おしまい
~おしまい~
体育館の扉が開く。
「手紙のとおり来たわよ」
そこには短髪の少女が立っている。白いセーラー服に白いスカートをはいている。
「待っていたぞ」
体育館の中央に光がともされ男性が立っている。短髪の女性が言う。
「は?どういうこと」
「幕は上がっている。劇を終わらすのだ、助手よ」
「ふざけているの、学校休んでまで」
短髪の女性が体育館を出ようとした。男性が言う。
「この様子を見てまだそんなことを言えるのかな」
男性がそう言うと体育館の照明がすべてついた。中央の横にはアパートの一部なのかベッドが置かれており、そして全身黒タイツの人形なのか人なのかわからない『モノ』が洗濯物をつるした紐にぶら下がっている。いや、まるで足を滑らして紐に首をひっかけたような状態になっている。短髪の女性が言う。
「何?この状況」
男性が言う。
「役名でいうならば分枝リサ子よ。この状況は見覚えがあるのではないのか?」
「な、何を根拠に」
短髪の女性は明らかに動揺をしている。男性が言う。
「これは劇だ、本来なら語ることができない死体が語ることができる。そう、殺人事件と言うこの世でもっとも偉大な死体役を演じることで真相を暴く黒タイツ探偵に真相を語ってもらおうではないか」
そう言うとぶら下がっていた黒タイツが動き出した。黒タイツ探偵と言われた『モノ』が話し出す。声で男性だとわかる。
「まず、話すのなら3月18日からであろう。この日に何があったかということだ。この日親族が亡くなったと連絡が入る。とりあえず現地に向かった。そして、分枝リサ子よ、君も同じはずだ。だって、君と私はいとこ同士だからな。通夜が行われたのは19日、告別式は20日だった。だが、分枝リサ子よ。学校の制服で言った君は少し浮いていたはずだ。うちの制服は上下ともに白い。通夜や告別式では周りが私のように黒く身を包んでいる。居心地の悪かった君に声をかけたのがそう、私である高崎惣だ。分枝リサ子には兄がいた。だが兄は忙しくて告別式にしか出席できなかった。新潟から出てきた君はどうせなら東京見物を考えていた。そう、いとこで年もまだ近い高崎惣に誘われてうれしかったのだろう。翌日3月21日に東京見物として名所を回っていた。高崎惣が通っていると言う大学を見たいと言ったのは大学というところが見たかったからなのだろう。その時ゲリラ豪雨とはいかないまでも雨が降った。大学内で雨宿りと言いながら授業にもぐりこんで楽しかったんだね。この証言は取れるだろう。なんせ見たことがない制服を着た女性が大学構内にいるのだから」
黒タイツ探偵はそこまで言ってパイプ椅子を取り出した。短髪の少女、分枝リサ子と呼ばれた女性に座るように指示する。短髪の女性は椅子に座る。黒タイツ探偵はさらに話す。
「話し込んでいるうちに夜も更けて行った。研究をしている大学生にしてみれば時間の感覚がどこか麻痺していたのだろう。翌日帰る予定であった君はホテルまでの道のりを悩んだ。すると私、そう高崎惣はこう言ったはずだ。『僕の住んでいる家が近いからそこにくるかい?』とね。君はいとこだし警戒心もなく高崎惣のアパートに向かった。外は雨。走ったけれど服がぬれた。風邪ひくかもと言われシャワーを浴びる。疑問を抱かずにシャワーを浴びた。シャワーを浴びて出てきたらいきなり抱き疲れてびっくりして押しのけ、手元にあった堅そうなものを投げつけた。それが頭に当たったんだよね。そして体制を崩してさっきのように部屋干しをしていた洗濯紐が首に絡まる」
短髪の女性は拍手をしてこう言った。
「ものすごい妄想ね。思わず拍手しちゃった。で、それが私だって言うの?それとも証拠でもあるのかしら」
黒タイツ探偵が言う。
