今日も妹はきっとツンデレ。
『ゲームは1日1時間』とかいう某ゲーム名人が定めたと言われる名言がある。
俺はこの迷言に異論を唱えたい。異議を申し立てたい。
1日1時間とかそんな生温い事を言っていたら、ゲームは一生上手くならない。ゲームの世界というのは本当にシビアで、強い奴が勝って、弱い奴は狩られる。実力主義がルールの世界だ。
そんな世界で生き残っていくためには、1時間なんかで足りるわけがないだろ?寝てる時とう◯こしてるとき以外はずっとゲームしてる位の覚悟が必要だ。きっと…….名人も名人と呼ばれるまでには、血の滲むような努力をしてきたんでしょう?
世の中の人間はというと「勉強」「スポーツ」なんかを善とするなら、「ゲーム」は悪である……なんていうはるか昔からある腐りきった概念を持っている。一体何を血迷って人類はこんな価値観を見出してしまったのだろうか。なんだ、お前らはゲームに恨みでもあんのか。文明を滅ぼされでもしたのか。
俺はゲームを愛していた。もしゲームが女の子で、現実に存在するなら結婚して運命を共にしてもいい。っていうかお供させて下さいお願いしますって感じ。ゲームのためなら死ねるくらい。いや、死んだらゲームできないけどね。まあ気持ちの話だ。
とにかくゲームというのは、俺の人生の癒しであった。唯一の生き甲斐であった。というか人生そのものであった。
なぜそんなにもゲームを愛しているのかと言われれば……理由は明確、俺にはとにかく友達がいなかったのだ。まあゼロって訳ではないが、限りなくゼロに近い状況であった。もはやいても誤差の範囲だ。0.5人とか。いや、そいつどんな状態だよ。下半身しかないとかそんな感じか。
どうしても人とコミュニケーションを取ることが苦手、というか……苦手になってしまった、といった方が正しいのだろうか。あんな事件さえなければ俺だって薔薇色の……。いや、昔のことは忘れよう。過去ではなく今を生きろ、俺。ここに誇りを持って言おう、俺は今ぼっちだ!
ぼっちの俺がひとりでできる楽しいことなんていったらゲームしか無いだろう。愚問である。俺がゲームにのめり込んでいった理由は、まあそんなところだ。
そんなぼっちゲーマーな俺の高校生活はというと……部活で仲間と一緒に汗を流す(笑)とか、クラス行事をみんなと力を合わせて頑張る(笑)とか、廃部になりそうだった部活を美少女と一緒に救う(笑)とか、そんなクソビッチリア充な青春が……おくれている訳がなかった。そんなのはラノベとエロゲの中にしか存在しない、ただの神話にすぎない。と、俺は願っている。ましてやリアジュウ(笑)とかいう生き物も、架空のキャラクターかなんかだと信じている。
俺の高校生活はといえば、ただひたすら睡眠、睡眠、睡眠、寝てるふり、妄想、睡眠、そして帰ってゲーム。で、気づいたらまた朝。そんな日々の繰り返しであった。学校生活の大半は睡眠に費やし、自宅でのプライベートは睡眠に費やす。なんという無駄の無い効率的な暮らしだろうか。……うん、でもなんかこう、ね。
別に俺は友達と青春っ☆したいとかそういう訳ではないんだ。今のだらだらとした生活も十分好きだ。俺にとっては十分に青春である。ただ、俺の生活が少しだけまわりの人間とはズレているということが言いたかっただけだ。いや、まわりが俺からズレとんのか。地動説ならぬ俺動説でも唱えてみようか。
まとめると、俺にとっての青春は部活でも、友達と過ごす日々でも、恋愛ごとなんかでもなく、……ただひたすらにゲームだけなのであった。
それは俺がぼっちになってから、すでに17年の歳月が経とうとしているということか。なんだそれ、俺は産まれたときからぼっちだったのか。この世に生を為した瞬間からぼっち確定とか辛いな。転生するか。
しかし先日のことであったか、そんなゲーマーな俺に朗報が入る。
今までのゲーム史が覆るとんでもない形のゲームが発表されるのであった。
このゲームがこれからの俺の高校生活を大きくねじまげていくことを俺はまだ知らない________
x x x
「おらっ……うし……おいっ邪魔だよお前、立ち回り分かんねえなら前出んじゃねえよくそ。あーもう死んだじゃんバカ。お前のせいだよまじで」
ビギナーなユーザーに喝を飛ばす俺。ふぅっとひと息つき、コントローラーを片手に時計を確認する。ただいまの時刻はまだ7時30分であった。学校の始業までは、まだ若干の時間がありそうだ。ここは……もう1試合くらい臨んでおくのが良いのだろうか。時計から、テレビ画面へと視線を戻す。再び両手でコントローラーを握りなおした。
俺はというと朝起きて早々ゲームに没頭していたのだ。本当にゲーマーの鏡みたいなやつだな俺は。崇めてくれお前ら。
