「ユメ」、売ります
初めまして、蒼天といいます。
初心者ですがよろしくお願いします。
「ユメ」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?
理想の「ユメ」?それとも眠りの「ユメ」?それとも…
こちらの「ユメガタリ」では、あなたに必要な「ユメ」をお探しいたします。
え・・・?いえいえ、お代は頂きません。お客様に満足していただければ結構でございます。
それでは、あなたの「ユメ」を探しにまいりましょう…―――
~少女のお話~
ある日の夕暮れ。開け放たれた扉の先には10歳ほどの可憐な少女がいた。
「いらっしゃいませ。」
「え、あれ?ここ…どこ?」
「ここはユメガタリという今のあなたに必要なユメを探すお店ですよ。」
「ユメ…?じゃあ、オーナーさん。わたしにもユメも探してくれる?」
「承りました。それではこちらの椅子におかけください」
「それではお客様、少々目を閉じていただけますか?」
「目?こう…?」
「はい。では、そのままリラックスしてください…―――」
――少女の精神世界――
「ふむ…この少女は交通事故で両親を亡くしているのですか。ここに来たのも恐らくこれが原因ですね」
男の目の前では少女とその両親が交通事故にあい、病院へ搬送される様子が繰り返されていた。
そして少女の目の前で両親が息を引きとり、絶望と哀しみに歪んだ少女の顔も。
『いや…おかあさんとおとうさんがいない世界になんて戻りたくない…』
モニターのようなものの右端を見ると少女がうずくまって泣いていた。
『そんなところへ戻るくらいなら…目覚めないほうがいいの…』
「…ではお客様、こちらのユメはいかがでしょう?」
男の示した方向には娘に向かって微笑んでいる少女の両親らしき人がいた。
『おとうさんっ…おかあさん!!』
少女は両親に抱きつき、両親も微笑みながら少女を抱きしめた。
『わたし…もう生きたくない。ずっとおとうさんたちと一緒にいたい!!』
それを聞いた両親は顔を見合わせると哀しげに微笑み、首をふった。
『なんで…?なんで一緒にいちゃダメなの?わたしがきらいなの?』
両親はただ首をふると、その姿もゆっくりと薄れはじめた。
『いやっ…行かないで!!おとうさんっ、おかあさん!!』
すると今まで首をふるばかりだった両親が初めて口を開き、こう言った。
『覚えていて。私たちはいつでも、いつまでもあなたと一緒にいるわ…』
『生きて幸せになりなさい。それが私たちの最後の願いだ。約束、できるね?』
その言葉を聞いた少女は泣きながらも力強く頷くと、両親に向かって笑顔を見せた。
その笑顔を見た両親は安心したように微笑みながら薄れていった。
完全に姿が消えた後にもう一つ、ある言葉が少女の耳に届いた。
『おとうさんとおかあさんはあなたが大好きよ』
その言葉を聞くと今度は少女の姿が薄れはじめた。
現実の世界に戻ろうとしているのだ。
それと同時に少女の精神世界を写していたモニターのようなものも消えた。
「――…やはりお客様に必要なユメは両親との決別でしたか」
男がそう呟くのと椅子に座っていた少女が目を開けるのはほぼ同時だった。
「…ありがとう、オーナーさん。わたし、もう行かなきゃ」
少女は椅子から立ち上がると男に向かって深く頭を下げた。
「いえ、お礼には及びません。お客様に喜んでいただけたのなら」
すると少女は笑いながらこう言った。
「ううん、生きていく理由が出来たのはオーナーさんのおかげだから」
そう言った少女の瞳には何かを決意したような強い光が宿っていた。
「さようなら、オーナーさん。それと、ありがとう」
そう言い終わると少女は扉の向こうへと歩きだし、見えなくなっていった。
「…人間とは不思議なものですね。たった1つのユメが支えになるのですから」
男は閉じられた扉を見つめながらぽつりと呟くと店の奥の闇へと消えていった…――
お読みいただき本当にありがとうございます。
もしよろしければ感想やアドバイスなどを頂けるととても嬉しいです。
次回の作品に活かせれば、と思っています。よろしくお願いします。