自己紹介
「ほら、起きれるか?」
「うう~頭痛いです~」
宿へたどり着いたが、一部屋しか空いておらず、結局2人一緒の部屋に泊まることとなってしまった。
一応わきまえてるつもりなのだが、如何せん、相手がこの子であるので、特に何をしようとする気も起きない。
この子はこの子で酔い潰れてたし。
「うー。……ローグさん。ここどこですか?」
「宿だよ。昨日酔って、寝ちゃったから運んで来たんだ」
「誰がです?」
「誰って、俺以外に運ぶ奴なんていないだろ?」
「な、何もしてませんよね?」
「あのなぁ」
「でも、ローグさんも何もできなさそうなので、何もされてませんね!優しい男の人が一緒のパーティーでよかったです」
なんか、すごくダメ人間扱いされた気分だけど、気にせずにいこう。あんまりツッコミ入れてても、俺の体力を消耗するだけだ。
俺は、荷物をまとめて、ハレちゃんの分も渡す。
「どうしたんです?」
「ほら、一応昨日会っただろ?仲間になる人。酒場にいれば会えるだろうし、行こう」
「私頭が痛いのでもう少し横になってから行きます」
「ちなみにここを借りてる名義は俺だから、俺が出て行ったら、無賃宿泊で捕まるな」
「用意できました!目も覚めました!さあ、次の仲間はどんなやつですか⁉︎」
「得体の知れない男女三人とスライム一匹」
「……スライムって、仲間ですかね?」
「喋れるし盾にはなるだろ」
「最初から一緒に戦う仲間として認識してないですね……」
だって、スライムだし。
液体と個体の中間的なジェル状のやつだし。どうせなら、メタルに進化して素早くなってからこい。
「それって、メタルスライム……」
「別種族だな。スライムとして生まれたからには、スライムキングを目指してもらうしかない」
「仲間にするのは決定なんですね?」
「他にいなさそうだしな……」
肩を落として言うが、ハレちゃんに関しては特に気にしてない模様。
つうか、あいつら絶対に二日酔いだと思うし、スライムもどこに投げ飛ばされたか分からんし、ちゃんと集まるのだろうか。
俺とハレちゃんは宿屋のおばちゃんにお礼をして、外へと出た。
ムギュ
「ん?」
とりあえず連打。
ムギュ、ムギュ、ムギュ
「痛いスラ!潰れるスラ!殺す気かスラ‼︎」
「そのまま潰れときゃ、平和でいられたのにな……」
「な、何が始まるスラ……?」
スライムは放置して、ハレちゃんの手を引いて酒場へと向かった。
「置いてくなスラー!」
ーーーーーーーーーーーーー
「お、来たか」
「ここ、いつから開店してんですか?」
「7時からだな。夜は2時まで。後ろのやつもちゃんと来たようだな」
「いえ、スライム違いです。昨日この酒場にいたやつとは多分別個体です」
「同個体スラー!それ以前に喋るスライムもそんなにいないスラ!」
「だ、そうだが?」
「ええー」
「露骨に嫌そうな顔をしないで欲しいスラ。こう見えても、モンスターである上に喋れるから、何かに必ず役に立つスラ」
「じゃあ、サーカス団にも売って、旅の資金にするか」
「酷いスラ!血も涙もないのかスラ!」
「可哀想ですし、一緒に連れてってあげましょうよ、ローグさん」
「ハレちゃん。旅の基本は甘やかすなだからな。それが、人であってもモンスターであっても一緒だ。だから、俺はこいつには冷たくする」
「もうそれは個人的に嫌いなだけでは……」
否定はしない。誰が喜んで、スライムをパーティーメンバーに加える勇者がいるというのだ。
ただ、昨日のマスターの言うとおり、偏見も良くないかもしれない。このスライムの言う通り、何かしらに役立つ時が来るのかもしれない。
「ちょっと考えさせてくれ」
「メンバーに加えてくれるならいつでも待つスラー」
なかなかいいやつじゃないのか?このスライム。スライムってことを除けば、是非とも仲間にしたい。
いや、これではあいつのことを全面否定してしまっているな。
どうしたものか……
考えていると一時間が経過していた。
だが、客足が増える様子はなく、マスターはハレちゃんと談笑していた。
ふと、扉のほうへと目を向けると来客者がいた。
「マスター、酒一杯」
「おらよ」
「マスター!普通に出すんじゃない!飲んだら、話し合いができんだろ!」
来客者は昨日いたうちの一人だった。
もしかして、昨日も酔った勢いで言ったとか?