ちなみに今やってるこのゲームは何かというと、FPS(First-Person Shooter)と言って、訳すと一人称視点シューティングゲーム。ようは自分の視点で銃をもって3Dな戦場を走り回る、と言えば伝わるだろうか。
このゲームの魅力はというと……やはりオンライン対戦がアツいということだろうか。同じ世界で暮らしている人間との撃ち合いというのは普段の日常で感じることのできないスリルや刺激が満天につまっているのだ。
下手したら隣の家のお姉さんとも知らぬ間に殺し合いをしているかもしれないのだ。エロすぎる。
やはり対人戦はAIをボコボコにするのとはこれまた違う快感がある。某野球ゲームの話を例に出そう。cpuのレベルを最弱にして99対0なんかになるまで滅多打ちにしても、何も満たされない。それだけの大勝利にも関わらず、ただ後には虚無感が押し寄せてくるだけである。
つまりボコボコにするのは同じ人間に限ると痛切に思う。相手が顔を真っ赤にして俺に殺される場面を想像すると…………数えきれない脳細胞からアドレナリンが溢れ出し体内を駆け巡る。俺の瞳孔は最大限に開き、一般的な人間が1日生成する唾液の量、約1リットルが俺の口から思わずこぼれ出す。その感覚は熱狂でもあり震慴でもあり昂奮でもある。命をかけた戦いというのは、これほどまでに今ある生を輝かせる。まあ命かけてないけどね。
ストレス社会に生きる若者にとって、これほどに便利なストレス発散方法はないだろう。
それを自宅で手軽に体験できてしまうというのだから凄いものだ。
本当に素晴らしい時代になったな……
ドンドンっ‼︎
俺が感動に浸っていると、ドアは不意打ちに大きな音を立てた。
……なかなか強めのノックだな。いや、ノックっていうかパンチだろあれ、明らかにグーで殴ってるだろ。ノックって普通効果音コンコンだよね。
「おーい!!お兄ちゃーーーんっ!早く起きないとまた遅刻しちゃうぞー!今はもう待ってくれないぞー!起きろーっ!」
ノックの主は、バンバンとドアを殴りながらモーニングコールをしているようであった。余計なお世話だ。……分かったから叩くのやめろ、ドアがもたないから。マジで。
「わーってるよ!心配しなくても起きてるっての。お前は俺のお母さんかよ?」
俺はドア越しに返事をするとヘッドホンを外し、ゲーム機の電源ボタンを押す。ひゅーんという悲しげな音を出しながら電源をおとすゲーム機……。安心しろ、帰ったらすぐに起動してやるからな。
あ、ちなみにいまだドアを殴っているこの人物はお母さんなんかではなかった。まあお母さんにしたら声が幼すぎる。間違いなく俺よりも年下だな。そんなお母さんは嫌だ。いや待てよ、悪くもないか……?
さておき、いまだドアを殴り続けているこのおてんばな少女は、かくいう俺の妹である。決して妄想で作り出したとかそういうのではない。マジものだ。3次元である。ていうかいつまで殴ってんだよ。やめろ。
世間一般の妹をもたない者が空想する妹とは、極端なお兄ちゃんっ子であったり、ツンデレだったりヤンデレだったりで、「お前の妹がこんなに可愛いわけがない!」なんて悶えることもしばしば。
しかし、実際はお前らのいう通りで兄からすれば妹は可愛いわけがないのである。反語じゃない。
どれだけ容姿が良かろうとも恋愛の対象なんかには消してならない。普通に考えたら、ひとつ屋根の下で女の子となんか暮らしてたらムラムラしすぎて爆発するだろう。しかし、家族というのはやはり例外なんだろうな。俺のセンサーがまったくもって反応しない。不思議なものである。
妹は間違いなく美少女だが、俺が普段エロゲーでしているように、襲ったりしようなんて思ったことはない。思ってもやらないけどな絶対。
この真実を、妹が欲しいとブヒブヒいっているヲタクどもに教えといてやる。妹をゲットしてもただひとり家族が増えるだけだ。お年玉がちょっと減るだけだ。エロい展開なんて断じて存在しない!ソースは俺。
「おい!お前もうドア殴るのやめろ!これ以上やったらドアが可哀想だ。」
「……じゃあ早く起きてよっ!いつまで寝てるのお兄ちゃんは!眠り姫か!」
「男なんだから姫はねえだろ姫は。それに起きてるからな。寝てたらお前と会話できてないから。どんだけ高度に寝言使いこなしてんだよ俺。あとドア殴るのやめろ。」
それでも妹はドアを殴るのをやめない。
いや、なんでそんな固執してんだ。
「てか、あ……あう、朝ごはん!作っといたから!……私はもう学校行くから。じゃ、じゃあそういうことなんで!」
「え?……あ、おい!」
妹はそう言うと、足早に行ってしまった。階段をドタドタと駆け下りる音が聞こえてくる。まさに嵐のような生き物である。
で、俺はというと妹の突然のセリフに状況がまるで掴めずあたふたとしていた。
え?朝ごはん?なんで?…………俺のために作ったってことか?