「証拠もあるが、まず証言がまずある。君が舞台で言ったじゃないか。『これは不幸な事故だと』1回目の推理でも、2回目の推理でもね。君は『今回のこと』が殺意があっての事件だとはじめから思っていなかった」
「ま、思ったんだから仕方ないでしょう。それとも私が思ったことが証拠だというの?」
短髪の女性が言う。黒タイツ探偵がは首を横に振る。黒タイツ探偵が言う。
「洗濯紐が凶器だとどうして思ったのかな?」
「報道であったじゃない」
短髪の女性がそう言った後にプロジェクターが投影された。録画されたニュースだ。そこで「凶器はベランダからなくなった洗濯紐ではないかと」という発言の部分が流れる。短髪の女性が言う。
「ほら、ごらんなさい。この報道よ」
黒タイツ探偵が言う。
「この報道は間違いであったこと、報道側の誤報であるとその後流れている。特にこの画面を見るといい」
そこに映っていたのはベランダと物干し竿だ。黒タイツ探偵が言う。
「この画像を見る限りベランダに洗濯紐が必要であったとは思えない」
「私の勘違いよ。誤報があったのはなんとなく覚えているけれど洗濯紐の印象が残っていたからつい言ったのよ。それだけ?証拠なんてないんでしょう」
短髪の女性が言う。だが、次にプロジェクターに映ったのはコップに入った2本の歯ブラシだ。黒タイツ探偵が言う。
「これは高崎惣のアパートにあった歯ブラシだ。これを見て何を思う」
「べ、別に。同棲していたんだから普通の光景でしょう。歯ブラシが2本並んでいるなんて」
黒タイツ探偵は言う。
「そう、高崎惣が一人の女性と付き合っていたのならこの光景は普通だ。けれど、3人の女性と同棲をしていたのだ。歯ブラシは4本ないとおかしい。では残りの2本はどこに消えたのか」
「そんなの、代わる代わるやってきて荷物を持って行ったんでしょう。2人だけ歯ブラシを持って行ったのよ。それの何が証拠なのよ」
短髪の女性がこう言うが、黒タイツ探偵は話し続ける。
「はじめは警察もそう思った。だが、残された歯ブラシから検出されたDNA は3人の女性のものではなかった。つまり4人目がいたことになる。3人の女性は気が付いていたんだよ。あの場所に4人目の女性がいたことを。そして、それが何を意味するのかもね。4人目の女性が現れたことで自分たちの関係は終わる。けれど高崎惣はすでに死んでいる。そう4人目の女性が殺害したことがわかっていたんだ。彼女らは自らの痕跡を消しつつ、高崎惣に最後の挨拶をしていったんだよ。そして、3人とも4人目が存在するはずがないと言い続ける。君をかばったんじゃない。自らのプライドが許さなかったんだよ。そして、もう一つ。この前警察が来た時にこのことを話している。君は検査のために麺棒で口の中を採取されなかったかい?」
短髪の少女の顔がどんどん青くなる。
「それが一体何なのよ」
「そう、結果が出ているんだよ。それが証拠さ。この状況でもまだ続けるかい。否認を」
黒タイツ探偵はパイプ椅子に座る短髪の女性に近づく。短髪の女性が言う。
「教えて、いつから私に疑いを持っていたの。劇が始まる前からでしょう。どうして」
「君が素直に罪を認めるのなら話そう」
黒タイツ探偵がそう言う。短髪の女性が言う。
「ええ、形部の言うとおりよ。私は身を守るために押しのけた。あれは本当に事故よ。ただ、証拠もないし詮索も誰からもされなかった。だから大丈夫って思ったの。どうしてこんなことになったのよ。どうしてわかったの。なぜ、4人目の配役の名前が『ぶ・ん・し・り・さ・こ』なのよ。こんな私を想像するような名前つけられたら、疑いたくなるでしょう。どうして、どうしてよ」
短髪の女性は泣き崩れる。黒タイツ探偵が言う。
「春休み明けからやたらと私たちと話すことが増えたよね。明石から聞いたよ。高崎惣の事件について聞いていることを。そして、もう一つ。君はそこまでかりあつのこと気にしていなかったよね。むしろかりあつの気持ちに気が付いて避けていたはずだ。なのにどうしてかりあつに近づいた?」