あり得る。
昨日もこうやって、朝から飲んでいたとしたら……
「んあ?なんだ小僧。昨日見たようなそうでもねえような……」
「見てるし会ってるんだよ!」
「昨日……酔い潰れて、いつの間にか外に放り出されて、目が覚めたら所持金減ってやがるしよ……散々だったぜ。金くれ」
「全部自業自得だろうが!俺には一切関係ない!」
「昨日会ってるだろ?なんかの縁だ。そういうことで」
なにが、そういうことで、だ。覚えてなかったくせに。
「えっと、一応俺は勇者であるローグだ。ここで旅の仲間を募集しててだな……」
「マスター、ジュース!オレンジで!」
「お・れ・の・は・な・し・を・聞け!」
「聞くだけならジュース飲みながらでもできるだろ。頭使え勇者」
「お前は礼儀をわきまえろ!」
なんで俺は話し合う前からこんなに疲れてんの?仲間集めってこんなにツッコミを入れる仕事だったっけ?
「かっかすんなって。血管切れると大変だぜ?」
「張本人に言われたくねえよ!」
「ローグさん、どーどー」
ハレちゃんがマスターのところからいつの間にかこちらに移動していて、俺を落ち着かせに入った。
少し冷静さを取り戻しながら、再び話し始める。
「マスターがあんたが一応志望者だって言ってたんだけど、合ってる?」
「年上には敬語を使うもんだぜ。勇者さんよ」
「少なくとも、最低限の礼儀をわきまえてないようなやつに使う敬語はない」
「なかなか手厳しいな。ま、いっか。その通り、俺は志望者のユウっつうもんだ。職業遊び人。金はあるぜ?」
どこにだ。いきなり変なのつかまされてるだろ。スライムほどのインパクトじゃないけど、ハレちゃんばりのインパクトはある。なんか、こう……その……漂う残念感。
「出直してください」
「連れねえなあ。仲間はいて困るもんじゃないし、だいたいこの時期じゃ、めぼしいやつは別のパーティーに引っこ抜かれてるな」
「やっぱりそうなのか……」
「勇者でなくても旅をするやつもいるしな。俺はする気なかったから、こうやってだらだらと遊んでいたわけだが……」
ユウと名乗った、遊び人は腰にぶら下げていた袋を俺の前に差し出した。
「ちょいと賭け事を覚えてな。勝つ方法も覚えて、荒稼ぎだ。だが、そろそろ引き時だと思ってな。そしたら、ちょうど勇者さんの張り紙が出たんだよ。これだけあれば旅には困らせねえぜ?」
ぐ……。
確かにこの資金源はかなり魅力的だ。俺程度の実力の勇者ではあまり貰えないだろう。しかも、基本的には秘密裏らしいし。
この人も一考の価値はあるか……
「少し考えさせてくれ」
「おう。決まったら言ってくれ」
まだメンバー候補はいるのだ。あと二人。わざわざ朝から来るのかは謎なところである。
あと、ここ客入りが少な過ぎ。昨日のどんちゃん騒ぎは何だったんだ?
「夜は酒場、昼はただの社交場だ。適当に座って駄弁ってくだけのな。それでも、頼まれれば何かしら出すかもな」
かもってなんだ、かもって。出さない場合もあるのか?店としてあるまじき行為だろ。
ただ、こうしていないところを見ると、値段がベラボーに高いか、マスターの飯がマズイかの二択に絞られてくると思う。
「疑ってんな?いつもなら、金を請求してるところだが、昨日は悪かったということで特別サービスでお前とハレちゃんの分は作ってやろう」
「マスター俺も!」
「僕も欲しいスラ!」
「てめえらは金払え。あと、ユウ。そこのスライム昨日の酒代払ってねえぞ?」
「このスライム!せめて自分が飲んだ分ぐらい払いやがれ!」
「覚えてないスラ〜」
2人?が暴れてるのを尻目に、マスターはパスタを出してくれた。
普通に美味い。
なんで、客が来ないんだ?