…………それどんな罰ゲームなの?いや、罰ゲームは言い過ぎだろ。俺が可哀想。
しかし妹の口からとんでもない言葉が出てきたもんだな。だって朝ごはん!作っといたから!だってよ。今までそんなことあったっけ?もしかしてあいつ……俺のことが好きなんじゃねえのかな?言葉では表せないから目に見える形で表現してみましたみたいな。不器用ですからみたいな。
下手したら俺のラブコメは妹と結婚√ってのもあるかもしれないと思った瞬間であった。俺に春がくるのも近いのかもしれない。いやいやでもやっぱ妹と春を迎えたらまずいだろ。家族になんて説明するんだよ。妹と恋するのが許されるのはエロゲーの中だけなんだよ。現実で駆け落ちなんかしようものなら即効捜索届け出されて、我が家へ3日で帰って来る羽目になるぜ。
だからやっぱり妹は諦めて、ここは王道的に幼なじみ√で行こう。あ、俺幼なじみいなかったわ。いや、幼なじみどころか友達がいなかったわ。
……何考えてんだ馬鹿早く学校行こうぜ。
俺はそそくさと床に脱ぎ散らかされている制服を着る。腐ってそうだななんか。そろそろ洗濯しないとキノコとか生えてきそうだよな。マツタケとか繁殖しねえのかな。
……ちなみにマツタケというのはキシメジ科キシメジ属キシメジ亜属マツタケ節のキノコの一種で、養分の少ない比較的乾燥した場所を好む。秋にアカマツの単相林のほか針葉樹が優占種となっている混合林の地上に生える。つまり俺の制服には生えない。当たり前である。
いや、そんなことより早く朝ごはん……とやらを食べなければ。冷めちゃう。
部屋を飛び出し階段を駆け下りる俺。
きっと下りた先には愛と希望が広まっているに違いない。ついに妹との凍てついた関係も終焉を迎えるか。やはり朝は……オムレツか、ベーコンエッグとか。いや素直に味噌汁とご飯とかでもいいな。もうなんでもいいや。
俺はwktkしながら朝ごはんが置いてあるであろうリビングのテーブルを目指す。胸を高鳴らせ食卓に目を向ける。
……そこに置いてあったのは!!
「カ◯リーメイト‼︎‼︎‼︎」
いやいやいや作ったって言ったじゃんか。どう見てもこれ市販のカ◯リーメイト皿に出しただけでしょ。なんでもいいとは言ったけどこれは無しだろ。料理とかできるの?って聞かれた時に「あ、カップ麺なら」とか言っちゃう奴と同じ感性なのかこれは?
それか、もしかしてあいつはカ◯リーメイト作れる技術とかもっちゃってるの?なんなの、大◯製薬の社員なのお前。レシピとかもってんの?クッ◯パッドとかに載せちゃってんのお前?
……はあ、期待した俺がバカだった。
そんな急に妹がデレるわけないんだろ。やっぱ現実の妹はダメだな。妹は二次元に限る。
そう悟った俺はもさもさと目の前のカ◯リーメイトを口に運び、牛乳で喉に流し込んだ。しかもこれチーズ味じゃねえか。口臭くなったらどうすんだ。
俺は洗面所へと向かい、ぼさぼさの髪を水でびしょびしょになるまで濡らす。あとは通学中に風で乾かせば俺の髪のセットは完璧。ワックスとかそんな小洒落たものは使わない。使っても誰も見ない。
朝の準備を終えると、俺は教科書の入ったカバンをもって玄関に向かった。お気に入りの赤のスニーカーを履き、きゅっと靴紐を結ぶ。
俺は我が家から外の世界へと出る……。
「うわぁ…………眩しっ!」
外の世界にはさんさんと太陽が照りつけていた。
眩しさのあまり、俺は目を背けた。
そこは、俺の視界にうつるものすべてが輝いていた。きらきらと光を反射しているアスファルト、元気に飛び回っている小鳥のさえずり、一緒に登校しているリア充カップル……。何もかもが輝きをもって、今から始まる今日という日への希望に満ち溢れているようであった。全部爆発しろ。
……あー、インドアな俺には、こんな世界はあまりにも眩しすぎる。照度設定を半分に落としたいくらいだ。目がチカチカする。
「今日もこうして、またいつもの1日がはじまってくんだな……」
俺はぼそっと皮肉のようにつぶやいてから、いつもの通学路をとぼとぼと歩いて行った。
今日もまた、ひとりで。