序幕
~不可解な事件という名の劇 序幕~
幕はまだ上がっていない。どこかからナレーションが聞こえてくる。
「もう、皆さんは忘れてしまいましたか?あの奇妙な事件のことを。高崎惣を我々は忘れない。これは高崎惣の魂を鎮めるための鎮魂のため。だからこそ始まる前に皆で黙とうをささげてほしい。それが死した高崎惣への敬意というものだろう。では黙とう」
ナレーションが終わり、静寂がやってきた。1分ほど静寂があったのちに陽気な曲とともに瞬間幕が上がった。光が会場を包み込む。そこは事務所のような場所だ。応接セットに木でできたテーブル。テーブルにはこちらに背を向けたスーツの男性が座っている。手前の応接セットには白いワイシャツにネクタイ、ズボンの髪の長い女性が寝そべりながら携帯をいじっている。セリフはない。陽気な曲が流れているだけだ。
ブー、ブー。
ブザー音がなる。応接セットで寝そべっていた女性が起きて舞台のそでに向かって歩いていく。一人の女性が舞台そでから出てきた。赤い服、赤いスカート真っ赤だ。赤い帽子もかぶっている。帽子で髪が隠れている。ショートヘアなのかもしれない。ただわかるのは全身赤一色の女性が出てきたということだけだ。赤い女性が言う。
「ここは探偵事務所でいいのかしら?」
赤い女性を迎えに行った白いワイシャツの女性はコミカルな動きをしながら奥にいる背を向けた男性に走り寄ってこう言う。
「どうしよう、お客さん来ちゃったよ」
スーツの男性はゆっくりと前を向く。そして立ち上がって舞台の中央に出てくる。手を広げながら「助手よ、何当たり前のことを言っている。ここは小南探偵事務所研究所だぞ。看板だって掲げている。客が来るのなんて当たり前のことではないか。何をうろたえている。さぁ、その人を案内するがいい」と言うとすぐに応接セットに座りだす。
赤い女性が「え?探偵事務所?研究所?どういうことなんですか?」と言い出す。ワイシャツの女性が「気にしないでください。いつものことですから」と言って応接セットの奥側の椅子に案内する。
スーツの男性が言う。
「どうも初めまして、ここの所長をしております折原といいます。こいつは助手のクリスティーーーナです」
「おい、誰がクリスティーナだ。私は栗栖ゆうと言います」
二人から自己紹介を受けて赤い女性は「探偵事務所にある小南は誰の名前なのですか?」と聞いた。
折原が言う。
「う~ん、実に興味深い質問です。あなたはひょっとしたら探偵になれる素質をお持ちかもしれない。小南。彼のことを話すと少し長くなります。そして知ってしまったらあなたももう今までの人生をすごせなくなるかもしれません」
栗栖が割って話す。
「前にここを使っていた事務所の名前のままなのよね。変えるのめんどくさくって」
「おい、クリスティーナよ。なぜばらす。これから壮大スペクタルロマンな話しが待ち受けていたというのに」
「ってか、ティーナつけんな。どこのゲームかアニメに感化されたんだか。そんなにふざけていたらお客さん帰ってしまうぞ」
「それはまずいな。んでは、気を取り直して、お嬢さんお名前は」
折原が顔を近づけなかが話す。赤い女性は「蓮田茜です」と名乗った。折原は名前を聞いてすぐに話し出した。
「では、蓮田さん。ここの探偵事務所のシステムを話します。まず、あなたの話しを聞いてから依頼を受ける、受けないを決めさせてもらいます。何かにいたずらのような案件があるからすべて受けるとはお約束できません。次に料金ですが、調査にかかった実費分、たとえば交通費や調査をする上で購入しないと行けなかったものなどですが、この費用については明細をつけて請求いたします。こちらは2日おきに報告書を挙げた上で継続するかしないかを判断してください。そして見事解決できた時には蓮田さんが解決した時にお支払したい金額を払ってください。そう解決したからといって納得できるとは限りません。中にはふざけるなってさけびたくなるようなことだってあるでしょう。だから、そういう時は解決金額は0円で構いません。ま、こればっかりは蓮田さんの良心が金額を決めるといいでしょう。ちなみに、一応相場表もあるのでお渡ししておきますがあくまで参考までと思っておいてください」
折原はここまで言って大きく息をすった。そしてさっきまでと違って少し声のトーンを落として話し続けた。
「それで、蓮田さん。何の調査をお願いしたいのです?」
一瞬蓮田さんは迷ったが口を開きだした。
「高崎惣という人物の事件はご存知ですか?」
折原も栗栖も大きく頷く。