「基本的に一ヶ月に一度作ればいいぐらいだからな。夜は作るが、昼はドリンクしか出さん」
「でも、ドリンク出るならもう少しいても……」
少し、顔を上に向けるとドリンクの値段が貼られていた。
………………。
見なかったことにして、次の句は別のことを話すことにする。
「えっと、あと2人いましたよね?マスター、どんな人か知ってます?」
「2人……?俺が見てたのは、男二人とスライム一匹だけだが?」
「え?でも、四人って」
「確かに、出された名簿には四人の名前が書いてあったが、あの場にいたのはあと一人だな」
じゃあ、あと一人俺が見てたのは……。
ギィ
スイングドアが開かれて、鈍い音を酒場に持ってくる。
視線をもっていくが、特に姿は見受けられない。風か?
神経が過敏になり過ぎているようだ。
そうだわな。そんな非科学的なやつがいるわけ……
「ないと思ってるでしょう?」
「うわぁ!」
後ろから声をかけられてビックリ仰天。
そして、体重が後ろ側へ行ってしまい、そのまま椅子から落ちてしまった。
打ち付けた部分をさすりながら、起き上がる。
「おーい。何やってんだ?」
「だ、大丈夫です」
「えっと、あなたは?」
「レイよ。レイ・ベルリン。職業幽霊」
職業幽霊ってなんだ。幽霊って職業として成立するのか?
「って、幽霊⁉︎」
「浮遊霊です。どこにでも移動できます」
「いや、俺が驚いているのはそこではなくて、なぜ普通に喋れて、普通に目視できているのか、ということなんだが」
「なぜか分かりませんが、有る程度の人には見えるようです。ですが、ものを持ったりすることは出来ないので、名前は書いてもらいました」
だから、マスターには見えてないのに、名前は四つあったわけか。
とりあえず、見える人の確認といこう。
「ユウ。俺の隣にいる人見えるか?」
「何言ってんだ?普通に……結構べっぴんさんだな。今から飲まねえ?」
「昨日一緒に飲みましたよ?もうお忘れですか?」
「悪りいな。昨日のは深酒し過ぎて記憶が飛んでる。飲み直そうぜ」
「でも、私もあまり強くないので今回は遠慮させていただきます」
丁寧にお断りされていた。
この人は常識人なのか?幽霊だけど。幽霊の時点で何か間違えてるような気がしなくもないけど。
この人はほっといて次はスライムのところヘ向かおう。てか、スライムだけ名前聞いてねえや。
「おい、スラ坊」
「スラ坊⁉︎初めてそんな風に呼ばれたスラ!」
「そんなことはどうでもいいわ。お前は俺の隣にいる人が見えるか?あと、お前の名前を言ってみろ」
「見えるスラ。でも、見た感じ幽霊スラね。あと、僕の名前はスラキンスラ」
「なんだ?スライムキングに憧れでも抱いてんのか?」
「僕が付けたわけではないから、細かいことにツッコまないでほしいスラ」
「じゃあ次」
「もう終わりスラ⁉︎」
他に言うことがあるのだろうか。特にこいつに対しての興味を抱いているわけではないので、ハレちゃんのところへと向かう。
「どうしました?ローグさん」
「ハレちゃん。俺の隣の人見える?」
「……お、お姉ちゃん?」
「はい?」
「お姉ちゃんですよね⁉︎レイお姉ちゃん!」
ハレちゃんはレイさんに突撃して行ったが、あえなく透かされてしまった。そういや、さわれないって言ってったっけ。
それよりもある程度の範囲ってどこまでなんだろう。今現在、マスター以外全員に見えてるぞ。
「ローグさん!驚くところはそこじゃないです!この人、私のお姉ちゃんです!」
「え?はーへぇー」
「信じてないでしょう⁉︎」
「だって……」
幽霊だし。この人が認めるならまだしも、ハレちゃんの言葉だけ聞いて、はい、そうですか、とも頷けない。
「と、妹さんがなんか言ってますが、本当ですか?」
「ええ。本当です」
「ええ⁉︎」
「なんでお姉ちゃんの言うことは信じて、私の言うことは信じてくれないんですか!」
