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スタティオン  作者: quklop
”fautht” 若かりしあの頃の彼女と冷たい鉄格子
95/120

75"wonyuixcshan"

男に脈があることを確認する。

「由紀之、カナタはどこだ?」

「はいはーい、ここにいますよ お に い ち ゃ ん」

なんだその妙な間隔は。

カナタも由紀之と同じく、壁紙を剥がしてこちらにやってきた。


「いやはや、助かりました。

死ぬかと思いましたよほんと。

ありがとうございます、おにいちゃん」

カナタにつられて、俺にしがみついていた由紀之も、ぱっと俺の前に出て来たかと思うと頭を下げる。

「…ありがと。

でも、やりすぎはよくない」


昔だったら、こんなこと言われたら暫く顔も見たくなくなるだろうな。

けれど今の俺は由紀之の主張がもっともだということは理解できるし、それどころか一応は敵だった奴に気を使える嫁が誇らしい。

なので頭を撫でてやる。


「きゅむ……ふぅ」

「ごめんな」

それだけで大体伝わったらしく、手の平の中の由紀之の髪がわさわさと揺れた。


…それにしても俺は、一体どうしてしまったんだろう。

まるで俺が俺ではないかのように体が動いて、気がついたときにはもう殴りつける寸前だった。


……今回は由紀之が止めてくれたから良かったものの、あの勢いでは殺すまで殴り続けてしまうのではないだろうか。


「あ、あのー。

あっつあつの所悪いんですが、ここは安全なんですかねぇ?」

「おっとそうだった。

急げ! あいつらが戻ってくる前に荷物を纏めて撤退だ!」

それぞれ分担して俺達は必要そうな荷物を適当なバッグに詰め込んだ。

その間にも、あいつが放った言葉が頭の中で響き続けているような気がした。

『バケモン』


「財布」

「ありますあります」

「カメラ」

「勿論あります」

「着替え」

「乙女の秘密です」

「真面目に答えろ」

「取り敢えず下着類は持ってきましたけど…。

ま、いざとなったら、清水さん頼っちゃいましょう」

「免許証とか…はどうせ持ってても、使った瞬間逮捕か。

あとなんか必要なものはあるか?」

「由紀之ちゃん」

「…は、俺の腕の中だ」

抓られた。

事実をただありのままに伝えただけだというのに、不公平である。

だがそれが良い。

「の日傘」

そっちか。

「忘れてた、持ってきてくれ」

「はいはいただいま」

ぴゅーッと行ってサーッと帰ってきた。

「はい、どうぞ」


左手には日傘、右手には由紀之、背中にはバックパック。

目的地なんてものはない。

俺達はただただ逃げだした。

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