四幕
~不可解な事件という名の劇 四幕~
栗栖はホワイトボードにまず時系列をまとめた。
3月18日
衛藤久実 高崎惣と会うが大学で高崎惣と別れる
衛藤久実は追いかけるが見失い、高崎惣の家に日付が変わる少し前までいる
日付が変わった後に高崎惣から蓮田茜に19日会えないと言われる。
その時電話口で女の声が聞こえたと言っている。
3月19日
目撃情報あり。白いセーラー服、麦わら帽子をかぶった女の子と二人で歩いているところを近隣住民が見ている。時間は14時にアパートにいったん入って、すぐに出て行ったのを見たと言っている。元は蓮田の日だった。
日付が変わる前に浮島くるみに20日、21日に都合がつかなくなったと連絡が入ったと言っている。
3月20日
元は浮島くるみの日。
3月21日
元は衛藤久実の日。高崎惣の死亡推定時刻は22時から24時。
この日は白いセーラー服の女性が一人で高崎惣のアパートに入るのが目撃されている。
3月22日
元は蓮田茜の日。この日の目撃情報として深夜に誰かが高崎惣の家を訪れたような音がしたと近隣住民が言っている。住民は4名。
時間は夜中の1時、3時、5時、7時。
7時については通報者(男性)ではないかと想像されるが、いまだにこの通報者は見つかっていない。弟ではないかとのことであったが、弟が海外から帰国した際に違うことが確認されている。この時間では飛行機に間に合わないため。
なお、22日の行動。
蓮田茜
9時に高崎惣宅を訪問。ブルーシートを発見。取り乱した後病院へ搬送され、その後警察に事情徴収を受ける。
浮島くるみ
警察には衛藤久実とDVDを見ていたと証言。だが、実際の行動は不明。
衛藤久実
浮島から依頼を受けDVDを鑑賞していたと証言。家にずっといたと証言。
高崎惣の死因について
絞殺。紐のようなもので首を絞められたことが死因。頭部に鈍器で殴られた後あり。
服装は上下ジャージ。ただし下着の着用なし。
部屋は掃除をされた後があり、荷物は高崎惣の下着がなくなっていること、および
容疑者3名(蓮田茜、浮島くるみ、衛藤久実)の荷物と思えるようなものもない。
栗栖がホワイトボードにここまで書いてから折原に向き合う。
「まず、起こった事象をまとめてみたわ。ニュースで報道されていたことと、今日蓮田、浮島、衛藤の3人から聞いて、結論として蓮田茜が犯人なのではと推測しています。まず、日付が変わるころに高崎惣のアパートを訪問していたことが多いことから18日夜の日付が変わる時に、高崎惣のアパートがもぬけの殻だったことを確認。実はそのまま帰らずそこにいたのではと。そして、19日に高崎惣のアパートで白いセーラー服の女の子と3人で出会う修羅場が起きる。その場はおさめたかもしれないけれど、蓮田茜はその白いセーラー服の女の子を殺害。21日に高崎惣のアパートに蓮田茜が持っていた鍵を使って高崎惣の家に入り、そこで高崎惣と口論の末殺害。それは殺意があってなのか事故なのかわからないけれど、事故だったんじゃないかなと思っている。あわてて蓮田は部屋を掃除して逃げるように出て行った。私が思うこの事件の真相はこうよ」
折原は言う。
「普通一回目の仮説って間違っていることが多いんだが、クリスティーナは空気を読まないな。ミステリー小説を読んでいないだろう。この助手が」
栗栖は「ふふん」と少し威張りながら折原を見ている。折原が言う。
「だが、その仮説だと見つかっていない死体が存在している。1か月も見つからない死体の隠し場所がそう簡単にあるとは思えない。それは?」
「んぐ」
栗栖は変な声を出した。折原は続ける。
「さらに折原の死体の状態、部屋から物がなくなっている状況から考えてそこには意味があると考えるほうが大切だ。つまり殺人までの仮説はしっかりしているし、俺の仮説と同じところもある。では、どうして折原の部屋があんな状態になっていたと思う。また、もう一つ。白いセーラー服の女性は一体誰なんだ?」
栗栖は「それは、、、」と言って止まる。
折原はさらに言う。
「そして、浮田だ。彼女は高崎惣の部屋から蓮田の荷物が無くなっていることを証言していた。つまり彼女は物がなくなった高崎惣の部屋に入ったということだ。そのことをいつ知ったのかということも疑問ではなる。警察からの事情徴収ということもあるだろう。だが、おそらく浮田は高崎惣の部屋に警察が死体を発見する前に入っている可能性がある」
栗栖が言う。
「なら、折原は浮田が犯人だというの?」
「いや、わからない。ただ、わかるのは情報が足りないということだ。というわけでだ、次は近隣の聞き込み捜査だな。目撃情報の4名に話しを聞こう。というわけでショートカットのため、4名にはここに来てもらうよう伝えてある」
間髪入れずに折原が言った時にまた、ブー、ブーとブザー音が鳴った。栗栖が扉をあけに行くとそこには男性が4名立っていた。
折原が言う、
「というわけで目撃証言をしていた4名の方に来てもらった。これから見聞をするため助手であるクリスティーナには協力をしてもらうぞ」
「なんぞ?」
そう言うと舞台中央に円柱のようなものが用意された。折原が言う。
