業の準備という名目であるはずの休み時間は、なんでか御丁寧にも10分間も用意されているのだ。教科書出すだけで10分もかける奴いんのかよ。どんなスローライフ送ってんだよばかやろう。

 まあ少なくとも俺には10分もの時間は必要なかった。というかむしろ無い方が良かった。残りの9分45秒間、俺は何をして過ごせばいいんですか。


 でもそんな事言ってもしょうがないので、とりあえずいつものように目を(つむ)って寝たふりをする。こんだけいつも寝たふり(・・)してると、俺の演技力とやらはどんどん向上してるんだろうな。睡眠の演技に関しては右に出るものはきっといない。日本アカデミー賞とか取れるんじゃねえのこれ。


 そんな事を考えながら、俺は目を(つむ)って真っ暗闇の世界を見つめる。いつものクラスのざわめきがよりクリアに聴こえてくる。会話をする相手のいない俺は彼らの会話に少し耳を傾けてみることにした……。


「1時間目の授業ってなんだっけ?」


「あー、数Aじゃね。朝から数学とかまじ重たいわー」


「まじかよめんどくせ!っていうか、やべ……。教科書忘れたかも……」


「うわーどんまい(笑)古谷の授業は忘れると恐えよー……」


「あー詰んだ最悪。頼む。教科書貸してくれ。」


「いや!お前俺ら同じクラスだろ!次の授業俺も数Aだわバカ。他のクラスのやつに借りてこいよ」


「いやー……俺他のクラスとか友達いねえんだよー。まじどうすんのこれ」


「ははは。お前はまじでぼっちだな(笑)」


「うるせー!」


 うるせーよまじで!そいつがぼっちだったら俺はいったいどうなっちまうんだよ。お前は俺にどんな悪口を浴びせるつもりなんだよくそったれ。

 あーまじうぜー。お前らのぼっちは所詮ファッションぼっち(笑)でしかねえんだよ。仲良く会話できてる時点でもはやぼっちじゃねえこと位明確だろうが。お前らはもっと自分が今幸せであることを噛みしめるべきだと思うぞ……。次いくか。


「えーやばー!ともこなにそれ髪巻いてんじゃん!まじ可愛いんですけど!まじともこプリンセス〜」


「いやいやそんなことないって〜!あけみはまじおーげさすぎっしょ〜。普通にあけみのが可愛い?みたいな〜」


「それないそれない!ともこの女子力にはかなわないっつーかまじぱない。まじ女子力欲しいわーうち」


「それな〜うちも〜。てかあけみは女子力普通にあるじゃんとか思うんだけど〜!」


「ちょっとーやめてってばまじー。うちとかまじ女子力終わってるってか〜。あーともこみたいな乙女になりたいっていう感じ〜?」


「え〜?またまた〜あけみ……」


 UZEEEE〜☆ってか両方とも女子力0だから恥ずかしい傷の舐め合いやめろ。お前ら絶対お互いのこと可愛いとか思ってないだろ。自分がNo. 1なんだろどうせ。

 あと日本にいる間は日本語使えばかたれ。まじでどんな脳みそしてんだよ。お前ら偏差値3くらいしかないだろ。蟹みそのが優秀かもしれねえぞ。

 やっぱお前らみたいな糞ビッチは頭ん中でS◯Xのことしか考えてねえんだろうな。なんだそれ、どこの俺だよ。

 ……しかしこのクラスマジでまともなやついねえじゃねえか。……次だ。


「いやー、暑いですな今日も」


「いやー、まったくですな鈴木氏」


「はっはっは、佐藤氏も鈴木氏も貧弱な体ですなあ。私のように日々鍛えていれば暑さなど微塵も感じませんものを」


「田中氏、日々のトレーニングの結果がその100㎏の巨体なのですか?w額に汗が浮かんでおりますぞい?w」


「デュフ……デュフフw……コポォwwwいやあこれはひどい言われようでござるな、拙者の目から汗が!w」


「「「フォカヌポゥwwwwww」」」


 なんだこいつら。気持ち悪いを通り越してもはや殺意が湧いてくるわ。しかもなんで3人とも喋り方同じなんだよ、腹立つな。フォカヌポゥってなんだよ。どんな笑い方してんだこいつら。でも友達いるとか羨ましすぎるわ、くそ。輪の中に入りてえ。