「そう、高崎惣を殺した犯人を捕まえてください」
折原は一瞬固まる。そして「それは警察の仕事ですね。探偵の仕事じゃないですよ。それとも、何か警察にはいいにくいことでもあるのですか?」と折原は蓮田さんに話した。だが、ずっと黙っている。折原がこう切り出した。「あの事件の関係者ですか?それもできれば解決になっても公にされたくないという」そう言うと蓮田さんは首を縦に振った。
折原は深く息をすって「わかりました。ただ、確実に犯人を捕まえてみせるとはお約束できません。あの事件は解決をするには情報が足りなさすぎるからです。だから、まず教えてください。蓮田さんがあの事件にかかわっている内容と、それと誰を怪しいと思っているのかを」
照明が落ちる。折原にだけスポットライトがあたる。
折原が考えているポーズなのか顎に手を当てて話し出した。
「おそらく、この蓮田さんはあの報道にあったA子、B子、C子の誰かなのだろう。そして、解決をするということはまだ世に知られていない情報が公開されるのを避けたいのだろう。あの事件は痴情のもつれと考えるのが筋だが決めてが何も出てこなかった。現場にはそれらしい物証がほとんどなかったからだ。だが、あの近年まれにみる不可解事件に携われるのはうれしい限りだ。俺はついている」
そういうと照明は元に戻った。
折原が言う。
「助手よ。そこにホワイトボードを持ってくるがいい。では、蓮田さん。まず確認のために事件のおさらいをしたいと思います。補足があれば説明してください。その後に蓮田さんだからこそ知り得ている、そう、他人には言いたくないこともあるかもしれませんが教えてください。その情報をもとに調査をしていきたく思います。ではまず高崎惣の死亡推定時刻は3月21日の22時から24時までの2時間とされています。この日はしとしとと雨の降る夜でした。ちょうど私は外出をしていたので覚えています。天気予報では曇りだったのですが、雨になったんですよね。傘を持っていなかったので長く雨に濡れて風邪をひきそうになったので覚えているんです。
話がそれました。発見に至ったのは22日の7時に警察に通報があったからだ。だが、通報者はいまだに見つかっていない。警察が駆け付けたときには高崎惣のアパートには鍵はかかっていなかった。鍵はアパートの玄関にもおかれていたし、関係者と思われるA子、B子、C子及び高崎惣の母親も持っている。そして、犯行時刻と思われる時刻には家族以外の証言でアリバイが成立しているものは誰もいない。まぁ、こんな夜遅い時間でアリバイがあるほうがかえって私にはあやしく思えますけれどね。ま、それが探偵の性というものです。
そして、高崎惣の死因ですが、絞殺とされているが、頭部に鈍器で殴られたような後もあることも後で報道されていました。ただ、死亡するほどの打撲ではなく、たんこぶ程度の怪我であっただろうとのことです。
この高崎惣の死亡状況ですが、上下ジャージに下着をつけていない状態。
そして絞殺をされたにも関わらず排泄物が掃除されており、かついたるところに清掃と指紋をふき取る行動をしたのかきれいに拭き掃除までいたるところされていた。
さらに、部屋には高崎惣の下着が一着も残っていなかった。
警察の調査では近隣住民からそこまで大きな物音は聞いていない。だが、過去何度も男女の情事の音が聞こえてきたり、何か騒いでいるかと思えば何事もなかったりも過去していたので、もし物音があったとしてもそういうプレイなのではないかと思っていたので誰も気にしていなかったと言っていた。
そして、女性は4人高崎惣の部屋に通っていたのではとの証言もある。うち一人は白を基調とした水色のリボンが付いたセーラー服を着ていたと言っているが付近にそんな制服の学校はないので、3人のうち誰かがセーラー服をきて歩いていたのではないかとの推測論もある。
実際、A子、B子、C子は20歳前後だが、似たような行動を過去にも行ったことがあったと近隣住民がこれまた証言をしていることから当初4人ではとの意見があったが3人で間違いないのではと警察は判断しているとのことだった。そう4人目の消息がまったくつかめなかったからこういう判断にいたったと聞いている」
折原はここで一息ついた。ホワイトボードにはまとめられた内容が記載されている。折原は言う。
「ところで蓮田さんに聞きたいのですが高崎惣と他の2人の女性との関係について教えてもらえませんか?こればっかりはどう考えてもわからないので直接聞きたいと思っていたのです」