「毎日話し合っているの聞いていて気にならないわけないでしょう。だから知りたかったの。まさかそれで疑ったの」
黒タイツ探偵が言う。
「そう、些細な出来事なんだよ。疑問を持つってね。では、もういいでしょう。刑事さん出てきてください」
そう言うと舞台の奥から白髪の男性と禿げ上がった男性が出てくる。二人は短髪の女性の前に立つ。短髪の女性が立ち上がりこう言う。
「やっぱり、私に役者の素質はなかったみたいね。隠し通せなかったし気持ちもごまかせなかった。かりあつくんゴメンね」
そう言うと女性は「私がやりました」とつぶやき立ち上がる。刑事と呼ばれた男性が連れて行く。
体育館の照明が落ちる。ナレーションが流れる。
「こうやって事件は黒タイツ探偵によって解決された」
体育館の照明が付く。
「やったね、仁」
そう言って紗枝が走ってきた。本当にあんなことで渋沢さんが自白すると思わなかった。紗枝が言う。
「だって、DNA鑑定なんて嘘でしょう。実際警察にさせたことは聞いたけれど」
形部が言う。
「まあね。だって、疑惑しかなかったんだもの。これで否定されたらどうしようって思ったくらいだね」
形部は黒タイツのままだ。
「形部、この動画いつまで撮っておく?」
「ああ、もういいよ、Ztubeの生中継も切ってね」
そう、今までと同じようにこの最終幕もZtubeに流している。
「でも、警察もよく生中継許可したよな」
俺がそう言うと形部がこう言ってきた。
「いや、許可もらえなかったから強硬した。ま、すでに流れているものはどうすることもできないだろう。だから俺顔を隠すために黒タイツだし」
そう言われて俺と紗枝が顔を見合した。俺ら顔出ししている。
「形部。お前な~」
叫びながらでも安心した。これで紗枝も戻ってきやすいだろう。渋沢さんがクラス中にばらまいた噂には理由があるってわかるのだから。
そう、外は雨だけれど気持ちは晴れていた。
~エピローグ~
「もう大変だったんだからね」
紗枝はそう言う。どうやら転校の手続きが大変だったらしい。形部が言う。
「まあ、いいじゃない。戻ってこられたんだし。それに渋沢さんも戻ってくるよ。そろそろ」
「え?どうして?」
自白までしたのだ。罪も認めている。形部が言う。
「こけて紐に引っかかったくらいじゃ絞殺にならないよ。誰かが縛り上げない限りね。でも、渋沢さんが逃げ出したことが原因なんだ。すぐ近くでA子が4人目が出ていくのを見ていたのだから。つまりA子が犯人ってことさ。それは変わりない。本当に勘違いからの犯行なんだからすくわれないよね。それにA子も不安になって弟と二人して現場を朝に見に行っているんだからね。そこで現場をみてすべてを把握した。最後に残っていたものを回収して終了って感じだろうね」
俺は納得がいかない。形部に聞く。
「じゃあ、あの最終幕は何だったんだよ」
形部が言う。
「ああ、あれね。だって、ああでもしないと紗枝さん戻ってきてくれなさそうだったから。渋沢さんにもちゃんと台本渡してあったんだよ」
「「なんだって!」」
俺と紗枝が同時にはもった。明石が言う。
「多分知らなかったのはかりあつと紗枝だけだよ」
「そうそう、ホントに泣きそうな顔をかりあつがしていたんだからびっくりした」
笠原さんまでそう言う。
「でも、この時期だったらこれから体育祭もあるし、文化祭もあるよね」
「そうそう、またなんか面白い劇をしようよ」
盛り上がっている明石と笠原さんを見ながら俺と紗枝は笑うことしかできなかった。
ま、横に紗枝がいて平和なのはいいことだ。
「文化祭なんだけれどさ、幼女誘拐事件を劇でやりたいんだよね」
形部が言う。いい加減にしてほしいって思ったよ。