「いやあしかし、明日は待ちに待った解禁日でございますな。ついに拙者たちの手中に時代の最先端ゲーム機『ドリームトリップ』がやってくるのですな!」


「ほんとwktk(ワクテカ)も手汗も止まりせんな!拙者は今日の夜から徹夜でGEROに並んで1番にゲットするつもりですぞ。明日はちょうど土曜日ですしな」


 ん?ゲームだと?いやいつまでこいつらの話聴いてるんだ俺。不覚にもゲームという単語につい反応してしまった。でもちょっとこの話気になるな。だが手汗は止めろ。


「おお……なんというアクティブな田中氏!拙者は並ぶのが嫌だったのでNamazonでネット予約をいたしましたぞ。なるべく早く届くことを祈りたい」


「ああ生ですか羨ましい。パソコンに張り付いていたのですが、一瞬で予約終わってしまったので諦めましたわ。ほんと凄い人気でござるなドリトリは……」


「いやあ……まったく。もはや社会現象になるのは間違いないでしょうな。なんせ夢の中でゲームがてきるなんて……まるで()みたいな話でござるからな!」


「……デュフ……ドゥフw……コポォwwwそれはもしや夢と夢を掛けたのでござるか?ww」


「……左様」


「「「フォカヌポゥゥ⤴︎wwwwww」」」


 めんどくせええーーー☆こいつらマジで喋り方一緒すぎて誰が話してんのか分かんねえんだよ。フォカヌポゥってなんだよまじで!しかも声でかすぎだろ。なんだお前らそのつらでリア充どもに対抗しようってのか?とんだ反乱軍だな。俺もまぜろ、手を貸すぜ。


 ……いや、じゃなくて。夢の中でゲームとか言ってたよな、なんか。めっちゃ気になるんだけどそれ。寝ながらゲームとかヤバくない?ついにまじで1日中ゲームできる時代が来るのかもな。でも俺全然聞いたことないな……そんな話。現代っ子の情報収集力ぱねえ。


「ちなみに鈴木氏もNamazonで購入されたのですかな?」


「いや、拙者は無理でござった。だから今日は田中氏と同じくGEROでの店頭購入を狙っておりますぞい」


「おお!そうでござったか!同志がいるとは何とも心強い。ここはどうだろう、せっかくだから一緒にならんでくださらんか?」


「ふむ。確かに同じ場所で買うなら、一緒に行く方が気持ちは楽でござるな!ぜひご一緒させてもらいたい」


「いやあ、ありがたい。では今日の夜12時にGEROに現地集合でよろしいかな?発売が明日の朝7時となっているため、その時間に並べば大抵は買えると思うが」


「異存はないでござるよ。了解した、夜を楽しみに待っていよう……」


 …………『ドリームトリップ』だっけか?夢の中でゲームができる……か。なんだか想像がつかんな。それもはや◯ラえもんの世界じゃねえか。

 いや、まあこいつらの言ってることが全て正しいとは思えんが、話を聞く限りでは面白そうな気がしないでもないな。別に最先端とかは知らないけど社会現象に乗り遅れるのは癪だしな。まあ、朝までもし残ってたら試しに買ってみるか。ゲーマーとしてはやっぱ買っとかないと駄目みたいな使命感があるんだよな……。

 俺はそんな事を考えてわくわくしながら、静かに眠りに落ちていった……。

 5分後、古谷にぶんなぐられて目が覚めた。


  x    x    x


「うええ……」


俺の目の前にはうじゃうじゃと人が溢れていた。長々と形成された行列の最後尾に並ぶと、もはや先頭は遠すぎて確認することができなかった。

俺は本日発売のゲーム『ドリームトリップ』を買いにGERO前にできた行列に並んでいた。ただいまの時刻夜の1時。発売まであと6時間もある……だるすぎる。

本当は朝にくる予定だったのだが、気になりすぎてつい来てしまった。が、正解だったようだ。どれだけの在庫を抱えているかは検討もつかんが、さすがに当日の朝来て買えるという程甘い状況ではなさそうだな。


果たして『ドリームトリップ』は買えるのだろうか。俺はぽちぽちと携帯をいじりながら朝が来るのを待つことにした。


この時の俺はまだ知らなかった。このゲームを買ったことが、俺の人生を大きく変えていくことになるなんて。

まだ想像もつかなかったのだ。夢の世界で俺が颯爽と駆け巡っている姿なんて。


このゲームが世界の歴史を塗り替えることになるなんて、まだ誰も知らない。




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