「まず、白いセーラー服についてだ。ネットで調べたがワンピースタイプ、セーラータイプとある。本当に4人目がいたのか、どうか確認をする。では助手をまずこちらのセーラー服を着るがいい」
「え?なんぞ?」
栗栖は中央にある円柱に押し込まれる。着替え終わって出てきたのはスカート丈の長いどちらかと言うとセーラー服というよりワンピースのようなお嬢様系の学校をイメージする服装だ。折原が言う。
「皆さんがみた白いセーラー服はこちらですか?」
「いや、こういう清楚な感じじゃなかったですね」
「もうちょっとスカートの丈が短かったような気がします」
「では、次はこれかな」
折原はそう言って次の服を渡した。しばらくして栗栖が出てきた。白を基調としているがスカートの先に水色のラインが入っている。折原が言う。
「皆さんがみた白いセーラー服はこちらですか?」
「あんなラインはなかった」
「もっとシンプルなセーラー服だった」
「あの子かわいいですね」
「よかったなクリスティーナよ。褒められたぞ。では次はこれだ」
折原はそう言って次の服を渡した。しばらくして栗栖が出てきた。白いセーラー服に白いプリーツスカート。折原が言う。
「皆さんがみた白いセーラー服はこちらですか?」
「おお、これに近い」
「これです。見たのは」
「わかりました。皆さんありがとうございます。では次に皆さんの証言を時間軸で聞いていきます。まず1時に物音を聞いたという人に質問です。その時間あなたは何をしていたのですか?」
折原の質問に胸にゼッケンで男性Aとかかっている男性が答える。
「その時間にちょうど家に帰ってきたんです。少し飲んでいましたが最終電車で帰ってくるとあの時間になります。家について寝ようと思ったらいきなりがさがさと音がしました。ちょうど隣なので音がよく聞こえます。シャワーの音が聞こえたからこれからお楽しみが始まるのかと思って耳を澄ましていたらそれらしきものは聞こえなくて、あきらめて寝るかと思ったら扉が開いたんですよね。そして誰かが降りて行った。そう、その時間確実にあの部屋には生きた人物がいた。そして外に出て行ったんだ」
「なるほど、わかりました。その後あなたはどうしたんですか?」
「寝ましたね。もう朝までぐっすりです。事件があるまでわかりませんでしたもの」
そう話すと胸にゼッケンで男性Aと書かれた男性は舞台から掃けて行った。折原が話す。
「では、次の人どうぞ。次は3時ですよね。どうしてそんな時間まで起きていたんですか?」
折原の質問に胸にゼッケンで男性Bと書かれている男性が答える。
「ちょうどその時オンラインゲームをしていたんです。3時からメンテナンスだったのでヘッドフォンを外したら横から物音がしたからびっくりしたんですよね。誰も起きていないと思ったから。でも、物音は確かにしましたよ。ま、すぐに眠くて寝ちゃいましたけれどね」
「なるほど、わかりました。次に起きたのはいつですか?」
「昼間ですね。イヤホンをして寝ていたので気が付きませんでした」
そう話すと胸にゼッケンで男性Bと書かれた男性は舞台から掃けて行った。折原が話す。
「うん、めんどい、助手よヒアリングよろしく」
「てか、私は着替える必要があったのか?この変態!まあ、いいわ。じゃあ次の人、5時なんて早朝にどうして気が付けたんですか?」
栗栖が胸に男性Cのゼッケンをつけた男性を指差しながらこう言った。ゼッケンCの男性が言う。
「私はちょうど真下にいるものです。音がドスンとなったので目を覚ましました。いつも6時からランニングで走るため5時はそろそろ起きる時間でもあったんですよね。今までこんな時間に大きな音がしたことはなかったので」
「なるほど、わかりました。その後はいかがでしたか?」
「いや、音はしなかったですね。6時にはランニングに出かけたので。ただ、誰か階段を降りて行ったような音はしましたね。音がしてすぐくらいかもしれません」
そう話すと胸にゼッケンで男性Cと書かれた男性は舞台から掃けて行った。栗栖が言う。
「最後、あなた。早く指定されたセリフをいって掃けて頂戴。もう」
そう言われて胸にゼッケンで男性Dと書かれた男性が話す。
「もっとけなして、罵って」
「この変態!とっとと7時の様子を話しなさい。さもないと無視よ」
「わかりました。では、話します。起きて朝刊を取りに家を出て郵便受けをのぞいたら向かいのアパートからものすごい勢いで人が走ってきたんです。顔はわからなかったです。サングラスに帽子をかぶっていてジャージを着ていました。ジョギングにしてはサングラスに帽子が怪しいでしょう。だから後からビビビって来たんです。あれが通報したやつだってね。ま、通報してくれてなきゃあの得体のしれない男の取り巻きの女の誰かが発見したんでしょうね~」
そう話すと胸にゼッケンで男性Dと書かれた男性は舞台から掃けて行った。折原が言う。
「なるほど、すべてわかった。後は女性3人をここに呼ぶがいい。ここで再現をしようではないか。この奇跡の大天才であり、名探偵の折原がな」
笑い声とともに暗転した。