「こういうのはいくつかの情報を集めてこそ、本当に信憑性のあるものとなる。ハレちゃんも2人目なら驚いていたことだろう」
「で、なんでお姉ちゃんがいるんです?」
「浮遊霊らしい」
「お姉ちゃん死んじゃったの⁉︎いつの間に‼︎」
「いや、もう3年も前だし、あなたも弔ってくれたでしょ?」
「じゃあ、なんでまだ成仏してないんですか」
「未練がタラタラだからよ。だから、末っ子のあなたの行く末を見てからにするわ」
「やったー。お姉ちゃんも一緒だー」
これで、あと一人なわけだが……。
「うぃーす。儲かって……すまねえ」
「何に対する謝罪だ?返答いかんでは、お前を出入り禁止に指定するぞ」
「なんでこんなに昼入らんの?」
「お前見たいのが来客するからだろ」
まあ、見た目に関してはいかにもチャラいという表現が的確な、金髪を立たせた若い男が今度の客だ。こいつも、昨日いたな。ただ、テンションだけで全てを乗り切りそうなタイプ。
「なんで俺のせいなんだよ」
「酒の勢いで『俺は盗賊だ!てめてら気をつけねえと、俺から所持品奪われてるかもな!ヒャハハハ‼︎まあ、俺は日中にしか仕事しねえけどな‼︎』とか高笑いしながら言ってたからじゃねえか?」
「俺そんなこと言ったかな?九割がた正しいのは何なんだろうな」
しかも正しいのかよ。どいつもこいつも酒癖が悪いな。別にレイさんは飲んでてもそんなに騒いでなかったけど。
「まあ、お前も俺に用があるわけじゃないだろ。そこにお望みの勇者がいるぞ」
「俺の睨みでは美少女だと踏んでるんだけど……」
「悪かったな美少女じゃなくて」
「お、おと……こ……」
盗賊のそいつは即座に立ち上がって退出しようとしたが、ユウが押さえつけた。
「まあまあ、座れよザック。悪い話じゃないと思うぜ?」
「うるせえ!俺は女の子と一緒に旅がしたい!大体、あの掲示だってあからさまに女の子の字だろうが!」
「あそこの子が勝手に書いたんだわ。だから、元々募集してるのは俺」
「なんだ。女の子いるじゃん。よし、仲良くしようぜ兄弟」
途端に態度変えてきやがった。蹴ってやろうか。
「とりあえず、名前と職業教えてもらえます?ちなみに俺は、ローグ。職業勇者」
「俺はザック・ヴェルス。職業盗賊。フィールド上に宝箱が落ちてたり、ダンジョンに開かずの間があったら俺に任せろ」
そんなものはとうの昔に、色んな人が取って行ったような気しかしないのだが、今まで一番ましな気がする。
「じゃあ、とりあえずよろしく」
「よっしゃ!酒だ!マスター!」
「その勇者と女の子は未成年だぞ」
「じゃあジュースでいいよ……」
マスターにオレンジジュースを注がれたコップを出された。
まあ、ありがたく頂戴……。
「これ、俺が払うんですか?」
「いや、そいつからもらうから気にするな」
「じゃあ、遠慮なく」
一気に飲み干させてもらった。
「追加は自分でな」
「ケチなシステムだな……」
まあ、飲み干してしまったので、残るユウとスラキンのところへ行き、仲間になってもらうように頼むことにする。したが……。
集まったのは、村娘に遊び人、盗賊に幽霊、挙句にはスライムとか敵モンスターだ。
「お前らやる気あるのか‼︎」
「「お前だけには言われたくねえ!」」
ですよね。集めたの俺だし。募集して集まったのがこれってなんなの?イジメ?嫌がらせ?神様は不平等です。でも、俺はそんな試練には屈しない。立派にやり遂げて見せるよ。何をやり遂げればいいのか知らないけど。
「よし、そうと決まれば早速出発だ。マスター、これはこの少年のツケで!」
「しっかり払えよ」
「ゴメン、払う頃には忘れてる」
「ちゃんとサインしてけー!」
「やなこった!ハレちゃん行くぞ!」
「はい!」
俺たちは酒場から飛び出して、駆け抜けて行った。
さあ、旅の幕開けだ。
ようやく旅の始まりです。仲間を揃えても何も進展しそうにないですが、ゆるく行く末を見ていただけるとありがたいです。