蓮田さんは深いため息をついた後決心したのかきりっとした表情で折原を見つめて話し出した。
「私と浮島くるみ、衛藤久実の3人は高崎惣と同時に付き合っていました。高崎惣はそのことをオープンにしていましたし、私と浮島くるみ、衛藤久実は当番を決めて高崎惣と一緒にすごくことを決めていました。当番といっても私の次が浮島くるみ、その次の日が衛藤久実という順です。自分の順番の日に都合が合わなかった一回飛ばされます。もちろん私たちの都合だけでなく高崎惣から都合がつかないといわれることもあります。けれど、できるだけ高崎惣は3人公平に時間を取ってくれます。けれど、あの日3月18日の夜というか19日になってすぐくらいに高崎惣から連絡があったんです。明日都合がわるい、急でごめんって。今まで都合が悪くなる時があってもそんなに急に言うことなんてなかったんです。でも、電話でそれを告げる時に電話の向こうで声が聞こえたんです。きっとあいつだ。衛藤久実がそこにいる。あいつが居座っているんだって思いました。悔しかったけれどこれは高崎惣と決めたルールで守れないのならもう会ってもらえないのもわかっていたので私は我慢しました。そうきっと犯人は衛藤久実だわ。あいつが独占するために殺したのよ。そうに違いない。だからお願い探偵さん。衛藤久実が犯人だって証拠をつかんでほしいの。それを持って私は衛藤久実を脅し続けてやるんだから。警察になんて言ってあげない。そう、脅して金を出させてボロボロにしてやるんだから。それこそが償いなのですもの」
そう言っている蓮田さんの顔は怖かった。折原が言う。
「わかりました。では、今回の依頼は衛藤久実さんが犯人かどうかの調査。犯人なのであったらその証拠をお渡しするでいいですね」
「はい、それでお願いいたします」
二つ返事で蓮田さんは即答した。その笑顔がやけにまぶしかった。折原さんが言う。
「では、この書類に署名してください。正式な依頼のために必要になります。項目はよくだ上で署名するようにしてくださいね」
そう言って書類を蓮田さんに渡す。蓮田さんが書類に目を通している時に折原さんは蓮田さんに話しかけた。
「ちなみに、蓮田さん21日の夜ってどこで何をしていたんですか?」
蓮田さんは顔をあげて折原をにらむ。そして「どうしてそんなことを聞くんですか?警察でもあるまいし」と言い放つ。折原が言う。
「気にしないでください。ただのテンプレートみたいな質問です。後よかったら22日の朝についても知りたいですね。先ほどの蓮田さんの話だとちょうど22日は蓮田さんが高崎惣さんと会う日だったんですよね」
折原の目はまるで猛禽類のように研ぎ澄まされていた。だが、蓮田も負けていない。蓮田が言う。
「21日は家に居ました。だからアリバイはありません。22日は会いに行こうと思って家にいったらブルーシートに囲まれていてびっくりしました」
感情をどこかに置き忘れたかのようなセリフだ。折原はこう言う。
「22日は前日に約束とかなかったのですか?キャンセルは連絡があるのに」
一瞬蓮田は止まった。そしてゆっくりこう言ってきた。
「連絡がないときは家に直接行くようにしています。だって、そのほうが確実ですもの。鍵も持っていますから」
「ちなみに高崎惣さんの家に行ったの何時だったか覚えていますか?」
「う~ん、9時くらいですかね?多分それくらいだったと思います」
そう言い終わると蓮田は署名した書類を折原に渡した。
「では、報告お待ちしていますね。探偵さん」
そう言って立ち去るときの蓮田さんの笑顔は何とも言えないくらいきれいに見えた。
栗栖が言う。
「あの依頼受けてよかったの?」
「何を言うクリスティーナよ。楽勝な案件ではないか。犯人を捕まえろだと難易度高すぎだが、衛藤久実が犯人かどうかを調べるのなら簡単なことだ。そう簡単に犯人である証拠が見つかるのなら警察がもう見つけているさ。見つかっていないってことは衛藤久実は犯人でないってことさ。ま、何もしないわけにもいかないが、すでに犯人でありえない証拠をそろえればいいのだからそれほど難しくないだろう。ま、ちょっと出かけて聞き込みすれば答えなんて出るだろうな。ただ、それよりもあの蓮田って女は怖いな。あれは何か隠している。21日、22日の足取りを調べるほうが何か面白いものが出てきそうだな。そっちは助手に任せるか。じゃあ、行け助手よ。蓮田の周辺の聞き込みをしてくるがいい」
そう言ったすぐにまたブー、ブーというブザー音がなった。
「あら、今日は来客が多いことね」
劇はまだ続いていく。




