65 ”sithterlez”
披露宴のことは、由紀乃の両親には話さなかった。
まあ、間違いなくニュースにはなるだろうから、言わなくてもそのうち気づかれてしまうだろうけど。
そのうちが来る前にこの世界が終了する可能性は高い。
俺がやれることは、もう少なくなって来ている。
「ま、やれるだけやるっきゃないか。
どうせ夢なんだし」
一人呟いて、俺は紅玉の会のアジトへ向かった。
廃墟の中にずかずかと土足で入り込む。
一応家屋の形は残しているとはいえ所詮廃墟だ。
何も遠慮することはない。
では何故、俺はその中をつま先立ちでコソコソと歩くのか。
それは後ろめたいからだ。
では何故後ろめたいのか。
地球が完全な球の形をしていないからだ。
…やめよう。
堂々巡りどころか飛躍もはなただしい一人問答を止めて、俺はずかずかと奥の方のアジトまで上がり込んだ。
「ただいま」
一応は今のところの我が家なので、挨拶をしておく。
「おかえりなさいです、お兄様!」
カナタが元気な声で返してくれた。
他の声は無い。
「他の連中はどうしたんだ?」
「なんか用事が出来たとかで、みんなどっか行っちゃいました」
「そっか、留守番ご苦労」
なんか妙な表情をされる。
と思ったら突然カナタはぱあっと顔を輝かせて、某家電量販店の買い物袋から小さな箱を取り出した。
「…あ、デジカメちゃんと買ってきましたよ!
ほら、一番安いやつ!
色は悩みましたけど、一番目立たなさそうな黒にしました!」
見える。
俺には見えるぞ、ブンブンと激しく振られる犬耳と犬シッポが。
「えらい、えらい」
しまった、つい手が伸びてカナタの頭を撫でてしまった。
「ちょ、お兄様、カナタは犬じゃありませんよぉ」
妻帯者の身でありながら、裏若き乙女の頭を、かなりこってりと撫でてしまった。
かしゃん。
後方から、何かが地面に落ちる音。
「誰だ!?」
カナタの頭からは手を離さず、俺は瞬時に後ろを振り向いた。
FPSで鍛えた索敵性能が今ここに活かされている。
「お、兄、様?」
ぞぞぞっと鳥肌が立った。
地面に落ちていたのは白い日傘。
その白い髪と鬼の形相が意味するところは、即ち修羅場。
「あんた、妹なんて、私以外に居なかったわよね」
由紀乃本人の妹宣言。
要するに嫁ではなくなったということか?
スピード破局にも程があるだろう。
「誰ですか、この女」
耳元から囁かれたカナタの冷たい声が、またも俺に鳥肌をたたせる。
もうどうにでもなれ。
俺は取り敢えずその場に仰向けに倒れた。




